ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 〜大正の刃と現代の悪魔召喚師〜 作:ガチャガチャクツワムシ
人形師が去り、静寂が訪れた戦場。しかし、そこには勝利の歓喜というよりも、命の灯火を今にも消そうとする戦友たちの嗚咽が響いていた。
「……まだだ、まだ終わらせねえ……!」
駆は限界を超えて悲鳴を上げる体に鞭打ち、ガンプのコンソールを狂ったように叩いた。全神経を焼き切るような負荷に歯を食いしばり、悪魔全書の奥底から、かつてない高密度のエネルギーを再ロードする。
「相棒……力を貸せ! 再召喚(リロード)ッ! アザゼル!!」
駆の叫びと共に、六翼を広げた漆黒の巨神アザゼルが再び戦場に降り立った。駆はプログラムを強引に書き換え、その破壊の権能をすべて「生」の波動へと反転させる。
「万物を癒せ、メシアライザー!!」
アザゼルの掌から、朝日さえも霞むほどの清浄な光が溢れ出した。だが、代償はあまりに過酷だった。既に底を突いていた駆のMAGは限界を超えて削り取られ、全身の血管が浮き上がり、毛穴から血が噴き出す。視界が真っ赤に染まり、意識が闇に引きずり込まれそうになりながらも、駆はアザゼルの出力を維持した。
光は波紋のように広がり、柱たちの傷を塞ぎ、無惨の毒を浄化していく。宇髄の腕が、実弥の腹部が、煉獄の内臓が奇跡的な速度で癒えていく。救護に駆けつけた胡蝶カナエも、妹・しのぶの傷が癒えたことを確認し、安堵の涙を流した。
「……神代殿、感謝いたします。だが……」
穏やかな声が響いた。悲鳴嶼行冥だけが、自らに降り注ぐ回復の光を、数珠を握りしめた手で静かに押し止めていた。
「悲鳴嶼さん!? 何を……もっと光を浴びてください!」
宇髄や煉獄、不死川たちが必死に説得し、甘露寺が泣き崩れる。だが、悲鳴嶼はただ慈愛に満ちた微笑を浮かべていた。
「……南無阿弥陀仏。貴方方の慈悲は十分に受け取りました。……ですが、私の体はもう、これ以上の生を望んでおりません。……あの子たちが、待っているのです」
悲鳴嶼の視線の先には、誰にも見えない「あの子たち」がいた。彼は自分の命が尽きることを、誰よりも深く理解していた。
「……神代殿、最後に一つだけ。……
駆は差し出した手を震わせ、唇を噛み締める。アザゼルによる最高位の治癒術をもってしても、魂そのものが帰還を拒絶する者を繋ぎ止めることはできない。アザゼルもまた、主の限界を悟ったように光の粒子となって還っていった。
「……ああ、約束する。……あんたの分まで、しっかり見届けてやるよ」
駆の言葉に、悲鳴嶼は満足げに深く頷いた。最強の柱と呼ばれた男は、昇る朝日の光に包まれながら、静かにその生涯を閉じた。その魂は、かつて救えなかった子供たちが待つ場所へと迷いなく還っていった。
誰もが涙を流す中、駆は朝日を見上げた。悲しみは消えないが、彼が守り抜いた若き芽が、そしてカナエに抱かれて眠るしのぶが、確かにこの新しい一日を生きていた。
「……相棒、終わったな」
駆は呟き、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。
空はどこまでも高く、青く、残酷なほどに美しく晴れ渡っていた。この過酷な夜を越えた先には、誰も見たことのない、静かで尊い朝が訪れていた。