わたしもいっしょに、いく 作:学マスオタク
宣言通り週明けの俺たちは学園を出て、電車に揺られ、あてもなくただ遠くへ向かっていた。
正直行き先など、どこでもよかった。山でも森でも、古ぼけた人のいないホテルでも。
命の置き場にちょうど良い場所を、俺たちは探し回った。
平日の初星学園から俺たちの姿が消えたことは、すぐに気づかれる。携帯には数えきれないほどの着信、メッセージの通知が届いていた。どうでも良かったので、全て無視した。
駅名の漢字も読めないような土地で、俺たちは電車を降りた。篠澤さんが、駅名の看板をちらりと一瞥する。彼女にはここがどこだかはっきり分かるんだろうなと思うと、なんとなく寂しく感じた。
このままとにかく、どこか人のいないところへ行くことだけを目的に、あたりを歩く。
散歩している犬とすれ違った。篠澤さんはこちらを見上げる犬に対して、ニコニコと手を振っていた。
こんにちは、と、すれ違った老夫婦に話しかけられた。篠澤さんは丁寧にお辞儀を返した。綺麗な方ね、なんて褒められて、少し照れくさそうに笑っている。
道端で、綺麗な花を見つけた。篠澤さんはしゃがみ込んで、焼き付けるようにじっと花を見つめて、微笑んだ。
「たくさん歩いたから、疲れちゃった、ね」
どうせ最後だ。そう思った俺は、篠澤さんのプロデュース費用を使って、このあたりで有名らしい高級弁当を買った。
人のいない田舎のバス停でベンチに座り、俺たちは食事を摂る。
「これ、美味しい、ね。プロデューサー」
「そうですね。とても美味しいです」
弁当を食べ終えて、空になった箱を近くのゴミ箱に捨てた。
バスが来た。運賃を支払って、俺の隣に篠澤さんが座る。他の乗客は、誰もいなかった。
篠澤さんは、窓の向こうの景色にかじりついていた。俺も、窓の向こうに視線を向けた。
走馬灯のように流れていく、森。そして、山。
「山。綺麗だ、ね」
「初星学園では見られない景色ですね」
これから俺たちは、死のうとしている。
それなのに篠澤さんは、なぜだかずっと楽しそうにしていた。
先日までの無感情な顔は鳴りを顰め、終始にこにこと笑いながら、目に入るもの一つ一つを楽しんでいる。
シチュエーションと不釣り合いすぎるその様子に、本当にこれから起きることを理解しているのかとすら思った。
「篠澤さん」
「なに? プロデューサー」
「本当に死ぬ気、あるんですか?」
つい、そう聞いてしまった。
今まであえて直接的な言及を避けてきたその言葉を、あえて口にする。
それで篠澤さんが思いとどまってくれればと、そう思いながら。
「あるよ」
答えは、驚くほどの即答だった。
「でも今は、あなたと一緒だから」
そう言って、篠澤さんはまた笑った。
その瞳を、まっすぐ見ることができなかった。
結局俺たちが選んだのは、地名も初めて聞いたような街の海沿いだった。
崖から見る景色は一面海一色。降り注ぐ夕日の光を反射してキラキラと光るその景色は痛いほど眩しくて、これから俺たちが何をしようとしているのかなんて何も知らないその海が、優しく歓迎してくれているように錯覚した。
知らない街の海を選んだ理由はない。
ただ、名前を持っているはずなのに誰にも知られていないその場所が、負けた俺たちには相応しい気がした。
こういう時、どうやって切り出すものなんだろうか。篠澤さんをできるだけ苦しませないためには、どうするべきなんだろうか。
なんとなく行き場を失った思考を繰り返しているうちに、少しずつ陽が沈む。
やがて、周囲は夜の闇に包まれた。
轟く波の音と夜の静けさに、どことなく高揚感を覚える。
海にはたくさんの生命がいるはずなのに、その黒い水面からは何の気配も感じない。
その場所と高揚感はまるで、ライブ前の舞台袖にいる時のようだった。ただ違うのは、ライブ前に感じる熱が今は、とても冷たいものとして届くということ。
本番前いつもそうするように、俺は無言で瞼を閉じた。