ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 〜大正の刃と現代の悪魔召喚師〜   作:ガチャガチャクツワムシ

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深淵からの帰還、残された希望

柱合会議から数日が経った午後。深い、泥のような眠りの底から、神代駆はゆっくりと意識を引き揚げた。

 時空の壁を強引にこじ開けた反動。あの門を力ずくで突破し、こちらの世界へ這い出した直後、身体が限界を迎えて糸が切れたように意識を失ったのだ。

「……んー、……死ぬかと思った」

 重い身体を引きずるように上体を起こす。枕元のガンプを手に取り、銃身の冷たい感触で現実を確かめた。銃火器主体のスタイルは師匠の教えであり、自身の性分にも合っている。異界を彷徨い、無理やりこじ開けて戻る過程で、その練度はより洗練されていた。

 ちょうどその時、様子を見に来たしのぶが静かに襖を開けた。傍らには、駆の安眠を守り続けていたハヤタロウが座している。

「よう、しのぶちゃん。悪いね、あの門をこじ開けて戻ってくるのに手間取っちゃってさ。あっちの感覚じゃ半年くらいだったんだけど、戻ってきて即、丸三日も眠っちまったよ」

 へらりと笑う駆に対し、しのぶの歩みが止まった。

「……三日? 神代さん、あなたが異界に消えてから、こちらでは三年もの月日が流れているのですよ。あなたが帰還して倒れてからでも、もう数ヶ月は経っています」

「…………は?」

 驚愕する駆に、しのぶはこの三年の変化を語った。鬼殺隊の勢力図、そして三年前に駆が救った胡蝶カナエが、怪我の影響で柱を引退し、後進の育成に回っていること。代償として、あまりに長い時間が過ぎ去っていたのだ。

 そこへカナヲに連れられ、引退したカナエ、そして炭治郎と禰豆子が姿を現した。

 成長したカナエや炭治郎を前に、駆は少しだけ表情を引き締め、禰豆子の入った箱の前に膝をつく。

「いいかい、炭治郎だっけ。……ここからは召喚師としての真面目な話だ。この世界の『鬼』ってのは魂を蝕む。一度魂が腐り落ちちまえば、外側をどう繕っても二度と人間には戻れない。それがこの世界の理だ。でも、この子は違う。三年間、俺の仲魔たちがじっと観察してきた結論も同じだ。彼女の魂は侵食が表面だけで止まってる。内側の核が、奇跡的に『人間』のまま変質を拒絶してるんだ」

「……っ! じゃあ、禰豆子は!」

 身を乗り出す炭治郎に対し、駆はあえて突き放すような冷ややかな視線を向けた。

「勘違いするな。俺は『可能性がある』と言っただけで、『治し方を知っている』とは一言も言ってない」

 その氷のような響きに、しのぶが切実な面持ちで問いかける。

「……神代さん。三年前、産屋敷様の屋敷の上空に現れた『異界の主』のような存在。あの圧倒的な力を持つ神に近い存在を、再び喚び出し……交渉することは叶わないのですか?」

「無理だ。断言するよ」

 駆の声は感情を一切排した無機質なものだった。それを受け、カナエもまた祈るように手を組んで食い下がる。

「でも、もし私たちがその存在に誠意を見せれば……神代くん、あなたなら繋ぎを取れるのではないかしら?」

 駆はその発言を鼻で嗤った。

「交渉? 誠意? 冗談だろ。カナエちゃん、あんたもあの時見たはずだ。あれが、人間の願いなんて聞き入れる存在に見えたか? ……あの手の最上位にとって、人間なんてのは路傍に転がっている石ころ以下の価値しかない。連中が関心を持つのは、力で自分を屈服させる上位者か、あるいは弄ぶに値する魂だけだ。慈悲なんて概念、あいつらの辞書には一行も載ってないよ。もし仮に、今の俺があいつらを引き摺り出したとしても……そこに待っているのは救済じゃない。ここにいる俺以外の魂が一瞬で食い尽くされて終わりだ。向こうの理に安易に縋るってのは、そういうことだよ」

 駆はそこでふっと肩の力を抜き、いつもの薄い笑みを浮かべた。

「だからこそ、この世界の可能性に賭けるんだ。あんな異形に魂を売るより、この地で必死に足掻いてる奴らが作る『薬』や、あんたたちが磨いてきた『呼吸』の方が、よっぽど信頼できるし、よっぽど早い」

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