2度目の人生を得た貴族令嬢の私、USSRスキル『赤い書庫』で追放先の辺境から理想の世界を作ります!~前世の職業で色々経験済みなので全く問題ありません~ 作:猫元帥
『人類が作り出した全ての知識で自らの記憶を豊かに満たした時、人は初めて共産主義者になれる。』
――V.I.レーニン
***
11歳の誕生日の次の日の夜。スキル『赤い書庫』を初めて使用したソフィアは、その日からすっかり”夜ふかし”をするようになった。
「……懐かしいわね。でもこれ、少しニュアンスが違う……語彙も……。やっぱりちょっと地下活動で刷ったやつには限度があったのかもね。」
この日もそうであった。
寝具に潜ってシーツを全身に被り、スキルによって目の前に表示される何かの書籍を読む。
ある意味、電子書籍を読むためにタブレットを持って布団に潜り込む21世紀の少年少女とほぼ変わらないのだが、彼女としてはむしろ昔を懐かしんでいたようだ。
「……あー、ここうろ覚えになってたわね、イリイチの言ってたことと記述がちょっとズレてると思ってたらそういうことか。」
このように彼女は、穴が開くほど読み込んだのも多いその中身を、まるでかつての人生を生きた証のように毎日毎晩読みふけっていたのだ。
今夜もまた、そうである。
(……足音。そろそろ眠るべきね。腹の立つことだけど今の私の身体は子供なんだから無茶できないわ。きちんと成長して健康な肉体を得ないと話にならない。幸いにして、支配階級だからこんな時代でも栄養状態は偏りさえ避ければ健全にできるわ。)
実際、彼女は意識して日々の生活の中で運動の強度を強くしてみたり、栄養のバランスを可能な限りとろうと四苦八苦しているのだが、まだまだ数ヶ月程度かつ不自然にならない範囲なので結果は出ていない。
とはいえ元々”シャルロッテ”は健康体の少女なので、積み重ねていけばいい。少なくともソフィアはそう割り切っていた。
(各種耐性とやらのスキルが、常人よりは確実に改善させる可能性があるとは言え、どこまで効果があるのかも不明な以上、この公衆衛生も近代医学もない世界じゃ自分の身体が「死なない」ためには必須よ。)
「ホントに、なんで50年も生きて”よく食べよく眠る”なんてやらないといけないのよ。……自分を育児するってバカバカしいわね。」
そうつぶやくと、彼女はスキル画面を閉じ、その日の夜も眠りについた。
こうして、彼女はその年も、ひたすら自己訓練に費やした。もちろんシャルロッテ・ディ・ミルネージュという人間の日常の裏で。
知識を吸収し、世界を観察し、肉体を育成し、数十年生きた大人が子どもとして凄まじいまでの自己規律と計画性を持って、自分をいじくり回すという、珍妙な状況でありながら。
1年が少し地球より長いこの世界。しかし春、夏、秋、冬と流れていくのは少なくともクリヴィア王国のある大陸では変わらない。
なので時間は日々流れていく。
王都のあるクリヴィア北部は、夏は比較的涼しく、冬は温暖。典型的な暖流と偏西風の作る気候である。ただ内陸故に大陸性の気候的特徴も出るのだが、この点はその”内陸部”である王都かミルネージュ伯爵領のほぼどっちかでしか過ごしていない彼女には”沿岸部”のデータがないのでなんとも言えなかったのだが。
ただ大筋ではソフィアの推測通り、まさしくフランスやベネルクスのような気候であったのだ。
12歳の誕生日が過ぎて一週間。ソフィアはこうして2年弱の観察を終えて気候に関する結論を「この大陸はヨーロッパに似ている」と最後に示して終えた。
羊皮紙、布、紙のくず、などなど筆記をするものすら貴重品のこの時代において、定期的に盗み……ソフィアに言わせれば
今日この日も整理を終えて、中庭の木のうろの中にそれらを入れた。”宝箱”と周囲には子どものよくある収集癖のように誤魔化して保管しているが、口八丁手八丁でどうにかメイドたちに「お父様やお母様には内緒にして」と度々念押しをするのは非常に疲れるものだった。
ただこの日の夜、彼女はこっそりと細工した自室の窓から飛び出してそれらの一部を回収し、隠し持ってベッドの中に持ち込んでいた。宴会の規模が大きいことを予期してそれに屋敷の人間の注意がそれるという見込みで実行したが案の定成功だった。
覚醒から2年ほど。ソフィアは、言語の習得に関する当面の目標がここだったのもあって、再び総括をすることにしたのだ。
スキル画面を開く。光源としての熱がないのに微妙に光を放つことを利用して彼女は最近懐中電灯のように使い出した。今夜もベッドでシーツを被っているので、暗さを誤魔化すのだ。
(さて、本日までの”党活動”を総括しましょう。第6回『クリヴィア共産党』全国党協議会を開会します。S.A.レーベン同志、発言を。)
ソフィアにとって、党は今のところこの世界に一人しかいないのも、そのせいで現状コレはほぼ”ごっこ遊び”みたいなことをやっていることも十分分かっている。
分かっているが、こう思うと楽だったし、何かモチベーションが変わった気がするようだ。それっぽい形式を演じている。
(本日の議題。この星、この国の社会における既存の知識学習のこれまでの成果について。)
かき集めて書きこんだメモを取り出し始めた。
(クリヴィア語。日常会話では支障はほぼなくなった。少なくとも、”翻訳現象”に頼らなくてもだいぶ使えてきている。読み書きも問題なし。”大人”同士の会話もかなりの精度で聞き取れるようになった。)
聴力を鍛えるべきか、と一時思っていた時期もあったが、やがてすぐに無駄を悟り語彙学習に切り替えたのも、ソフィアにとっては貴重な試行錯誤だ。
(それに、地球とここの語彙の差を埋めるのは後回しで問題ない。そもそも、所詮はアンシャン・レジームの言語よ。)
このように、ソフィアが若干俗な表現をすれば、”ナメている”のも無理はない。
この世界は、クリヴィアは、「近代」が始まっていない。――つまり統一国家の共通語たる「標準クリヴィア語」が存在しない。
もちろん現在進行形でそれが形成過程にあること、政治的意志により少しずつできつつあるということも明確な事実だ。だが、ソフィアにとっては、今学んでいる言葉が結局のところ”貴族階級の使う古典クリヴィア語”でしかないのだから、重要なことではない。
まだ彼女はこの国について、王都ウル=ソールと今世の実家ミルネージュ伯爵家の領地程度しか足を運んではいない。
それでも歴史の知識がある。そこから見て、「今のこの国の全土で、統一されたクリヴィア語を、どんな地域のどんな階層の人間も使っている」などとは欠片も思っていなかったのだ。
(……地球にあってクリヴィアにはない語彙も、もちろん逆も当然ある。そこを輸出入する作業はいつか私がやらないといけないけど、かなり遠そうね……。それに普及の実効性もあるのかどうか。)
ソフィアはそう思うとため息を付いた。
国家言語の普及とは、政治的意志と不可分だ。近代国家を形成したい。民族覚醒を起こしたい。動機は様々でも、結局のところペンの力と権力のどっちかが必須なのだ。
しかし、今のソフィアにはどっちもないのが現状である。
(まあ、一旦棚上げにしましょう。とりあえず、成人レベルの習得が言語についての当面の目標であって、それは概ね達成された。これからの段階では、政治、経済など専門的な語彙のより多くの取得に注力することに移りましょう。それを通して”何がないか”も見えてくるはずよ。……それに、標準クリヴィア語作りにも。)
こう総括して切り替えると思考を他に回す。
(次に文明の把握について。地理や歴史も、少なくとも観察の結果や学習によって一般社会の常識レベルは身についたはず。あとで適切に”翻訳”する必要はあるけど。そもそも大した精度もないわ。)
(それに、私はこの世界の歴史学や考古学をやりたいわけじゃない。重要なのは社会を分析するため、発展段階を類推するための仮定を作ること、ただこの作業も長くはなりそうだから今は保留……。)
(問題は、接続できる知識の限界よ。気候はある程度は観察できる。地理は習った範囲では分かる。でも、正直たかが知れているわ。)
そう、ソフィアはこの分野などは特に壁にぶち当たっていた。まず身も蓋も無いことを言うと、このような分野は”跡継ぎを生むこと”や”妻・母として相応しい淑女たること”を第一に期待される貴族の女子にそこまで大した教育もされない。
それに地図の精度なども、軍事の最先端でようやく地球で言うところの「近代」のそれに向けた第一歩が踏み出したかどうかが、このあたりの時代である。
ソフィアにとっては、地図で遠洋にあたる場所に”海の大魔獣”だの”海神の使徒”なるものが描かれてあったり、明らかにクリヴィアや近隣諸国より遠方になると大陸の輪郭だけで精度が下がっているのがよく分かる一般的な地図など、正直参考材料以上にも以下にもならないのだ。
概ね既存知識の学習は順調とは言え、その進展とは対称的に、結論が保留ばかりとはソフィアにとっても自虐したい気分だ。
一方で、ソフィアは「ここは地球ではない」という前提を置いた以上、こうなることは流石に仕方がないことなのだと割り切るしかなかった。
(落ち着きなさいソフィア。私は科学と理性を信じている。科学的社会主義者として、共産主義者として、唯物論者として、下部構造の更に下にあるものすら地球ではないのなら、その不明さに対しては慎重になるべきよ。何ら恥じることはないわ。むしろ、今は分からない、となるだけ話が早いのよ。)
なにせ、探究だけで一生が終わりかねないが、一方でこのまま座して数年もすれば結婚が確定し、それを行う自由すら失うからだ。
「今は我慢、本格的に自由を得たら”過去”については調べればいい」と、ソフィアは比喩ではなく本当に深呼吸をして落ち着けさせた。
(次い、自然科学について。これは結局自然という世界の”現在”の話であるから避けては通れないわ。まず、半年ほど前に本格化した算術の学習や、時計や暦まわりの観察の結果として、ほとんど地球と数学の体系は変わらないとは分かった。本当にすごい幸運、これはかなり大きいわ。)
精度については留保が必要とはいえ、父親が算術に興味が湧いたらしい末娘に貴重品の機械式時計を自慢気に見せてきた時、その末娘つまりソフィアは本当に心から喜んだものだ。
一日が一秒に至るまでの分割法が、その一秒が本当に絶対時間において地球のそれと同一とは限らないとは言え、地球と全く同一だったのがすぐに分かったからである。その日、ソフィアは一日中目の前の時計のことばかり気にしていた。
(……そうなった原因は結局、人間の身体構造や自然環境が今のところほぼ地球と変わらないせいかしら?こんな感じで当たりはつく。)
(けど、でも”月が二つある”ことによって、数学から派生する物理学や天文学に関しては、地球とは違う発達、違う進展になりそうなのに関しては留意が必要。ただし私の現在の公的な環境と状況においてはそこへ繋がるのは難しいので保留。)
ここでソフィアは薄々自覚してきたことに直面することになる。
(ただ問題は、この時期の宗教活動に毛が生えた自然科学だろうと、これを掘り下げていく上で私が絶対に考えないといけないことはある。)
(つまり、この惑星の元素は地球のそれと同じと言い切れるのか?2つの月や星々はどう動くのか?重力や大気圧は、感覚上違和感はないけど、地球と同じでいいのか?この国や大陸の各地域は、果たしてどういう気候帯に分類できて、どういう地域的な分類ができるか?……とりあえずこのくらいね。)
(『占星術師見習い』と認識されているおかげで、観察や実験を本格的にやってもある程度は誤魔化せるかしら。いずれにしろ、やらない手はないわ。)
同時に先程のように「考えないといけないこと」のために指折り数え終わると、これまで薄々避けていたものも頭によぎった。
(それに地球になかったもの、つまり”魔力”とされるあのエネルギーの正体や、”魔法”と呼ばれる不可思議な現象の原理、これらの科学的説明も含めないといけない。けど、こっちは本当にお手上げに近い。……ああもう、めんどくさい!おまけにこれは保留とはいかなさそうね……。)
様々な分野の整理を終えて、もちろん枕の中にメモ類を片付けると、ソフィアは次の段階の目標と行動に思索を移していく。
(現在、私は12歳。イザベル・ディ・ミルネージュ、つまり今回の人生の二人目の姉は去年14歳で結婚し、一人目の姉マルグリットも聞き取りの結果15歳で結婚していることが分かった。母親も結婚時14歳。つまりいわゆる”適齢期”まであと2~3年ってとこね。)
(気が重いけど、要するにこの「適齢期開始」の瞬間までにシャルロッテの結婚を今すぐやらせたくはない、あるいは誰も引き取らないを実現しないといけない。タイムリミットは確実に近づいている。)
生前ですら恋愛も結婚もせず革命一筋だったソフィアにとって、絶対にこの世界での結婚は回避したいものだった。
ロシア・インテリゲンツィアの亡命者サークルやらレーニン期ソ連という、キリスト教的保守性からはだいぶかけ離れた性文化にどっぷりと浸かり、かつスターリン以前のマルクス主義者のソフィアにとって「貞操」などという概念は旧時代の上部構造、女性を束縛する不合理な家父長制の産物だ。
だがそれはそれとして、彼女は自分の意志以外で肉体と精神を他者に委ねるなど、しかも貴族の夫人などという、彼女に言わせたら”繁殖の道具”になるなどまっぴらごめんだったのだ。
故に期間の切迫には少し気分が重くなる。
(幸いにして、これまでの積み上げの結果、”遊び盛りが”知りたがり”になったと解釈している。この延長線上で、やがて思春期の結果として”学者のような女”に見えるようになれば、だいぶ市場価値は落ちる。)
もちろん自分も思春期の肉体変化の結果で”引っ張られる”かもしれないと警戒はするが、それはそれとして演技が半分演技でなくなるのは歓迎だった。
(一方で家政や領地経営など、伯爵家の役に立つという価値を示せれば、「別の使い道」惜しさで今すぐ手放すこともできなくなるようになるはず。少なくとも、シャルロッテを溺愛する一方で、当主は確実に優秀な方の人間であるから、それくらいの計算はできるはずよ。)
ボリシェヴィキへ身を投じ革命家になった、つまる生まれた階級を裏切り労働者階級の”
だが今世の父ロベールも、前世の父アレクサンダーも、「貴族」としては優秀かつ時代の嗅覚に鋭い人間だった。少なくともこの結論をソフィアは確実に意識から逸らしたことはなかった。
前者は絶対王政化の進むこのクリヴィア王国の情勢を鑑みて法服貴族化、中央にある領地や財産それに歴史の長い帯剣貴族の家柄を活かして王の側近へと至った。
後者は末期ロシア帝国を導いた名宰相セルゲイ・ヴィッテの進めた工業化に乗じ、元々バルト貴族の中でも初期資本家的だったローゼンブルク男爵家を”土地”という旧い資本から脱却させ、ついには産業と金融の両輪でひた走る大資本家へと転身。やがて
アレクサンダー氏に関しては最も溺愛した末娘が、過激派社会主義政党に属する革命家になったので野望はご破算になり、最終的に彼女の属する政党が旧秩序自体をひっくり返したせいで命からがら亡命を強いられたというのが結末だが。
それぞれ、彼らの思考の枠内では、”革新的”であるのだ。それを踏まえてソフィアは、今世の父ロベールの優秀さや嗅覚の鋭さを担保に、今すぐの結婚より実家に囲い込む方がリターンがあるようにすることを目指すことにした。
もちろんこんなものは数年も使えないのは彼女も分かりきっている。なので一時しのぎだが、それでも身体が完全に大人の肉体になるまでの数年を稼げるのは非常に貴重な機会だ。
(当面やることは、学習だと先に挙げたものになるけど、やはり自然科学に関しては既存知識の枠外を実験や観察などで補う必要がある。同時にこれらは”学者みたいな女”の見せかけ、欺瞞工作にも使えるわ。職業や加護の延長線上で、「お嬢様がすっかり妙なことばかりするようになって……」なんて言わせられたら大きいわね。)
(よし、今日の会合は終わり。まずは睡眠。起きたらこれら資料の隠蔽をして、とりあえず寝ましょう。……閉会!)
そうしてスキル画面を閉じた彼女は、またしても睡魔に身を委ねた。わざわざ深夜まで起きていたので、解放感すら感じたのだ。子どもの肉体のせいかもしれない。
翌日、ソフィアはおやつとして菓子を多めに食べると、午後の自由時間で無理を言って屋敷の外に遊びに行っていた。もちろん遊びは口実だが、隠れんぼは実に一人の時間を作りやすかった。
(せっかく観察や実験などで掘り下げるなら、天体や自然の観察もそうだけど、結構根幹の検証もやったほうがいいわね。化学より物理学が良いかしら、まあ私は本職じゃないけど。)
大木の陰に隠れていた彼女であったが、ふとそこら辺に落ちていた果実を上へ投げた。もちろん自由落下する。
(……りんごは木から落ちる。それはこの星でも変わらない。少なくとも重力は存在し、なおかつ地球と一見大差ないように見える。)
問題は、それが具体的にどうなっているのか?であった。
(相対性理論とかじゃない、今の私に必要なのはニュートン力学。そうすれば天体観察の強力な補助輪にもなるし、一石二鳥ね。時間はとりあえずあの時計を基準に1秒を補正すればいいかしら。)
こう思って果実を遠くの茂みに放り投げようとした瞬間。ソフィアはあることに気づいた。
(……あっ。ここは”地球じゃない”!何を考えているのよ私は!!!)
分割法が一緒だったせいで見落としていたのだろうか、彼女は”1秒”が「”地球”の自転周期を86400等分したもの」という定義であることに今気づき直したのである。
もちろん21世紀人にとっては厳密には違う定義なのだが、第二次世界大戦すら知らずにルビャンカで死んだ彼女にとっては、単位系基準の厳密化など知る由もなかったのでまだそこで止まっている。
しかし重要なのは、ソフィアはこの異世界を「地球ではない星」と解釈していることだ。だからこそ彼女は「この惑星の自転周期を86400等分したもの」がイコールで地球の1秒にならない可能性が大きいと悟ったのである。
(1秒が違うのよ!そう、地球が基準のあらゆる単位が違うじゃない!バカ、バカ、バカ!犯罪的なミスよ!)
ソフィアは深呼吸をして自身を落ち着けさせようと試みる。だいぶ時間がかかったができたようだ。
ここで、閃きが舞い降りた。
(いや、むしろ絶対値を合わせる必要なんてどこにもないわ。この星を基準にした単位系を作ればいいじゃない!)
(この星……「
(つまり、まず必要なのは”長さ”!これは確か「1秒」があればいい!ここから”重さ”やらに発展できるわ!)
「よし、テラ・ノヴァメートルを作るわよ!」
と口に出るほど意気込んだので合わせて立ち上がってしまった。
「あ、お嬢様!見つけましたよ!今度はお嬢様の番ですからね!」
こうして迂闊な行為で隠れんぼに負けたソフィアは、”秒数”を数えながら、明日からの「メートルづくり」の計画を立てていた。
次の日から、ソフィアは中庭での遊びの時間を使って早速”実験”の第一号、ノヴァ・テラメートルを作り始めていた。もちろん試行錯誤の連続であったが。
分割法が一緒だったのを活用して、テラ・ノヴァの自転周期を86400分の1にしたのがノヴァ・テラ秒、このノヴァ・テラ秒で「2秒」で往復する振り子の長さが1ノヴァ・テラメートルとするのだ。
かつては地球で1メートルの長さの定義の候補にもなった物理学の定理を使う試みだったが、当然一筋縄では行かなかった。
まず機械式時計、自身の心臓の鼓動、1日の長さを簡易的な日時計を使って確認。そこから、なるべく厳密な「1秒」をひねり出す。
これに相当な時間がかかった。
次に、「2秒」往復する長さの振り子を作ること。何回も、何十回も、何百回も数えて数えて数えて、糸を調節し続けた。
そしてでき始めたら今度は誤差を踏まえてその振り子を作れる糸を何度も何度も作った。
一週間、一ヶ月、三か月、半年近く経ってとうとう彼女は「1ノヴァ・テラメートル」を作り上げたのである。木片に刻みつけ、”宝箱”に放り込んだ。
ソフィアはついに、プロジェクトを達成したのである。
おまけに、「お嬢様が最近妙なことをしている」という評判が、親にも届くという副産物まで得て。