【悲報】ヒフミさん普通じゃなかったwww   作:車検のコダック

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そりゃヒフミさんはペロロ様を優先するよ

 

 連邦生徒会長の失踪以降、キヴォトスの治安は悪化の一途を辿っていたが、ある出来事を境に、急速に鎮静化していくこととなった。

 

 すなわち、『シャーレの先生』と呼ばれる存在の着任である。

 

 一般生徒に擬態しているヒフミ自身も、その空気の変化は肌で感じ取っていたものの。

 今、手元のスマートフォンの向こうから聞こえてくる部下からの報告によって、直感を数字が裏付けすることとなった。

 

『――以上が、直近一週間のキヴォトス全域における発砲事件および重犯罪の統計です。シャーレが介入した自治区を中心に、犯罪発生率が有意に低下しています』

 

「……なるほど。ありがとうございます」

 

 ヒフミは、耳に当てたスマートフォン越しに落ち着いた声で返答しながらも、内心では小さく息を呑んでいた。

 

 ……気のせいではなく、はっきりと数字に表れるレベルでの治安の回復。

 たった一人の『先生』と呼ばれる大人が着任しただけで、これほどまでに世界は変わるものなのだろうか。

 

(……先生、ですか。一体何者なのでしょう)

 

 裏社会のトップに立つ『ゲーテ』の強力な情報網をもってしても、その人物の出自や詳細な経歴は未だ不明のまま。

 

 わかっているのは、失踪した連邦生徒会長によって直接指名され、超法規的な権限を与えられた存在であるということだけだ。

 

 ぽっと出の人間にそんな権限を渡すなど、だれか止める人間はいなかったのか、とか。

 なぜ、このレベルまで治安が低下してから着任したのか、とか。

 

 色々考えたヒフミではあったが。

 

(……少なくとも、連邦生徒会長はただ思い付きで失踪したわけではない、というのは間違いなさそうですかね)

 

 あの『超人』が、己の不在を補うための『代理』をあらかじめ用意していた。

 

 だとすれば、あるいは。

 このキヴォトスの混乱すらも、彼女の手のひらの上での出来事なのかもしれない。

 

 だが、そこまで思考を巡らせたところで、ヒフミは小さく頭を振った。

 

 これ以上考えても推測の域を出ないからだ。

 それに、自分が案じるべきはキヴォトス全土の運命などという大層なものではなく、あくまでこのブラックマーケットの平穏だけなのだから。

 

(ブラックマーケットが平穏というのもおかしいですが)

 

『あと、それに関して一点。ファウスト様のお耳に入れておきたい情報があります。

 例の先生ですが、現在はアビドス自治区へ向かい、行動を共にしているとの情報が入っております』

 

「……。……そぅ、そうなんですね」

 

『はい。アビドスといえば、以前よりカイザーPMCが妙に精力的な動きを見せている地域です』

 

 部下の報告に、ヒフミは目を伏せる。

 

 カイザーコーポレーションの動きについては、ヒフミも以前から警戒を強めていた。

 

 彼らは近年、砂漠以外に何もないはずのアビドスの土地を執拗に買い漁っているらしい。

 残っているのは、アビドス高校の周辺地帯だけのようだ。

 

 それに、広大な砂漠のど真ん中に、何を仮想敵としているのか不可解な規模の軍事基地を建設しているという報告も上がってきていた。

 

 カイザーが強大な軍事力を蓄えていることは、裏社会を牛耳るヒフミからしても、無視のできない懸念材料ではある。

 

 だが、だからと手出しはできない。

 ヒフミの力が及ぶのは、あくまでブラックマーケットという領域内だけの話だからだ。

 

 そもそも、アビドスの土地買収にしても、カイザーがアビドス生徒会という正規のルートを通じて買い取ったものであると確認が取れている以上、第三者であるゲーテが口を挟む道理もないのだ。

 

 ――ヒフミは、自分が何でも解決できる『超人』などとは微塵も思っていない。

 

 義憤に駆られてすべての出来事に手を出し、結果として何もかもを中途半端にしてしまうこと。それこそが、一番避けるべき愚行である。

 だからこそ、ブラックマーケットの外で起きている事象については、基本的には静観の構えを貫いていた。

 

『ファウスト様、いかがなさいますか。我々の人員を接触させることもできますが……』

 

「……い、いえ、その必要はありません。引き続き、監視のみに留めてください」

 

『御意に。それでは、失礼いたします』

 

 通話が切れ、ヒフミはスマートフォンをポケットに滑り込ませた。

 

「ふぅぅぅぅぅ……!」

 

 深いため息とともに、胸を撫でおろす。

 

 できる限りの威厳を演出して報告を終えたヒフミであったが――彼女が今立っている場所は、冷暖房の完備された最上階の執務室でもなければ、血生臭い路地裏でもない。

 

 そこは、容赦ない日差しが降り注ぐ、砂埃にまみれた乾燥した大地。

 

 そう、ヒフミが今いる場所はなんと、他でもない『アビドス自治区』。

 正確には、アビドス自治区の境界線沿いに位置するブラックマーケットである。

 

 彼女が言葉に詰まっている理由は、まさにこれ。

 ヒフミは誰にも知らせず、単身アビドスに来ていたのだ。

 

「はぁ……。変な声が出そうになりました……」

 

 先ほどまでの底知れぬ威圧感はどこへやら。

 ヒフミはハンカチで額の汗を拭いながら、周囲を見渡した。

 

 彼女の目的は、謎多き『先生』の動向を探ることでもなければ、カイザーPMCの基地建設の陰謀を暴くことでもない。

 

 ただ一つ。

 アビドス近郊のブラックマーケットに横流しされたペロロ様の激レア廃盤グッズを手に入れるため。

 

 真偽もわからぬ、インターネットの片隅で見つけた怪しい情報に釣られてやってきたのであった。

 

 なお、当然今日は平日の昼間である。

 

 つまりはこのヒフミ、グッズのために学校を無断欠席していた。

 

 裏社会のトップなのだから、そんなグッズくらい部下に命じれば手に入るだろ、と普通の人間なら考える。

 

 しかし、ヒフミの中には「グッズは自分の足で探し、自分の手でお迎えするからこそ価値がある」という、ペロロ様強火オタクとしての謎のこだわりがあった。

 

 それに、ただでさえ恐れられている自分が「ペロロ様のぬいぐるみが欲しいから買ってきて」などと命令すれば。

 なぜかとんでもない曲解をされたのち、最終的に重武装で店を襲撃した部下が「麻薬を見つけました!!」なんて言ってくるに違いないのだ(二敗)。

 

 ついでに「他人に自分の趣味を押し付けるわけにはいかない」とか、「これは業務外になる」とか、世間一般の『ファウスト様像』からはかけ離れた、配慮の心もあった。

 

 そんな感じで今に至るのだが、一つ大きな問題があった。

 

 すなわち服装である。

 当然ではあるが、内緒で来ているのに『ファウスト』(スーツに紙袋)の姿で来るわけにはいかない。

 

 そもそもそんな姿でブラックマーケットを歩けば、瞬く間に「ファウスト様が直々に視察を!?」と大騒ぎになり、道行く悪党どもは平伏し、マーケットガード(ゲーテの下部組織)が全武装で護衛につくという、物々しいパレードのようなことになってしまうだろう。

 

 ゆえに、今日のヒフミは正体を隠す道を選んだ。

 

 いつものトリニティの制服に身を包み、スーツではなかなか組み合わせられない『ペロロ様リュック』を背負い、護身用として最近はすっかり使用頻度の減った愛銃『マイネセシティ』だけを携えている。

 

 まぁ、普段着とも言う。

 

 どこからどう見ても、なぜかブラックマーケットに迷い込んでしまったトリニティ生だ。

 

 これは普通を名乗っても怒られまい。

 

 

 

 ……そうして、ブラックマーケットを彷徨うこと数分。

 

「ええと、書き込みの内容からするとこの道をまっすぐいって、右……?」

 

 ヒフミがスマートフォンの地図アプリと睨めっこしていると。

 

「おいおい、見慣れねぇ制服だな。トリニティのお嬢様が、こんなトコでなにしてんだぁ?」

 

 路地裏の影から、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた数人の、ヘルメット団員と思しき者たちが現れヒフミの行く手を塞いだ。

 

 彼女たちの手には、使い古されたアサルトライフルが握られており威圧的だ。

 

 トリニティの制服を着た生徒が、治安の悪いこの界隈を一人で歩いていればカモにされる。

 それは火を見るより明らかな理屈であった。

 

「あ、あの……わ、私はただ、お買い物を……」

 

 ヒフミはビクッと肩を震わせ、後ずさった。

 

 しかし恐怖からではない。

 焦りからだ。

 

(ど、どうしましょう……!)

 

 目の前のヘルメット団を武力で制圧することなど、ヒフミにとっては造作もない。

 銃を抜き、数秒で彼女たちを気絶させるだけの戦闘力はさすがにある。

 

 だが、ここで銃撃戦など起こせばどうなるか。

 

 まず発砲音を聞きつけた『マーケットガード』が飛んでくるだろう。

 そしてトリニティの生徒が絡まれているのを発見し、上(ゲーテ)に相談。

 次にファウストの顔を知っている幹部に報告が……。

 

(そしたら絶対、あの子たち暴走しちゃいます!!)

 

「ファウスト様に危害を加えるとは万死に値する!!」と、組織を挙げての報復が始まってしまう未来が見えた。

 

 傷どころか触れられてすらいないのに、最悪命まるごとキヴォトス追放まで行きかねない。

 なにせ、例のカイザーのダミー企業への『お仕置き』がキヴォトス追放レベルなのだから。

 

 それは、あまりにも可哀想すぎる。

 いくらカツアゲしようとしたとはいえ、さすがに。

 

「ちょっとそのリュックの中身、見せてみろよ。金目のモンが入って――」

 

「ご、ごめんなさぁぁぁぁいっ!!」

 

 ヘルメット団の一人が手を伸ばしてきた瞬間。

 

 ヒフミは目をギュッと瞑り、ペロロ様リュックを揺らしながら全速力でその場から逃げ出した。

 

「あ、おい!? 待てコラ!!」

 

「すみません!本当にすみません!あなたたちのことを思って逃げます!!!」

 

「はぁ!?」

 

 背後から聞こえる怒声に謝罪を繰り返しながら路地を駆け回る。

 

「……少し待っててくださいね、ペロロ様……!」

 

 ……実は、グッズ探しを邪魔されたくないだけかもしれない。

 

 




なんか色ついてて草
こわいよ〜

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