「経済特区日本の開設をここに宣言します!」
ユーフェミアの声が、会場に響き渡った。
原作通りに急ピッチで進んだ特区は、式典会場に入りきらないほどの日本人を集めていた。
式典は滞りなく進み、式典も終わりに近づいた頃。誰もが疑問に思った。ゼロは、黒の騎士団はどうするのか? ブリタニア人も、日本人も、どちらにも無視できないものだった。
そして、それに答えるように、式典会場の巨大モニターが点灯した。
「私は、ゼロ。すまないが、通信をジャックさせて頂いた」
突然のゼロからの通信に、会場がざわめいた。
「ユーフェミア副総督から特区への参加を打診されたことへの返事の為なので、どうか許して欲しい」
状況を理解したのだろう、皆固唾を飲んでゼロの言葉を待った。
「我々黒の騎士団は、特区には参加しない」
会場内では、日本人はざわめき、ブリタニアの兵たちは慌ただしく動き出す。
「今のエリア11では、ブリタニア人と日本人の関係の改善が始まった。このまま穏やかに進むのであれば、黒の騎士団は必要無くなる」
「故に、黒の騎士団はエリア11を出る! 世界には、まだ黒の騎士団を必要としている者たちがいる。我々は、求められる限り活動を続けていく」
「だが、努々忘れるな。強者が、弱者を理不尽に虐げた時、我々は再びこのエリア11に現れるだろう!」
モニターが消えた。会場が、日本中が狂騒に包まれる中、ユーフェミアは切なそうにモニターを見ていた。
(ルルーシュ……)
◆◆◆
「スザク、本当なのですね?」
「はい」
急遽アッシュフォード学園に戻っていたスザクが、ユーフェミアにメモを渡した。
「ルルーシュ……」
それは、ルルーシュが渡した通信コードだった。
「秘密裏に話したいと」
「わかりました。政庁の一室を押さえましょう」
そして夜、ユーフェミアたちは、秘密裏に政庁の一室に集まった。
記されていた通信コードに繋げると、ゼロの姿が映った。
「ゼロ、ここには私たち以外誰もいません。私とスザクだけです」
「そうか、ならば」
ルルーシュが仮面を外した。
「君に対しては、そこまで徹底的に隠していたわけじゃないが、よくわかったな」
ユーフェミアには学園で会った時に、正体が露見していた。
「スザクの騎士任命に対して話した時に、もしかしてって思ったんです」
この子鈍いのに、こういうとこだけ変に鋭いんだよな。
「さて、ユフィ。まずは、特区について返事をしよう。黒の騎士団は、特区には参加しない。我々はエリア11を出ていく」
ルルーシュの返事に、ユーフェミアは悲しそうに叫んだ。
「どうして!? 特区があれば、また昔みたいにみんなで一緒に居られると思ったのに!」
「特区は上手くいかないからだ」
「そんな……」
ユーフェミアが項垂れた。
「もう、どうしようもないの?」
「ない」
ルルーシュは、特区の問題点をユーフェミアに説明した。
「そこまでわかっているなら、君がユフィを手伝うという選択肢は?」
スザクの言葉に、ルルーシュは首を振った。
「誰がやっても、結果は変わらない」
尚もスザクがルルーシュを説得しようとしたところ、ドアのロックが強制解除される音がした。
「なっ!? 副総督であるユフィの権限より、上の権限なんて!」
副総督の権限でロックしたドアが開けられる、つまり。
「お姉様!」
コーネリアが、部屋に入ってきた。ルルーシュは、解錠音がした時点で仮面を被ったので、ギリギリセーフだ。
「ユフィ、こそこそ何かしているかと思えば、ゼロと通信とはな」
コーネリアが、今度は自分の権限でドアをロックした。これで部屋には、ユーフェミアとスザクの他、コーネリアとギルフォードとダールトンの5人となった。
「ユーフェミア様、いくらなんでもこれは!」
「よい、ギルフォード」
ユーフェミアを諌めようとしたギルフォードを、コーネリアが止めた。
「丁度良い。私も貴様と話をしたいと思っていたところだ」
「それそれは。光栄ですね、コーネリア総督」
コーネリアが鋭い眼光で、ゼロを睨んだ。
「ゼロ、貴様の正体をずっと考えていた」
「……」
「わざわざ仮面で顔を隠して活動をする。軍でプロファイリングもしたが、正体はわからなかった」
「……それで?」
コーネリアが一瞬、ユーフェミアを見た。
「頭の隅で考えていたことだったが、今回のユーフェミアのことで確信した。ゼロ、お前は──ルルーシュだな?」
コーネリアの確信を持った言葉に、全員が驚愕した。
「……よく、わかりましたね」
ルルーシュが、仮面を外した。
成長したルルーシュの姿を目にしたコーネリアは、目を細めた。
「あの戦争の中、よく生きていたものだ。ナナリーは?」
「ナナリーも生きていますよ」
「そうか、良かった」
「姉上、何故わかったのですか?」
コーネリアは複雑そうな顔をした。
「最初に疑問を覚えたのは、クロヴィスのことだ。クロヴィスが撃たれた箇所は、余程のことがなければ死なない箇所だ。クロヴィスを確実に殺せる状況で、なぜそんなことになったのか気になった」
「最初は戦いの素人かとも思ったが、そういうわけでもない。だが、ある日思い至った。殺せなかったのではなく、殺したくなかったのではないかと。その時、頭に浮かんだよ。私を上回る頭脳とエースクラスのナイトメアの操縦技術。それを併せ持つ可能性があり、クロヴィスを殺すのを躊躇うのはルルーシュ、お前だと」
ルルーシュは沈黙を貫いた。
「コンベンションセンターホテルでも、ゼロはユフィを傷つけなかった。そして、今回ユフィが秘密裏にゼロと通信した。疑惑は確信になった」
流石コーネリア。姉弟のことをよく見ている。ルルーシュからすれば、バレても問題は無いが本当にバレるとは思ってなかった。どけ! 私はお姉ちゃんだぞ!
「ルルーシュ、今ならまだ戻れる! ゼロなどやめろ!」
「姉上は、俺たちがなぜ隠れ住んでいるのか忘れたんですか?」
コーネリアの表情が歪んだ。
「日本侵攻のことは謝っても謝り切れないことはわかっている。だが、今はあの時と違って力を手に入れた。今度は守ってやれる! 私だけではない。シュナイゼル兄上やオデュッセウス兄上も力を貸してくれる! 他の姉弟もだ!」
コーネリアからしてもルルーシュとナナリーを見捨てたことは、一種のトラウマなのだろう。
「お前たちが死んだと知らせがあった後、ユフィはしばらく泣き明かした。私も何も手につかなかった。クロヴィスは、アリエスの離宮の絵をずっと描いていたし、シュナイゼル兄上もずっと物思いに更けていた」
ブリタニア皇族の兄弟は元々仲が良かったが、ルルーシュたちの死後、いっそう団結するようになった。
「母さんのことは? 暗殺の可能性があるのに戻れるわけないでしょう。あの日の警備責任者は姉上でしたね?」
コーネリアの表情が更に歪んだ。
「そうだ。私が責任者だった。だがあの日、マリアンヌ様から警備を下げるように命令を受けたのだ……」
「犯人がわからないのに、戻れるわけがない」
まあ、知ってるけど。
「今度は守ってみせる! 今度こそ!」
「それだけじゃない。俺はブリタニアという国が嫌いなんだ」
「ルルーシュ……」
「姉上、いや、コーネリア。いずれ、必ずブリタニアをぶっ壊す。首を洗って待っていろ」
ルルーシュが通信を切ろうとすると、慌ててユーフェミアが声をかけた。
「待って、ルルーシュ!」
「ユフィ、精々現実を知ることだ。君は現実をわかっていない。スザクもだ。何故、俺がブリタニアを壊そうとするのか、よく考えるといい」
そこで、通信は途切れた。
◆◆◆
(ルルーシュ、私は諦めません。特区を成功させて、またみんなで過ごせる世界にしてみせます。だから、特区が成功したら、また会えますよね……?)
儚い少女の願いは叶うのか? ユーフェミアが現実を理解する日は、そう遠くはない。