ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 〜大正の刃と現代の悪魔召喚師〜   作:ガチャガチャクツワムシ

86 / 86
甘く危険な「居場所」

「あら、いらっしゃい! 駆ちゃんにしのぶちゃん、それに美緒ちゃんまで。珍しい顔ぶれじゃない」

 ド派手なネオンが輝くゲイバー『Club 蓮華(れんげ)』の扉が開く。カウンターの奥で出迎えたのは、街の顔役にして誰もが恐れ敬うオネェ、鬼龍院蓮だ。

 184センチの筋骨隆々な体に黒いヒョウ柄のタンクトップ。真っ赤なハイヒールを鳴らして歩く姿はまさに「動く要塞」だが、バッチリ決めたケバいメイクの下には、垂れ目の優しげな美形が隠れている。

「……ママ、いつもの。美緒としのぶちゃんには、適当に甘いもんでも出してやってくれ」

 駆は赤面を隠すようにハットを深く被り直し、カウンターの隅に腰を下ろした。だが、蓮の鋭い眼光は誤魔化せない。

「なによ駆ちゃん、その茹で上がったタコみたいな顔は。……美緒ちゃん、さては何か面白いこと聞いたわね?」

「あはは、バレちゃった? 蓮さん、聞いてよ! お兄ちゃんがサマナーになった時の話!」

 身を乗り出した美緒が、アザゼルから聞いた「泥だらけのイヌガミを力ずくで押さえつけた少年・駆」のエピソードを意気揚々と披露し始める。

「ははぁ、なるほどねぇ! あの泣き虫だった駆ちゃんが、『一人になるのが怖かったんだろ』なんて! ヒーッ、傑作ね!」

 蓮が豪快に笑い、カウンターを叩く。その筋肉が躍動するたび、駆は生きた心地がしない。脳裏には、自分を裏の世界へ引きずり込んだ師匠・久遠寺鴉の、モリアーティ教授のような食えない笑顔が浮かぶ。

(……ったく。あのアネゴも、あの胡散臭い師匠も……。俺の周りには、まともな大人が一人もいねえのかよ)

「……ふふ。ですが、駆さんのその“青さ”があったからこそ、私も今ここに居られるのです。本当に、素敵なマスターですこと」

 しのぶが慈しむような視線を向け、追い打ちをかける。駆はもはや顔を上げることもできず、差し出された超・強炭酸レモンサワーを一気に煽った。

「……ッ、くぅ……効くぜ。日陰者の夜には、これくらい尖ってる方が丁度いい」

 喉を焼く刺激で一息ついた駆に、蓮が真っ赤なネイルの指先でカウンターをトントンと叩いた。

「なによ駆ちゃん、私まで美緒ちゃんに吹き込まれたと思ってるの? あんたのその『青っちょろい英雄譚』なんて、とっくの昔にあのジジイから聞いてるわよ」

「……っ!? 師匠が……?」

 むせ返りそうになる駆を余所に、蓮はおかしそうに肩を揺らす。

「あのジジイが自慢げに電話してきたのよ。『面白いガキを拾った。悪魔の孤独に寄り添うなんて、サマナー失格の聖人君子か、底なしの馬鹿だ』ってね。……でもね、最後にはこう言ったわ。『だからこそ、あいつには居場所が必要だ。蓮、あいつの“甘さ”を殺さずに育ててやってくれ』って。……珍しく真面目なトーンでね」

「……。……フン。余計なお世話だ。俺は、勝手に育つよ」

 駆はぶっきらぼうに吐き捨て、二杯目のグラスを注文した。

 派手なネオン、しのぶの微笑み、美緒の笑い声。そして、遠い街から自分を見守る師匠の影。

(……やれやれ。これじゃ、普段の仮面をかぶる隙なんて、一ミリもねえな)

 喉を焼く炭酸の刺激が、不器用なサマナーの照れ隠しを優しくかき消していく。

 神代探偵事務所の夜は、こうして「愛すべきお節介」に満ちたまま、賑やかに更けていくのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

アナキンの親友になって色々あって旅に出た英雄の話(作者:紅乃 晴@小説アカ)(原作:スターウォーズ)

アナキンの親友になって。▼アナキンの代わりに暗黒面に落ちて。▼そしてエンドアの戦いで帰還した主人公。▼彼は師であるパルパティーンと共に宇宙に出て▼フォースの根源を探究する旅を続けていた。▼だが、彼らの旅路は大きな渦に巻き込まれていくのだった。▼※過去作、アナキンの親友になったら暗黒面に落ちた件の続編です。▼https://syosetu.org/novel/…


総合評価:4676/評価:8.79/連載:31話/更新日時:2026年07月02日(木) 09:27 小説情報

コードギアス 転生のルルーシュ(作者:よみや)(原作:コードギアス)

気がついたらルルーシュに転生していた男が、ハーレムエンドを目指して頑張る話。


総合評価:9952/評価:8.76/連載:7話/更新日時:2026年07月02日(木) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>