ーーーー病院
その部屋の主は、少女三人に囲まれていた。
「まったくもう。一体なんだったんですの?」
「白井さん、いいかげんぐちぐち言うのやめて下さいよ」
初春はそういうと、チョコレートでキノコを模したお菓子を口に運ぶ。
「そうですよ! 誰も怪我してなくてよかったじゃないですか!! ね?」
そういうと、こちらはタケノコを模したチョコレートを口へ涙子も運ぶ。どちらもアルが買っていた奴だ。目ざとい涙子に見つかったが運の尽きであった。
「あぁ、そうだね。本当にゴメンね」
アルには記憶障害がある。そして、たまに悪夢がフラッシュバックする。
冥土帰しとアルの作ったカバーストーリー。
ある意味嘘はない。
「全くもう、お姉さまも朝からいないし」
「御坂さんも、まさか自分が事件に巻き込まれてるなんて思ってないでしょうね」
そういって、初春が笑う。
「いやぁ、でも、クローンがいるって噂があるからねぇ。あ、知ってる? 他にも脱ぎ女って露出狂が……」
ーーーー夜更け 病院
深夜。アルは病室で兄の論文を読んでいた。だが、頭の中のドロドロとした何かが理解を妨げていた。思い出すのは少女の肢体。
あれは本当に起きたことなのか。本当は、何もなかったんじゃないか。そんな
、希望。その希望は、目の前の無線機が否定する。
実験で死んだあの子は、何のために生きていたんだろう。何のために死んだのだろうか。そんな疑問。益体もないものが頭の中で渦巻く。
そして、アルは、やっと電話が鳴っていることに気がつく。
「黒子からだ」
アルは、受話の手順をふむ。
「アル…… フォンスさんですか」
暗い声。アルはできるだけ明るい声で応える。
「アルでいいよ。どうしたの? 元気がないけど……」
「アル…… アル! 助けて下さい! お姉さまが…… お姉さまが!!」
脳みそが発火。
「今どこ? すぐに行く!!」
アルはイスから飛び降りる。
「くそっ! もしあれが本当のクローンだったら、美琴に無関係なわけないじゃないか!」
アルは自分の無能さを呪った。
ーーーー常盤台中学 女子寮
「アル、こちらですの」
キョロキョロとしていたアルに、これまた、隠れていた黒子が声をかける。
「今からわたくし達の部屋に移動しますの」
黒子が、アルの肩を掴むと、二人の姿は消えた。
ーーーー美琴と黒子の部屋
アルは辺りを見回す。女の子の部屋と言うことを思い出し、それを止めると美琴のベッドを背に座り込む。
「お姉さまが、帰ってきませんの。今までも何度かありましたが、こんな時間まで、連絡もなかったのは初めてで……」
そこまでいうと黒子は、分厚い書類をアルに手渡す。
「で、あまりに心配になって家の中調べてたら……」
「……心配したら家捜しするの?」
引きつった笑顔、大量の汗。
「そ、そこはどうでもいいことですの! 問題はこっちですの!」
「絶対能力進化実験?」
アルはそれを開く。幾多もの研究書を読んできたアルは、素早く研究書の読むべき場所、要点をかき集める。
研究理由、研究方法、研究対象。
「絶対能力者、超能力者のさらに上、レベル6の事だと思うんですの。何のことかはわかりませんが」
黒子の心配をよそに、アルはそれを読み進める。試行回数、試行内容。
第一万飛んで三十一回の実験内容の場所で、指を止める。目を止める。思考も一瞬だが止まる。
フラッシュバックする記憶、そして感情をもう一度思考の海に沈める。
「アルは言ってましたよね。ミサカが倒れていた、と。その中に書かれているクローンと、何か関係があるのではないのですか?」
黒子の視線。確信とは言えない、すがるようなそれを、アルはちらりと見ただけで、また書類に落とす。
「アル…… どうしたんですの?」
推測、判断、否定。それを何度か続ける。そして、おぼろげながら事実に近づく。
アルは、顔をあげると陽気に話し始めた。
「あっはっは!! 美琴には悪いけどばらしちゃおうか」
「何のことですの?」
「美琴は今、蛙顔のあのお医者さんの所で特殊な実験をしてるんだよ。部外者には当然秘密。だから黒子にも秘密」
アルは口に人差し指をあてるとウインク。
「それを何であなたが……」
「いやぁ、この前病院内をウロついてたら偶然」
「本当ですの?」
先程のお返し、とばかりの黒子の視線。
「大丈夫! 今日が実験最終日だからね! だから、安心して。必ず、美琴は帰ってくる!」
アルは黒子の肩を叩く。
「アル……」
「さ、寝るんだ。明日の朝、美琴をいつも通りに迎えてあげて。おかえりって」