【悲報】ヒフミさん普通じゃなかったwww 作:車検のコダック
時は少し遡る。
今日は解散し、明日からの合宿に備えることになった補習授業部。
共同生活を送ることとなった部屋のベッドの上でヒフミは一人頭を抱え、静かに発狂しそうになっていた。
(足りません……ペロロ様成分が……!)
それは禁断症状。
正直に言えばヒフミは、この合宿生活というものを完全に舐めていた。
普段、ヒフミの生活圏にはペロロ様の存在が至る所に配置されている。
視界のどこかしらに常にペロロ様のぽてっとした愛らしいフォルムがあり、その虚無を宿した瞳に見つめられることでヒフミは安らぎを覚えていた。
だから当然、この合宿にもキャリーケースにありったけのペロロ様グッズを詰め込んで持ち込んだのだが。
『ちょっと!なにその鳥……?のぬいぐるみ!!舌出してるじゃない!エッチなのはダメ!死刑!!』
と、謎の理由でペロロ様の配置を拒否されたのである。
舌を出しているだけでエッチとは何を想像しているのか、ヒフミからして疑問ばかりなのだが、同室の人間に拒否されれば諦めるしかなかった。
どうにもペロロ様は万人受けしない。
キャラクターに対する好き嫌いがあるのは理解しているが、そこまで「キモい」と連呼されるのはなぜなのだろうか。
とはいえ幸いなことに、もう一人の同室者である白洲アズサは『ますこっと?というものはよくわからないが可愛いと思う』と好意的な評価を下してくれた。
同志になってくれる可能性が高いアズサに瞳を輝かせたヒフミは、日中のうちにこの合宿所を宛先にモモフレンズのぬいぐるみ各種を発注した。
明日の朝には届くことだろう。
まぁひとまずその話は置いておくとして。
問題はコハルに拒絶された結果、ベッドの周りをペロロ様で埋め尽くして安眠する計画が完全に崩れ去ってしまったことだ。
いやエッチかはともかく当然である。
そりゃあ反対もされるだろう。
儀式みたいで怖いもん。
(どうやって眠ればいいんですか!?ペロロ様のぬいぐるみ三つじゃ眠れません!)
今のところ、ヒフミの頭の周りを囲むようにぬいぐるみは配置されていた。
満足してくれ。
ヒフミはぬいぐるみの一つを抱きしめ、体を小さく丸めた。
この補習授業部が、ナギサの用意した『裏切り者を監視、退学させるための檻』である以上、あと一週間、二週間……いや、エデン条約の調印式が終わるまで、ずっとペロロ様と離れ離れの生活が続くかもしれないのだ。
(そんなの……拷問です!死んじゃいます!)
そう考えると、もはや一睡もできる気がしなかった。
そして、一度は封印しかけていた策に手を伸ばす。
(――やっぱり、これしか方法はありません……)
ゲーテを、エデン条約に介入させます!!!!!!
裏切り者誕生。
ナギサ様、この人です。
簡単にいえば、この盤面ごと破壊すれば補習授業部なんて要らなくなるだろう、という考えだ。
結局のところすべての元凶はアリウス――『ベアトリーチェ』であるので、彼女を消してしまえばナギサが誰かを疑う必要もない。
ゲマトリアという組織については先生を通じて連邦生徒会が説明すれば、ナギサも認めざるを得ないだろう。
そしてなにより、話が早い。
ゲーテが表に介入するには理由が必要では、と思うかもしれないが、そもそも相手は『ゲマトリア』。
ブラックマーケットで主に活動しているような組織であるし、黒服や他の面々のスタンスからしてベアトリーチェと事を構えても邪魔はされないはずだ。
それに、なんとすでに介入する糸口はある。
ゲーテはナギサに対して『借り』があるのだ。
つまり裏からゲマトリアの情報を流すなどして『悪い大人』の影をチラつかせ、ゲーテに対処を頼むように誘導する……。
そうして憂いがなくなれば晴れてエデン条約も締結され、ヒフミも今までの生活に戻れる。
まさにWinWinと言えるだろう。
少なくとも、ヒフミにとっては。
しかし。
(そうすると先生の存在が……)
邪魔になる、とは言わないがニュアンスとしては同じだ。
ブラックマーケットではない以上、先生の予期せぬ介入も考えられる。
表で起きている話であるために、やはり先生に対処してもらうのが安牌であったわけだが、我慢も限界が近い。
状況は変わったのだ。
主にヒフミの中でだけであるが。
(……とはいえ逆に言えば、先生から許可をもらえれば不確定要素が一つ減ります!)
この時のヒフミは、完全に冷静さを失っていた。
いつもならここで、頭に紙袋を被ることで気持ちを切り替えることができるのだが、ここは誰に見られるかもわからない合宿所。
他の部員たちに紙袋を見られてしまうのは流石に避けるべきなので、紙袋は自室に置いてきたのだ。
度重なるペロロ様の不足による禁断症状と、紙袋という冷静スイッチの不在が合わさることで暴走を始めたヒフミ。
「……善は急げ、ですね!さっそく先生に相談です!」
ヒフミは念のためと荷物の奥底に隠しておいた黒いアタッシュケースを引っ張り出し、そそくさと部屋を出る。
表向きは「エデン条約の裏で動くゲマトリアの陰謀を阻止するため」という、それっぽい大義名分を脳内で構築しながら。
その実、ただ「早く日常に戻ってペロロ様に囲まれた生活を」という私欲のために、ヒフミは決意に満ちた足取りで先生の居る部屋へと向かったのである。
「――ヒフミちゃん?アズサちゃんも居ませんし、一体何が……」
こういううっかりにも気が付かないまま。
【先生視点】
合宿も中盤に差し掛かるかといった頃。
補習授業部の面々の勉強自体はハナコの的確な指導と、ヒフミの『もので釣る』作戦により順調に進んでいた。
まさか、合宿所宛にぬいぐるみを発注しているとは夢にも思わなかったが。
しかし先生の思考は、彼女たちの成績とは全く違う方向へと向いていた。
(”どうすれば……”)
『――このエデン条約に、ゲーテを介入させませんか?』
あの日された提案が、ここのところ何度もフラッシュバックしている。
提案のあと、先生の驚きの声をよそに、介入するための具体的な方法はすでに見つけているとヒフミは語っていた。
だが、先生はあの場で即座にその提案に頷くことはできなかったのだ。
ヒフミにエデン条約を乗っ取って武力を独占するような野心はないと先生は信じている。
ゲーテの介入は間違いなく『ゲマトリア』という悪辣な大人たちに対するカウンターとして機能するだろう。
しかし、『何か』が先生の『選択』に待ったをかけた。
結果として先生は、あの場では「……少し考えさせてほしい」と返答を保留する他なかった。
対するヒフミは。
『……そうですよね。急なお話でごめんなさい。……ですが、お返事はできるだけ早くいただけると、その、助かります』
そう言って、部屋を後にした。
何か、焦りがあるように見えたのは気の所為なのだろうか。
(”……私は、何に引っかかっているのだろう”)
先生は合宿所の廊下を歩きながら一人ごちた。
いくらゲーテが介入するといっても、ヒフミがトリニティとゲヘナの平和を壊すような真似をするとも考えにくい。
先生の許可をわざわざ取りに来たということは、シャーレや連邦生徒会と事を荒立てるつもりもない、ということだろう。
(”ヒフミが今動こうとしている理由はなんだ?想定外のなにかがあったとか?”)
先生から見て、ヒフミの情報戦や策謀に長けていることは以前の出来事で十分に理解しているつもりだ。
その彼女が今、突然に動こうとしている。
なにか大きな事が起きようとしているのではないか。
そう思えてならないというのに、いまいち踏み切れないジレンマ。
――思考を巡らせる中ふと気がつくと、先生は屋外プールにたどり着いていた。
昨日皆で掃除をしたために汚れなどはなく、なみなみと張られた水に陽光が反射していて眩しい。
「あ、きたきた」
そんな光に照らされ待ち構えていたのは、ティーパーティーの一人、聖園ミカであった。
今日先生は彼女から個人的な誘いを受けて、ここに呼び出されていたわけである。
どうやら極秘の要件らしく、お付きの人間などは周囲に見当たらなかった。
”待たせたかな。ごめんね”
先生がそう声を掛けると、ミカはプールサイドの縁に腰掛けたまま、パタパタと足を揺らし「ううん」と首を振った。
「……それより、先生は何か考え事?」
ミカが先生の顔を見て、そう質問してくる。
”……いや。勉強の進み具合について考えてたんだ”
一瞬言葉に詰まったが、先生は当たり障りのない内容で濁すことにした。
ゲマトリアやゲーテのことなど、表の生徒である彼女に話せるはずもないからである。
「ふーん……?」
ほんの少しだけ訝しげな、あるいは先生の嘘を見透かしたような表情を見せたが、すぐにパッと元の明るい笑顔に切り替えた。
「まぁいっか。ちょっと時間がないから、早速本題に入らせてもらうね」
ミカは立ち上がり、先生の真正面に立った。
「――ナギちゃんから、何か頼み事されなかった?」
”えっ?”
「例えば……そう。『補習授業部の中から裏切り者を探してほしい』とか、ね?」
直球すぎる問いかけに、先生はどう返すべきか一瞬わからなくなり言葉を失った。
ナギサは極秘裏に進めていたようだが、ミカには共有していたのだろうか。
いや、それならわざわざこんな場所で聞く必要はないように思える。
先生の沈黙を肯定と受け取ったのか、ミカはクスリと笑い続けて語り始めた。
「やっぱり、されたってことでいいのかな?じゃあ、それ以外ことは教えてもらった?補習授業部の子たちの詳細とかさ」
そう言われ、先生はゆっくりと首を横に振った。
「えっと、じゃあ、ただ『裏切り者を探せ』って言われただけってこと?
……も〜、ナギちゃんったら適当だなぁ」
ミカがやれやれと肩を竦め、納得したように一人で話を進めようとする。
”待って、ミカ。……その話なら断ったよ”
なので誤解が生まれる前に先生は口を挟み、明確に否定した。
「え?そうなんだ……」
ミカが目を丸くする。
”私は生徒の味方だからね。生徒を陥れるようなことはしないよ”
先生が真っ直ぐな目で告げるとミカは少しだけ表情をこわばらせる。
突然吹いた風がミカの髪を揺らし、一瞬その顔を覆い隠した。
「……それは、トリニティの味方はしないってこと?
そう、だよね。シャーレは中立だもんね」
ミカはどこか諦観したような、恐る恐るといった様子で視線を落とし、そして小さな声で呟く。
「でも……それは私の味方もしてくれるってこと?」
”もちろん”
間髪入れずに、一切の迷いなくそう返す先生。
ミカは弾かれたように顔を上げ「……わーお」と、心底驚いたような感嘆の声を漏らした。
しばらくの間、二人の間に沈黙が流れる。
やがてミカは何か重い決心をしたように、一つだけ深く頷いた。
そして先生の瞳を真っ直ぐに見つめ返し、はっきりとした声でこう言った。
「先生。ナギちゃんの言う『裏切り者』が誰なのか、教えてあげる」
”……ミカ?”
「だから……その子を守ってあげてほしいの。生徒の、味方なんだよね?」
その言葉を聞いた瞬間。
先生の脳裏でこれまでに得ていた情報が線として完全に繋がり、恐るべき推測が事実として浮上した。
――アズサが転校してきたということは、ティーパーティーの誰かが許可したということになる。
――ミカか、セイア。どちらかがアリウスと内通している可能性が高い。
ヒフミの語った、エデン条約の裏で蠢く陰謀。
なるほど。
そうだったのか。
(”……ミカが、アリウスと内通しているのか”)
それは、トリニティの中枢にすらゲマトリアの手が入っているとも言えるわけであり。
(”通りでヒフミが動こうとするわけだ”)
もはや、『選択』の余地は無いのかも知れない。
一つずつ解けていく真相と陰謀に、先生は頭が痛くなる思いだった。
酷暑見舞い投稿
ヒフミ視点ってギャグになりがちというか、温度差的に後半に回しにくい欠点があるのだ。
実は前話はヒフミ視点で最後に
ハナコ「ヒフミちゃん?アズサちゃん?」
って書くつもりだったのだ。
あとペロロ様って別にキモくないですよね?
目の焦点が合ってないだけですし……