ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 〜大正の刃と現代の悪魔召喚師〜   作:ガチャガチャクツワムシ

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繋がる回線

産屋敷邸での謁見から数日。駆は鬼殺隊の本拠地近くに用意された、古びているが手入れの行き届いた一軒の離れを拠点として借り受けていた。

 そこは藤の花の香りが微かに漂う、静かな場所だった。

 駆はロングコートを脱ぎ、部屋の隅に置いたバックパックから、大正時代には存在しない現代の道具や支給品を次々と取り出していく。

「さて、まずは荷物の整理か。異界化バッグのおかげでホームレスにならずに済むのは助かるな」

 この数日、駆は「挨拶代わり」として、柱数人と模擬戦を行っていた。

「……しかし、あの不死川とかいう男、本気で仲魔を斬ろうとするんだから恐れ入る。こちらの仲魔が『物理反射』の耐性を持っていなかったら、今頃こっちの魔力が空っぽになるところだった」

 模擬戦では、駆自身はガンプによる銃撃を使わず、護身の格闘術と仲魔の召喚による防衛に徹した。日輪刀の苛烈な斬撃を、影から現れた真神がその牙で受け止め、実弥の放った烈風をジャックランタンの火柱が相殺する。さらには、仕掛けた斬撃が不可視の障壁に弾き返されるという「スキル(異能)」の概念に、さしもの柱たちも攻略の糸口を見出せず、最終的には耀哉の仲裁で幕を閉じた。

 彼らに「デビルサマナーの戦闘は、既存の剣技の範疇にない」と理解させるには、十分すぎるデモンストレーションだった。

 整理を終えた駆は、墨と筆を借りてきて、あらかじめ用意しておいた手頃な木札にサラサラと文字を書き連ねた。

 それを、離れの玄関の柱に堂々と打ち付ける。

『久遠寺探偵事務所・帝都支部』

「よし。形から入るのもプロの仕事だ」

 満足げに頷いたその時、不意に懐のガンプが規則的な微弱のノイズを発していることに気づいた。液晶画面の端で、緑色のシグナルが微かに明滅している。

「……磁場の乱れじゃない。これは、ヤタガラスの暗号プロトコルか?」

 反応を追って屋敷の裏手へと進むと、そこには地図にも載っていないような、朽ちかけた「名も無き神社」がひっそりと佇んでいた。

 鳥居を潜った瞬間、肌を刺すような高密度の霊子が渦巻くのを皮膚感覚で察知する。

「ビンゴだ。ここがこの土地の龍脈の結節点……つまり、時空の壁が一番薄い場所か」

 駆は拝殿の前に立ち、ガンプを神木の根元にかざした。端末の画面に「SIGNAL ACQUIRED」の文字が走り、電子ノイズの向こうから、聞き慣れた合成音声が響く。

『……こちらヤタガラス本部。……聞こえるか、神代駆。応答しろ』

「ああ、聞こえる。こちら駆。地獄の淵から生還した気分だよ」

 通信の向こう側にいるのは、現代のヤタガラスのオペレーターだった。

 駆は簡潔に現状を報告した。ダークサマナー『人形師』を追って次元の暴走に呑み込まれたこと。そこが大正時代の日本であり、「鬼」と呼ばれる生物学的なバグが存在していること。そして、現地の武装組織「鬼殺隊」と協力体制を築いたこと。

『……状況は把握した。次元回廊の再起動による貴公の帰還を最優先事項とする。だが、回廊を安定化させるには、こちらの世界での大規模な儀式と調整が必要だ。それまでは、その地での「人形師」の足取りの調査を継続せよ』

「了解だ。……ところで、こっちの物資が心許ないんだが、悪魔教典(アプリケーション)の解禁はまだか?」

『……残念ながら、時空の歪みが大きすぎる。現時点では、新規の悪魔召喚・合体機能はシステムロックされている。手持ちの仲魔のみで対応しろ。……ただし、現地での『調査報告(ミッションログ)』を重ね、こちらのデータが同期されれば、順次プロトコルを解除する』

「ケチだな……。まあいい、現場の苦労はいつものことだ。ログを貯めればいいんだろ?」

 そう話していると突如ブツリ、と通信が途切れる。

 駆は小さく溜息をつき、ガンプをポケットに収めた。「自己申告」という形ではあるが、本部との連絡がついたことで、自分がまだ「ヤタガラスのサマナー」であることを再確認できたのは大きい。

「帰還の目処は立った。……あとは、あの『人形師』の残滓をどう見つけ出すかだな」

 神社を後にしようとした駆の前に、いつの間にか一人の少女が立っていた。

 胡蝶しのぶだ。彼女は怪訝そうな、それでいて鋭い眼差しで、駆が今しがたポケットに隠した「光る機械」を見つめている。

「神代さん。……今、誰かと話していませんでしたか? それにその、手に持っているものは……」

「ああ、これかい? 遠くにいる上司への、ちょっとした活動報告さ。……ま、探偵の独り言だと思って忘れてくれ」

 駆は再び、いつもの食えない笑みを浮かべてロングコートの襟を立て、彼女の横を通り過ぎる。

 現代と大正。二つの世界が細い電子の糸で繋がった瞬間だった。

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