【悲報】ヒフミさん普通じゃなかったwww   作:車検のコダック

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おおゴミ箱

 

 トリニティ総合学園の学生寮。

 自室のベッドの上にボフン、と身体を預けながら、ヒフミはため息を吐き出した。

 

「とんでもない一日でした……」

 

 彼女の脳裏には今日から活動を開始した『補習授業部』の、あまりにも強烈な顔合わせの記憶が焼き付いていた。

 

 放課後、教室での顔合わせと自己紹介で本日は解散となったのだが……その数時間は、ヒフミの不安と混乱を増大させるものであった。

 

 当然ではあるが、赤点があれば留年が見えるし退学も近づく。

 

 スクール水着姿で校内を徘徊し、息をするようにセクハラ発言を繰り返す痴女。

『浦和ハナコ』

 そんな彼女に過剰反応し、「死刑!」と叫びながら赤面するむっつり少女。

『下江コハル』

 この教室でもひと月は立てこもれる、と謎の宣言をしていたゲリラ戦の達人。

『白洲アズサ』

 

 補習授業部は特別試験を『全員で』合格しないといけないというのに、何とも先行きが不安であった。

 

 ……おっと、一人抜けているぞ。

 ブラックマーケットを実質的に支配する、「死刑!」といえば本当に死刑にできそうな普通の少女。

『阿慈谷ヒフミ』

 

(無事合格できるのでしょうか……)

 

 とはいえ動き出したものはしょうがない。

 そもそも試験日を勘違いしていた自分が悪いのだ。

 

「明日の放課後、先生に相談して何か対策を考えないとですね……」

 

 ベッドの上で寝返りを打ち、ヒフミはペロロ様のぬいぐるみを抱き寄せる。

 

「あぁ……ペロロ様グッズのお手入れが……」

 

 ヒフミはここにないコレクションを想い、嘆いた。

 イベントのためだった、仕方なかったと自分で言っていただろう。

 諦めて前を向いてね。

 

「……それにしても『裏切者』、でしたか……」

 

 ヒフミは、薄暗い部屋の中で一人ごちた。

 

 ナギサには恐らく、この『補習授業部』についてヒフミには伝えていない何かがある。

 

 疑問としては主にふたつ。

 

 なぜこの部活の顧問に『シャーレの先生』を据えたのかという点。

 いくら成績が著しく悪いからといって、本来であればそれはトリニティという学園の内部だけで解決すべき問題である。

 

 一生徒から見ても、わざわざ外部から人を招くような案件ではないだろうし、「どうしようもないくらい成績が悪い生徒がいるんです」と公表するようなものではなかろうか。

 

 エデン条約の調印式が迫って忙しいから、などと建前で言ったとしても、さすがにその程度では理由として弱い。

 

(私も入れられてしまったので、他に理由があると信じたいです)

 

 個人的にも、違って欲しいものだ。

 

 次に、その人数の少なさがある。

 昨日、ヒフミは「補習授業部に潜む裏切り者を探してほしい」とナギサより密命を受けた。

 

 だが、トリニティ総合学園はキヴォトスでも最大規模のマンモス校である。

 いくらお嬢様学校とはいえ、成績不振者や問題児がたったの『四人』しかいないなど、あり得るのだろうか。

 

 まぁつまるところ、ナギサはああは言っていたが――。

 

(――すでに『裏切者』が誰なのかわかっている可能性が高い、ですね)

 

 補習授業部という名目は建前に過ぎず、最初から特定の誰かを隔離し監視するために作られた檻。

 

 ならばその対象とは誰なのか。

 

 ヒフミは今日顔を合わせた部員たちから、知りうる情報で考察してみることにした。

 

 ひとまずナギサから直接スパイを頼まれている自分は一旦対象外としておこう。

 

(入部させたからには、監視役以外に何かある可能性は高いですが……)

 

 そもそも先生に頼めば済む話ですし、と先生の人柄から考えても、理由をきちんと説明すれば突っぱねるような真似はしないだろうとヒフミは考えた。

 

 とにかく、となると残るは三人だ。

 

(といってもナギサ様が目を付けているのは間違いなくアズサちゃんだと思います)

 

 ヒフミの脳裏に、翼とガスマスクと白髪の少女の姿が浮かぶ。

 

 エデン条約の調印式前という、このピリピリした状況で転校してきた出自不明の生徒。

 翼というとトリニティ生に多い特徴であるが、彼女の証言では前の学校では授業の進行速度に差があったとのこと。

 これが意味するのは、トリニティとは無関係の学園から来たということでもある。

 

 その上、その身のこなしはどう見ても一朝一夕で身につくものではなく、それこそ軍人が受けるような訓練をしていた可能性が高い。

 

 おまけに彼女の制服の胸元や肩にはトリニティの意匠とは全く異なる、『見知らぬ校章』がつけられていた。

 

(怪しすぎますけど、ナギサ様が警戒する理由には十分ですし)

 

 ナギサの立場に立ったとして、アズサを野放しにしておくのはあまりにも『無い』判断である。

 

 残る二人はどうだろうか。

 浦和ハナコ。

 

(ハナコさんについては、去年は『次期ティーパーティー』なんて言われるくらいには有名でしたが……)

 

 そんな才媛がまさか、今やスクール水着で校内を徘徊するような愉快な人間になっているとは、ヒフミも予想していなかった。

 

(急激に変わりすぎていて怪しい、ということですかね?それに『シスターフッド』とも関わりがあったようですし)

 

 シスターフッドはトリニティの三大派閥に属さない、独立した巨大な宗教勢力である。

 ティーパーティーとしても下手に動かれるとやり辛い相手であるのは間違いなく、常にその動向には目を光らせているはずだった。

 

(シスターフッドに対する牽制、それか様子見の意味合いも含まれているのかもしれません)

 

 もっとも、今の痴女化した彼女がその役割を果たせるかは怪しいところであるが。

 

 最後に、下江コハル。

 

 正義実現委員会に所属している、自称エリートの少女。

 

 ハナコと同じく、派閥の牽制という点で考えればコハルを補習授業部に入れることは、『正義実現委員会』に対する牽制という線が濃厚になる。

 

 しかしヒフミはここで待ったをかけた。

 

(今、ナギサ様が正義実現委員会を刺激する理由はあまりないはずです)

 

 というのも現在、正義実現委員会はトリニティ自治区内での巡回警備を平時の数倍は強化している。

 

 発端は先日の、カイザーとゲーテが絡む一件だ。

 

 カイザーの違法行為という証拠のリークはティーパーティーに届くように手配されたが、だからとその調査を彼女らがするわけではない。

 

 キヴォトス全体の警察としてヴァルキューレがいるように、トリニティにて警察的な役割を担うのは正義実現委員会である。

 

 ナギサの条約に対する姿勢からして、あれほどの事件が起こっていながら終わった途端に警戒解除、となる訳がない。

 

 よって正義実現委員会は強制調査や取り締まりなど実地での対応をし、今はエデン条約というナギサにとっての一大イベントを成功させるために扱き使われている状況なのだ。

 

 ナギサ様、その原因ここにいます。

 

 まぁつまり、ここでわざわざ反感を買うような真似はしないのではないか。

 ヒフミはそう考えたわけである。

 

(……もしかして、本当に、純粋に『ただ成績が悪かっただけ』だったり……?)

 

 そういえば、資料によるとコハルは三回試験に落ちて留年間近らしい。

 

「……まずはコハルちゃんをどうにかするのが先ですね……」

 

 ヒフミは苦笑いを浮かべた。

 そしてメンバーの分析を終え、再び思考は『先生』の存在へと戻ってくる。

 

(やはり先生をこの部活の顧問に起用したのには何かあるはずです)

 

 先生の持つ最も大きな力は『超法規的権限』だろう。

 それはキヴォトスにおける様々な規則や法を無視し学園に干渉できる特異なものだ。

 

(裏切者を探す、ということは見つけたら普通『消す』ことになりますよね……)

 

 ヒフミは裏社会的に染まった思考で、一瞬でそこにたどり着いた。

 

(……『先生』の権限があれば、学園の派閥や決まりなんて無視して強制退学ということもできるのでは……!?)

 

 そうなれば、表向きは角が立たない。

 補習授業部設立の際に、どういった文言で書類を作成したのかは不明であるが、ヒフミから見て先生は政治に疎い。

 

「生徒の頼みなら」などと言って確認もせず顧問になった可能性は十分にあった。

 

「え、もしかして私今すごく危ないんじゃないですか!?」

 

 自身のうっかりが原因でトリニティの制服を晒し、自分から『ヒフミ=ファウスト』という数式に近づけさせる案を提起した人間がここに。

 

『ヒフミさんが、ファウストなんて……嘘ですよね?』

 

 と、補習授業部という檻がゴミ箱に変わり、まとめて捨てられる未来――。

 

「ひえぇぇぇ……」

 

 まさかあんなに前に墓穴を掘っていたとは。

 ヒフミは情けない声を漏らした。

 

「……いえ、た、退学になっても……」

 

 私にはゲーテの子たちが……!

 

 そこまで考え、ヒフミはガバッと身を起こした。

 

「いえ、だめですだめです!どうにかこうして普通の生徒を続けられているんですから……!」

 

『ファウスト』と『阿慈谷ヒフミ』という二重生活。

 

 多大なる労力によって、この生活は形を保っているのだ。

 

 今更諦めるわけにはいかない!

 

「……絶対に、全員で試験に合格して、元の日常に戻ってみせます!」

 

 ヒフミは両拳をギュッと握りしめ、強い決意を固めた。

 

 そのために部長として、カオスな部員たちをまとめ上げ勉強させなければならない。

 

「……それにしても」

 

 ヒフミは再びベッドに寝転がり、目を閉じた。

 瞼の裏に浮かぶのは、おそらく最有力裏切者候補アズサ。

 

「あのアズサちゃんの胸についていた校章、どこかで見覚えがあるんですよね……」

 

 どこで見たのだったか。

 ヒフミの情報源は基本部下からの報告なので、今回もおそらくそうなのだろうが。

 

「……明日にでも聞いてみましょう」

 

 部下に相談、と心のメモに記し、疑問をひとまず頭の片隅に追いやって小さな欠伸を一つこぼした。

 

 考えたところでどうせ補習があることには変わりないし、出来ることをやるだけなのだ。

 

「おやすみなさい、ペロロ様……」

 

 そうしてお気に入りのぬいぐるみを抱きしめ、ヒフミは眠りにつくのだった。

 




別に前回のナギサ様視点で正実とシスフに触れても良かったんじゃね?って書いてて思った。

この話スマホで投稿してるからおかしいところあったら申し訳ない
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