ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 〜大正の刃と現代の悪魔召喚師〜 作:ガチャガチャクツワムシ
「神代、下がれ! この男は上弦だ、これまでの鬼とは次元が違う!」
煉獄の鋭い叫びが響く。だが、駆はその警告を背中で受け流し、一歩、また一歩と猗窩座の間合いへと踏み込んでいく。
「……何だ、お前は。鬼でも鬼殺隊でもない、妙な匂いのする人間だな」
猗窩座の眼光が駆を射抜く。その「術式展開」が駆の闘気を捉えようと試みるが、猗窩座の顔に微かな困惑が走った。
「……ない? 闘気が、見えないだと?」
駆は内面を完全に封じ込めている。その立ち姿は虚空そのものでありながら、物理的な実在感だけが異常に肥大化していた。
「神代! 一人で戦う必要はない! 早く仲魔を呼び出すんだ!」
煉獄の焦燥混じりの警告に、駆は横顔に薄い笑みを浮かべただけで、ガンプを構える素振りすら見せない。
「悪魔を使えって? ……いや、こいつ相手なら、まずは自分の『体』がどこまで動くか試しておかないとね」
駆はダガーを逆手に構えた。次の瞬間、駆の姿が消える。
「──!? 速いッ!」
猗窩座が反射的に放った「破壊殺・空式」を回避し、駆はダガーの柄で猗窩座の顎を叩き上げた。不意を突かれた猗窩座が、怒りのままに渾身の突きを放つ。岩山をも砕くその拳を、駆は攻撃の衝突する刹那、指を鳴らして『ラクカジャ』と『タルカジャ』を展開。
――ッ!!
魔力が爆発的に練り上げられ、駆の腕に宿る。駆は猗窩座の拳を「片手」で正面から受け止め、その勢いすら利用して大地を削った。
「力比べがしたいのか? 悪いが、俺の修行に比べりゃ、お前さんのそれは『甘い』んだよ」
駆は受け止めた腕を逆に掴み返すと、猗窩座の身体を軽い木偶のように強引に引き剥がした。己の武を真っ向から否定される屈辱に猗窩座が目を見開く。駆は掴んだ腕を軸にして体勢を崩し、引き千切らんばかりの勢いで宙へ放り投げる。追撃の連撃を叩き込み、渾身の回し蹴りが猗窩座の胴体を捉えた。
──ズドォォォォォン!!
爆音と共に、猗窩座は森の彼方へと消えた。
「……嘘だろ、あの鬼を……力で?」
炭治郎が呆然と呟く。煉獄もまた、驚愕に目を見開いたまま動きを止められずにいた。
「神代……貴殿、一体いつの間にこれほどの……!」
「凄い……! 猪突猛進する俺でもあんな芸当は無理だぞ……!」
伊之助が興奮と恐怖の入り混じった声を上げる中、駆は森の奥へ踏み出した。その時だった。暗闇から異様な気配が溢れ出す。数十体の悪魔たちが森から湧き出したのだ。
「……おいおい。何でこんな場所に、魔界の連中がワラワラと湧いてくるんだ? 筋書きのない乱入……。どう考えても異常だろ」
駆は不信感を抱きつつも、瞳を冷酷な光に染め上げる。
「何が原因かは知らんが、駆除対象が増えただけだ。どいつもこいつも、まとめて塵にしてやる」
駆はガンプを掲げ、指を鳴らした。
「黄龍……! 力を貸してくれ。この場の不浄を、すべて光で塗り潰すよ!」
天を割らんばかりの黄金の光が降り注ぐ。四神の長・黄龍がその巨体を現し、圧倒的な神威が森を支配した。駆は不敵に笑い、銃口を異形の群れ、そして森の奥に潜む鬼へと向け直した。