「ルルーシュ、今まで準備サボってたんだからキリキリ働けよー」
生徒会室で、ルルーシュはパソコンと睨めっこしていた。それをリヴァルがニヤニヤと眺めている。
「わかってるよ。今から通常の3倍働くから勘弁してくれ」
赤くなって、超速でタイピングしているルルーシュを見て、シャーリーが溜め息を吐いた。
「も~、学校サボるから! 学校に居てくれないと、私がアプローチできないでしょ!」
遠慮をかなぐり捨てたシャーリーが顔を赤らめながら、ルルーシュを詰る。
「え、シャーリー!?」
驚くカレンに、シャーリーは宣言した。
「私、カレンにも負けないから!」
「あ、私!?」
シャーリーがお見通しだぞと、カレンを可愛く威嚇する。
「な~に~? シャーリーが張り切ってるわね!」
これぞモラトリアムとニコニコのミレイと。
「ルルーシュ、君そのうち刺されるよ?」
呆れ気味のスザクも生徒会室に入ってきた。
学園祭が始まるまで、あと数日だ。
ブリタニアはキュウシュウの後始末に奔走していて、大きな動きは無い。
黒の騎士団も原作ならトウキョウに独立国を作るので、色々計画を立てていたが、現在は小休止で緩く訓練しながら戦力の拡大に努めていた。
何やらルルーシュはコソコソ動いていたが、全体では小康状態といったところだろう。
◆◆◆
あの人間関係の脱線玉突き複雑骨折みたいな学園祭が終わった。ああ、詳細は閑話で。
「やられた! 特区日本とは!」
ユーフェミアから発表された行政特区構想に、黒の騎士団は、いや日本中が大騒ぎになっている。
「最悪です。特区に参加すれば、武装解除。参加しなければ、平和を乱す敵」
ディートハルトの言葉に、皆が顔をしかめた。
「だけど、黒の騎士団として何かしらの対応は取らなければならない」
タケルの言葉に、各々何か良い手はないかと考える。
「やはり、どうしようも……。そういえば、ゼロはどうした?」
千葉の言葉に、ディートハルトが答えた。
「どこかと連絡を取っているようです。終わったら、ここに来ると」
ディートハルトの言葉に合わせるように、ルルーシュが現れた。
「ゼロ! 私たちは、どうすれば!」
早速カレンがゼロに駆け寄った。犬かな?
「何をそんなに騒いでいる?」
「何って、特区のことに決まってるだろう!」
千葉が、ルルーシュに噛みつかんばかりに迫る。犬かな?
「特区くらいで騒ぐな」
落ち着いた様子のゼロに、藤堂が問い掛けた。
「しかし、ゼロ。行政特区日本は、我々にとって致命的ではないか?」
ルルーシュは、首を振った。
「そうでもない。私は、敵の取る策で、特区構想も想定に入れていた」
原作知識はあるのだ。これだけ時間があって、対策しないわけがない。
「というかカレンと千葉はともかく、タケルと藤堂までそんなに慌てるとは、らしくないな」
騒がしい女性2人がどういう意味だ! と騒ぐ中、タケルと藤堂は頭を捻る。
「やはり、私にはわからないな。どう考えても危機的状況に思えるのだが」
「そうでもないさ。お前たちは、特区という言葉に惑わされている」
取り敢えず、ゼロに何か考えがあることがわかったのだろう。浮き足立っていた面々が、落ち着いてきた。
「惑わされてるってことは、やっぱりブリタニアの嘘なんですか?」
はい! っと手を上げたカレンの質問に、ルルーシュは首を振った。
「いいや。本気でやるつもりだろう。少なくともユーフェミアは」
「お前たちが悩んでいたのは、参加すれば武装解除しなければならず、拒否すれば平和を乱す敵になって民意を失うということだろう。その考え自体は間違っていない」
やっぱ駄目じゃんみたいな顔をしているカレンに、ルルーシュはデコピンした。
「だからまず特区について考えてみろ。特区ができるとどうなる?」
ルルーシュにいきなり指差された千葉が慌てる。学校の授業じゃないんだから。
「と、特区の中では、日本人は名前と権利を取り戻す。日本人への不当な差別やブリタニア人の特権が無くなる」
「そうだ。ならもし、それが上手くいったらどうなると思う?」
「なに? 上手くいったら喜ぶんじゃないか?」
「それは誰が?」
「もちろん、特区に参加した者だろう」
「そういうことか!」
ルルーシュと千葉が問答を続けていると、卜部が叫んだ。他にも、藤堂とタケルは理解したようだ。
「特区は富士山周辺にしかない。受け入れられる人数には限りがある」
卜部の言葉で、他の者も理解したようだ。
「それでは、参加できた者とできなかった者で日本人同士で揉めるぞ!?」
「その通り、多少なら範囲を拡張できるだろうが、限界はある。賛同したというシュナイゼルは当然わかっているだろう。だが、我々を武装解除させるにはうってつけ。つまり、シュナイゼルからすれば特区が最終的に失敗しようが、我々を潰せれば良いというわけだ」
皆がなんて悪辣な! とシュナイゼルを嫌悪する。そうだぞ、シュナイゼルは悪い奴なんだ。よく覚えとけ。
「それだけじゃない。名誉ブリタニア人になった元日本人はどう思う? 名誉ブリタニア人になるには試験もあるし、なった後も酷い差別がある。それなのに、特区は申請すれば日本人に戻れる」
「そんなの不満に思うに決まって……」
言葉の途中で元気の無くなった千葉の代わりに、藤堂が引き継いだ。
「つまり、一種の分断政策ということか。日本人の中で、露骨に階級を分けて争わせる。もう今までのように、ブリタニアに対して団結できなくなる」
「ユーフェミアって、まるで悪魔みたいな奴だね」
朝比奈の言葉に、ルルーシュは溜め息を吐いた。
「やるせないのは、ユーフェミア自体は善意でやってることだ。ただし、現実を知らないから変な方向に行く」
善意から生まれる悪意があるとは、よく言ったものだ。悪意から生まれる善意とどっちがマシなのやら。
「善意でやっていても、人が幸せになるとは限らない。ユーフェミアの頭の中には、いちごミルクが詰まっているとでも思っておけ」
お花畑より甘ったるそうだ。
「ゼロ、ユーフェミアはどこまでやるつもりなんだ?」
タケルの質問に、ルルーシュは肩を竦めた。
「さあ? ただ、未だ発表はされていないが、ユーフェミアは皇位継承権を放棄したらしい。本気も本気だろう」
まあ、皇位継承権放棄はゼロを受け入れる為なんだけども。
「え、そこまでやっても上手くいかないんだ……」
アッシュフォード学園で、ブリタニア人にも優しい人がいることを知っているカレンは、皇位継承権を捨ててまで政策を行うユーフェミアを嫌いにはなれなかった。
「誰がどうやるとかのレベルの話ではないからな」
ルルーシュも記憶が戻った日から、何度も何度も考えてみた。しかし、答えは変わらなかった。
「特区は失敗する。少なくともユーフェミアが思い描く理想通りにはならない」
「まず、キャパシティが足りない。富士山周辺では、日本人全てを特区に入れることはできない。拡大していっても同じだ。最終的には、日本全土を特区にしなければ足りなくなる」
「次に金の話だ。ブリタニアの財政は、植民エリアの上前を跳ねることで賄われている。特区が広がれば広がるほど、財源が減る。こんなのがブリタニア人に受け入れられるわけがない」
「更に他の植民エリアだ。仮に今まであげた問題を奇跡的に全て解決できたとしよう。日本人は幸せ。みんな嬉しいなでは終わらない。他の植民エリアからは、何故エリア11だけと不満が出るだろう。そして、他のエリアにユーフェミアはいない以上、特区なんて無い。治世に影響が出るだろうな。だから、出る前にエリア11の特区も何かしらの理由で潰されるか、内容が変わるかするだろう」
絶句。皆、特区の現実に言葉を失った。
「そもそも、ユーフェミアは日本人を何とかしようとするあまり、ブリタニア人の感情を軽視している。早晩転ぶだろうな」
特区に沸く日本人のことを思い、皆沈痛な表情だ。
「しかし、現状で我々が特区の問題点をあげても、民衆は聞き入れないのではないか?」
「そうだろうな」
藤堂の疑問を、ルルーシュは肯定した。目の前に希望が見える状況では、聞く耳持たないだろう。もう日本人は限界なのだから。
ルルーシュがマントを翻した。そして、コードギアスらしいポーズを取る。
「故に我々黒の騎士団は、日本を見捨てる!」
特区ってルルーシュを追い詰める為だけの策みたいだよね。だって、微塵も日本の為にならなそうだもん。