「やったな、ルルーシュ! また勝ったぞ! しかも最短記録更新!」
嬉しそうにはしゃぐリヴァルが運転するバイクで、ルルーシュはハイウェイを走っていた。
「温いんだよ貴族って」
気だるげに答えたルルーシュは、サイドカーでふんぞり返る。
「特権に寄生してるだけだから、特権が通じないと何も出来ないのさ」
辛辣ぅーとか言いながらゴキゲンで安全運転するリヴァルを他所に、ルルーシュは脳内を高速回転させていた。
本日ルルーシュが賭けチェスで勝った相手だが、ルルーシュはどこか見覚えがあった。それだけならまだしも、チェスで勝った後に駐車場でクロヴィスのテロに対する追悼の演説を聞いた。
ここまで揃えば、まず間違いなく今日が原作第1話、新宿事変の日だろう。突発的に起きたかのように見えるが、いつ原作が始まっても良いように準備万端だったルルーシュには関係ない。寧ろやっとかという気持ちだった。
「最初の手さー。なんでキングから動かしたの?」
「王様から動かないと、部下がついてこないだろ?」
「ルルーシュって、社長にでもなりたいわけ?」
「まさか」
ルルーシュがなりたいのはハーレムキングである。
(そろそろ来るか)
ルルーシュとリヴァルが他愛ない雑談をしていると、パッパー!! とクラクションが鳴り響く。リヴァルが慌ててサイドミラーを確認すれば、後ろから大型トラックが爆走してきていた。
「うおおっ!?」
すぐさま加速して、路肩に寄せようとするリヴァル。しかし、大型トラックはスピードを緩めず突っ込んでくる。
(このまま轢かれたら異世界に転生出来そうだな)
来ることがわかっていたルルーシュは慌てず、脳内でくだらないことを考える余裕すらあった。
再びパッパーとクラクションが鳴らされた。この音は原作ルルーシュにとっては偽りの日常が破壊されるジェリコのラッパなのだが、転生ルルーシュにとってはブリタニアに喧嘩を売るスタート音にしか聞こえない。
急ハンドルを切った大型トラックは、建設途中の道に入って建物に突っ込んだ。
「……これって俺たちのせい?」
「まさか」
リヴァルは気にしているが、ルルーシュは内心確か運転手は永田だったか? アホだな。しょせんテロリストなんてあんなもんかとディスっていた。
まあ永田は街中で毒ガス使おうとするアホなのでしょうがないが。
(さて、行くか)
野次馬が集まり騒ぎだすのを横目に、ルルーシュはトラックに向かって走る。
「ちょっ、ルルーシュ!」
リヴァルはエナジーの線が切れたと騒いでいたが、ルルーシュは無視した。
(学生救助隊登場! っと言ったところか)
今頃野次馬が言っている台詞を脳内で浮かべつつ、トラックをよじ登るルルーシュ。体を鍛えているだけあって、原作よりスムーズに登れている。
『ミツケタ ワタシノ』
トラックのコンテナを覗き込んでいると、ルルーシュの頭の中に声が響いた。
(っ! 原作通りか!)
次の瞬間、トラックが急発進する。ルルーシュはコンテナの中に転がり込んだ。勿論きちんと受け身を取っているので怪我は無い。よく考えたら原作ルルーシュもキレイに受け身を取っていたので、運動センスはあったのだろう。体力は無いが。
(確定したことだし、作戦を次に進めるか)
ルルーシュは常備している腰のポーチから通信機を取り出すと、どこかに連絡を取り始めた。
「こちらキング。これより、プラン2006を開始する」
◆◆◆
「よし、通信機ゲット」
原作通りに進みカレンがグラスゴーで飛び出して行ったので、ルルーシュはカレンが忘れた通信機をパクっていた。カレンは意外とドジっ娘なのだ。
「携帯は圏外、それにこの暗さと路面状況、かつての地下鉄路線か。原作通りにシンジュク・ゲットーだな。あとは」
ガタンと大きな音がして、トラックが止まった。エンジンは吹かしているが進んでいない。しばらく足掻いていたが、やがて完全に止まった。
「予定通りだ。ならば次は」
風を切る音がして、ルルーシュが視線を向けると空中を横回転しながらすっ飛んでくる奴がいた。あいつだ。人間辞めている疑惑がある裏切りの騎士。
「くっ」
スザクの代名詞、|陽昇流誠壱式旋風脚《ひのぼりりゅうまこといちしきせんぷうきゃく》。通称くるくるキックをクロスアームブロックで防ぐルルーシュ。原作ではあえなく吹っ飛ばされたが、身体強化済みルルーシュは防ぎきった。
(ちっ、体力バカが。なんて威力だ)
防いだはいいが、あまりの威力に腕が痺れたルルーシュは顔をしかめている。
「殺すなこれ以上。それに毒ガスなんて!」
「その毒ガスだってブリタニアが作ったんだろうが」
(そもそも毒ガスですらないがな)
「殺すな? 世界で一番人を殺してるのはブリタニアだろうが!」
ルルーシュの言葉にスザクは構えを解き、ヘルメットを脱ぐ。
「ルルーシュ? 僕だよスザクだ」
「スザク……」
「どうして君がテロリストに」
二人の話の途中で高圧カプセルがスパークし、カプセルが開いた。
「ルルーシュ!」
スザクが自分の防毒マスクをルルーシュに押し付けながら、床に伏せた。彼の狂的なまでの自己犠牲の精神は今日も絶好調だ。目的があるのに、自分より他人を優先する。他人の命は尊ぶのに、自分の命には頓着しない。今回も毒ガスで死んだとしてもスザクは満足したことだろう。その歪みに、矛盾に、彼は気づかない。
しかし、カプセルから現れたのは毒ガスではなく緑髪の魔女。悠久の時を生きる不老不死の女。ルルーシュが待ちに待ったC.C.だった。
「スザク、この娘が毒ガスか?」
倒れ込んできたC.C.を受け止めたルルーシュがスザクに問いかける。もう、答えは知っているというのに。
「確かにブリーフィングでは」
テキパキと拘束服を弛めながら答えるスザク。お前いくら事前情報と違うからって、いきなり拘束解いたら駄目だろう。ちゃんと連絡して確認しろよ。
「まだ目は覚めないか。なら」
親衛隊がまだ来ないのを確認したルルーシュは、急いでトラックの運転席を抉じ開けた。
「まだ生きてるな」
そこには、血塗れの永田が力なく倒れていた。
ルルーシュはトラックのコンテナ内にあった応急処置セットで簡単な止血を施していく。
「当たったのは一発だけか。運が良い奴だ」
止血を終えると、運転席にあった自爆装置に手を加え、遠隔で起爆できるようにする。
「条件はクリア。あとは役者が揃うのを待つとするか」
ルルーシュが永田を担いで運転席から降りると、カチッという音がして照明が着いた。
光源には親衛隊が集まっていた。
「この猿が! 名誉ブリタニア人にはそこまでの許可は与えていない!」
ほら、勝手に拘束解くから怒られる。
「しかしこれは、毒ガスと聞いていたのですが」
「抗弁の権利は無いが、チャンスをやろう。この銃でテロリスト共を射殺しろ」
「共? っ! 彼は違います! 巻き込まれた学生です!」
「命令だ! やれ!」
「やりません。自分は民間人を殺しません!」
(スザク、お前が出世よりも友達を選んでくれたのは嬉しい。でもな、お前が撃たなくても、そいつらが自分で撃てばいいだけだから。だから、こっちに振り向いてる場合じゃないんだよ)
「なら死ね」
ピシュンと気の抜けたような音がして、スザクが崩れ落ちた。
スザクは甘かった。ルルーシュが大切なら親衛隊を殺さなければならなかった。彼は自分が撃たれたことについてはルールを破ったからしょうがないと思っているが、その結果ルルーシュが死んだらどうするのだろうか。本当に結果よりも過程を重視している。
(お前なら警戒していれば避けられただろうに)
ルルーシュはこうなることがわかっていた。わかっていてスザクに忠告しなかったのだ。ここでスザクを助けて黒の騎士団に入れるというプランもあったが、諸事情により採用されなかった。なにせ、スザクには彼女の騎士になって貰わないと困るのだから。
「ブリタニアの学生か。不運だったな。女を確保した後殺せ」
「誰がお前らなんぞに殺されるか」
ルルーシュは懐から取り出したスイッチを押した。
(日本万歳! なんてな)
次の瞬間、トラックが爆発した。
ルルーシュは爆煙と粉塵に紛れて逃走する。岩盤が良い具合に通路を塞いでいるので、直接追ってこられることは無い。
原作と違い細マッチョなルルーシュは死にかけの永田を肩に担いで、拘束が中途半端に解けて動き辛そうなC.C.を小脇に抱えて悠々と走った。
盤面は進み、ブリタニア軍が新宿ゲットーの殲滅を始めた。指揮を取るクロヴィスはC.C.の確保情報を今か今かと待っていた。そんなクロヴィスに奇妙な情報が届いた。
「殿下、前線よりイレブンの数が異様に少ないという報告が上がっています」
「どういうことだバトレー?」
「ゲットーの人口調査など行っていないので、どれほどのイレブンがいるのかわかりませんが明らかに数が少ないようです。どこかに隠れているのか、あるいは逃げたのか」
「ふむ、気に入らんな。だがそんなことよりも目標の確保を急がせろ。それが最優先だ!」
もし、原作を知っているものがいればおかしいと思ったはずだ。知らなくとも違和感を無視しなければ結末は変わっていたかもしれない。だが、もう遅い。魔神の目覚めは、もう止められない。
◆◆◆
「くくく。テロリストの最後には似合いのロケーションだな」
ルルーシュは原作通りに、親衛隊に囲まれていた。
「お前の未来は、今終わった」
隊長が銃を構えた瞬間、C.C.がルルーシュの盾のなるように立ち塞がった。
「殺すな!」
C.C.の献身でルルーシュは無事だが、C.C.は額を撃たれて倒れ伏した。まあ、死なないけど。
ここがルルーシュにとってのお祈りポイントだ。原作通りにギアスをもらえるのか。もらえたギアスは絶対遵守の力なのか。文字通り生死に関わる。
「フン。できれば生かして捕らえたかったが、まあいい。殿下には、我々が発見した時には既にイレブンに殺されていたと報告しよう」
隊長が改めて、銃をルルーシュに向けた。
(終わりたくないのだな、お前は?)
ルルーシュの脳内に、声が響いた。
(お前には、生きる為の理由があるらしい)
ルルーシュの脳内に、見たことのない見たことあるビジョンが次々に浮かび上がる。
(力があれば、生きられるか? これは、契約。力をあげる代わりに、私の願いをひとつだけ叶えてもらう)
Cの世界が垣間見える。
(契約すれば、お前は人の世に生きながら、人とは違う理で生きることになる。異なる摂理、異なる時間、異なる命。王の力は、お前を孤独にする。その覚悟があるのなら)
ここだ、ここからが始まりなのだ、ルルーシュにとっては!
(いいだろう。結ぶぞ、その契約!)
C.C.の側でしゃがみこんでいたルルーシュが立ち上がった。
「なあ、今の世界が受け入れられない奴は、どう生きればいい?」
「貴様主義者か!? ん?」
ルルーシュの先程までとは違う雰囲気に、隊長が気圧される。
「どうした、撃たないのか? 相手は学生だぞ? それとも、気づいたか? 撃っていいのは、撃たれる覚悟がある奴だけだと!」
ルルーシュが左目を隠していた手を退けた。目は、赤い不思議な光を放っている。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。貴様たちは、俺の命令に従え!」
赤い鳥のような紋様が羽ばたいた。すると、親衛隊の様子が一変する。
「イエス、ユア、ハイネス!」
今まで敵対していたのが嘘のように、ルルーシュに跪いた。
(俺は、あの日からずっと待っていた。自分の記憶を信じて。必ずチャンスは来ると信じて。他者を欺き、自分の不安に蓋をして。大きすぎる世界に怯み、でも自分の妄想だと諦めることも出来なくて。だけど手に入れた、希望を。だから!)
ルルーシュは笑った。運命の歯車が回り始めたことを感じて。