テンプレおじさんVS異世界美少女たち〜決死の忖度サバイバル!〜 作:鷹井オムニバス
エピローグ
魔神の化身、神神と名乗る男が骸となって死んだ。
「彼……最後はずっと、浮島のデメリファトスさんのことばかり口にしていたな……」
戦う以前に、最期は錯乱状態でその力を使う様子もなかった。
「あー。……それは多分、彼女が1回も神神さんのことを否定しなかったからじゃないかしら?」
リーシャがこちらに駆け寄りながら言葉を紡ぐ。
「否定しなかったと言えば、ヴァイナもいるけど……彼女は明らかに神神のこと、ずっと避けてたから」
ノーリィが苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。
「巨人族は、自分たち以外の種族のことを子供扱いしてるから。神神のことも、子供だと思ってたのかも……」
「じゃが、あやつは人族の35歳なのじゃろう?色々と酷いと思うがな……」
ミディルはどこか冷たい眼差しで神神の骸を見据えていた。
「…………そもそも。あの男と巨人族の人はここに来る直前に話しただけ」
「ん……? どういうことなんだ……」
「ブレイドは気にしなくていいわ。多分、デメリファトスさんの豊満な胸に執心してただけよ」
リーシャが辛辣だった。そこまで大変だったのか……。
「それにしても……。彼の洗脳する力は、封じることができていたのかな? 最後の最後まで、最初に出会った時のような力を使ってこようとはしなかったようだが……」
「それについては、賭けだったわ。だけど、分の悪い賭けとは思わなかったの」
リーシャによると、ノーリィと共に、あの洗脳の瞬間考えていたことを聞き出したり、普段の言動を密かに観察を続けた結果、あの男がもたらした洗脳の力は、不満の蓄積による魔神の力と内なる欲望の同調が起こった結果、発現した可能性が高いと考えて、凡そ一年近くも不満解消に努めていたらしい。
そのため、天空城で彼が暴れ出した時でさえ、洗脳能力を持った魔力を放出するまでには至らなかったというわけらしい。
「クゥも、頑張った」
クゥはクゥで、ずっと俺のために暴れるのを我慢していたみたいだし、本当に彼女たちは俺にもったいないぐらいの最高の妻たちだ。
「……本当にご苦労さま。リーシャたちの苦労は推し量る事しかできないけど、俺にできることがあるなら何でも言ってくれ」
三人ともどこか涙ぐんでいるのがわかる。ここまで大変だったんだろう……。
彼女たちの頑張りに応えなければな。
そんな中、ノーリィが涙を拭いながら苦笑いを浮かべた。
「でも……。ソファにダイブした後、クッション相手にデメリファトスさんの名前を連呼する直前までは、どんどん魔神の力が増幅していってまずいと思った」
「……ミディルのソファが大活躍」
ボソリとクゥが呟くと、大きなため息を吐いてミディルがぼやつく。
「その大活躍したわしの大事なソファがもう使い物にならんのじゃが……」
「……必ず弁償するよ」
……申し訳ない。
応接室にあったソファやクッションは、神神のよだれや血で悲惨なことになっていた。
◇◇◇◇◇
「そろそろいい?」
そこまで話した所で、罪人庭園の管理人——テティルティが声を上げる。
その掬うように広げられた両手には、光の玉が浮かんでいた。
「この魔神の化身になった神神という男。善も悪もなく殺しすぎた結果として、私の庭園の中で永久に囚われる事になる。」
「ああ、テティルティ。君に後始末を押し付けるようで申し訳ないが……」
罪人庭園の管理人である彼女には、とてもお世話になった。
そこから更に手間を取らせるような事をさせるのだから、俺に出来る恩返しは、何があるだろうか。
「こんな男にこれから対処しなくちゃいけないわたしへの報酬が必要——ブレイド、貴方は死後に罪人庭園の管理人補佐として、なにより私の半身として。勤め上げること。いいよね」
「「「………は?」」」
「…………ん?」
突然のテティルティの発言に驚いてしまう俺たちだったが、そんなことは意に介さず、マイペースに彼女は俺を手繰り寄せ——
——唇を頬に落とした。
「ちょ、ちょ、ちょっとテティルティさん! 貴方いきなり現れてなんてことを!」
「私が罪人庭園に落としたから変な女が……」
「ブレイドは私と一緒に死後、狼王様たちの楽園にいく」
悪戯な笑みを浮かべながら、テティルティはこちらを見据えて口を開く。
「ふふ、誰のお陰で罪人庭園にいるブレイドと今まで連絡を取り上げていたのか、わからない貴女たちではないはず。……まぁ生きてる間はブレイドのこと、あなた達に分けてあげる。ただ、死後はわたしのもの——」
——それまで私のことを、忘れないでね
嵐を巻き起こしたテティルティは、風のように消えていった。
「ブレイドの死後は私と共に、天国で聖帝様にお仕えするわ!」
「いや……、ブレイドはわたしと一緒に深淵へ合一する」
「クゥと一緒……!」
今まで一度も話したことのない死後に関する話で揉めた彼女たちを一度落ち着かせ、通信越しでは伝えきれなかった罪人庭園での話を聞かせた。
……問題の先送りではあるが、一旦冷静になってから話をさせよう。
あの異界では、悪人たちのように業が淀みきっていない人間が入りこんでいたから見に来たと言うテティルティと知り合い、俺自身の罪の刑罰を受けた後に自主的に彼女の仕事を手伝ったことを告げると、3人から溜息をつかれた。
「そう……。罪人庭園と現世で話が出来ていたのは、ブレイドと私たちの愛のおかげかと思っていたのだけれど、そういうことだったのね」
「でも、さすがに死神みたいな女を引っ掛けるのはやりすぎ……。完全にロックオンされてる」
「ブレイドは強い。強い雄はたくさん囲う。でもあの雌はダメ」
色々と詰め寄られながら、俺は魔神の後始末を終えることができて、一安心するのだった。
「おーい。俺の存在忘れてないか……?」
「わしもじゃな。4人で自分たちの世界に入り込んでしまっておる」
「す、すまない!」
◇◇◇◇◇
……ひとまず、彼を含めた異世界の遺体を元の世界に還そう。
この世界で下手に供養をして、異世界の死後を司る神の逆鱗に触れたらまずい。
そう思いながら、ソファでクッションを握りしめながら骸になっている男を見つめた。
俺はこの男の事を、ほとんど知らないと言っていいだろう。
だが、ここで憐れむのは、彼に殺された人たちにも、俺がこの手で殺した彼にも失礼になる。
呼吸を整え、意識を切り替える事にした。
まずは彼に対する対処をする前に、異世界に逃げ出した魔神を呼び戻すために使った魔法陣によって、俺たちが呼び寄せてしまった人たちの遺体の件に向き合う。
一度彼のスタンスを把握して対応を始めた際、神神に対し色々と質問をしたらしいのだが、ずっと『俺への加害者』、『ゴミのように捨てとけ』と言って、あの転移陣に一緒に転移してきた鉄の塊や数十人の遺体に関する話し合いが出来ず、供養の方法に悩んだらしい。
リーシャとノーリィが話し合い、ひとまずということで、知り合いに頼んで遺体を腐らせないために、教会で遺体を状態維持をして保管していたらしい。
その遺体が入った棺を入れて、彼らも元の世界に送り返す事にした。
その際の転送場所をノーリィが選定する際、棺と似たような物がたくさん置いてある場所に転移させた。
そして本題である。
神神の遺体は、棺の中に天空城で彼が執心していた応接室のクッションや、転移時から所持していた小道具や紙の束と共に安置し、彼を呼び寄せた転移場所のほど近くの、異世界の人々が大勢集まっていた場所に転送してもらった。
やはり、こんな繊細な事が出来るなんて、ノーリィは天才だな。
◇◇◇◇◇
改めて、面白半分に来ていたというヴァイナは故郷に帰り、ノーリィのライバルであるミディルに対しては、色々と感謝や償いを兼ねて天空城の修繕や雑用を三ヶ月ほど手伝った。
暴れ回っていた悪童のア厶レアスは、魔神の残滓撲滅の手伝いと、最後の贖罪のしずくへの生命力の充填で、竜の里を荒らした罪の償いを果たした事になる。
様々な後処理が完了した後、天空城の一室でようやく一息ついた。持ち家からなにから売り払ったため、ミディルの厚意に甘えて部屋を借り受けたのだった。
家賃代わりにお願いされる依頼は毎回ハードだが、これも4人で行うリハビリみたいなものだ。
なんせ、リーシャたちは一年近く本格的な戦闘が出来なかったらしく、俺自身も罪人庭園で刑罰を受けたり、テティルティの手伝いをしていたが、戦闘はほとんどなかったからな……。
「私のせいでブレイドは普通の人なら味わう必要のない苦しみを罪人庭園で味わった……」
ノーリィが近寄ってきて俺の肩に頭を預ける。
その肩をそっと抱いて、彼女を傷付けないように耳元に囁く。
「俺は3人を残して死ぬわけにはいかなかった。だからノーリィには感謝してるんだ」
罪悪感を抱く必要などないことを伝えるために、より強く、抱き締めた。
「なにより、罪人庭園での刑罰は俺自身の罪。それを受けたからといって俺の罪が清算されるわけではないけど……、でも、それを含めて抱えていく決心がついたんだ」
「ブレイド……!」
俺は自分の指にも嵌めている、皆にプレゼントをした魔道具を見る。
これのおかげで俺は、あの痛く苦しい罪人庭園で刑罰を受け切れたんだ。
「ブレイドなら、きっと私たちがしずくを集めきる前に罪人庭園での務めを果たし終えると信じていたわ。」
リーシャが涙を浮かべながらノーリィにの反対側から抱きついてくる。
俺はもう片方の手でそっと引き寄せた。
「……宣誓の魔道具は、その誓いをどれだけ忠実に守っているかで効果が変わるもの。ブレイドが私たちを変わらずに愛し続けてくれた分、クゥも返すよ」
二人の隙間からクゥも抱きついてきた。
愛する三人の体温を感じながら、幸せを噛み締める。
リーシャ、ノーリィ、クゥ。
「——愛してる」
◇◇◇◇◇
俺たちは一つ決めたことがある。
「ブレイド、本当にいいの……?」
「ん。事実を伝えたら英雄になれる」
「いや、いいんだ。苦労をしたリーシャやノーリィ、クゥが許してくれるのならね。彼がこの世界でやった事は、リーシャたちの苦労や俺たちの財産を除くと、少なくとも世界にとっては良いことだった。」
元の世界での彼の悪行は、元の世界の人たちが記録しているはずだ。
俺は神神というおかしな名前を名乗った魔神の化身の彼の功績を、本人の意図はともかく、記録として残そうと思ったのだ。
「彼はこれから先、永遠に魂がすりつぶされながら苦しみ続けるんだ。せめてこの世界で彼がやったことぐらいは、ちゃんと伝えて残そう。」
「だいぶ美化してる気がするのだけれど……」
「色々あったけど、何だかんだでずっと騙していたしね……」
「どうでもいい。それよりここ、久しぶりに触って」
「クゥ……これでいいかい?」
「…………ん」
服をめくりあげたクゥのオヘソにあるピアスを撫でる。
獣化によって指輪が壊れてしまうため、代わりに宣誓のピアスをおへそに付けてからの、甘えたい時のクゥとのコミュニケーションだ。
「あーー!! 私にも色々やってもらいたいことが——」
「わかってるよ、リーシャ」
クゥとの触れ合いが終わった後は一番苦労をかけた彼女に報いるため、様々なおねだりに耳を傾けて実行していく。
その最後にお願いされたのは、ノーリィにやっていたように耳元で囁くことだった。
「ずっと、頑張ってくれていたんだろう。……本当にありがとう。これからは、俺たちはずっと一緒だ」
「貴方と現世でまた会うことができてよかった……だいすき」
涙ぐむリーシャの涙を拭う。
「ずっと一緒ってことは、私と二人で深淵と合一するってことでいいよね」
「……は? 今、ブレイドは私に対してずっと一緒にいるって言ったのよ」
「ううん。クゥにだよ」
…………死後に関して、いい解決方法を見つけないといけないな……。
◇◇◇◇◇
こうして、俺たちの、魔神を討ち滅ぼすための旅は終わりを迎え——
「ブレイドー、遺跡に早く向かいましょ」
「あー、神神のせいで私たちの財産ほとんど吹き飛んでなければなぁ……」
「ノーリィは怠けすぎ。そもそも、私はブレイドさえいればいいし」
——世界を救うための旅ではなく、俺たち自身の未来のための冒険へと、歩みを進めた。
◇◇◇◇◇
聖帝歴658年。『神帝ブレイド』たちが異界に逃亡した魔神を呼び戻すために発動した魔法陣、それによって呼び出された神神を名乗る男。その男は『聖神リーシャ』、『深淵神ノーリィ』、『獣神クゥ』の導きの元、大陸に蔓延る悪人たちを次々と打倒し、一時的な平和をもたらした。
その最期は、神神が召喚された直後から己の内に封印していた魔神の残滓を討ち滅ぼすために、罪人庭園で死の試練を受けて帰還した神帝ブレイドに対し、世界の安寧を願い人類のためにその身を捧げたという。
(end)
【あとがき】
これにて全話、無事に(?)完結を迎えました!
表向きは自称神ゴッドこと、伊喜利太郎の無双ハーレム、しかしその裏では、「最愛の夫ブレイドを救うため、35歳児のおじさんをあの手この手で防犯、誘導し続けた、ガチの人妻たちによる決死の忖度サバイバル旅」でした。
寝室への乱入防衛戦、特注水着イベントの発生防止、無銭飲食の裏での買収工作etc……リーシャとノーリィの限界突破した胃痛、増える抜け毛と悪くなる毛艶に悩まされていたクゥ、3人に少しでも「お疲れ様!」と思ってくださった方は、ぜひ彼女たちの「慰労金」代わりに、評価ボタンやお気に入りを是非お願いいたします!
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!