ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 〜大正の刃と現代の悪魔召喚師〜   作:ガチャガチャクツワムシ

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毒の調合

修練の間から戻り、拠点で身支度を整えていた駆の前に、炭治郎が必死の面持ちで現れた。

「神代さん! お願いです、会ってほしい人がいるんです。……鬼舞辻無惨を倒すために、身を削って戦っている方を!」

 炭治郎の言葉に、駆はわずかに眉をひそめた。その人物が誰であるか、サマナーとしての直感が告げている。本来、深入りすべきではない領域だ。だが、今の無惨が異界の理に触れている懸念がある以上、無視はできなかった。

「……分かった。案内してくれ」

 月明かりの下、炭治郎に導かれた隠れ家。そこで駆は、一人の女性と対峙した。珠世。無惨を仇と狙う、鬼の医師。

「……初めまして、神代さん。炭治郎さんからお話は伺っています」

 珠世は穏やかに会釈するが、駆は徹底して内面を見せない「仕事モード」を崩さない。彼女が鬼である以上、一瞬の油断が死に直結することを知っているからだ。

「挨拶はいい。単刀直入に聞く。なぜ、俺と話したかった? 炭治郎を通してまで、俺を呼んだ目的は何だ」

「……私たちの目的は一つ。鬼舞辻無惨を倒し、鬼を人に戻すことです。そのために、あなたの持つ異世界の知識と力を、お借りしたいのです」

 珠世の真摯な眼差しを、駆は冷徹に受け止めた。

「……あんたの目的は理解した。だが、一つ忠告しておく。今のままのあんたのやり方では、ヤツには届かない。……ヤツは、既にこちら側の理──『人形師(パペッティア)』と接触している可能性がある」

 珠世の表情に、微かな驚きが走った。

「人形師……。それは、神代さんのような力を操る者ですか?」

「そうだ。もし無惨がその異質な理を取り込んでいれば、この世界の常識で精製された毒など、ヤツには通用しない。……だから、悪魔召喚師として提案させてもらう。俺の持つ『この世界には無い素材』を、あんたの薬に組み込め。毒には毒を、異界には異界をぶつけるんだ」

 駆は異界のバッグから、魔鳥モー・ショボーの『吸魔の羽粉』を取り出した。それは淡く発光し、この世界の物質とは明らかに異なる波動を放っている。

「まずはこれだ。ヤツの底を削り、薬の浸透を助ける触媒になる。だが、扱いを間違えれば精神を汚染されるぞ」

 珠世がその素材に手を伸ばそうとした、その時だった。

「待ってください、珠世様!」

 傍らに控えていた愈史郎が、鋭い声と共に割って入った。彼は駆の手にある素材を、まるで爆発物でも見るかのような険しい目で見据える。

「……その得体の知れない代物、珠世様に直接触れさせるわけにはいかない。万が一、珠世様の体に障りがあったらどうするつもりだ!」

 愈史郎は駆の前に踏み出し、自らの手を差し出した。

「その素材の管理、俺がやる。……俺なら、もし汚染が始まっても珠世様に被害が及ぶ前に自害できる。……おい、寄こせ」

 駆は、愈史郎の剥き出しの敵意と、それを上回るほどの献身的な覚悟を、冷めた目で見つめた。

「……いい覚悟だ。キミ……愈史郎だったか。責任を持って管理しろよ。この世界の理で測れない以上、頼れるのはキミのその執念だけだ」

「……貴様に言われるまでもない。珠世様のお役に立つなら、地獄の業火だろうが預かってやる」

 愈史郎は震える手を抑え込み、しかし慎重に、異界の素材を受け取った。

「期待しているよ、珠世さん。……格上の『人形師』ごと、ヤツを奈落へ叩き落とす『猛毒』を、完成させてくれ」

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