ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 〜大正の刃と現代の悪魔召喚師〜 作:ガチャガチャクツワムシ
無限列車の乗客たちが深い眠りに落ちる中、車内には不気味な粘り気を帯びた魔力が満ち始めていた。列車の屋根で、下弦の壱・魘夢は自身の内に溢れる「異質の力」に恍惚の表情を浮かべる。彼の血鬼術は、人形遣いの干渉により、悪魔の業【魔界化(パンデモニウム)】へと変質していた。もはや術者を倒せば解けるような代物ではない。この列車そのものが、現世から切り離された「実体を持つ異界」へと成り果てようとしていた。
夢の中、炭治郎は自ら首を斬ることで覚醒を試みるが、その行為すらも悪魔の能力【精神・物理吸収】によって異界の糧として吸い取られてしまう。目覚めるどころか、体力を奪われ、より深い絶望の淵へと沈んでいく炭治郎。現実の車内でも、異変は加速していた。眠っていた煉獄の身体をどす黒い肉の触手が締め上げ、その熱量すらも異界の「耐性」によって無効化され、ズルズルと闇に引き込まれていく。
その中で唯一、神代駆だけは退屈そうに欠伸をしながら椅子から腰を上げた。
「……あーあ。案の定、ルールが書き換わっちゃってるじゃん。ホント、懲りない奴だねえ、あの野郎は」
駆には、魘夢の術など最初から通用していない。修行で培った強靭な精神耐性と、何より人形遣いの「癖」を嫌というほど知り尽くしているサマナーとしての直感が、干渉を軽やかに弾き飛ばしていた。
「呼吸は無効、物理攻撃は吸収……。ったく、下弦の鬼には随分と身の丈に合わないオモチャをあてがうんだから。悪趣味にもほどがあるだろ」
駆は懐からガンプを抜き放つ。周囲を見渡せば、列車の壁面は既に肉壁と無数の眼球が気味悪く蠢く「魔界」のそれと化していた。炭治郎や煉獄たちは、その脈動の一部として静かに呑み込まれようとしている。
「おーい、炭治郎、それと煉獄! 聞こえてるー? ……ま、返事がないってことはどっぷり夢の中だね。悪いけど、ここからは
駆は冷徹な光を瞳に宿すと、ガンプの銃口を、肉壁と眼球がせめぎ合う空間そのものに固定した。彼の狙いは鬼そのものではなく、この列車という空間を縛り付けている「術式の核」だ。
「ここからはサマナーの領分ってことで。……野暮な掃除、始めようか」
駆が慣れた手つきでシリンダーを弾くと、ガンプから「万能属性」の淡い光が零れ落ちた。
――ズドン、と乾いた音が響く。
その一撃は、鬼の血鬼術や悪魔の障壁などなかったかのように、空間の歪みの「綻び」を的確に穿った。
「戻れ。……この世界の理じゃないものは、全部、大人しくあっちへ帰ってな!」
駆が追撃の二の弾を叩き込むと、車内の空気が一瞬にして反転する。魘夢が構築した「演出」に、無理やり「こちらの理」を上書きする強引な解体作業だ。車内の肉腫が剥がれ落ち、眼球たちが破裂して霧散する。炭治郎たちの魂を縛り付けていた鎖が悲鳴を上げて崩れ去っていく。
人形遣いの思惑が駆け巡るなか、無限列車という魔窟に、駆の一撃が風穴を開ける。八咫烏のサマナーによる、異界解体のリハビリテーション。その静かなる蹂躙が、今まさに幕を開けた。