ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 〜大正の刃と現代の悪魔召喚師〜   作:ガチャガチャクツワムシ

75 / 86
異界の果て、始まりの街

 「あと三十分」という切迫した刻限。社のふもとには、しのぶの姉であるカナエと炭治郎、善逸、伊之助、そして柱たちが全員揃っていた。

「神代さん! しのぶ!!本当に行ってしまうのですね……。それも、しのぶを連れて」

 カナエの言葉に、駆はしのぶの肩を抱き寄せ、不敵に笑う。

「ああ、勝手をして悪い。だが、彼女を一人にするのはもう御免なんだ」

 炭治郎の涙の叫び、実弥のぶっきらぼうな脅し、宇髄たちの豪快な励まし。しのぶはそのすべてに深い感謝を込めて一礼した。

「皆様、本当にありがとうございました。私は、この人が命懸けで守ってくれたこの世界が、大好きです」

「もしこの世界にまた、悪魔が現れたなら俺や俺の仲魔が必ず解決に来る。それが俺のデビルサマナーとしての矜持だ」

 最大級の光が弾け、世界が反転する。鼻を突いたのは、錆びた鉄と油の混じる、ひどく現実的な「廃工場」の匂いだった。駆としのぶが立っていたのは、元の世界の片隅にある忘れ去られた廃屋。次元の扉が閉じる重厚な音が、二人の帰還を告げた。

「……ここが、駆さんの世界ですか」

「ああ。お世辞にも綺麗とは言えねえが……俺たちの世界だ」

 闇の中から現れたのは、鴉の仮面を纏ったヤタガラスの使者だった。

『見事な幕引きであった、神代駆。……約束通り、報酬を授けよう。富か、さらなる叡智か。望むものを口にせよ』

 駆は迷いなく答えた。

「報酬はいらねえ。……彼女、胡蝶しのぶを、今日からこの世界の正式な住人として認めてくれ。ヤタガラスの権限を使いゃ、造作もないだろ?」

 自らの命を懸けた報酬を、他者の「居場所」のために使い切る不合理。使者は沈黙ののち、静かに手をかざした。黒い羽の粒子がしのぶの周囲を舞い、彼女という存在をこの世界の理へと繋ぎ止める。

『少女よ。存分に謳歌せよ、その平穏な日々を』

 使者が闇に消えたあと、駆はしのぶの手を引いた。廃工場の外には、ネオンの光が滲む、混沌と活気に満ちた夜の街が広がっている。

「駆さん。私、本当にいいのでしょうか。大切な報酬だったのでしょう?」

「いいに決まってんだろ。これで君は、この世界の住人だ。さて、まずはカラスの師匠に顔を見せて、その後に蓮先生の店に突撃だ。あっちの鬼共より、よっぽど騒がしいからな」

 駆が悪戯っぽく笑い、しのぶが「はい!」と嬉しそうに頷く。

 二人は夜の街へと歩き出した。

 鬼のいない朝が待つ世界を背に、二人は、自分たちだけの「日常」という物語を、ネオンの光の中で力強く刻み始めていた。




これで本編は完結となります。
次の話からは番外編となります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。