ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 〜大正の刃と現代の悪魔召喚師〜   作:ガチャガチャクツワムシ

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残火と月華の防衛線

──パキィィィィィン!! 

 無限城の全域を、耳を劈く「空間が割れる音」が震撼させた。人形使いが管理する因果律の糸が、外側からの圧倒的な暴力によって無残に引き千切られる。

「……おや。これはまた……。ボクの特等席に、ずいぶんと無作法なゲストが来たものだね」

 人形使いは焦るどころか、その異常事態に歓喜の声を上げる。彼のモニターには、三つの戦域を蹂躙する「侵入者」たちの姿が映し出されていた。

 炭治郎と義勇の絶望を打ち砕く、虚無の瞳を持つ少年・人修羅。

 黒死牟の魂を凍りつかせる、退魔の緑光を纏った十四代目・葛葉ライドウ。

 童磨の戦場。カグツチとスルトの二大神火を背負う神代駆の降臨に、死の冷気に耐えていたカナヲと伊之助が、熱風の中で目を見開く。

「……信じられない。空気が、一瞬で変わった……」

「カッカッカ! 氷の野郎がビビってやがるぜ! 焼いちまえ、駆のダンナ!」

 しのぶは、圧倒的な「圧」の中で薄く微笑んだ。

「……ふふ、駆さん。あなたの周りには、いつも理屈じゃない『奇跡』が集まるのですね」

「……悪いな、氷野郎。あんたの『悪魔との融合』、こいつらの前じゃただの初心者の悪あがきだ。3年前よりもっと、酷いことにしてやるよ」

 駆の指先が、火神の炎を極限まで膨れ上がらせた。

 

 同時刻、無限城の外側。鬼殺隊の本拠地、産屋敷の屋敷群は、無惨が放った刺客たちによる蹂躙の危機に瀕していた。

 それを食い止めていたのは、カナエとかつての炎柱・槇寿郎である。カナエは駆が託した五体の悪魔を、チェスの駒のように冷徹に操っていた。

「コウモクテン、正面の門を死守してください。フウキ、外周を風で薙いで!」

 カナエの指示に応え、中位の仲魔たちが防衛線を構築する。不動のコウモクテンが壁となり、フウキの風が鬼の陣形を切り裂き、タム・リンが影から死角を補う。そして何より、キクリヒメの淡い光が、息を切らす槇寿郎の闘志を絶やさない。

「……貴様、戦い方がまるで戦場の支配者だな。柱の頃とは別の意味で隙がない」

「駆さんが言っていたのです。『仲魔は道具ではない。信頼して並ぶ背中だ』と。彼らは私の大切な同僚です」

 駆が無限城という「心臓」を突く間、カナエはその「外殻」を鉄壁の守りで塗り固めていた。

――虚空に浮かぶ、硝子張りの観劇席。

 人形師は、数多の糸が交差する結節点から、投影された映像を眺めていた。モニターの代わりに、彼の眼前に広がるのは「人形の目」を通したリアルタイムの殺戮劇だ。

「……実にいい。強引な闖入者が、絶望の縁を熱量で塗り替えていく」

 彼は優雅にワイングラスを傾け、自らが操る「外側の世界」に拍手を送る。

「予定調和の悲劇を、外側からの暴力で粉砕する……! あははは! 君は私を喜ばせる天才だよ!」

 人修羅に圧壊される猗窩座、ライドウに切り捨てられる黒死牟、そして二大火神に蒸発させられる童磨。

「さあ、見せてくれ! このまま全てを焼き尽くし、私の目の前まで辿り着いてみせろ! その時、君という『不確定要素』が私をどう殺してくれるのか……私は今、猛烈に感動しているんだ!」

 人形師の哄笑が、激しく揺れる無限城──ではなく、彼が安らぐ観劇席の暗闇に木霊した。

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