ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 〜大正の刃と現代の悪魔召喚師〜 作:ガチャガチャクツワムシ
「めんどくせぇなー……」
珍しくフォーマルなスーツに身を包みながら、駆はこれ以上ないといった様子で盛大にため息をついた。そんなだるそうにしている彼を、昔馴染みの友人がからかうようにバシッと肩を叩く。
「いいじゃないか! お前、同窓会なんてほとんど顔を出さないんだからさ」
そう笑い合いながら歩いているうちに、やがて目的の会場であるホテルの宴会場へと着いた。
「おっ! 神代じゃないか! 久しぶりだな!」
会場に入るなり、そう声をかけてきたのは高校のクラスメイトの男だった。
「どういう風の吹き回しだよ? いつもは仕事が忙しいって断るくせにさ」
「こいつがやたらとしつこく誘ってきたんだよ」
駆が面倒臭そうに隣の友人を指さすと、友人はケラケラと笑う。
「お前、半年以上ロクに連絡も取れなかったからな。こうでもして引っ張り出さないと、マジで死んでても気づかれなさそうだったからさ!」
「大きなお世話だ!」
そんな軽口を叩き合っていると、駆が来ていると聞きつけた他のクラスメイトたちも、面白そうに次々と声をかけてきた。
「しっかし、お前よくあの久遠寺さんの探偵事務所の弟子になれたよな」
「まぁ、偶然さ。高2の時に筋がいいってことでスカウトされたんだよ」
「すげぇな……。にしても、普通の人間よりよっぽど稼いでるんだろ? だって、あの駅前のビル丸ごと所有してるって聞いたぞ」
「いやいや、あれは蓮ママから管理人代わりを頼まれて、事務所兼住まいにさせてもらってるだけだっての」
そんな賑やかな会話の最中、ふと一人の男がニヤニヤとした笑みを浮かべた。
「そういえばさ、噂で聞いたんだけどよ……お前、物凄い美少女と同棲してるってマジか?」
その質問に、隣にいた友人が「待ってました」と言わばかりにニンマリと笑う。
「おっ、よくぞ聞いてくれた! 実はこっそり写真撮らせてもらったんだが、お前ら見たいか? ちなみに、噂に違わぬとんでもねぇ美少女だぞ!」
友人が得意げにスマホの画面を突き出すと、そこに写っていた胡蝶しのぶの写真を見たクラスメイトたちは「マジかよ……!」と一斉に驚愕の声をあげた。
「めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか! おい神代、お前こんな圧倒的な美少女と一つ屋根の下で暮らしてんのかよ!」
羨ましそうに騒ぎ立てるクラスメイトたちに、駆はやれやれといった調子で肩をすくめる。
「おい、変な誤解するなよ。師匠の知り合いで、古い武術の家系の跡取りなんだよ。師匠から頼まれて、うちで助手を手伝ってもらってるだけだっての」
「こんな美少女とお近づきになりたいぜ! 今度紹介してくれよ!」
「いいけど、付き合うなら蓮ママが認めないと無理だぞ」
駆がさらりと言ってのけた瞬間、周囲の空気がサーッと凍りついた。
「……って、あの蓮ママか? あの、商店街のトラブルも一発で解決してくれたり、困ったときは親身に相談に乗ってくれる、あの『クラブ蓮華』のママ……?」
「ああ。あの人、面倒見いいからな。それに、しのぶちゃんの事もすごく気に入って可愛がってるんだよ」
「そ、そうか……! あの優しいママが目を光らせてるなら、下心で近づいたらマジでただじゃ済まなそうだな……」
「おっかないって言うか、下手に手を出してママを敵に回したら、この街で生きていけなくなるわ!」
クラスメイトたちは、街の誰もが頭が上がらない地元の顔役の影を思い出し、冷や汗を流しながらそっと身を引くのであった。
そんな賑やかな会話の喧騒から少し離れた場所で、1人の女性クラスメイトがグラスを握りながら、誰にも聞こえないほどの小さな声でぽつりと呟いた。
「……私も、駆君と一緒に住んでみたいなぁ」
けれど、その切ない想いは周囲の笑い声にかき消され、誰の耳にも届くことなく、ただ夜の空気に溶けていくのであった。