マリア様がみてる(もしも私が、祐巳ちゃんになったら・・・) 作:河森柚木
月曜日、それは新たな1週間の始まり。
「ごきげんよう」
朝からそんな挨拶が飛び交う学園それが「リリアン女学園」。
明治、大正、昭和、平成と元号が4回も改まっても挨拶は変わらない。
幼稚舎から大学までの一貫教育が受けられ、18年も通えばお嬢様の出来上がり。
私、福沢祐巳もその一人だったりする。
マリア像の前で手を合わせ、今日1日の無事を願って――
いつもと変わらない1日の始ま―「お待ちなさい」
――らなかった。
上級生のお姉さま方みたいにゆっくりと振り返ると――
そこには憧れの上級生である『小笠原 祥子様』がいた。
(うわっ!うわっ~!!祥子様だ!祥子様にお声をかけられた!)
「ご、ごきげんよう・・・私に御用でしょうか?」
祥子様はじっと胸元を見て、「持って」と鞄をずいっと差し出してきたので受け取ると、
私の首へと手を伸ばす。
(!?!?)
思わず首をすくめると
「じっとして、タイが曲がっていてよ。 福沢祐巳さん?」
(!?どうして私の名前を!?原作では知らないはず!まさか・・・・・)
『そう、この世界は原作と少し変えてあります』
何処からとなくそんな声が聞こえた。
(は、早く言って~)
「あ、ありがとうございます。紅薔薇のつぼみ、ところでどうして私の名前を?」
「さあ?どうしてかしらね?」
祥子様は鞄を受け取りながら微笑み「ごきげんよう」と挨拶をして立ち去った。
(アリア様・・・いえ女神さま?これはこの世界を楽しみなさい。ということでしょうか・・・)
再び見上げたマリア様は少しばかり微笑んだようにみえた。
1年桃組――
鞄の中の物を机にしまい鞄を横にかけるなり机に突っ伏した。
(まさか、違うとは…)
「祐巳さんどうしたの?」
前の席の桂さんが心配した様子で聞いてきた。
「桂さん、実はさっき――」
祥子様に呼び止められた事、タイを直された事、そして私の名前を知っていた事を話した。
「良かったじゃない、憧れの祥子様に直していただけたのでしょ?名前を知っていたのはどうしてかしらね?」
「わからない・・・私みたいな何も特徴がない一般の生徒なのに・・・」
などと話していたら、桂さんが「志摩子さんごきげんよう」と声をかけた。
「ごきげんよう。桂さん、祐巳さん」と爽やかにそして優雅に席に着く。
「いったい、なんのお話をしていたの?」と志摩子さんが訊ねてきた。
桂さんが「実はね――」と私が話した事を志摩子さんに伝えると
「そんな事があったのね」とくすくすと笑う姿がとても綺麗だった。
放課後、音楽室の掃除を終えて日誌を書いていたら
「祐巳さん、祐巳さん」と蔦子さんが声をかけてきた。
「蔦子さん、教室のお掃除はもうお済み?」
「ええ。祐巳さんに見て頂きたものがあって急いでこちらにきましたの」
教室と音楽室とはかなり離れているので鞄を持って清掃に来る。
部活に行くにしても帰るにしてもその方が便利だからだ。
「私に見て欲しいのってなにかしら?」
「私が写真部に所属していることはご存じよね?」
「ええ。そして、ちょっと間違えば――『祐巳さん?』なんでもありません」
蔦子さんはメガネの奥の瞳を細めて威嚇する。
「まったく・・・せっかくこんないい写真を撮らせてくれた人とは思え無ないわ」
そういって写真を差し出した。
「・・・・・・・・・え~!」
蔦子さんに「声が大きい」と口が押さえられた。
「こ、これちょうだい!」
「差し上げても良いけど、条件が」
「・・・・まさか学園祭に飾らせてほしいとか?」
「話が早くて助かるわ。そして、祥子様に許可を貰ってくる事」
蔦子さんは写真をポケットにしまいながら難題を出した。
「む、無理よ!」
「どうして?こんなにも親しげなのに?どう見ても『スール』のようじゃない」
再び写真を祐巳に見せて止めとばかりに「欲しくないの?」と聞かれたら薔薇の館に行く選択肢しか残らなかった――