テンプレおじさんVS異世界美少女たち〜決死の忖度サバイバル!〜 作:鷹井オムニバス
魔神の化身、神神と名乗る男が骸となって死んだ。
「彼……最後はずっと、浮島のデメリファトスさんのことばかり口にしていたな……」
戦う以前に、最期は錯乱状態でその力を使う様子もなかった。
「あー……。それは多分、彼女があの男のことを否定しなかったからじゃないかしら?」
リーシャがこちらに駆け寄りながら、俺の手を握り身体を寄せて言葉を紡ぐ。
「否定しなかったと言えば、ヴァイナもいるけど……彼女は明らかに神神のこと、ずっと避けてたから」
ノーリィが苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。その顔には隠しきれない疲労の色が広がっていた。
……彼女は、不定期に魔道具で通信できた際には後悔の言葉をよく口にしていたからな。
これからの時間で、罪悪感を感じる必要などないことを伝えていければいいが……。
「巨人族は自分たち以外の種族のことを子供扱いしてるから……。神神のことも子供だと思ってたのかも」
「じゃが、あやつは人族の35歳なのじゃろう?色々と酷いと思うがな……」
ミディルはどこか冷たい眼差しで神神の骸を見据えていた。
「…………あいつと巨人族の人はここに来る直前に話しただけ」
クゥが背中に抱きつきながらポツリと漏らした言葉に混乱してしまう。
多少話をしただけの人間に、あそこまでこだわり続けておかしくなっていたのか……?
「ん……? どういうことなんだ……」
「ブレイドは気にしなくていいわ。多分、デメリファトスさんの豊満な胸に執心してただけよ」
リーシャが辛辣だった。
甘えるように握っていた手を頭に誘導してきたリーシャに抵抗せず、ゆっくりと撫で回す。喉を鳴らすように言葉にならない音を漏らす姿が愛おしい。
こんな風に他の人達がいる場所で甘えてくるなんて、やたり辛かったのだろう。
聞くのと感じるのでは大変さへの実感が大違いだ。
それにしても、彼は独特な感性で生きていたんだな……。
「…………ん、クゥも」
背中から抱きついていたクゥも反対側の腕にしがみついてきたため、同じように撫で回す。
今まで見た中で一番尻尾が激しく揺れている。
本当に彼女たちには苦労を掛けただろう。
その分だけ俺は、彼女たちの夫としてこれまで以上に精進しなければ。
「それにしても……。彼の洗脳する力は封じることができていたのかな? 最後の瞬間まで、最初に出会った時のような力を使ってこようとはしなかったようだが」
俺たちが瓦解した魔神討伐直後の戦い。
最大のネックだった彼の洗脳能力は、通信出来た際には彼女たちからはいつも、気にしないでの一点張りだった。
当時はどうすることもできなかったため流していたが、こうして戻ってきた以上聞いておこう。
「それについては、最後は賭けだったわ。だけど、分の悪い賭けとは思わなかったの」
リーシャによると、ノーリィと共にあの洗脳の瞬間神神が考えていたことを聞き出したり、普段の言動を密かに観察し続けていたらしい。
その結果、あの男がもたらした洗脳の力は不満の蓄積による魔神の力と、内なる欲望の同調が起こった結果発現した可能性が高いと考えて、凡そ一年近くも不満解消に努めていたのだという。
だからこそ、天空城で彼が暴れ出した時でさえも、洗脳能力を持った魔力を放出するまでには至らなかったというわけらしい。
「クゥも、頑張った」
クゥはクゥで、ずっと俺のために暴れるのを我慢していたみたいだし、本当に彼女たちは俺にもったいないぐらいの最高の妻たちだ。
「……本当にご苦労さま。リーシャたちの辛さは推し量る事しかできないけど、俺にできることがあるなら何でも言ってくれ」
三人ともどこか涙ぐんでいるのがわかる。ここまで大変だったんだろう……。
彼女たちの頑張りに応えなければな。
そんな中、ノーリィが涙を拭いながら苦笑いを浮かべた。
「でも……。ソファのクッション相手にデメリファトスさんの名前を連呼する直前は……、どんどん魔神の力が増幅していってまずいと思ったな」
言葉で聞くと改めて不可思議すぎるな。
「……ミディルのソファが大活躍」
ボソリとクゥが呟くと、大きなため息を吐いてミディルがぼやく。
「その大活躍したわしの大事なソファがもう使い物にならんのじゃが……」
「……必ず弁償するよ」
……申し訳ない。
応接室にあったソファやクッションは、神神のよだれや血で悲惨なことになっていた。
◇◇◇◇◇
「そろそろいい?」
そこまで話した所で罪人庭園の管理人——テティルティが声を上げる。
その掬うように広げられた手の上には、光の玉が浮かんでいた。
「この魔神の化身になった神神という男。善も悪もなく殺しすぎた結果として、私の庭園の中で永久に囚われる事になる。」
どこか神々しさを覚える荘厳な雰囲気を出す彼女。
俺も含めた罪人への刑罰宣告や、聞き分けの悪い罪人たち相手に強制執行したときのような厳格な態度だ。
「ああ、テティルティ。君に後始末を押し付けるようで申し訳ないが……」
あの場所で彼女には、とてもお世話になった。
そこから更に手間を取らせるような事をさせるのだから、俺に出来る恩返しは何があるだろうか。
「こんなおかしな男にこれから対処しなくちゃいけないわたしへの報酬が必要」
「「「あっ……」」」
「テティルティ様……?」
「おい、管理人……」
……ん?
唐突に荘厳な雰囲気を消して、神神の魂をその辺に放り投げた。
「だ、大丈夫なのかい? 彼、どこか逃げようとしてるけど……」
中空に放り出された神神の魂は、そのまま……あ。
「大丈夫、死んだ瞬間に縛り付けたから。庭園の最下層で解放するまでは、彼はもう私から逃げられない。…………それよりも、ブレイド。」
神神の魂は必死にどこかへと逃げようとするが、まるで紐に括られたかのように一定範囲から進むことができないようだ。
そんな中、テティルティがこちらに近づきながら俺の目を見つめてくる。
何を言われるのだろうか。
彼女の求める報酬。
どんな過酷なものでも、しっかりと叶えるように努めよう。
「貴方は死後に罪人庭園の管理人補佐として━━なにより私の半身として勤め上げること。いいよね」
「「「………は?」」」
「…………ん?」
突然のテティルティの発言に驚いてしまう俺たちだったが、そんなことは意に介さず。
マイペースに彼女は俺を手繰り寄せ——
——唇を頬に落とした。
「ちょ、ちょ、ちょっとテティルティ様! 貴女がなぜブレイドを……!」
「私が罪人庭園に落としたから……」
「ブレイドは私と一緒に死後、狼王様たちの楽園にいく……!」
悪戯な笑みを浮かべながら、テティルティはこちらを見据えて口を開く。
「ふふ、誰のお陰で罪人庭園にいるブレイドと今まで連絡が取れていたのか、わからない貴女たちではないはず。」
庭園ではあまり見たことがなかった、いたずらな笑みを浮かべながら彼女は、頬を高揚させて俺の瞳を覗き込む。
「……生きてる間はブレイドのこと、あなた達に分けてあげる。ただ、死後はわたしのもの——」
——それまで私のことを、忘れないでね
嵐を巻き起こしたテティルティは、風のように消えていった。
「ブレイドの死後は私と共に、天国で聖帝様にお仕えするわ!」
「いや……、ブレイドはわたしと一緒に深淵へ合一する」
「クゥと一緒……!」
今まで一度も話したことのない死後に関する話で揉めた彼女たちを一度落ち着かせるために、通信越しでは伝えきれなかった罪人庭園での話をする。
……問題の先送りではあるが、一旦別の話題で冷静にさせよう。
罪人庭園では、業が淀みきっていない人間が入りこんでいたから見に来たと言うテティルティと知り合った。
その後、俺自身の罪の刑罰を受けた後に自主的に彼女の仕事を手伝ったことなどを告げると、3人から大きく溜息をつかれた。
「そう……。罪人庭園と現世で話が出来ていたのは、ブレイドと私たちの愛のおかげかと思っていたのだけれど……。そういうことだったのね」
「……でも、さすがに死神みたいな女を引っ掛けるのはやりすぎ。完全にロックオンされてる」
「ブレイドは強い。強い雄はたくさん囲う。でもあの雌はダメ」
色々と詰め寄られながら、俺は魔神の後始末を終えることができて、一安心するのだった。
「おーい。俺の存在忘れてないか……?」
「わしもじゃな。色々とお前たちには言いたいことがたくさんあるぞ」
「す、すまない!」
◇◇◇◇◇
しっかりと話し合いをするべく、一時しのぎではあるが俺たちが汚してしまった応接室をできる範囲で手伝いつつ、ノーリィが魔法で清掃し応急措置をした。
その際神神が汚したソファの処分を頼まれたのだが、死ぬその瞬間までしがみついて執心していたもの故に安易に捨てる事も出来ずどうしようか悩んだ。
その結果、ひとまず魔法を使って棺を作りだしてその中に神神の遺体を安置した後に、彼の持っていた上質な紙の束と共に入れた後に魔道袋で収納することにした。
その後、様々な物が片付けられて綺麗になった応接室で改めて話し合う。
「ふむ……。リーシャたちがされた事や故郷にされたことを思えば、そう丁寧に扱う必要もないのではないか?」
「ああ。適当に燃やせばいいだろ」
その光景を見ていたミディルやアムレアスという子竜がおかしな物を見るような目でこちらを見ているのがわかる。
「ああ、まぁそうなんだが。数多の罪人たちを見て思ったんだ。現世での遺体と、死後の罪人たちには何の関わりもないのだと」
「ブレイド……。」
俺の場合は『罪人の縛り石』というアイテムで肉体ごと飛ばされていたからまた別だとは思うが……。
この考えは自分自身の罪を見つめて刑罰を受けた事も影響してるんだろうな。
ふと思い出すのは、テティルティの務めを手伝っていた時の、あそこの住人たちの姿だった。
「現世で聖遺骸として祭られている人物も、罪人庭園では刑罰に耐え切れずに文句を長年言い続けているただの人間だったし、極悪人として遺体が徹底的に貶められていた人物は、逆に黙々と刑を受罰した上で自らの境遇を受け入れていた。」
罪人庭園に送られていない悪人たちは、各々の信仰する死後領域で幸せに暮らしている人物もいるかもしれないが。
まぁテティルティ曰く、基本的にどの死後領域でも悪人を裁くシステムを作っている神は多いらしいから、そこはもう、気にしすぎるのも良くないだろう。
「つまり、信仰する死後領域に行くための手順として遺体を使うものではない限りは、現世に残された人物たちの心の整理としての意味合いが主なのだろうと俺は思う。だからこそ最初はリーシャたちに聞いたんだが……」
チラリとリーシャたちの目をそれぞれ見据えると、こちらに笑みを浮かべながら各々が頷いた。
「まぁ、さっきブレイドには触りだけ伝えたけど……。あの男へのいろんな報復は、生きていた時に節目節目でノーリィやヴァイナがやったりしてくれたし……」
「……今日はいよいよあの男とお別れだと思ったから、昨晩神神には夢だと自覚させた上で、私も含めて言いたかった事や、やってやりたいことはもう済ませたの」
この世界で彼に因縁のある彼女たちが彼の遺体についてどうこうする意思がない以上は、然るべき所に返還した後にその人たちに任せるために状態を綺麗にしておこうと思ったのだ。
「というわけで、遺体についてはやれるだけのことをやって、彼の元いた世界に戻そうと思う。そこで煮るのも焼くのもその世界で3000万人も殺された現地の人々に委ねるよ」
「どうせろくなことにはならんのだし、どちらにせよ丁寧に扱う意味はないと思うが」
「ははは……」
その後、その遺体をどう扱うかはその人たち次第というわけだな。
その後クゥやアムレアスが、昨晩神神相手に行った事を説明してくる。
「ずっと自分の事を、世界最強とか無敵とかうるさかった。だから昨日はあいつと本気で戦ってみた」
「俺も、旅に同行してからクゥとの模擬戦で身につけた体術を使ってみたら、出会った時とは比べものにならないくらい圧倒出来たぜ」
ノーリィが頭に手を置きながら、思い出すように口を開く。
「夢の中の不快感で魔神の力を使われたら元も子もないから、本人の自意識は現実感のないお遊び感覚で夢を見ている認識をさせてたんだけど……」
「あいつを簡単に圧倒できたのはよかったんだが、劣勢になると『クソゲー!』とか『ゴミゲー!』とか、意味わからないことばっかりぶつぶつ言ってて、つまらなかったな……」
アムレアスがどこか消化不良ぎみに呟く。その横でクゥも、なにやら眉を顰めている。
「…………殴ったらそれで終わった」
ああ……。クゥの場合は、あの男との初対面の時のような、満身創痍でもなければそうなるだろう。
彼女と模擬戦をすると、俊敏すぎて目で追うのが大変だし。
「私たちはずっと戦うことを制限されていたし、戦うことが好きな二人が物足りなくなるのも無理はないわ」
リーシャが苦笑いを浮かべてクゥを撫でつけながら言った。
なんでも神神は、彼女たちと行動を共にするようになった直後から、彼がいるところで彼女たちが戦っている所を見た後、不機嫌になることが多かったらしい。
「なんでも……、『ハーレムの主が活躍しないとイベントがおきない』とか『お前たちが目立つことで、俺が身代わりになってまで民衆の視線を集めて称賛の重圧に耐えている意味がない』とか……」
う、うーーん……。
「…………とにかく、自分が目立った上で私たちが何もできずに自分を称賛しているという構図にものすごいこだわってた」
「ぶっちゃけ、商売女は戦いについていけないから各地に置いていくとかリーシャたちが言うだけで納得してたのにな。固定ハーレム扱いされてた俺たちにも一切戦闘させないならついて行っても行かなくても同じじゃねぇか? って思ってたわ」
ふむ。確かにな……。
どんな戦闘でも彼が出張って来ていたなら、リーシャたちの誤魔化しに納得するのはおかしいような気がするぞ。
そこでリーシャがどこか疲れたような顔でアムレアスに答える。
「単に、属性で人を見ていたんじゃないかしら? 私なら回復魔法を使うシスター。ノーリィなら魔法使いでクゥなら軽戦士。アムレアスなら竜族、ヴァイナなら魔法の使える人魚姫……というふうにね」
「……つまり、装飾剣のようなもの。実用性はないけど、剣という形をしている以上携帯していると見た目が華やかになる。そういうモノ扱いされてた」
改めて彼の行動や考えをノーリィから聞くと酷いな……。
彼女たちのプライベートを考えて控えてようと思っていたが、許されるならば後で記憶共有をしてもらって、彼女たちの苦労を身を持って知っておきたい。
「ああー……。薄々気付いてはいたが、そこまであいつの認識おかしかったのか……」
「クゥもペット扱い」
「それを言うならわしは幼児扱いされとったな……」
何というか、ミディルまでモノ扱いするなんて、本当に彼は人を人として見てなかったんだな。
「ひとまず、あれだ。いつまでもあの幼稚な男の愚痴を言い合っても仕方あるまい。…………ブレイド。貴様にはあの男に首輪を付けずに我が家を荒らし回った女たちの責任を取ってもらうぞ。」
こちらを見据えながら本題を話すミディルを見つめ、俺も気持ちを切り替えるのだった。
【あとがき】
本編の表向きは自称神ゴッドこと、伊喜利太郎の無双ハーレム、しかしその裏では、「最愛の夫ブレイドを救うため、35歳児のおじさんをあの手この手で防犯、誘導し続けた、ガチの人妻たちによる決死の忖度サバイバル旅」でした。
そんなサバイバル旅の後始末などをメインで後日談では書いていこうと思います。
是非ここまで読んで彼女たちの忖度サバイバルを楽していただけた方、評価やお気に入りをしていただけると励みになるので、よければお願いします。