【悲報】ヒフミさん普通じゃなかったwww   作:車検のコダック

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ヒナに心労かけるのやめなよ〜

「――報告いたします。ゲヘナ学園風紀委員会によるアビドス方面への進軍、およびアビドス生との交戦ですが、先ほど空崎ヒナ風紀委員長の現場到着をもって中止。現在、ゲヘナ方面へ撤収中とのことです」

 

 ブラックマーケットの最深部、ゲーテ本部の執務室。

 部下からの報告を受けたヒフミは、深く腰掛けていたチェアから背筋を伸ばし、ふぅ、と安堵の息を吐き出した。

 

「そうですか……。何事もなく終わってよかったです」

 

 ヒフミは手元にあったアビドス近辺の地図を閉じ、傍らに控える部下へと視線を向けた。

 

「では風紀委員会のゲヘナ自治区到着を確認した後、マーケットガードは警戒態勢を解除し通常業務に戻してください」

 

「御意。直ちに通達いたします」

 

 部下が恭しく一礼する。

 しかし彼女は顔を上げると、少しだけ不満げな表情を浮かべた。

 

「……ですが、ファウスト様。よろしいのですか? アビドスへ向けた進軍とはいえブラックマーケットにほど近く、それもあの大規模部隊の進軍ともなれば戦争開始を想起させかねません。マーケット側が抗議を送る理由にはなると思われますが……」

 

「……抗議、ですか」

 

 ヒフミは顎に手を添え、思考を巡らせる。

 

 報告によれば今回のゲヘナ風紀委員会の進軍は、行政官である天雨アコの完全な独断専行である可能性が高いらしい。

 

 名目上は『アビドスで活動している便利屋68の確保』ということになっており、他風紀委員にもそう伝えていた。

 だが、先生を監視していた者からの情報によれば真の目的は『シャーレの先生の確保』とのことだ。

 

(連邦生徒会長の後継ともいえる存在である『先生』。ですが、付与された権限が強すぎますからね。他学園の上層部からすれば、突然学園が乗っ取られてもおかしくはない力を持っているわけですし)

 

 ゆえに確保に動くのも無理はない。

 が、その点を考慮してもこの判断は短絡的と言わざるを得ないだろう。

 

 先生の持つ権限は、あくまで連邦生徒会というシステムに由来しているのだ。

 

 ゲヘナという一学園が先生を拉致監禁したところで、超法規的権限を都合よく行使させることなど不可能に近い。

 連邦生徒会長がその事態を予測していないとも考えにくいし、権限がはく奪される条件もあると見ていいだろう。

 

 それこそ、『他学園の介入時』とか。

 

 そしてなにより、他学園や連邦生徒会からのヘイトを買いすぎる。

 

「……いえ、抗議は必要ありません。今回はこちらが過剰に反応してしまっただけのことですから」

 

 そこまで考えたヒフミは静かに首を横に振り、提案を却下した。

 

「万魔殿のトップである羽沼マコト議長からしても、このタイミングでの侵攻に正当性がないことは理解できるはずです。

 それに風紀委員長の空崎ヒナさんはエデン条約肯定派とのこと。不要な火種を生まぬよう、ゲヘナ内の治安維持に意識を向けているはずです。彼女がシャーレの先生をどうこうしようなどと、策を企てる余裕が今あるとは思えません」

 

 つまりヒフミの見解からしても、アコの独断専行だろうという見方が強かった。

 

「それに空崎ヒナさんが直々に動いたということは、迅速に事態の収拾を図ったということでもあります。戦争の意思がないことは把握できたので、こちらから余計な火種を生む必要もありません」

 

「……なるほど、出過ぎた発言でした。申し訳ありません」

 

「大丈夫です。あなたがブラックマーケットを想っての発言であることは理解していますよ」

 

 部下は深く感服した様子で一礼し、足音も立てずに執務室を退出していった。

 

 一人残された執務室でヒフミは大きく伸びをし、紙袋を机に置く。

 

「ふぅ……」

 

 ゲヘナというイレギュラーな嵐は去った。

 これで、カイザー周りの対応に戻れるだろう――。

 

「――あっ、そういえば!!」

 

 ヒフミはふと、机に伏せていた『阿慈谷ヒフミ』のスマートフォンを持ち上げた。

 画面には、シロコから送られてきた『生きてる?』という、たった一言のメッセージが表示されたままである。

 

 ヒフミは長々と堅苦しい文章を書いたまま返信を先延ばしにし、そのまま忘れていたのだ。

 

(うーん、とはいえ思いつきませんね……)

 

 友達への返信に普通の人間はそこまで悩まないと思うが。

 

「先ほどの戦闘のことを書くわけにもいきませんし……あ、そうです!」

 

 シロコは他の面々と比べてもブラックマーケットへの適性が高そうなことを思い出した。

 

 

『大丈夫ですよ!今度また一緒にブラックマーケット回りましょうね!!』

 

 そうして打ち込んだ文字はこれであった。

 

 次の約束を提示できたのはとても素晴らしい。

 

 ですが誘う場所おかしいですよ。

 部下が見ていればそれくらいは言ってくれそうなものだが、あいにく退出した後。

 

 いい返信を思いついた、とニコニコのヒフミはそれ以上何も考えず送信ボタンを押したのだった。

 

「ふふ、お友達と遊ぶなんて久しぶりですね!」

 

 返信が一向に来ない状況に対しアビドスの面々がどう感じていたかなど、ヒフミは欠片も想像していないのである。

 

 

【空崎ヒナ視点】

 

 ゲヘナ学園、風紀委員会本部執務室。

 

 重厚な静寂に包まれた部屋の中には、ただ二つの音だけが響いていた。

 一つは、空崎ヒナが机に積み上げられた膨大な書類の山を横目に、淡々と決裁の判子を押していく乾いた音。

 もう一つは、ヒナの見える場所に机を置かれ、そこで半泣きになりながら反省文を書き殴るアコが持ったペンの音であった。

 

「うぅ……ヒナ委員長……。手が、手がもう限界です……。本当に1000枚も反省文を書かないといけないんですか……?」

 

 涙目で訴えかけてくるアコに対し、ヒナは視線を書類から一切外すことなく冷たく言い放つ。

 

「アコが言ったんでしょ、1000枚書きますって。もっと追加してもいいけど……」

 

「うぐ、それは比喩というか、なんというか……。書きます……」

 

 ジト目を向けられ気圧されたアコは、再び白紙の紙に目を向けるのだった。

 

 その光景を見つつ、ヒナは小さくため息をつく。

 

 アビドスでの一件。

 アコの独断専行による風紀委員会の無断進軍。

 

 エデン条約の調印を間近に控えトリニティとの関係が極度に緊張しているこの時期に、自治区外への大規模な武力展開など正気の沙汰ではない。

 一歩間違えれば、連邦生徒会や他学園からの介入を招きかねないものだった。

 

 まぁゲヘナだしな、と見逃されたのは喜ぶべきか悲しむべきか。

 

 ヒナは何とも言えない気持ちを抱えることになった。

 

「……そういえば」

 

 不意にアコが反省文を書く手を止め、思い出したように口を開いた。

 

「ヒナ委員長は……小鳥遊ホシノさんという方と面識があるような口ぶりでしたが、あれはいったい……?」

 

 ヒナは書類をめくる手を一瞬だけ止め、目を伏せた。

 

「……小鳥遊ホシノは、過去のデータにおける『特記戦力』の一人よ」

 

「特記、戦力……!?」

 

 アコが驚愕に目を見開く。

 それは、各学園に所属する一個人で戦況を変えうる存在の総称である。

 

 空崎ヒナもまたその一人であるために、アコからしても馴染みのある言葉であった。

 

「一年生で名前が上がるほどのエリートだったみたい。でも、それ以降話を聞かなくなったわね。だから情報部も警戒を外したんでしょうけど……。当時見た姿とはだいぶ様子が違ったけれど、あの目の奥に宿る鋭さは消えてなかった」

 

「あ、あののんびりしてた人がですか!?」

 

 アコは信じられないといった様子で声を上げる。

 

「そう。それに加えて、シャーレの先生も指揮についていた。……はっきり言って、あなたたちがあのまま勝てていたかどうかは、微妙なところね」

 

「なっ……そこまでですか!?戦力分析は完璧に行っていたつもりでしたが……」

 

 アコは悔しそうに唇を噛み、己の見積もりの甘さを痛感しているようだった。

 しかし、ヒナが本当に危惧していたのは、アビドスとの戦闘による被害そのものではない。

 

「……ねえ、アコ」

 

 ヒナはペンを置き静かに、諭すような物言いで話しかける。

 

「私がどうやってアコの勝手な進軍を、あんなに早く知ることができたと思う?」

 

「え……?」

 

 アコが間抜けな声を漏らす。

 

 たしかにそれは当然の疑問だった。

 アコはヒナの予定を確認した上で、バレないように注意を払って部隊を動かしたのだ。

 ゲヘナにいた情報部にも口止めをしての運用であったのにまさかアビドス自治区に侵入する前に止められるとは、夢にも思わなかったのである。

 

 ヒナが現場に駆けつけるのがあと数分でも遅れていれば、取り返しのつかない事態になっていた可能性が高い。

 

「……おそらくアコがアビドス方面に向けて部隊を進軍させたあと」

 

 ヒナは、組んだ手の上に顎を乗せ、紫色の瞳でアコを真っ直ぐに射抜いた。

 

「アビドスに隣接するブラックマーケットの治安維持部隊――『マーケットガード』が突如として警戒態勢に移行した、という報告が私の下に届いたの」

 

「ま、マーケットガードが……!?ブラックマーケットの自警団が、なぜ我々の進軍に反応を……?」

 

 事態の大きさを理解しきれていないアコに、ヒナは決定的な事実を突きつけた。

 

「なぜかはわからないけれど、トリニティで流れる『ファウストを騙るトリニティ生』の噂はアビドスから出たものらしいし、砂漠にて軍事行動が報告されてるカイザーのこともある。……アビドスは今、ゲーテとカイザーの板挟み。火薬庫のようなものね」

 

「ファウスト……っ!?」

 

 その名を聞いた瞬間、アコの表情からスッと血の気が引いた。

 

 ファウスト。

 ゲーテの頂点に立ち、ブラックマーケットを束ねる不可侵的存在。

 

「そう。今回の進軍によってもしゲーテになにかしら不利益が出る。もしくはアビドスでの戦闘がゲーテに飛び火していたら……。

 最悪、ゲヘナとブラックマーケットの全面戦争に発展……なんてこともありえた」

 

 ヒナの言葉の重みに、アコはガクガクと震え始めた。

 

「そうなれば、いくらゲヘナでもただじゃ済まない。万魔殿と風紀委員会の兵力を集めても、ゲーテの保有戦力の方が多いのは間違いないのだから」

 

「わ、私……私は、そんなつもりじゃ……!」

 

 自身のやらかした事の重大さに涙を浮かべるアコから視線を外し、ヒナは窓の外、ゲヘナの空を見上げた。

 

 彼女の脳裏には二年前に起きた、ある異常な事件の記録が鮮明に焼き付いている。

 

「……二年前の出来事で、よくわかってるはずよ」

 

 ヒナは、まるで自分自身に言い聞かせるように、低く、重い声で呟いた。

 

「突如現れ、血で血を洗う無法地帯をさらなる力によって統一し、支配下に置いた『ファウスト』。その策謀と容赦のなさを」

 

 ヒナの言葉が、執務室の冷たい空気に溶けて消える。

 アコはもう何も言えず、ただ震えながら反省文に目を落とすことしかできなかった。

 

「……まぁ、幸いゲーテから抗議も来ていないようだし、もう警戒も解かれてるみたいだから。安心して反省文を書くこと」

 

 ヒナは静かに視線を書類に戻し、再び決裁判子を手に取る。

 

(アビドスで一体、何が起きてるのかしらね)

 

 そして砂漠の地を思い、目を伏せるのだった。

 




ちょっと短め。
ここら辺トリニティとかゲヘナとか裏でどう動いてるのか分からん!!

それにあんまりふざけられる場面がなかったの、とても悔しい。

でもここのヒナ視点は原作リスペクト。
ここ逃すとゲヘナとファウスト様が絡む場面しばらく無さそうですし。

てか前に入れた文章だけで繋がり予想されてびっくりしたんだよね!!

あとみんなファウスト様好きすぎない?まだ1位にいてびっくりなんだけど
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