【完結】ダイバーシティ・ストア   作:haku728

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ビバ・ダイバーシティ・マネジメント

「これって虐待ですよね!」

 

若林くんの目は血走り、激しく眉間に皺を寄せている。

 

 

「ち、違うんだ!止むを得ないんだよ」

 

「こんな僕を苦しめて……最低だ!」

 

「誤解だよ!今のやり取りを君も見てただろう?」

 

「店長は僕を護ってくれなかった!」

 

「え?」

 

「あんな奴の不当な指示を跳ね除けてくれなかった!」

 

(そんな事……出来る訳無いだろ…)

 

細川は溜息をついた。

 

 

「御母様に言いつけてやる!」

 

「え!」

 

「みんなで僕をいじめたと言いつけてやる!」

 

「な!それは止めてくれ!若林君!」

 

 

細川の脳裏に昨晩の大膳の言葉が蘇った。

 

 

――まあ良い…明日からの動きをよく見ているよ。 細川君――

 

彼は悪夢を見ている気分だった。

 

頭がクラクラし始めた。

 

目の前の若林くんが二重に見える。

 

 

その時であった。

 

バックヤ―ドの入口から北嶋が叫んだ。

 

「店長!後ろ!」

 

細川はぎょっとして振り向いた。

 

そこには坊主頭にサングラスとマスクを装着した黒ジャ―ジ姿の男が立っていた。

 

両手には出刃包丁が握り締められている。

 

彼はその切先を細川に突き付けて叫んだ。

 

「騒ぐな!金を出せ!」

 

強盗である。

 

しかし細川は慌てなかった。

 

店舗運営マニュアルではこういう時には決して逆らわず、大人しく金を渡す事が決められている。

 

「待って下さい。今、現金を出しますから……」

 

細川は落ち着いてカウンター内に入りレジを開いた。

 

その時であった。

 

「このクソ泥棒!店から出て行け!」

 

若林くんが強盗に向かって叫んだ。

 

(あ!いけない!)

 

細川は鼻から心臓が飛び出そうになる。

 

ジャ―ジ姿の男は一瞬面食らったが、興奮して包丁を若林くんに突き付けた。

 

「何だと!この野郎!こいつが見えないのか?」

 

「ふん!そんなもの怖くない。このハゲ頭のウジ虫野郎!」

 

「ぐ!俺の頭の事を…畜生!」

 

(だ、駄目だ!犯人を刺激しちゃ!)

 

狼狽する細川をよそに若林くんの言葉は益々エスカレートする。

 

「言ったがどうした?ゴミ虫クソハゲ馬鹿野郎!お前なんて社会の屑だ!うんこちゃんにたかるクソ蠅だ!」

 

「うぐ……こいつ!許せねえ…」

 

「許せねえ…だと!笑わせるな!何も出来ない癖にいきがるな!ハゲハゲハゲハゲハゲ頭!つるつる頭のハゲ頭!女にもてないハゲ頭……」

 

「わ、若林君!いけない!」

 

細川が叫んだその瞬間であった。

 

「うがあぁぁ!!!」

 

犯人は絶叫して包丁で若林くんの顔を横なぶりに切りつけた。

 

「ぎゃあ!!」

 

若林くんは顔面から血を吹き出しながら車椅子から転げ落ちた。

 

その刃先は深く彼の両目を切り裂いていた。

 

 

「ひぎい!目が!目が!」

 

若林くんは血塗れになりながら床をのたうち回る。

 

「ハァ!ハァ!ざまあみやがれ!」

 

ジャ―ジ男は興奮覚めやらぬ様子だったが、若林くんの惨状を見て慌てて逃走した。

 

その後、店は警察や救急車が入り乱れて騒然となった。

 

「痛い……痛いよお!」

 

若林くんは苦しそうにうめきながらタンカに乗せられ、病院に搬送されて行った。

 

 

 

細川はこの事態の責任を問われ、三カ月の停職処分となった。

 

職責も、店長から《ショップリ―ダ―》に格下げされた。

 

これは店長としての業務内容は同じだが、給与体系は平社員並になる制度である。

 

「あなた!ただでさえ薄給なのにどうすんのよ!」

 

自宅では妻に激しく詰られる。

 

細川は事件後15kg体重が減少した。

 

彼は、休業期間には自宅でする事も無く、近くの河原で落ち窪んだ目でじっと川の流れを見つめていた。

 

(一体何がいけなかったのか……俺は会社の言う通りにやって来たのに……)

 

さらに考える。

 

(若林君はあの体でも前向きだった。本当に彼を活かす手立てはなかったのか……)

 

自問自答を繰り返し、答えは出ない日々……

 

 

 

 

 

そして三カ月後、細川は復帰の日を迎えた。

 

出勤してから制服に着替えたがブカブカである。

 

「店長……」

 

そんな彼の姿に北嶋も言葉が出なかった。

 

「北嶋君。僕はもう店長じゃないよ……」

 

細川は寂しく笑みを浮かべた。

 

 

その時だった。

 

 

店舗の駐車場に1台のセンチュリー が入庫した。

 

「え!CEO!何故?」

 

細川は慌てて駐車場に駆け付ける。

 

後部座席から満面の笑顔で大膳が降り立った。

 

「やあ!細川君!元気そうじゃないか!」

 

大膳は細川の肩をポンポンと叩いた。

 

「おはようございます。あの……今日は如何なる御用で?」

 

「ハッハッハ!彼もようやく回復したんだよ!また君にお任せしようと思ってね!」

 

「え!彼……?」

 

細川はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「店長!いやリ―ダ―!おはようございます!」

 

後部座席の窓が開き、若林くんが顔を突き出した。

 

細川はその顔面を見て戦慄が走った。

 

両目の眼球が完全に摘出され、眼窩が頭蓋骨をなぞるようにぽっかりと落ち窪んでいるのである。

 

「ひ……、若林君……その目は?」

 

「はい!僕の視力は完全に失われました!泥棒に切られた時はとっても痛かったです!」

 

「え!そ……そんな状態で出勤出来るの?」

 

「はい!問題有りません!視力は失われましたが、意欲と希望は全く失われていません。むしろ前よりやる気は激しく燃え盛っています!必ずお役に立ってみせます!」

 

「は……ひ……!」

 

細川は呼吸が苦しくなってきた。

 

「そういう訳なんだ!彼はきっと我社に貢献してくれる大切な人材だ。今日からまた宜しく頼むよ!」

 

「ふ……へ……!」

 

細川の目がぐるぐる回りだす。

 

「ダイバーシティだよ!」

 

大膳が真っ白な歯を光らせてた。

 

「ますますもっと頑張ります!」

 

若林くんが最上の笑顔をみせた。

 

 

「ほ――――!」

 

細川の意識が遠ざかる。

 

 

 

ビバ・ダイバーシティ!

 

 

 

 

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