ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 〜大正の刃と現代の悪魔召喚師〜   作:ガチャガチャクツワムシ

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ティータイムの同居人

 数日後の午後、神代探偵事務所。窓から差し込む柔らかな陽光が、いつもは怪しげな事務所を穏やかな茶室のように変えていた。

「……ふふ、どうぞ。美緒さん、お口に合えば良いのですが」

 藤色のエプロンを纏ったしのぶが、丁寧に淹れた紅茶と、焼き菓子をテーブルに並べる。

「わあ、ありがとう! しのぶさんの淹れるお茶、本当においしいから大好き」

 美緒は嬉しそうにカップを手に取った。駆は仕事で外回り。今日はしのぶが一人で留守番を任されていた。そこに、学校帰りの美緒が遊びに来たのだ。駆は普通の探偵の仕事の為、最高戦力である魔王たちはガンプで休ませており、今は防犯と世話を兼ねた、比較的大人しい「低位の悪魔」たちだけが事務所で気ままに過ごしていた。

「駆兄、最近どう? ちゃんと仕事してる? また無茶して変な傷とか作ってないかな」

「……ふふ。駆さんはいつだって、ご自身が『普通』だと思いながら、どうしても日陰者のような危うい場所を選び取ってしまう方ですからね。でも、大丈夫ですよ。彼がどんなに深い闇へ向かおうとしても、今は私が隣にいます。二度と、彼を一人にはしませんから」

 しのぶが穏やかな、しかし揺るぎない覚悟を宿した瞳で微笑んだ、その時だった。

「ヒーホー! お茶会だホ! 僕にも一口、冷たい紅茶を飲ませてほしいホ!」

 パタパタという足音と共に、テーブルの下から『ジャックフロスト』が勢いよく飛び出してきた。

「きゃっ!? な、なに、この可愛い子……!?」

 驚く美緒の膝に、フロストは迷わず飛び乗った。

「ヒーホー! お姉ちゃん、いい匂いがするホ! ……なんだか、駆の匂いと少し似てる気がするホ! 僕はジャックフロストだホ!」

 雪だるまのような精霊が、純粋な瞳で美緒を見つめる。

「……駆兄の、匂い?」

 美緒は思わず自分の襟元を確かめた。いつも戦いの影を纏い、どこか冷たく鋭い気配の中にいる駆。けれど、こうして「彼の一部」である仲魔たちに囲まれていると、彼が確かに温かな場所に根を下ろしているのだと実感できる。

「……あ、これ、お兄がくれたやつ……。そうか、これもお兄ちゃんたちの世界の一部なんだね」

 美緒は少し緊張を解き、指先でジャックフロストの冷たい頭を恐る恐るつついた。

「……駆兄、一人で戦ってると思ってたけど。しのぶさんや、こんなに賑やかな子たちに囲まれてるなら、少しだけ安心したかも」

「ふふ、そうですね。駆さんは寂しがり屋ですから、これくらいが丁度良いのかもしれませんね」

 事務所の隅では、妖精ピクシーが美緒の髪に小さな光の粉を振りかけて遊び、フロストは紅茶の湯気に誘われて満足そうに喉を鳴らしている。駆の日常は、こうして誰かを守るための優しさと、小さな異界の住人たちによって温かく守られていた。

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