ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 〜大正の刃と現代の悪魔召喚師〜   作:ガチャガチャクツワムシ

50 / 80
地獄の淵

産屋敷邸での柱合会議を経て、鬼殺隊は未曾有の特訓期間──『柱稽古』へと突入した。だが、今回の稽古は例年とは一線を画していた。神代 駆の提案、そして四名の柱の承認により、選ばれた隊士たちが、駆の展開する「修練の間に近い異界」へと放り込まれたのである。

「……いいか、ここは現実とは理(ロジック)が違う。死なない程度に調整はしてあるが、心までは保証しねえぞ」

 駆がガンプのシリンダーを弾くと、空間が黄金の幾何学模様に割れ、隊士たちは一瞬にして禍々しい霊気に満ちた異界へと転移させられた。そこに待ち構えていたのは、巨大な牛の頭を持つ剛力の怪物と、馬の頭を持つ俊敏な怪物。

「召喚──地獄の門番、ゴズキ、メズキ。……おい、お前ら。適当に中級悪魔も呼び出してやる、コイツらに俺たちの『理』に慣らしてやれ」

「ガハハハ! 任せろ主殿! 露払い者共、我等に会わせろよ!」

 ゴズキが咆哮を上げると、影から『霊鳥ホウオウ』や『龍王ミズチ』が次々と這いだしてきた。

「ヒヒィーン! 貴様ら、止まれば死ぬぞ! 冥府の風に置いていかれるなよ!」

 メズキが超高速で戦場を駆け抜け、蹄から放たれる『ザンマ(中級衝撃)』の真空刃が隊士たちの羽織を引き裂いていく。

「ひ、ひぃぃぃぃっ! 何だよこれ! 空から火は降ってくるし、地面は凍るし、体が重くて動けないんだけどぉぉぉ!」

 善逸が鼻水を撒き散らしながら絶叫を上げる。周囲では、召喚された悪魔たちが絶え間なくスキルを乱射していた。

 駆の冷徹な声が響く。メズキの放つ『絶妙剣』が空間を切り裂き、ゴズキの『メガトンプレス』が大地を粉砕する。炭治郎は歯を食いしばり、日輪刀に宿る属性の理を必死に回転させていた。

「あがががっ! 腕が変な方向に曲がったぁぁ!」

 一人の隊士がゴズキの棍棒に弾き飛ばされる。だが、その直後、後方に控えていた『天使パワー』が冷淡に杖を振るった。

「──『メディラマ(中級全体回復)』。……主殿の命です。さあ、健やかに苦しみなさい」

 神々しい光が降り注ぎ、折れた骨が瞬時に接合される。

「嘘だろ!? 岩柱様の稽古だって、死ぬかと思うくらいキツかったのに! あれがまだ、お天道様の下の『極楽』だったなんて……!」

「戻してくれ! ここは本物の地獄だああああ!!」

 さらには、3年前から何度か共任務をこなしてきた仲である、村田までもが白目を剥いて叫んでいた。

「神代ぉ! 貴様、それでも人間か! 仲間に対する敬意とか親愛ねえのか、血も涙もねえのかよぉ!」

「ははは、元気があっていいな村田。だが勘違いするなよ? あんたたちが今受けてるのは、あくまでお前ら『一般用』のメニューだ。……柱たちは、今この瞬間も、もっと深い階層で更に『上位のスキル』が乱れ飛ぶ本当の地獄を味わってるぜ」

 駆はリンゴを齧りながら、怨嗟の声を心地よいBGMでも聴くかのように笑って受け流す。その頭上では、召喚された『堕天使オセ』が戦場を睥睨し、漆黒の翼から無数の黒い刺を射出していた。

「……甘い。貴様らの動きは、あまりに単調だ」

 オセの放つ『ジオンガ』の連鎖と、ミズチの放つ『ブフーラ(中級氷結)』が交差する。その猛攻の中、玄弥は日輪銃を構え、その銃身に宿るスキルを限界まで引き絞っていた。

「……ケッ、ボヤいてる暇があったら引き金引けよ! 弾道計算が狂えば即、アイツの刺が貫通してくるぞ! ……身体が熱い、だが、この理(スキル)なら届くはずだ……!」

 玄弥が放つ衝撃波が、オセの放った刺を空中で相殺する。その横では、猪の被り物を被った伊之助が、二本の刃を回転させながら獣のような咆哮を上げていた。

「ハハハハハ! 面白いぞ、この得体の知れないバケモノ共! 猪突猛進ッ! 属性だか理屈だか知らねぇが、この二刀で全部切り刻んでやるぜぇ!!」

 伊之助は、ミズチの放つ凍てつく冷気すらも「空間の隙間」を縫うように回避し、その鋭い直感で『切込み』のスキルを最大出力で解放する。氷の刃を粉砕しながら突き進むその姿は、まさに荒ぶる獣の化身そのものだった。

「ひ、ひぃぃぃぃっ! 玄弥も伊之助も、なんでそんなに平気なのさぁ!!」

 善逸が絶叫する中、ゴズキとメズキが不敵に笑う。

「ガハハ! 左様よ! あの柱とかいう連中、上位悪魔相手に何度も魂を削られ、その度に蘇生されながら戦っておるわ!」

「ヒヒィーン! 貴様らのように甘い温情はない! あちらは一瞬の油断が文字通り『存在の消滅』に繋がる領域。それに比べれば、ここはまだ『お遊戯』よ!」

 悪魔たちの証言に、隊士たちの顔が土気色に変わる。今のこの苦しみが、柱たちの受けている試練に比べれば微々たるものだという絶望的な事実。

「……う、嘘だ……。これ以上の地獄があるなんて……」

「頑張らなくていいんだよ炭治郎ぉぉ! 柱なんてならなくていいから帰ろうよぉぉ!」

 善逸が泣き叫ぶ中、再び悪魔たちの猛攻が再開される。即死や万能魔法こそ封じているものの、中級属性とデバフ、そして超高速の物理攻撃が休みなく襲いくるこの空間は、村田ら一般隊士たちの心身をも、異界の戦士のそれへと無理やり造り変えていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。