ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 〜大正の刃と現代の悪魔召喚師〜   作:ガチャガチャクツワムシ

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疾走する魔窟

 産屋敷邸で帰還報告を終えた駆が廊下を歩いていると、突如として背後から豪快な声が響いた。

「おお! 奇遇だな神代! 3年ぶりだな!」

 振り返れば、そこには炎柱・煉獄杏寿郎の姿があった。煉獄は駆の肩を力強く叩くと、そのまま勢いよく切り出した。

「実はこれから『無限列車』へ向かう任務がある。行方不明者が多数出ている列車だ。下弦の鬼が潜んでいる可能性が高い……君の持つ『異界の術』と、俺の炎があれば鬼の策など一刀両断! どうだ、共に来ないか!」

 駆は一瞬だけ思案した。眠りから覚めて間もない今、長時間の任務は身体に堪える。しかし、しのぶから聞いた「最近の鬼の異常な変化」が気に掛かっていた。何より、彼の護衛をしていた悪魔たちが、このところ何かに怯えるようにその気配を嗅ぎ取っていたのだ。

「……丁度良いリハビリになりそうだ。分かったよ、付き合おう。少しだけ用事を済ませてから、駅で合流する」

 そうして駆は拠点へ戻り、最低限の装備を整えると、煉獄の待つ無限列車へと乗り込んだのである。

 列車内。食欲に正直な煉獄の「うまい!」という雄叫びが響く中、駆は窓の外を流れる暗闇に意識を向けていた。そこへ炭治郎たちが現れる。

「あ、神代さん! 煉獄さんと一緒だったんですね!」

「やあ、炭治郎。相変わらず騒がしい連れだね。……神代駆だ。よろしくね、少年たち」

 駆は再会した炭治郎や初対面の善逸、伊之助を飄々といなしつつ、懐にあるガンプの冷たさを指先で確かめる。彼の五感は、列車の鋼鉄から伝わる微かな振動の中に、不自然な「脈動」を捉えていた。それは鬼の血鬼術とは異質な、異界の瘴気に近い粘り気を持った力。この列車は既に、単なる輸送手段ではなくなっていた。

 列車の屋根の上。下弦の壱・魘夢は、全身を駆け巡る奔流に恍惚としていた。無惨から与えられたものだと信じて疑わないその力は、実際には遥か彼方、異界の人形遣いが糸を引いて注ぎ込んだ「悪魔の魔力」だった。

 魘夢の身体は、自身の血鬼術と悪魔の魔力が混ざり合い、生物としての境界を次々と踏み越えていく。彼の「夢」を操る能力は増幅され、列車そのものが巨大な魂の咀嚼機へと変貌を遂げようとしていた。

 境界の向こう側、人形遣いの部屋。

 彼は人形の指先をわずかに動かし、戯れのように無限列車の構造式を書き換える。

「……気づくかな、ヤタガラスのサマナーは。あるいは、あの鬼たちが先に壊れるか」

 人形遣いの介入により、列車の壁面は肉腫のように脈打ち、乗客たちの寝息は死の静寂へと塗り替えられていく。

 車内の通路で、駆はゆっくりと立ち上がった。しのぶから聞いた「下弦の鬼」という情報に対し、あまりに強大すぎる魔素の反応。その背後にある「別の影」を、駆のサマナーとしての直感が射抜いていた。

「……おい、煉獄」

 駆は歩きながら、背後に座る炎柱に声をかける。

「どうやらただの鬼退治じゃ済まないらしい。列車のあちこちから、吐き気がするような異物の気配がする。……乗客全員を守り切るなら、お前さんのその炎、全力で使い切る覚悟が必要になるぞ」

 煉獄は一瞬、眉をひそめたが、すぐに快活な笑みを浮かべて立ち上がった。

「うむ! 状況が悪いということだな! 承知した、神代! 俺の責務は全うする!」

 二人の戦士が通路の先を見据える。乗客たちの意識が夢の澱みに呑み込まれる中、無限列車は人形遣いの演出する破滅の終着点へと加速し始めた。駆はガンプのシリンダーを回転させる。その瞳は、暗闇の向こうにある「傀儡師の影」を冷徹に見据えていた。

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