【悲報】ヒフミさん普通じゃなかったwww   作:車検のコダック

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ナギサ様大丈夫そう?

【先生視点】

 

 カイザーローンの書類を強引な方法で入手し、裏で蠢くカイザーグループの陰謀の片鱗を垣間見たあの日から数日が経過した。

 

 事態の全容は未だ見えず、しかしすぐにこちらから有効な一手を打てるわけでもない。

 

 そんな嵐の前の静けさのような状況下。

 アビドスにはつかの間の平和な日常が流れていた。

 

 うららかな陽光が差し込む対策委員会の部室。

 先生が顔を出すと、そこにはホシノを除く四人の生徒たちが揃っており、いつになく和やかなムードで談笑していた。

 

”おはよう、みんな。楽しそうだね”

 

 先生の問いかけに、シロコがマフラーを少し直しながらコクリと頷く。

 

「ん。今日はオフだったけど、なぜか集まった」

 

「家にいても暇だし、用事もなかったから来たの。電気代も掛からないし」

 

 セリカが腕を組みながら、ツンとした態度で言い放つ。

 だが、その尻尾は機嫌良さそうにゆらゆらと揺れていた。

 

「先生がいらっしゃると、部室がさらに賑やかになって嬉しいですね~☆」

 

 ノノミがふわりと微笑み、アヤネも「お茶を淹れますね」と立ち上がってくれた。

 どうやら、本当にただの雑談目的で集まっていたらしい。

 

”えっと、ホシノは?”

 

「オフですから、どこかでお昼寝でもしているのではないでしょうか……?」

 

 アヤネが苦笑いしながら答える。

 

”そっか。ホシノらしいね”

 

 いつものホシノを思い浮かべ、笑った。

 先生は空いているパイプ椅子に腰を下ろし、携行していたタブレット端末を開く。

 

 何もないなら、少し書類整理をしよう……。

 

 (”やりたくはないけどね!!”)

 

 彼も今日がオフであることは知っていたが、「アビドスでやることがあるから!」と、リンやユウカの小言を躱すためにアビドスに来たのである。

 

 今頃、シャーレの部室に溜まった書類は、摩天楼となっていることだろう。

 仕事から逃げるな。

 

 シャーレの未処理の書類に目を通しながら、生徒たちの他愛のないおしゃべりに耳を傾ける。

 

 話題は、数日前に起きた出来事――否応なしに巻き込まれた、あの波乱万丈な一日へと移っていった。

 

「それにしても、銀行強盗を経験するなんて思ってもいませんでした……」

 

「あれは強盗というか、受け取っただけというか……」

 

 アヤネの言葉に、セリカが一連の事件を思い返して言う。

 

「ん。あんなの銀行強盗じゃない。必ず私は成し遂げる」

 

「成し遂げないでくださいね!?」

 

 わちゃわちゃと言い合う彼女たちを見ながら、先生は苦笑いを浮かべた。

 

 あなたも参加してましたよ。

 リンやユウカが聞けば卒倒ものである。

 

 そんな中、ノノミがふと首を傾げ、思い出したように口を開いた。

 

「そういえば、結局あの『ファウスト』って、何だったのでしょうね?」

 

「……あっ」

 

 ノノミの一言で、部室の空気がピタリと止まった。

 

 その場にいた全員が顔を見合わせる。

 

 あの時、ヒフミが突然被った紙袋。

 そして名乗った『ファウスト』という偽名。

 

 彼女自身は何でもないような振る舞いをしていたが、あの銀行員たちの反応は明らかに異常であった。

 

「確かにあの時の銀行員たちの慌て方、普通じゃなかったわよね。まるで、命でも取られるみたいな反応してたし……」

 

「いくら闇銀行と言っても、一般的な銀行と同じく対強盗用のマニュアルはあるはず。というか、闇銀行なら対策してて当たり前」

 

 セリカが腕を組み、シロコは趣味から生じた知識をもってその違和感を語る。

 

「す、少し調べてみます!」

 

 気になったアヤネがノートパソコンを開き、キヴォトスのサイトやブラックマーケット関連の掲示板のログを検索し始めた。

 

 カタカタと凄まじい速度でキーボードを叩く音が響く。

 やがて、アヤネの指がピタリと止まり、その顔色がみるみるうちに蒼白になっていった。

 

「み、みなさん……」

 

 震える声を出しながらアヤネが顔を上げる。

 

「見つかったの?」

 

「は、はい……。ブラックマーケットに関連する掲示板や、アングラな情報を取り扱うニュースサイトの記事などに該当する名前が何度も……」

 

 ごくりと唾を呑み、アヤネは画面に表示されたテキストを読み上げ始めた。

 

「『ファウスト』。……ブラックマーケットの、実質的な支配者。表のキヴォトスにおける連邦生徒会に相当する巨大自治組織『ゲーテ』のトップであり、裏社会の頂点に君臨する絶対的権力者、だそうです」

 

「……は?」

 

 セリカが間抜けな声を漏らした。

 

「ヒフミ、やばい人?」

 

 シロコが犬耳をピンと立てて尋ねるが、アヤネはすぐに首を横に振った。

 

「い、いえ、本人だと確定したわけではありません。見たところ、そのファウストという人物は基本的にスーツ姿で行動しているそうです。ヒフミさんのように制服を着ている姿は確認されたことがないようです。そもそも、簡単に姿を見せる人物でもないようですし……」

 

「つまり、ヒフミちゃんがその『ファウスト』って人に変装して、名前を借りたってことですか~?」

 

 ノノミがぽんっと手を叩く。

 

「そうかも」

 

 シロコが、その線はあり得る、とうなずきを返した。

 

 ヒフミはとてもブラックマーケットに詳しかったし、ファウストの存在も当然認識していたはずだ。

 もしかすると、ヒフミの変装は銀行員のあの反応を期待してのものだったのかもしれない――。

 

 その結論はヒフミ=ファウストであるというものよりも、よほど筋が通っているように思えた。

 

「――いやいやいや!にしてはすごい威圧感してなかった!?」

 

「ん。それも、確かに……」

 

「ホシノ先輩が銃に手を伸ばすほどでしたからね~……」

 

 だが直後に放たれたセリカの反論にも、誰も明確な答えを返すことはできなかった。

 

 あの時のヒフミが放っていた空気はそれ以前のおどおどした彼女からは想像もつかないほど冷徹で、ゾッとするような凄みがあったのだ。

 

 あれもまた、無視のできない事実であった。

 

 ただの演技や変装で出せる代物ではない気はするのだが、当の本人がいない以上真相は闇の中である。

 

 アヤネはさらに情報を深く掘り下げていく。

 

「というかこのファウストという人、すごい経歴ですね……」

 

「どういうこと?」

 

「この記事によれば……なんとこのファウストさん、二年前に裏社会に突如として現れ、それまで無数のマフィアや犯罪組織、悪徳企業が群雄割拠していたブラックマーケットを、あっという間に『統一』してしまったのだそうです」

 

”に、二年で!?”

 

 先生も思わず声に出して驚いてしまった。

 

 ヒフミから聞いた話では、ブラックマーケットの規模は一般的な学園自治区の数個分はあるという。

 これは『外の世界』で考えれば、巨大な犯罪国家があるようなものだ。

 

 さらに、ここはキヴォトス。

 人が死ににくいが故に発展した特異な銃社会の、さらにその中で育った裏社会を統一するなど、どれほどの武力と策謀が必要なのか……。

 

 つい最近キヴォトスに来た先生では、欠片も想像できなかった。

 

「はい……。素性も年齢も、すべてが謎に包まれています。ただ、その圧倒的なカリスマと未来を見ているような策謀、そして巨大組織『ゲーテ』の圧倒的な武力を以って、逆らうあらゆるマフィアや巨大企業を徹底的にねじ伏せ壊滅させてきた、と……。

 

 その容赦のない行いと、絶対的な力から、裏社会の住人たちは彼女を畏敬の念を込めてこう呼んでいるそうです」

 

 『ブラックマーケットの超人』と。

 

 部室に、重苦しい沈黙が降りる。

 

 あの連邦生徒会長と同列に語られる、裏社会の絶対的支配者。

 

 それが『ファウスト』という名前の正体であった。

 

「え、ちょ、ちょっと待ちなさいよ。とんでもない人じゃないの、それ……」

 

 セリカの顔からサァーッと血の気が引いていく。

 

「あの、もしかして、ヒフミちゃん……。そんな人の名前を、寄りにもよってブラックマーケットで名乗ったということになりませんか……!!??」

 

「そ、そういうことになりますね……」

 

 ノノミの言葉に、アヤネが青ざめながら頷く。

 

「万が一それが本物の『ファウスト』の耳に入ったら……ヒフミさん、ただじゃ済まないんじゃ……」

 

「っていうか、絶対にもうバレてるわよ!あんな重大事件黙ってるわけないじゃない!!」

 

 セリカが頭を抱えて叫ぶ。

 

 ヒフミはあの後、ペロロ様なるキャラのグッズを手にニコニコで帰っていったが……。

 今頃、彼女はゲーテの武装集団に追われているのではなかろうか。

 

 ……ヒフミ、大丈夫そう?

 

 そんな空気が部室に蔓延した瞬間、シロコがスッと自分のスマートフォンを取り出した。

 

「……安否確認送ろう」

 

「えっ、ちょ、シロコ先輩!ヒフミさんは今追われてて、隠れている最中かもしれないんですよ!?」

 

 アヤネの中ではヒフミはすでに逃げ回っているらしい。

 

 アヤネの制止も虚しく、シロコは迷いなく画面をタップし、一言だけの恐ろしくストレートなメッセージが送信されてしまったのであった。

 

 

【ヒフミ視点】

 

「……くしゅんっ!」

 

 ブラックマーケットの最深部。

 ゲーテ本部の最上階にて。

 

 阿慈谷ヒフミは、デスクの上で小さくくしゃみをした。

 

「うぅ、なんだか急に鼻がムズムズしてきました……。どこかで噂でもされているのでしょうか」

 

 ヒフミは柔らかなハンカチで鼻をかみながら、一人ごちる。

 

 現在彼女はいつものスーツ姿で、部下から上がってきた膨大な量の報告書に目を通している最中であった。

 なお、視界的な問題で紙袋は着用していない。

 

 数日前に打った布石――トリニティ総合学園の生徒会である『ティーパーティー』に向けた情報の流布。

 

 その成果は上々であった。

 

 報告書によれば、ブラックマーケット内で意図的に流した「連邦法に抵触するカイザーグループの不正記録」と、「トリニティ生によるファウスト騙り」の噂は、想定以上の速度でティーパーティーの諜報網に引っかかったらしい。

 

「さっそくナギサ様がマーケットに密偵を送り込んできましたか」

 

 ヒフミは手元の資料に視線を落とし、微笑んだ。

 

「エデン条約に向けて奔走しているナギサ様には悪いですが、これもブラックマーケットのためです。カイザーの排斥はトリニティにとっても悪いことではないはずですし」

 

 いくらカイザーグループといえど、所詮は一企業なのだ。

 相手が公権力となれば厳しいものがあるだろう。

 

(ついでに、カイザーを丸ごとどうにかしてくれたりしないでしょうか?)

 

 ヒフミの策によってただでさえ胃を抑える羽目になっているであろうナギサに、さらに要求するとは。

 さすがは裏社会のボスである。

 

『――ピロリン』

 

 その時、デスクの上に置いていたスマートフォンが短い通知音を鳴らした。

 

 ファウストの端末ではない。

 普通の生徒『阿慈谷ヒフミ』としての、プライベート用の端末だ。

 

「こちらにメッセージなんて、珍しいです」

 

 画面を覗き込むとそこには、先日連絡先を交換したシロコからのメッセージが表示されていた。

 

 トーク画面を開く。

 

 そこには、ただ一言、こう書かれていた。

 

『生きてる?』

 

「――えっ」

 

 ヒフミの瞳が、点になった。

 

「え、ええ!?私なにか死の危険にさらされているとでも思われているんですか!?」

 

 突然すぎる、あまりにも直球な生存確認。

 

 ヒフミは先日の強盗の件など欠片も思い至らず。

 先ほどまでの冷静さを捨て去り、気が付かぬうちに何かやらかしてしまったのかとパニックに陥っていた。

 

「い、いえ、聞けばいいんです。……あれ?どう返せばいいんでしょうか?『生きてます』?それだとおかしい気がしますね……。『大丈夫です』?これは大丈夫ではない人が言うのでは!?えーと、えーと……」

 

 既読付けたのに早く返信しなかったら本当に危機的状況だと思われかねないのでは?

 

 そうしてヒフミが悩んだ末に浮かんだ文は、これであった。

 

『おはようございます。私は元気に生存しています――』

 

 微妙に日本語おかしいし、なぜそんな堅苦しいものになる。

 まるでスマホを拾った別人が書いてるようではないか。

 

 だが待ってほしい。

 このヒフミ、クラスメイトとは時折話せど、連絡先交換などしたことがないのである。

 そしてブラックマーケットに通い詰めている関係上放課後に遊ぶといった経験もなく、ゆえに友人へのメッセージなど送ったことなどもない。

 

 さらにクラスメイトからは、よく無断欠席している子として何となく敬遠されていた。

 

 ヒフミは、ぼっちなのだ。

 

「これでいいのでしょうか……」

 

 さらに数分。

 出来上がった文章は部下に送る指示と大差ないものであった。

 

 もっと気楽に書いてほしいものだ。

 

 ――ジリリリリリリリリリリッ!!!

 

 ヒフミが頭を悩ませていると今度は執務室のデスクに置かれた、ゲーテの最高幹部のみに繋がる『緊急用黒電話』が狂ったように鳴り響いた。

 

「ひやぁっ!?」

 

 ヒフミはビクッと肩を震わせ、慌てて紙袋を頭に被る。

 冷静になった思考で居住まいを正し、受話器を取った。

 

「……何事ですか?」

 

 しかし身体は正直で、突然の電話に心臓はバクバクである。

 

『ファウスト様、申し訳ありません。至急お耳に入れておきたいことが!』

 

 電話の向こうから聞こえてきたのは妙に切羽詰まったゲーテ幹部の声。

 

「落ち着いてください。何があったのですか?」

 

『ゲ、ゲヘナの風紀委員会が……!』

 

「ゲヘナの風紀委員会?」

 

 ヒフミの眉が、紙袋の奥でピクリと動く。

 

 ゲヘナの風紀委員会といえば特記戦力の一人、空崎ヒナが率いる武力組織だ。

 

 ヒナの能力がずば抜けていることもあって、「ヒナが戦力の大半」などと揶揄されることもあるが、別に能力が低いわけではない。

 評価が低いのはおそらく、ゲヘナという環境のせいであった。

 一言で言えば、ゲヘナは問題児が多すぎるのである。

 

 ほぼテロ組織でしかない温泉開発部などがいい例だろう。

 

『はい! 先ほど入った情報によりますと、ゲヘナ風紀委員会の主力部隊が、アビドス方面に向けて大規模な進軍を開始したとのことです!!!』

 

「……え?」

 

 ヒフミの思考が、一瞬だけ完全に停止した。

 

 ゲヘナの風紀委員会が、アビドスへ向けて進軍?

 

(アビドスに向けて進軍する必要性など、ゲヘナには全く無いと思われますが……。それに、風紀委員会というのも妙ですね。風紀委員会はゲヘナ内の治安維持が主目的のはずです。あのゲヘナの治安で、外に戦力を割けるほど余裕があるとも思えません)

 

 そこまで考えたヒフミは、こう指示を出した。

 

「監視は継続。それと、念を入れてマーケットガードを警戒態勢にしてください」

 

『直ちに!』

 

(これもカイザーが?……いえ、なんでも結びつける必要はありません)

 

 ゲヘナの生徒会――万魔殿。

 その生徒会長である羽沼マコトは、ポンコツ属性が滲んでこそいるものの、その情報収集能力はとても優秀であるらしい。

 

 つまりカイザーの悪行もある程度把握している可能性が高い、とヒフミは推測していた。

 

(なのでカイザーと関係を持ってたりはしない、ですかね……?

 そういえば風紀委員会を妙に嫌っているという報告もありましたし、嫌がらせで砂漠に派遣した、なんて線も有り得なくはないです)

 

 なぜ。どうして。何の目的で。

 

(もしくは先日の便利屋を追って、とか?……いくらなんでもそれで他自治区に進軍は正当性がないですし……)

 

「あぁ、情報が足りません……。もう少し外に監視の目を広げるべきですかね……」

 

 ファウストの苦悩は続く。

 

 




シロコ「ひ、ヒフミ……?」


短編のつもりだったけど長くなりそうなので連載に変更しました〜!

面白そうなの無いかと思ってランキング見たら2位に居て草草の草。
ファウスト様のシンパってこんなにいたんだ!!
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