ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 〜大正の刃と現代の悪魔召喚師〜 作:ガチャガチャクツワムシ
とある日の午後。
事務所の中で、駆はパソコンに向かって表の仕事である探偵業の報告書を作成しており、その傍らでしのぶは愛用のレイピアを丁寧に研ぎ磨いていた。
静かな時間が流れる中――突如、バンッ!と事務所のドアが蹴破られんばかりの勢いで開け放たれた。
「駆! 今、大丈夫か!?」
低く響くがしかしどこか高く通る艶やかな声。
駆が顔を上げると、そこには息を荒らげた一人の『絶世の美女』が立ち尽くしていた。整った銀髪のボブカット、切れ長の妖艶な瞳に、紫がかったインナーと白のスーツをスタイリッシュに着こなしたその姿。あまりの美しさに目を奪われつつも、どこか聞き覚えのある声に駆は首を傾げた。
「あれ? ……もしかして、美月さんですか?」
「そうだ! 大変なことが起こったんだ!!」
あまりの狼狽ぶりに、レイピアを鞘に収めたしのぶが優しく寄り添い、ソファーへと促した。
「あの……まずは落ち着かれたほうが……」
しのぶが温かいお茶を淹れて差し出し、美月がそれを一口飲んで一息つく。
念のため、駆は天神組の若頭である秋津に連絡を入れて事務所まで来てもらい、改めて詳しい事情を聞くことにした。
ソファーに座り、隣に座る美月を見て不可解そうな顔で眉をひそめる。
「……おい静凛、お前……声や体付きが変じゃないか?」
「頭、そのことも含めて説明します! 実は……朝起きたら、無かったんです……!」
「何がだ?」
「俺の玉と竿がですよ!! それに胸もこんなにでかくなってるし! 駆!これ、絶対悪魔関係だろ!?」
焦りのあまり、美月はその場でズボンを脱いで証明しようとしたため、流石に秋津が「馬鹿野郎、女の子がいるんだ待て!」と慌てて押さえつけた。
すると、様子を見ていたしのぶがすっと前に出た。
「では、私が確認いたしますよ」
「頼んでもいいかな、しのぶちゃん?」
「任せてください」
しのぶは微笑むと、混乱する美月を促して奥の別室へと移動した。
残された事務所で、駆が秋津に向かって缶コーヒーを渡しながら説明する。
「彼女は、幼い頃から医療の知識を深く学んでいたので、解剖や身体の構造、裸なんかも見慣れているんですよ」
「そうなのか……なら安心だな」
秋津がタバコに火をつけ、紫煙を吐き出したところで、別室のドアが開き二人が戻ってきた。
「どうだった、しのぶちゃん?」
駆が尋ねると、しのぶは真面目な面持ちで報告した。
「拝見したところ、男性器は見当たらず、女性器のみとなっておりました。念のため、私の仲魔の力でも診察してみたところ、体内にはっきりと『魔の痕跡』を確認できました」
やはり悪魔による呪い、あるいは変身術の類だと判明し、駆は険しい顔で顎を摩った。
「そうか……。取り敢えずご依頼はお受けしますので、何かしら情報が分かり次第連絡しますね」
「頼む!駆! 犯人が判明し次第、きっちり落とし前をつけさせる……!」
普段のスタイリッシュな面影のまま、自分の「男の象徴」を奪われて怒りに震える美月は、ただそこにいるだけで凄まじい妖艶さと迫力を放っていた。
「俺からも頼む。組の可愛いがこんな目に遭わされて黙っているわけにはいかん」
秋津も静かに頭を下げ、事態の解決を駆に託すと、二人は事務所を後にした。
「……ふふ、大変な事件になってしまいましたね、駆さん」
「まったくだな。早く犯人の悪魔を見つけて元に戻してあげないと、美月さんの男としてのプライドが完全に崩壊しちゃいそうだな」
嵐のように去っていった二人を見送りながら、駆としのぶは新たな事件の調査へと動き出すのだった。