ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 〜大正の刃と現代の悪魔召喚師〜 作:ガチャガチャクツワムシ
那田蜘蛛山の激戦を終え、炭治郎、義勇、そして蝶屋敷から駆けつけたしのぶの三人は、事後処理を行う「隠」の隊員たちと共に、森の開けた場所で休息を取っていた。
──キィィィィィィィィンッ!
不協和音のような金属音が、夜気を切り裂いた。
森の奥から現れたのは、悍ましい姿の「鬼」。その胸部には心臓の鼓動に同期して回転する錆びついた真鍮の歯車が埋め込まれ、肉を突き破る鋼鉄のピストンが、焼けたオイルを霧のように撒き散らしている。生物の理を無視した、大正の時代にはあり得ない禁忌の実験体。
「な、なんだアレは!? 鬼の姿が……お、おかしいっ……!」
新入りの隊士が恐怖で腰を抜かす。鬼は苦悶の声を上げるたび、内部の機械が火花を散らし、制御不能な力で周囲を蹂躙した。
「下がって!」
しのぶが即座に動く。懐の「管」を解き放つと、ハヤタロウ、ウェンディーネ、ホウオウ、ヌエ――四体の中位悪魔が顕現し、隊員たちを庇う壁となった。
「な、なんだアレは……! 鬼を召喚してるのか!? しのぶ様が、禁忌に触れているのか!?」
新入りが叫ぶ。その光景は、鬼殺隊の常識を根底から覆すものだった。
「馬鹿を言うな! あれは味方だ! しのぶ様が命を懸けて守ってきたものだ。刀を引いて指示を待て!」
古参の隊員が新入りの襟首を掴み、制する。
だが、改造鬼の鋼鉄の剛力は凄まじく、義勇の太刀すらも弾く。触手がしのぶの四肢を絡め取り、あわやという瞬間──。
──パァァァァン!!
物理法則を嘲笑うような重厚な銃声が、夜気を切り裂いた。
触手の根元が一瞬で弾け飛び、しのぶの身体が自由になる。
森の闇が左右に割れ、黒い外套を翻した男が歩み出てきた。
炭治郎は鼻を鳴らし、その匂いに戦慄した。――鬼とも人間とも違う、あまりに深淵で、研ぎ澄まされた気配。その背後には、次元を歪めるような異形の悪魔たちが静かに控えている。
「……随分と無慈悲なものを埋め込まれたものだな。あとの掃除は、俺とこいつらでやる」
男の言葉と同時に、背後の上位悪魔たちが空間そのものを書き換えていく。上位悪魔たちが改造鬼の内部へ手を差し込むと、肉体に癒着した異物だけを分解し、彼らの構造を無理やり停止させていく。それは破壊であり、同時に最期の慈悲でもあった。
わずか数十秒の蹂躙。森に再び静寂が戻る。
男は静かにガンプを納め、膝をつくしのぶの方へ歩み寄った。
「久しぶり、しのぶちゃん。……お前が守ってくれたこいつらのおかげで、戻ってこれた」
その光景に、義勇は目を見開き、しのぶは安堵に瞳を揺らす。三年前、門の向こうへ消えたはずの神代駆が、戦場の理を書き換えながら、静かに、そして圧倒的な強さで帰ってきた。新入り隊士は、震える手で刀を拾い上げることも忘れ、ただその圧倒的な光景を夢見心地で見つめていた。