テンプレおじさんVS異世界美少女たち〜決死の忖度サバイバル!〜 作:鷹井オムニバス
「みな、席についたな? では……魔神の完全討伐を祝って、簡単な宴の席を用意した。各々よく頑張ったな。では……乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
ついでだからと、記憶共有でこちらの事情をほぼ全て把握しているミディルが祝勝会を開いてくれることに。
メンテナンスに必要な資材の買い出しを頼んでいた執事やメイドも帰ってきた事であっという間に準備が整ったのはさすがだ。
食堂に全員で集まり、長テーブルにリーシャとクゥに挟まれて食事を取る。
ノーリィはヴァイナの隣と話をするらしい。
「ブレイド、はいあーん。」
「ん?……っ、おいしいよリーシャ」
「よかった……。あいつと食事をしてから一度だけさせられて、ずっと上書きしたかったの……」
綺麗に切り分けられたステーキを差し出されて頬張る。とても美味しいが、それ以上に幸せそうにこちらを見つめながら頬を染めるリーシャの表情にお腹が満たされるな。
「でも、見たり聞いたりした彼の性格から1年もありながら一度だけということは、それだけリーシャが努力して2度目をやらせないようにしていたんだろう? とても嬉しいよ」
「うん……。とにかく性欲が強かったから、私たちが襲われる前にと思って手配するようになった娼婦の女性に、行く先々で夜だけじゃなくて早めに来てもらって対応をお願いしていたの」
なるほどな。とにかく女性に奉仕されればそれで満足していたのか。
お金の話をしたからか、リーシャの表情が曇っていたため口を開いた。
「あとでノーリィにも言うけど、今回の彼との旅で使ったお金や、売り払った財宝については、一切気にしなくていいからね。それだけ洗脳能力に危機感を持っていたんだろうし、その場に俺がいたら同じ事をやっていたはずだ」
「…………ブレイドが神神のために女をあてがうの?」
クゥがボソリと呟いた言葉にその光景を想像して、猛烈に反発されるのが見えた。
「……まぁ、リーシャたちと一緒に俺がその場にいるだけで、おそらく怒り心頭で暴れていただろうから、そう言った話は出来なかったとは思うけどね……」
あくまでも必要だったらやっていたはずだと言葉を続けて、クゥの口の端についていた肉汁をナプキンで拭う。
「ありがとう……。ブレイドが帰ってきたらやりたかったことが沢山あるの。色々と片付いたら付き合ってくれる……?」
「もちろんだ。時間が許す限り、その時は最後まで付き合おう」
「うん」
クゥが袖を引いてきたので顔を向けると——
「はい」
「ん……!?」
大きな肉の丸焼きを口に入れられる。
…………なんとか咀嚼してから改めてクゥを見ると、どこか誇らしげだった。
「クゥは一度も神神にしてないよ」
「ずるいわクゥ!」
「あはは……」
その後2人で競うように食べさせようとしてくるので、なんとか自分の食事を取るように説得した。
◇◇◇◇◇
食べ進める中で、ミディルがこちらの様子を見にわざわざ来てくれたのが、その足音で分かった。
「久しぶりの現世じゃろう。食は進んでいるか?」
「ああ、おかげさまでね。色々と頭が上がらないよ……」
「……改めてミディル様、感謝いたしますわ」
口々に感謝を伝えると、どこかおかしさを堪えたような表情で彼女は言葉を紡いだ。
「くくく、今の時点で頭が上がらないのならば、新たなわしの提案を聞いたら、地面から起き上がれなくなるやも知れんな」
「それはどういう……」
含みを持った言い回しに、リーシャと顔を合わせながら言葉を促す。
「まぁ、あれじゃな。義弟が持ち家もなく財産もアホに使い潰されて困っているのを放置するのも忍びないのでな、この天空城の一角をお前たちに貸してやろうではないか(まぁ、あそこまでテティルティ様に寵愛されているのに放置したら、何と言われるかわからんし……)」
「持ち……家?」
「その……、あの男との旅の終盤で思いがけない出費が重なってしまって……。丁度街に来ていた事もあって私たちの家を売り払ってしまったの」
持ち家も売り払うとは、本当に彼に対するお金の出費は甚大だったんだな。
「お金や家に関しても、また初心に帰って一から冒険をして稼げばいい。気にしなくていいよ、リーシャ」
「ブレイド……貴方がそう言ってくれると思って家まで売りに出してしまった私も、罪な女だわ……」
慰めるように抱き寄せると、咳払いをしてミディルが注意を引く。
……あわてて居住まいを正した。
「まぁどうしても住みたくないなら、浮島のデメリファトスという女の所や、地上の街から通っても構わんぞ」
……デメリのお世話になってしまうと、どこまでも堕落してしまいそうになるからそれは避けたい……。
しかし、ミディルへの恩が積み重なっていくな。
「ここに住まわせてもらえるのは、今の俺たちにとっては大変ありがたい提案だが。天空城への償いや、この祝勝会への感謝もあるのに、そこまでしてもらってもいいんだろうか」
「この城の修繕はあそこの馬鹿を使うから構わん。いちいち浮島や地上から通い詰めて修繕に来られるのも時間の無駄じゃろう」
正直、願ってもいない事だ。
城の修繕作業もノーリィはしっかりと務めるからと俺が手伝うことを断ってきたが、拠点がここなら天空城にいる時には労うこともできる。
「将来は自ずとわしより偉くなることが決まっておるのだ。便乗を図るのは当然のことじゃな」
「テティルティ……。彼女の言っていた死後の話だね」
「クゥと楽園にいくの」
黙々と俺たちが話している間も食事をしていたクゥが話に割って入ってくる。
「ふむ。こやつが死んだ際、テティルティ様の祝福をすり抜けて連れていけるならば連れて行くとよい。できるものならな」
「ぐっ……。そこまで強力なのですか? その祝福というのは」
「まぁ、あれじゃ。あの神神という男の魂を逃げられないように縛り付けていた権能が普通の紐で、ブレイドが縛られているのはテティルティ様自身の写し身みたいなものだ」
写し身……!?
では、今も俺の身体に入り込んているということか。
「なんてことなの……」
「むううううううう」
いよいよ困った。死後の話は状況が落ち着いてから整理して答えを出そうと思ったが、そう簡単には行かないらしい。
「そもそもなんじゃが、あの方の写し身が宿っている以上、本人から説明を受けていないのか?」
「いや、特に接触などは今の所ないな……」
「うーむ、色々と今回の門使用はイレギュラーが重なっていったし、祝福に制限がかかっているのやもしれんな」
深刻な表情をしたリーシャとクゥがこちらの注意を引いてきたので顔を向ける。
「ねぇ……。庭園では、なにかそういうきっかけみたいな出来事はなかったの……?」
ふと思い出すのは、罪人庭園での日々の中で習慣になっていた二人きりでの食事会だ。
その話をリーシャたちやミディルに語り聞かせながら、思い出を振り返る。
あそこでは、テティルティと懇意になってから定期的に俺が好んで食べていた物を再現したテティルティと一緒に食べあったり、その感想を言い合ったりして楽しませてもらっていた。
理由としては、飲まず食わずで慣れてしまって、人間としての生き方を忘れないようにした方がいいという言葉とともに、厚意でテティルティがしてくれたものだと当時は考えていたのだが……。
しかし今にして思うと、あれはテティルティのアピールだったのでは……。
そんなことを思う。彼女の部下である、異形な形をしていた補佐官たちがこっそり俺に教えてきたあの言葉。
——『もし仮に旦那がここから現世に戻れたとしても、テティルティ様とやってるあの習慣は、あまり必要ないんですぜ』
その後たまたま近くを通りかかったテティルティに怒られてその補佐官たちは仕事に戻っていったが。
あれは当たり前じゃないからこそ、しっかり感謝しろという意味ではなく、彼女の好意の表し方だったのかもしれない。
……妻が三人もいる身の上で、女心が分からないなんて男として恥ずかしいな……。
「思いっきり粉かけられてた……」
「なにしたのブレイド」
「お前、補佐官たちにまで旦那呼びされておったのか……」
そう言えばそうだ。
軽いノリの人たちだったからてっきりラフな言い回しをしていただけだと思ってたが、違ったんだな。
「ブレイドにしては、ものすごく鈍感すぎない……?」
「いや、実は何回も『愛する妻が三人もいるのに、貴女のような美しい人と食事をするのは申し訳が立たない』というような断りを最初は入れてたんだが……」
『この食事会をせずに地上に戻ったら、食べることの意味を忘れて貴女の大事な女たちを悲しませることになる』
「などと言われてしまってな。リーシャたちのためを思って言ってくれているものだと勘違いしてしまったんだ」
「…………そうか。ちなみに罪人庭園で食事の定期的な擬似的な摂取をしなかったからといって食事の仕方を忘れることはないぞ。おぬし自身も自覚してるだろうが、向こうで体験したことの大半が、こちらに来てからはだいぶ薄くなっておるじゃろ」
言われて気づいたが、確かにそうだ。長い時間をあの場所で過ごしていたが、重要な思い出はしっかり覚えていても、記憶に強くのこっていない出来事はほとんど薄くなっている。
……なるほどな。
「…………ブレイド。色々と言いたいことがあるのだけど、まず何より聞きたいのは、絶対に他にもそういう話あるわよね!?」
「……やりすぎてそう」
他に思い当たることと言えば……。
◇◇◇◇◇
『この庭園の負の淀みが溜まりすぎている。このままだとここに災厄が生まれるかもしれない。それを防ぐためにはブレイドが私に対して負の言葉と対になる正の言葉を紡ぎ続ける必要がある』
『貴方の愛が口だけではないと証明しない限り、ここから出ることが叶わなくなるかも。さぁ、妻たちにやっていたスキンシップを私にしてみなさい。本当に愛があるからそれをしているのか、この場所の管理人として私が試練してあげる。』
『ブレイド、疲れたわ。地上に出るために必要だからマッサージして』
◇◇◇◇◇
「「色々おかしい!」」
「言い訳が雑すぎる……。そしてブレイド、お前もなぜそれを信じたのだ」
今更ながら俺もおかしくなっていたと思う。
死後領域になんて来たことがなかったし、そこの管理人という存在から、必要だと言われればそういうものだと思ってしまっていた。
「ごめん……」
そこに足音が近付いてくる。
「途中から話を聞かせてもらってたけど……、本当に面倒なことになったね……」
「あははー、領域を司る人を魅了するなんて、本当にいろいろたのしみだなー」
なにか相談を終えたノーリィとヴァイナも話に入ってくる。
「ぷはぁ〜! いやー。楽だな、楽。飯のたびにチラチラ見てくる視線がないだけで解放感がやべ〜」
豪快にお酒を一気飲みをして、そのまま食事に食らいつくアムレアス。彼女はひたすら食べ続けて、とても楽しそうだ。
自由でなによりだ。
そんな風に俺は少しだけ現実逃避をして、ようやく帰ってきた日常に笑みをこぼす。
こうして、俺たちの、魔神を討ち滅ぼすための旅はようやく終止符を打つ。
「ブレイドー、もっと飲みましょ」
「あー、神神のせいで私たちの財産ほとんど吹き飛んでなければなぁ……」
「ノーリィは怠けすぎ。そもそも、私はブレイドさえいればいいし」
——世界を救うための旅ではなく、俺たち自身の未来へと、目を向け始めた。
◇◇◇◇◇
聖帝歴658年。『神帝ブレイド』たちが異界に逃亡した魔神を呼び戻すために発動した魔法陣、それによって呼び出された神神を名乗る男。その男は『聖神リーシャ』、『深淵神ノーリィ』、『獣神クゥ』の導きの元、大陸に蔓延る悪人たちを次々と打倒し、一時的な平和をもたらした。
その最期は、神神が召喚された直後から己の内に封印していた魔神の残滓を討ち滅ぼすために、罪人庭園で死の試練を受けて帰還した神帝ブレイドに対し、世界の安寧を願い人類のためにその身を捧げたという。
(end)
【あとがき】
最後の記述はやってみたかったやつです。
ここまでお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました!
また別の作品でご縁があったらよろしくお願いします。
では。