とある次元の錬金術師   作:nor_phesor

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第一話

ーーーーシン国某所

「止めろ!」

 

 アルフォンス・エルリックは叫んだ。目線の先には女が一人。錬成陣の前に膝をついている。

 

「ごめんね、アル。でも、やっぱりあの人がいないと…… 私……」

 

 女が両手を錬成陣に添える。一瞬の静寂。そして、光が辺りを包む。その錬成陣にアルは見覚えがあった。一生忘れることが出来ない、人体錬成の陣。

 

 中心の供物が形を変えていく。そして、それは人の形をなす。

 

「あなた……」

 

 女の声は錬成反応の音にかき消される。そして、その錬成反応の音すら凌駕する異形の叫び声。女の求めた者は成った。そして、女の求めた物は果てた。成果はそれ。

 

「やめろぉ!!」

 

 アルはもう一度叫ぶ。女も叫ぶ。女の右手が消えていく。左脚の先も錬成反応が起きている。リバウンド。分不相応な望みへの代償。女の結末。

 アルは知っていた。自身と同じく、この女は今から全身を代償に持って行かれる。

 

「戻ってこい!!」

 

 アルは一切の躊躇なく女に駆け寄ると両手を勢いよく合わせる。

 

ーーーー真理の扉前

「また来たのか?」

 

 アルは扉の前にいた。それしかない場所にいた。そして、目の前にはあの影のようなモノ。

 

「お前ら兄弟だけだよ。扉の前に何度もあらわれるバカは」

 

 影のような存在は頭を掻く。

 普通の人間なら扉の前に二度も現れない。人体錬成が可能な錬金術師ならば、一度見た真理で事足りるからだ。

 

「あの子を戻せたのか?」

「あれの代償はお前と同じ全身だった。代償に取られて扉に行く僅かな間に錬成し戻すなんて無茶をよくやったもんだ。代償の二重取りはできなかったよ」

「そうか、よかった」

 

 安堵するアル。

 一度目は失った母を取り戻すためだった。そして、自分と同じ咎人を助けるため、彼は再び扉の前に立っている。

 

「ところで、お前はどうするんだ?」

「え?」

「代償」

「あぁ…… こ、この扉でどうかな?」

 

 アルは、顔を引きつらせる。

 

「ここは定食屋じゃないんだ。飯食い終わってから金ないから皿洗いで許して、なんて出来るわけないだろう」

 

 影のような存在は、口らしきその場所を卑しく引き上げる。

 

「一度目は全身。二度目は…… 総取りだ」

 

 扉が開く。中から黒い触手が一本現れ、二本現れ。あっという間に目の前は埋め尽くされる。

 

「これ、苦手なんだよなぁ」

 

 アルは扉に引き込まれた。

 

ーーーー学園都市 某所

「ん…… うん? ここはどこだ?」

 

 自身の頭を抑えながらアルは立ち上がる。周囲を警戒しながら、反射的に身体の各部を触る。異常は見当たらない。

 

「扉を抜けたのか?」

 

 頭を振る。そして、もう一度周りを確認する。タールと石を捏ねたような地面、人工的に配された樹木。家々の様子をみても、シンとは違う。というよりも、アメストリスと比べたとしてもレベルから違う。

 アルが、歩き始めるとその先から声が聞こえてきた。

 

「……と、ミサ……」

 

 アルが近づくと、少女が木の上を見上げて、ちょこんと立っていた。衣服を見て確信する。この世界をアルは知らない。そして、それは覚悟していたことだった。

 アルは少女に近づくと、できるだけはっきりと口を動かす。

 

「こんにちは」

「こんにちは、と突然表れたあなたに不信感たっぷりに返します」

 

 不信感、などと言われ少しへこみながら、それでもアルは安心した。理由や理論、理屈など後回しで、言葉が通じるという事実に。

 

「どうしたの?」

「ニァニァ鳴く謎の毛玉を木の上に追い詰めました、とミサカは胸を張ります」

「にあにあ?」

 

 その少女の指差す先には小さな真っ黒の毛玉がいた。小さな頭部に三角の耳。その下にはこぼれそうなほど大きな目。そして、口には小さな牙が生えている。

 それは、アルが世界で一番可愛いと考えているもの。

 

「あれは猫だよ!! 何てことするのさ!!」

 

 アルは器用に木に登ると猫を抱え下ろす。

 

「これが、"ねこ"ですか、とミサカはあなたに尋ねます」

「猫を知らないの? まぁ、知ってても知らなくても、こんな小さな生き物を追い詰めちゃだめだよ! だいたい猫というのは……きのうえやはうぇ……」

「ご、ごめんなさい、とミサカは辟易しながら謝ります」

「もう、ホントに次からは気を付けてよね。ところで、君の名前は……」

「ミサカの名前はミサカです、とミサカは名乗らせる前に自分の名前を名乗れよと思いつつ教えます」

「アルフォンスです。何かごめんなさい」

 

 やはりミサカか、とアルは頭をかく。

 

「この猫は可愛い猫ですか、とミサカはアルフォンスに問います」

「アルでいいよ」

 

 そう前置くと子猫を抱え直す。

 

「猫はね、みんな可愛いんだよ」

 

 アルは猫好き。そして、猫好き特有の微笑み。

 

「ぼーっと、ミサカはアルを眺めます」

「どうしたの?」

「な、何でもありません! とミサカは動揺しつつ手を出します」

 

 ミサカは手を差し出す。その手に鼻を近づけた毛玉は、顔を背け爪を突き立てる。

 

「あはは、追いかけたりするから嫌われちゃったかな?」

「電磁波が体から出ちゃってるせいです、とミサカは傷口を見ながら涙目で否定します」

 

 アルはその傷を見て動き出す。

 

「薬草を探してくるから、待ってて。ここをこういう風にすればどれだけ嫌がられても暴れないからね、ちょっと待ってて」

 

ーーーーちょい後 同場所

 アルは、摘み取った植物をモミモミと先ほどの場所へ戻ってくる。そこには、ミサカがキョロキョロと立っていた。

 

「お待たせ」

「あんた、誰?」

「誰って僕だけど…… ミサカ、だよね?」

「なんで私の名前知ってるのよ!」

「いや、さっき君自身から教えてもらったというか……」

 

 アルは、頭をかく。何を言ってるんだ、と思いつつ、先ほどと語尾が違うことに違和感を感じている。

 と、そんなアルの腕を少女は捉まえる。先程のケガはない。

 

「……ちょっとこっちきて、話聞かせて!!」

「え、ちょっと待ってぇぇぇぇ……」

 

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