ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 〜大正の刃と現代の悪魔召喚師〜   作:ガチャガチャクツワムシ

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大正異界、綻びの迷宮

帝都近郊、霧の深い山中。そこには最近「一度入れば戻れない」という、不気味な神隠しの噂が流れ始めていた。

 調査に訪れたのは、漆黒のロングコートに身を包んだ探偵・神代駆と、鬼殺隊の胡蝶カナエ、しのぶの姉妹だ。

「……神代さん。ここ、空気が妙に淀んでいますね」

 カナエが愛刀の柄に手をかけ、穏やかながらも鋭い視線で周囲を警戒する。駆は懐からガンプを取り出し、液晶に表示された虚空の歪み(数値)を確認して鼻で笑った。

「ああ、ただの霧じゃない。龍脈が逆流して、魔界のゴミが溜まってるな。……いいぜ、通りすがりのついでに掃除してやるよ」

 駆がガンプのトリガーを引き、空間の「継ぎ目」へと魔弾を撃ち込む。瞬間に、何もない空間がガラス細工のようにピキピキと音を立てて砕け散った。

 ──ゲート・オープン。

 一歩踏み出した先は、どろりとした紫の空に岩石が浮遊する、異形の閉鎖空間「異界」だった。

「これが異界……。鬼の棲み処とは、根本的に理が違うようです」

 異質のプレッシャーに、二人は素早く日輪刀を抜き、周囲の歪んだ空間から不気味な鳴き声を上げて這い出してきた悪魔たちを見据える。そこにいたのは、青白い肌に異様に膨れた腹、そしてギラついた飢餓感に染まった瞳を持つ、最下級の幽鬼『ガキ(餓鬼)』の群れだった。

「ギギッ……」「イ……ヒヒ……」

 耳障りな鳴き声を響かせながら、群れをなして距離を詰めてくるガキたち。駆はガンプのシリンダーを流れるような動作でスライドさせ、魔弾を素早く装填した。

「二人とも、注意してくれ! こいつらは物理的な干渉が利きにくい【幽鬼】の類だ。刀のままだと手応えが薄いが、属性(エレメント)の攻撃には滅法弱い。まずは俺が実体化(コード)を固定する!」

「属性【火炎】──『火炎弾』!」

 ドォォォンッ!

 ガンプから放たれた、爆発的な熱量を孕む火炎弾がガキの群れを一気に焼き払う。魔力の炎によってこの世界の理(レイヤー)に引きずり降ろされ、防御の崩れた悪魔たちの隙を、胡蝶姉妹の鋭い踏み込みが逃さなかった。

「花の呼吸 弐ノ型・御影梅!」

「花の呼吸 肆ノ型・紅花衣!」

 二人の流麗な剣技が、駆の火炎によって「斬れる状態」に固定された悪魔たちを次々と切り裂いていく。駆は戦況を冷静に眺めながら、ガンプの画面をスワイプして影から仲魔を呼び出した。

「真神、冷気で足止めしろ。ジャックランタン、残りを焼け!」

『ヒーホー! 任せろホー!』

 銀狼・真神が吐き出す氷結の息吹が悪魔たちの足を凍りつかせ、カボチャの妖精が放つアギラオの業火が群れの大半を撃破する。だが、駆はその中で一際小さく震えている一匹のガキを見逃さず、背後に回り込んでガンプの銃口を突きつけた。

「おい、そこ。死にたくなければ大人しくしろ。……『人形師』って名前に心当たりはあるか?」

 駆の瞳に宿る、悪魔すら気圧す冷徹な覇気。ガキは恐怖に引き攣った顔でヒィヒィと鳴き、必死に首を横に振る。知らないらしい。

「……有益な情報はなしか。だが、まあいい。お前は今日から俺の『手足』だ。せいぜい役に立てよ」

ガキは、ブンブンと頭を縦に降るのを確認した駆がガンプの画面を操作すると、電子的なノイズとともにシステムが起動した。

『SIGNAL REGISTERED:幽鬼ガキ、仲魔として登録』

 ガキは紫色の光に包まれ、霧のようにガンプの中へと吸い込まれていく。

「……神代さん、今のは?」

 しのぶが驚いたように問いかける。駆は悪びれもせず、肩をすくめて見せた。

「悪魔との交渉さ。こいつらは力だけで従わせるより、こうしてリソース(資源)として契約したほうが効率がいいんでね」

 駆がガンプを構え直し、異界の奥で脈打っていた魔力の核(コア)を正確に撃ち抜く。瞬間に歪んだ景色は音を立てて霧散し、三人は元の静かな夕暮れの森へと戻っていた。ガンプの画面には、本部へ送信される「ミッションログ」の進捗ゲージが僅かに上昇したことが示されている。

「……ふぅ。これで一旦は神隠しも収まるだろう。お疲れさん、二人とも」

 駆がロングコートの汚れを払い、ガンプをホルスターに収める。

「驚きました。神代さんの力があれば、こんな怪異もあっさりと解決してしまうのですね」

 カナエが感心したように微笑む。しのぶもまた、自分の知らない「世界の理」を鮮やかに解体し、敵であったはずの存在すら手中に収めてみせた駆に、深い興味を抱いたようだった。

「助かりました、神代さん。……ですが、あまり一人で格好をつけすぎないでくださいね?」

「ハハッ、そいつは善処するよ。さて、拠点の屋敷に戻って、現代の美味いコーヒーでも淹れようか」

 夕焼けに染まる帰り道。

 サマナーと剣士。異なる理を持つ三人の影が、穏やかに伸びていった。

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