ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 〜大正の刃と現代の悪魔召喚師〜 作:ガチャガチャクツワムシ
「……ちっ、これ以上好き勝手やらせるかよ」
駆は冷徹な怒りを瞳に宿しながら、愛用のガンプを構え、そのトリガーをハーフクリックした。銃身から電子音が響き、背後に主天使ドミニオンが実体化する。
「ドミニオン! メディアラハンだ!」
黄金の翼を持つ上位天使が、天秤を高く掲げる。神々しい治癒光がカナヲと伊之助を包み込み、致命的な損傷を負っていた二人の肉体を瞬時に完治へと導いた。
二人が奇跡に呆然とする中、駆は鋭く指示を飛ばす。
「傷は完璧に塞いだ。カナヲ、伊之助。お前たちは他の隊員の支援に向かってくれ。これ以上の脱落者は出させねえ。……しのぶは、俺が必ず取り戻す」
駆の放つ、プロとしての揺るぎない覚悟と静かな熱気。それに気圧されるように、二人は言葉を失いながらも深く頷き、それぞれの戦域へと走り出した。
駆はカナヲと伊之助を見送ると、すぐさま反転して無限城の深部へと突き進む。駆の周囲には、しのぶを奪われた怒りからか、尋常ならざる魔力の渦が巻いていた。その怒りは静かでありながらも、触れれば焼き尽くされるような、形容しがたい圧力を放っている。
「邪魔だ。……塵にすらさせねえぞ、まとめて消し飛べ」
駆がガンプのダイヤルを回し、二体の焔の化身へ命を下す。
「焼き払え。……スルト、ヒノカグツチ!」
炎の巨人と火の神が同時に召喚される。スルトの振るう魔剣「レーヴァテイン」が空間ごと鬼たちを断ち切り、ヒノカグツチが放つ神火の咆哮が、通路を埋め尽くす異形の群れを塵一つ残さず蒸発させていく。
付近で鬼と交戦していた隊士たちは、その光景を呆然と目撃していた。駆は多くの隊士を救ってきた英雄であり、信頼すべき協力者だ。だが、今の駆からはそんな慈愛の欠片も感じられない。しのぶを取り戻すという執念に支配され、悪魔を従えてただ破壊の限りを尽くす姿。その形相があまりに凄まじく、彼らは感謝の言葉を忘れて金縛りにあった。鬼への恐怖とはまた違う、人ならざるものへの根源的な恐怖で、彼らの身体は震えが止まらない。
その頃、善逸は因縁の相手である獪岳と対峙していた。
だが、その殺伐とした空気を、突如として背後から迫る「殺意の濁流」が塗り替える。
通路の先から響く、聞き覚えのある駆動音と重厚な足音。現れた駆の姿を認めた瞬間、獪岳の心臓が跳ね上がった。かつて1度だけ任務を共にしたの悪魔使いの力。だが、今の駆はあの時よりも遥かに深く、底なしの殺意に塗り潰されている。
あれは人間ではない。目的のためなら全てを焼き尽くす、理の外にある破壊衝動そのものだ――そんな本能的な恐怖が、彼の鬼としてのプライドを粉々に砕く。
「……ッ!? な、なぜ貴様が……!」
善逸もまた、駆の放つ冷徹な殺気と、その背後に漂う魔力の圧に息を呑む。駆は一瞬だけ善逸に視線を向け、その瞳に冷たい炎を灯したまま言い放つ。
「善逸、後は任せたぞ。邪魔する奴は、全員俺が排除しておく」
駆はそれだけ言い捨て、獪岳には目もくれずに駆け抜けていく。その圧倒的な通過によって周囲の空間は焦げ付き、獪岳は駆の背中を見つめたまま、恐怖でしばらく硬直せざるを得なかった。善逸との戦いに集中すべき集中力が、駆の存在によって完全に断ち切られる。
辿り着いたのは、無数の畳と琵琶の音が不気味に共鳴する異質な戦域。そこでは、蛇柱・伊黒小芭内と恋柱・甘露寺蜜璃が、鳴女の操る空間の変転に翻弄され、接近を阻まれていた。
「伊黒、甘露寺! 下がってろ!」
駆がその場に姿を現した瞬間、異変が起きた。
無限城という空間そのものを掌中に収めていた鳴女が、初めてその表情を凍りつかせた。駆の背後に揺らめく「理」を直感し、自身の存在そのものがこの城と共に消し飛ぶ——そんな抗いようのない死の予感に、彼女の指先が激しく震える。
「逃がさねえよ。……チェックメイトだ」
駆はガンプを天へと掲げ、全魔力を解放する。
「——メギドラオン」
駆の宣言と共に、空間を埋め尽くすほどの高密度な魔力奔流が鳴女を飲み込んだ。一切の慈悲もなく、回避の余地も与えぬ神の裁き。鳴女が自らの死を悟り、瞳に絶望を宿した直後、彼女の存在は光の霧となって跡形もなく消滅した。
城の『耳目』を失った瞬間、無限城の構造が激しく軋みを上げ、重力を無視して地上への強制排出が始まった。