「アル、こっちよ」
コンテナの影から、美琴は小さく呼ぶ。
「ミサカは?」
「千切れた脚からの血が止まらないの」
美琴の隣に横たわるミサカ。右脚を失ったミサカ。痛みからか粘ついた汗を全身にかいている。
「くっ、ミサカの事は構いません。お姉様、アル、逃げて下さい。と、ミサカは痛みに耐えて…… って、アルは私の足を持って何をするんですか? と、ミサカは」
「美琴、少し離れて!!」
アルはいつの間にか手にしていたミサカの脚を持ち、そばに立つと両手を合わせる。光と音、錬成反応。
「足が、くっついた…… と、ミサカは絶句します」
「練丹術で、足と骨の組織を強引にくっつけた。でも、一時しのぎだから……」
アルは響き渡る破壊音に冷や汗をかく。
「どこにいるンですかァ!!!」
「あれをどうにかしなきゃ」
外連味を帯びた笑顔を浮かべるアルは、バレないように声の主を覗き込む。
「出てこないンですかァ? なら燻り出してやンよ。コンテナの中身がちょうど小麦粉みてェだしなァ」
一方通行は、コンテナの壁を剥ぎ取る。白い粉が溢れる。
「本当に小麦粉なのかしら……」
美琴の引きつった顔でいう。
「密室じゃねェがよォ、こンだけありゃ問題ねェだろうなァ」
コンテナを破壊し、もうもうとした白煙を背景に歩きまわる一方通行。さらに能力を使い撹拌する。
その姿にアルは眉をひそめる。しかし、その意図に気がつく。
「まさか!」
一方通行はニヤリと笑う。どんなことがあろうと、彼には自信があった。核ミサイルが眼前で爆発したとしても、自身に何の影響もないと。
一方通行は、一切能力を使わなかった。石を拾い上げ振り上げる。そして、重力に任せて振り下ろす。コンテナを擦るように。
「二人とも、伏せて!」
粉塵爆発。
「げほっ。少し粉塵多過ぎたかァ? でも、見つけたぜェ!!」
一方通行は、三人に向かって笑む。口だけを卑しく引き上げる笑み。目は一切笑っていない。独特の笑み。
「二人とも逃げろ!!」
アルは指示する。アルは右手に、二人は反対に逃げだす。
「まてや、三下ァァ!」
二人を一切合切無視。一方通行は、アル目掛けて走り出す。しかし、爆発による瓦礫はアルに味方し、なかなか追いつけない。
『まだ、これ使えてる??』
移動、相手の位置を確認。安全ーー短期間であろうがーーを確認すると、アルは、短く答える。
「どうしたの?」
『妹を連れてこのまま逃げるわ! これでこの計画は失敗のはず! 全部終わったの。だからアルも逃げて!』
アルは、一方通行の位置を確認しながら返答。
「そうだね、でも、僕にはやる事が残ってる」
『やることって……』
一拍おいて、アルは答える。
「第一位をぶっ飛ばす」
その回答に、隣で聞いていたのか、ミサカが反論する。
『無理です。触れられれば、手足を引きちぎられ血液を逆流させられて殺されます。先手を打っても自動反射でやはり殺されます。遠くにいても礫で殺されます。アルが第一位をぶっ飛ばすなど絶対にあり得ません、とミサカは断言します』
ミサカの返事。一方通行の近づいてくる音に意識を向けながら答える。
「絶対なんて、絶対にあり得ない。大丈夫。必ず二人と他一万の妹の前に引きずりだしてやる」
アルの宣言。と、ほぼ同時に背を預けていたコンテナが吹き飛ばされる。
「見ィつけたァ! かくれンぼはお仕舞いだァ!」
「じゃあ、次は僕の番だ!!」
アルは両手を合わせる。
「あァン? ……手榴弾?」
「当たり!! さっき、大量の粉塵で咳き込んでたからさ。大量の破片だったら自慢の自動反射はどうなるかな?」
アルはニヤリと笑うと、手榴弾を放り投げる。と、自身の前に壁を錬成。次の瞬間、破裂音。
「無駄だァ! こンな破片、千だろうが二千だろうがかわりはしねェ!!」
爆発による砂煙と破片。そんな中でも、瞬きすら不要な一方通行の目の前にアルが現れる。
一方通行は反応できない、そしてしない。自動反射への自信が無駄な労力を省く。
棒立ちの一方通行に向かい、アルは、振りかぶった右手を、顎をかする様に振り抜く。途中で何度も錬成反応が起こる。そして、一方通行の頭部は、鈍器で殴られた様な音をたて体ごと吹き飛ぶ。
「何しやがったァ!」
一方通行は頭を抱えながら立ち上がると、反射機能は生きていることを確認する。自動反射が機能しなかったことに苛立つ一方通行を尻目に、アルは指差す。
「お前を妹達の前に引きずりだす。大人しくするんだ」
呆気にとられる一方通行。そして、笑い出す。反射しなかった事実は、その突拍子もない宣言に吹き飛ぶ。
「引きずりだすゥ? 引きずりだして説教でもするンですかァ? この俺に? この悪人に?」
高笑い。それに対してアルは嫌悪感をあらわにした表情。
「お前が悪人だって? たった一人の女の子にビビってるお前が?」
瞬間、静止。一方通行の顔から表情が消える。
「ビビってねェ!」
「君はビビったんだよ。無抵抗で、無反応な美琴の妹達に。だから、残酷に殺した。残忍さを強調した。血液を逆流させて。両手足を引き千切って。少しでも反応が見たかったんだ。少しでも、殺しの時間を伸ばしたかったんだ。自分が狂人である為に!」
「ふ、ふざけるな! 俺は悪党だ!」
「悪党? 君が悪党だって? 笑わせるな! 僕は本物の悪党を知ってる。そいつは自分の為に他人を傷つけ、自分の為に他人を燃やし尽くした! 欲望の為に何もかも灰にし尽くした。でも君は違う! 自分の為といい他人も自身もイタズラに傷つけてるだけだ! 自分の悪行には怯えるのに謝罪も反省も出来ない、イタズラをした後にママに叱られる恐怖に震えるガキなだけだ! 悪党? 笑わせるな! 単なる糞ガキなんだよ、お前は! それでもまだ悪党だっていうならその幻想をぶち壊してやる。来いよ、どサンピン! 格の違いを見せてやる!」
ズビシと決めたアル。静止する二人。場所が場所であればタンブルウィードが吹くところだ。
「クキケクケ、クケケケケケケケケケケケ! お前絶対殺してやらァァァ!」
一方通行が、奇妙な笑い声をあげたかと思うと両の手を突き上げる。
その両手の掌の間に空気が溜め込まれていく。そして、それは、光を帯び始める。
「あれ? 僕ヤバくない?」