堕天使になったので魔界行ったりなんやかんやします 作:Revak
「まったく、本当にルシフェルを仲間にするとはの」
村の中から代表らしき幼女の悪魔が出て来た。
悪魔は容姿は千差万別だ。老人の姿で十歳程度の奴も居れば子供の姿で千歳超える者も居る。
ルシフェルより幼い容姿、十二歳程度の姿の幼女だ。
金髪碧眼の幼女であり黒く小さい牛の角が頭に二本生えている。
可愛らしい幼女服を着ており様になっている。
こんななりだが魔界創世の時代から生きている最古参の悪魔の一人である。
「おう、言ったとおりになったろ」
そうバァル・ゼブルは幼女の悪魔──ブーフにニッと笑みを見せた。
「何、そいつ。お前の親?」
「なんじゃルシフェル、おぬしワシの事を忘れたか」
「お前のような雑魚の事なんていちいち覚えてるわけないだろ」
ルシフェルはそう見下しながら言った。
実際一切覚えてない相手だ。
「じゃあ自己紹介じゃ。ワシはブーフ。この村の長をしている」
「ふぅん。する必要ないだろうけど、僕ルシフェル。よろしく」
「うむ。よろしく。で、じゃ。バァルよ。既に次の計画は考えておるんじゃろう?」
ブーフのその言葉にバァル・ゼブルは笑みを見せた。
「ああ。次は──アインベルを仲間にする!」
そう強く宣言した。
「アインベルを? お前の力でそれ出来るの?」
ルシフェルは怪訝な顔で問いかけた。
アインベルは強い。レベル八十という単独で地上から生物を絶滅の危機に追いやれる程の強さを持つ。
更には
「ああ。そのためにヘルを襲撃する。ルシフェルには陽動を頼みたい」
「ふぅん。お前は何するの?」
「城に忍び込んで、アインベルと一騎打ちしてくる」
「……相手は領主だ。僕と同じ賭けが通じるとは思えないけど」
「いいや、通じるさ」
バァル・ゼブルは良い笑顔で言った。
「その根拠は?」
ルシフェルが胡散臭そうに問いかけた。
「内緒だ」
「……あっそ。じゃあ陽動の襲撃の計画教えてよ」
ルシフェルは気にするだけ無駄かと思い詳しく聞くのを辞めた。
「まずはブーフたちに襲撃してもらう。最初からルシフェルが出るとアインベルが出てくるからな。大したことない雑兵だと思わせるんだ。
最初の内は襲撃はしても生き延びるの優先、時間を稼いで欲しい。その間に俺が城に忍び込む。
そう自信満々にバァル・ゼブルは言った。
「いいよ、それでやってやろうじゃん」
ルシフェルはなんてことないかのように言い、ブーフも仕方がないな、という風に了承した。
■
バァル・ゼブルには幼いころからの夢がある。
それはこの魔界を統一するという到底不可能な夢だ。
誰も本気で魔界を統一しようなんて考えたことがこの魔界ではない。
せいぜいが領地を増やそうと画策したり気に入らないやつぶち殺そうとするやつらぐらいしかいない。
魔界史上初の魔界を統一しようという悪魔がバァル・ゼブルだ。
それには理由がある。
幼いころ、バァル・ゼブルは己が住んでいた村をある悪魔に襲撃された。
それはルシフェルではないが、それでも強力な悪魔だった。
その悪魔に村は襲撃され──ほとんどの村民は蘇らず死んだままとなった。
疲れたのだ。生きることに。
この魔界は弱肉強食。強者こそが正義であり、弱者はただ甚振られ搾取されるだけの存在だ。
バァル・ゼブルの両親もまた死に蘇ることはなかった。
どれだけ懸命に生きようとしても。他者に迷惑をかけず隠れて暮らそうとしてもルシフェルのような気まぐれな悪魔によって襲われ死ぬのは珍しくない。
だからこそ何度蘇っても殺されるだけの悪魔生に絶望し完全な死を望んだのだ。
バァル・ゼブルは両親の墓を作った後、決意した。
弱者が弱者のまま生きられる世界を作る、と。
この魔界では強者こそが絶対正義。その価値観を変えてやる。
ただ生きたいだけの者が、生きていられる世界へ変えよう。
そうバァル・ゼブルは決意したのだ。
■
(よーし、気づいてないな……)
バァル・ゼブルは一人ヘルの城、クリスタルパレスに潜入していた。
第三環魔法の
しかし
バァル・ゼブルが使える魔法は第三環魔法が限界でこれより上の隠密魔法を習得していないので苦肉の策としての透明化だ。
透明化しつつ隠密状態で進んでいく。
城の兵士の殆どは外に出たブーフたちの対処に回っている。
ブーフ自身のレベルは四十で指揮官系のクラス構成をしている。
指揮官とは指揮する者で指揮下の対象の能力強化を主に行う能力を持っている。
最大でレベルプラス五分のステータス上昇に加え指揮下限定で使える
ブーフは指揮官としてはそこまで能力が高くないので五レベル分のステータス上昇には至らないがそれでも雑兵を精鋭に変えれる力を持つ。
ルシフェルを覗いたブーフの村の戦力は百二十人。
城攻めには到底足りない戦力だがブーフの指揮があれば一時間程度は持たせられるだろう。
ブーフ指揮下の悪魔ははっきり言って弱い。だからこそ、こんな雑兵相手に上司を呼べるかという思いが生まれ時間を稼げるようになる。
バァル・ゼブルは一人慎重に城を進んでいく。
道中何度か見つかりそうになり、何人か悪魔を殺しつつ最奥の玉座の間に辿り着く。
玉座の大きな──十メートルを超える扉を開いて中に入る。
そこは玉座の間だ。
黒い部屋には灯り一つない。
だが悪魔は種族的能力で暗視を持つため昼間のように見通せる。
奥には黒い水晶で出来た玉座がある。
そして玉座に座るのは巨大な悪魔。
黒い二足の獣の姿をしている。獣の黒い毛が全身に生えており人とゴリラを悪夢のようにくっつけた姿だ。
五メートルほどの巨体であり、顔は骨で出来た蚊のようなモノだ。
腹には牙が生えた口が付いている。
この悪魔こそがアインベル、ヘルの領主にして魔公の一人だ。
「鼠が入って来たな」
そうアインベルは呟きつつ、部屋に入ってきたバァル・ゼブルを睨んだ。
視線が合っている。確実にバァル・ゼブルを視認していた。
入ってきたことを知るのは左程難しくない。何せ堂々と扉を開けているのだから誰か入ったことなど馬鹿でもわかる。
バァル・ゼブルは自分が見られているのを知ると不可視化を解除した。
「まだ百年も生きてねぇ餓鬼だな……外の襲撃はてめぇが起こしたのか? ……いや誰かに命じられた方か」
「いや、俺が指示を出して襲撃してもらった」
「……お前のような餓鬼が? まぁいい、殺せば済む話だ」
そう言いながらアインベルは玉座から降りる。
「賭けをしないか、アインベル」
バァル・ゼブルはニヤリと笑みを見せながら話しかけた。
「賭けだぁ? てめぇのような雑魚悪魔と何をかけるってんだ」
「俺があんたに一撃入れられるかどうか、だ」
「んなもん賭けるまでもねぇ。俺がてめぇに一撃入れてぶち殺してしめぇだ」
「だからこそギャンブルになる。あんたが俺に勝ったら、あんたを殺させないでやるよ」
「……ずいぶんと上から目線の台詞だ──」
そこでアインベルは疑問に思った。
殺させないでやる、つまり自分が殺すとは言っていない。
つまりは第三者の自分を殺しうる何かを連れていると暗示してきた。
それが魔公か何かはわからないが。
「いやまて。殺させないでやる? 俺を殺しうる誰かを連れてんのか?」
「あぁ。俺はルシフェルを仲間にしている。俺に何かあれば、即座にここを襲撃しに来る」
「ルシフェルだと……?!」
アインベルはルシフェルに対し苦い思い出がある。
百年間ルシフェルを護衛として仲間に引き入れたは良い物のきっかり百年後にルシフェルはアインベルを殺し、ヘルをぐちゃぐちゃにしていったのだ。
そしてルシフェルは現状魔界最強に近い悪魔だ。
「どうやって奴を……いや。奴はあれで案外気まぐれだ。一時手にするだけならば出来るか」
だが厄介だ、とアインベルは舌打ちをした。
これで下手に殺せばヘルが無茶苦茶になるだけではなく自身も死ぬ可能性が高い。
つまりはこの餓鬼の言う事を大人しく聞かなければならないという訳だ。
「……その賭けの内容はなんだ」
「俺とあんたの一騎打ちだ。あんたは俺を好きに攻撃していい。だが俺はあんたに一撃入れる。一撃入れたら──俺の仲間になってくれ」
その言葉にアインベルは「はぁ?」と間抜けな声を漏らした。
「仲間、だぁ? 部下になれじゃなく?」
「あぁ。仲間だ。魔界を統一するための
魔界統一、という言葉にアインベルは声を大にして笑った。
「ハハハハハハ! 魔界を統一?! てめぇのような餓鬼が、夢は眠るときだけ見るもんだぜ! 出来る訳ねぇだろ!」
「いいや、出来るさ。そしてあんたは
その言葉にアインベルはぴたりと笑い声を止めた。
バァル・ゼブルの指摘は当たっていた。
アインベルはかつて魔界のすべてを支配しようとしていた。
ルシフェルという超級の戦力を手にした彼は己以外の魔公を全てぶち殺し排除し、魔界のすべてを支配せんと企んだのだ。
だがそれは早々に失敗に終わった。
アインベルは魔公ではあるが最強ではないし、そもそも魔公というのも広大な領地を持つ悪魔に対する称号でしかなく、野良の魔公と同クラスの悪魔だっているのだ。
有名どころではギガントマキアなどだろう。
更にはルシフェルの機嫌も損ねた。
客将としていいように使われ言われるがままに襲撃し続けるだけの日々に苛ついたのだ。
アインベルの考えでは魔界を統一するという事は自身の陣営以外のすべてを敵に回し、なおかつそれでも勝ち残る事。
それをするにはルシフェルという超級の戦力は必須であり、そこに意識を回し損ねたのだ。
だからこそルシフェルは契約期間が終わると同時に暴れアインベルを殺し去ったのだ。
「…………そうだとして、てめぇに何の関係がある」
「なぁ、見たくないか? すべての悪魔がたった一人の王の元統一され、繁栄する魔界を。不在の魔神を打倒し、真に魔界を支配する光景を!」
魔界には魔神サタンが居る。だがサタンは基本魔界に干渉しない。
何があっても基本動かずこの一万と数年千沈黙を保っている。
悪魔にはわからない何かがあるのだろうと悪魔たちは勝手に思いサタンを無視し暴れているが。
「──それをするのは俺だ。てめぇのような餓鬼じゃねぇ」
「餓鬼だろうが大人だろうが、誰だってチャンスは平等に訪れる。掴めるかは別としてな」
アインベルはバァル・ゼブルの言葉で結構苛ついて来ていた。
きらきらと輝く目──目は閉じられているので見えないが──と声で理想を語るバァル・ゼブルが過去の自分と重なりむかついてしょうがない。
だからこそアインベルはバァル・ゼブルの賭けに乗ることに決めた。
相手の思惑に乗り、そのうえで力で叩き潰す。そう決めたのだ。
「いいぜ。賭けに乗ってやるよ。ただし──俺に殺されなければな!」
アインベルはそう叫び突撃した。
あえて動作を遅らせる。じわじわと嬲り殺しにするのだ。
「
バァル・ゼブルは炎の魔法を唱えた。
火球がアインベルに向かって飛んで行き──当たる寸前波紋と共に魔法が吸収され消えた。
アインベルのクラスの一つ、アブソープションだ。このクラスは物理と魔法のどちらかを選択し一定値まで吸収できる。
TRPGで言う装甲のようなもので一定値を超えた攻撃でも吸収し軽減出来る。
魔法の場合は吸収し己の魔力に還元できる。この吸収は限界を超えて貯蓄することが可能だ。
「死ねやゴラァ!」
アインベルがチンピラのように叫びつつ殴り掛かった。
バァル・ゼブルは魔法を唱え回避する。
「
バァル・ゼブルは己で魔法を唱え転移する。
後ろに転移しアインベルの拳を避けた。
動作は遅くとも威力は変わらない。アインベルの拳が頑丈なはずの城の床を破壊し、拳上の後を残した。
その後もアインベルはバァル・ゼブルを叩き潰さんと拳を何度も振るう。
その度にバァル・ゼブルは回避に全集中する。
時には転移魔法で。あるいは<回避>の
二度ほど拳がかすりダメージを受けるもどうにか立って戦う。
「なんだ、逃げるだけか?! 大言壮語も大概にしな!」
アインベルはそう叫び拳を放つ──と見せかけ蹴りを放った。
バァル・ゼブルに命中しくの字になって吹き飛んで行く。
玉座の間の壁にぶつかることでようやく止まるも骨が何本か折れた。背骨は折れてはいないだろう。
「はは、虫のように吹き飛んだな! それがてめぇの限界だ!」
アインベルがハハハハ! と笑う。
バァル・ゼブルはそれでも立ち上がり、立ち向かった。
バァル・ゼブルは走る。遠距離からの魔法は意味がない。だから走る。
アインベルは近づいたところを殴り殺そうと構える。
そしてある程度近づき──
「?!」
突然の高速移動にアインベルは一瞬呆気にとられる。
だが歴戦の悪魔だ。すぐに防御に移ろうとし──自身が攻撃を受けたら負けだと思い出し回避する。
巨体とは思えぬスピードでバックジャンプしバァル・ゼブルの攻撃を回避する。バァル・ゼブルの王酌による攻撃は空振りした。
バァル・ゼブルは体勢を直し着地する。
着地時の硬直をアインベルは見逃さない。
「止めだァ!」
そう叫び殴り掛かり──城が揺れた。
何か巨大な物がぶつかったかのように城が横に揺れたのだ。
思わぬ事態にアインベルは足を滑らせ転んだ。
その隙をバァル・ゼブルも見逃さない。
王酌で倒れたアインベルの顔を思いっきり叩きつけた。
レベル差でダメージは殆ど通らなかった。それでも、賭けに勝ったのだ。