アテンション・プリンセス~空っぽのワタシ、魔法少女になります~ 作:樫丹鏡花
十二月二十五日、零時を回っていた。桜田門本部庁舎六階、窓のない作業スペースに、Qは戻っていた。バスを降りてからここまでの数時間、何を経由してこの椅子に座り直したのか、誰にも尋ねられなかった。尋ねられれば、答える言葉も特に用意していなかった。三面モニターの左端には、いつもと変わらない書式の更新が流れている。「対魔法少女事件特別捜査本部」の名称に切り替わってから、まだ日の浅い掲示板の一角に、今日の当直体制が表示されていた。分析官二名、当直責任者一名。隣の席の当直要員が伝票を打つ音、廊下の奥でコーヒーサーバーが給湯を終える電子音——部屋の中は、いつもの深夜と同じ速度で動いていた。気象情報の一行だけが、降雪継続中、都心部の積雪十四センチ、と表示を更新している。画面の隅には、正午に見ていた怒り係数のグラフが、まだ更新されないまま残っていた。あのとき並んで伸びていた二本の線は、今も同じ幅を保ったまま止まっている。誰もQに、今日はもう帰らないのか、とは聞かなかった。戻ったのは、二十三時を少し過ぎた頃だったと、Qは自分の入退室記録で確認していた。記録に残る限り、今日という日にこの部屋へ出入りした回数は四回——これまでの平均の倍近い数字だった。
官邸への到着は、零時四十一分——モニターに流れてきた執行記録の一行に、その数字だけが記されていた。東京地方検察庁特別捜査部、捜査官四名、立会人二名(官房総務課職員一名・官邸警備担当一名)、随行の事務官一名。正面玄関からの入館。身分証の提示から入館記録の照合完了まで、四十七秒。控室での手続きは、逮捕状の提示、本人確認、黙秘権の告知、携帯品の預かりという順で進み、四項目を終えるまでに要した時間は三分十二秒だった。予定になかった空白は、どこにも生じていない。逮捕状の文書番号——検特(逮)第一一七号——が、官邸警備担当への通知欄にそのまま貼り付けられていた。容疑事実は二本立てだった。特定サービス業務適正化法案に関わる許認可を巡る贈収賄、および先の衆院選における公職選挙法違反——買収の疑い。二つの容疑は、別の日付、別の担当検事の名前で、それぞれ独立した書式のまま届いていた。統合されずに二本立てで来る律儀さが、Qにはむしろ好ましく思えた。
K機関ならば、これほどの速さでは動けなかった。五段の照合を終えて、毛利の名前が金の流れの終点だと分かった、あの夜のことをQは覚えている。Kの判断を仰いだが、返ってきたのは「変身者との関与が確認できない案件は、優先順位を下げる」の一文だけだった。変身者の実在を前提とする機関は、実在しない相手を起点にした立件へは踏み出せない——その縄張りの内側で、Qはずっと足止めを食っていた。特捜部は、逆だった。存在しない者を起点にする必要のない機関の方が、この種の書類は速く動く。あの夜、Qが自分に言い聞かせた理由は、間違っていなかった。
この二つの容疑事実がどこから来たのか、モニターの前にいる誰も、Qに尋ねなかった。尋ねる必要のある問いではない、という顔で、誰もが画面を見ていた。Qだけが、今日の夕方、地下二階の第三保管庫から自分が持ち出した一枚のディスクのことを思い出していた。六十日以上前に作った複製——宛先だけを書いた白無地の封筒に入れ、差出人の欄を空白のまま出した、あの一通。受付簿に記した番号は、まだQの記憶に残っている。あの一通が、今夜の令状のどの一行に効いているのかまでは、記録を追っても分からない。特捜部の内偵が、Qの複製より先に、別の筋から動いていた可能性は十分にあった。二本立ての容疑事実のうち、どちらか一方だけが、あの複製と結びついているのかもしれない。断定できる材料は、まだ手元になかった。離反、という言葉を、Qはまだ自分の内側で使ったことがなかった。使わないまま、その言葉が指すはずの行動だけを、すでに終えていた。
同じ頃、経済産業省の執務室にも、家宅捜索の令状が別便で執行されていた。押収品目録の速報には、私用のノートパソコン一台、手帳三冊、名刺入れ二つ、面会記録の綴り一式、とだけ並んでいる。金額も、宛先も、まだどこにも書かれていない。書かれるのは、これからだった。
官邸内の音声も、別回線でQの端末に届いていた。特捜部の到着に合わせ、官邸警備班の首から下げた記録装置が自動で作動する——要人警護の通常仕様だった。文字起こしは、庁内システムの変換エンジンを通して、五、六秒遅れで画面へ流れてくる。行の先頭には、いつも時刻の秒数までが刻まれていた。00:43:08、発話者「毛利」。控室のモニターに映るクロエの中継を指し、声を荒げている。
「なんだこれは」00:43:11の行に、そう出た。「こんなものはシナリオにない。いますぐ辞めさせろ」
続く行、捜査官の声が一行だけ挟まる。「お荷物をお預かりします。時刻を確認させていただきます」——手続きの言葉は、それだけだった。抗議にも、感情の起伏にも、応答しない書式のまま進んでいく。
連行が始まった。両脇を、捜査官二名の手が挟む。控室から廊下へ——文字起こしの発話者欄が「対象」に切り替わった。
「こんなストーリーは認めない」
「委員会はどこだ。委員会を出せ」
語尾に句点はつかず、文字起こしのログには、途切れない一文として流れ続けていく。誰も、その問いに答えなかった。答える立場の者は、あの廊下のどこにもいなかった。
「プロデューサ! 見てるんだろう! なんとかしろ!」
声は、廊下の反響で一度膨らんでから、記録装置のマイクに拾われて小さくなった。
「この私を失ったら、後悔することになる」
続く言葉が、衛星の話に移った。「衛星が使えるはずだ。回線を通せ。NSAが、こんな幕引きを黙って見ているわけがない」
実在する機関の名前が、文字起こしの一行に、そのまま記録されていた。訂正の注記は、どこにも付かない。次の行も、その次の行も、同じ書式のまま流れていく。Qは、その一行だけを二度読んだ。読み直しても、表記は変わらなかった。声には出さなかった。出せば、いつもの手順で、その音が合っているかを耳から確かめてしまう。今夜だけは、その手順を省いた。
文字起こしの下に、音量の波形が小さく表示されている。毛利の声のピークは六十二デシベル前後で推移していたが、廊下の後半、靴音の波形がそれを上回る瞬間が三度あった。大理石張りの廊下は、通常の会議棟より残響が長い——設計段階の資料に、そう記載があったことをQは覚えていた。革靴の底がその床を叩く音——捜査官二名分と、対象一名分。連行される側の足音だけが、いつもより軽かった。抵抗する力を、途中のどこかで失っていたのかもしれない。三度のピークは、いずれも対象の歩幅が乱れた直後に記録されている。歩幅そのものの数値は記録されていなかったが、波形の間隔からは、その乱れの位置がおおよそ推測できた。波形はそう読めたが、Qはその解釈を、記録には残さなかった。
廊下の先、退避解除を待つ官邸職員がまだ十数名、壁際に固まって立っていた。その人波の端に、固定カメラの一つが、列から半歩だけ外れた人影を捉えていた。コートの襟を立て、両手をポケットに入れたまま、連行の列を目で追っている——勝だった。肩に、まだ払われていない雪がわずかに残っている。列がその前を通り過ぎる数秒のあいだ、勝は動かなかった。通り過ぎたあとになって、ようやくポケットから煙草を一本取り出す。火はつけない。指の間で軽く一度回してから、そのまま胸ポケットへ戻した。二本目には、まだ手をつけていない。周囲のスタッフの何人かが、ちらとその横顔を見てから、視線をすぐに戻していた。誰も声をかけなかった。表情までは、固定カメラの画角では拾えなかった。
Qは、新しいフォルダを作らなかった。「毛利」という名前のファイルは、もう、Qの仕事の書式の外にある。移管対象外・保全指定の決裁印を受けたあの複製も、今夜をもって、Qの手を離れた棚へ移ったことになる。名前のつかないファイルの棚に、Qはこれまで何度も、声に出してから何かを積んできた。積むための声だった。声に出してすぐ閉じることも、覚えたばかりの手順のうちにあった。今夜だけは、そのどちらでもない言い方が要った。
「名前のつかないファイルが、一つ、向こうの棚に移りました」
声に出してから、Qはそのファイルを、最後まで開かなかった。開く必要のない場所に、もう置かれていた。文字起こしのログは、対象が地下駐車場へ向かったところで、更新が止まっている。護送車への収容完了、零時五十八分。備考欄には、何も記されていなかった。空欄を、Qは埋めなかった。埋める言葉を、まだ持っていなかった。
三面モニターの右端、消していなかった中継の画面に、Qは視線を戻した。代々木公園、雪の広場。桃色と白い輪郭が並んで立ち、同時接続の数字だけが、桁を変え続けている。放送遅延バッファの七秒だけが、画面の端に律儀に表示されたままだった。コメント欄には「なんか始まった」「これ生?」という短い文字列が、まだ驚きの段階のまま流れている。画面の隅、次の照明キューの予告——C‐7からC‐12、の表示が点滅を始めていた。クロエの進行台本に半年前から書き込まれていた数字が、今まさに来ようとしている。連行の記録は画面の隅でまだ流れていたが、速度は、さっきより落ちていた。Qは、両方の画面を同時に見たまま、どちらを先に閉じるかを、まだ決めていなかった。
零時四十分を回っても、クロエの中の空白は埋まっていなかった。「二人なのに、薄まっていませんのね」——自分の声を最後に聞いてから、続きの一文がまだ来ない。それでも、身体の方は、空白を抱えたまま動き出すことができた。指先から、黒い光が一本の帯になって伸びる。糸のように細く撓みながら、触れた瞬間だけ刃の硬さを持つ帯だった。爪先が、反射材のマーカーの縁を蹴る。雪を鳴らさない着地——跳んだ先の一点は、進行台本の欄外にクロエ自身が半年前に書き込んでおいた数字と、寸分違わなかった。同じ一点から、二本目、三本目の帯が続けて放たれる。相手の得物がどの角度から返ってくるかを、クロエは動きが始まるより先に見ていた。分類の処理は、まだ止まったままだったが、目と足だけは、答えをすでに出し続けている。四撃、五撃——踏み込みの間隔を、クロエは自分でも数えていなかった。数えなくても、次の位置は、身体の方がすでに知っていた。
桃と白、二つの輪郭を同時に相手取る場面で、クロエは一度だけ、体を軸に半回転させた。桃の杖の先が右の肩をかすめる寸前、白の警棒の先が左の脇腹へ伸びてくる。二本の間、ちょうど拳一つ分の隙間へ、クロエは体を滑り込ませていた。回りきったところで着地した足の位置は、反射材の円盤から測って、また同じ一点だった。半年前、ユカリに語って聞かせた独奏の理屈——群舞は互いに尺を割り合うが、独りで立つ者だけがその分だけ強く描かれる——が、今夜初めて、自分自身の爪先で証明されている。踊り、というより、採点の済んだ振付を、なぞる感触に近かった。
カメラは、その動きを一台も見失わなかった。十四台のレンズが、跳躍の頂点、着地の一点、帯の軌跡の一本一本を、同じ滑らかさで追い続けている。クレーン八台の腕が描く弧の中心、望遠二台の絞りの数値も、クロエの跳ぶ先を寸分違わず捉えていた。副調整室のスイッチャーは、十四系統のうち常に三系統だけを選んで送出している——その切り替えの間隔さえ、今夜はいつもより短く、速かった。空の切れ間に滲む緑と薄紫の帯——名前を、今夜も誰も口にしていない——の下、二つの陣営がぶつかり合う構図は、台本のどのページにも書かれていなかった。それでも、画としては、完成していた。系列五局、配信十二プラットフォーム、屋外ビジョン三十二箇所——半年前に組んだ数字の受け皿すべてに、今、同じ絵が同時に流れている。聖夜の決戦、と誰かが後で呼ぶだろう構図が、レンズの中に正確に収まっていた。
桃と白は、打ち返してこなかった。桃の杖が帯を弾く角度は、いつも最小限だった——力を殺すことだけに使われている。白の警棒は、伸びきった状態から一度縮み、間合いを詰め直してから、また伸びる。先端が青白く光るたび、乾いた音が一つ鳴った。撃ち落とすのではなく、逸らす。逸らして、次の一撃を待つ。白の足の運びは、クロエの跳躍が着地するより早く、次の間合いに入っている——踏み込みではなく、位置を譲る動きだった。「随分と、辛抱強くていらっしゃること」クロエは声に出しながら、次の帯を放った。答えは、なかった。代わりに、桃の方が、短く言葉を返した。「疲れさせて、あとは座り込むのを待つだけだから」——それだけ言うと、桃はまた杖を構え直した。白の方は、何も言わなかった。呼吸の間隔だけが、動きの合間に一定のリズムで聞こえていた。二人の動きには、消耗させる、という一つの計算しかないように見えた。クロエの一撃一撃が、確実に空を切って、光の粒になって消えていく。当たっているはずなのに、何も削れていない——その感触だけが、繰り返されるたびに、クロエの中で、分類の順番を待つ列の先頭に押し出されてきた。風向きが、一度だけ変わった。広場を囲む照明の熱と、氷点下の外気がぶつかる境目で、粉雪が渦を巻く。クロエの視界の隅、白い粒の渦の向こうに、桃と白の輪郭が、二重に揺れて見えた。
足元のモニターの中で、同時接続の数字が跳ね続けていた。八十九万、百四十六万、百八十二万——桁の変わる間隔が、着地のたびに短くなっていく。配信十二プラットフォームのうち、上位三つだけで、伸びの七割を占めていた。残る九プラットフォームは、伸び方こそ緩やかだったが、下がる気配はどこにもなかった。コメント欄の流速も、同じ速さで上がっていた。切り抜き用の自動タグが「聖夜」「決戦」「黒」の三語を拾い上げ、新しいクリップを数秒おきに生成し続けている。「黒つよ」「これガチのやつだ」「桃、押されてる?」「実写?加工?」——賛否の付く前の、驚きだけの文字列が、画面の下から上へ流れ続けていた。数字だけを見れば、これまでクロエが手がけたどの企画よりも高い値が、今、この広場から生まれていた。
その伸びの中で、桃が動いた。クロエへ向けていたはずの杖の先が、途中で軌道を変える。狙いは、クロエではなかった。振り抜かれた先には、何もない——広場の中央、誰も立っていない空間だった。無駄撃ち、と分類しかけた思考が、次の瞬間には止まる。桃の顔に、これまでの応戦にはなかった表情が浮かんでいた。何かを、終わらせにきた顔だった。
杖の先から伸びた光の線が、地を這うように広がっていく。線の通る場所を、クロエは目だけで追った。照明タワーの光軸が交わる六つの点。カメラ十四台のレンズが放射する軸線。そして、クロエ自身の足の下にある、あの反射材の円盤——ポジション・ゼロ。線は、迷いなくその三つを結んでいった。囲まれているのは、クロエでも、桃でも、白でもない。半年かけてクロエが組んだ、この舞台そのものだった。技の名を、副調整室の誰も、口にしなかった。口にできる名前が、そもそもどこにもなかった。舞台の設計図を描いた人間にしか読めない線だと、クロエは思った。読める人間は、この広場に、自分ともう一人しかいないはずだった。もう一人が、その線を、自分に向けてではなく、舞台そのものに向けて引いてくるとは、半年前のどの想定にも入っていなかった。
線が閉じた瞬間、音が消えた。ローターの唸りも、コメントの流れる気配も、風の音さえも、何もかもが、一拍ぶん止まる。クロエ自身の足も、線の内側で止まっていた。止められている、という感覚が届くより先に、感覚そのものが止まっていた。吐いた息の白さだけが、止まった空気の中に、形を保ったまま浮いている。雪の一粒が、落ちる途中の高さで止まっているのが、視界の端に見えた。桃の杖の先も、白の警棒の先も、それぞれ振り抜いた軌道の途中で静止している。時計を持たないクロエには、この一拍が何秒に当たるのか、測る手立てがなかった。数字にできないものが、今、自分の周りだけに存在している——その事実の方が、止まっていることそのものよりも、クロエには奇妙に感じられた。
止まっていたのは、敵ではなかった。時間が戻ったとき、照明タワーの同期に、数フレームぶんのずれが生じていた。八台あったはずのクレーンの追従が、一斉に軸を見失う。腕の一本が、何もない夜空を向いたまま止まっていた。イヤモニの向こうから、副調整室の声が乱れて届く。「絵が来てない」「C‐7、まだ動いてる、止めて」「同期、掛け直します」「もう一回、基準信号から」。放送遅延バッファの七秒が、今夜初めて、使われるかどうかの瀬戸際まで迫っていた。台本のどのページにも書かれていなかった空白が、初めて、この広場に生まれていた。クロエ自身、次にどの角度から絵が来るのか、今は答えられなかった。
足元のモニターで、数字が下向きに動き始めた。百八十二万から、百六十一万。コメント欄の流速も落ちていく——毎秒およそ四十八件だったものが、十四件まで落ちた。自動切り抜きの生成ログは、直近二分、更新が一件も出ていない。トレンドの上位に一時入っていたタグの並びからも、「決戦」の一語が、いつのまにか消えていた。「なんかグダってきた」という一行が、流れの遅くなった欄の中で、やけにはっきりと読めた。「絵、止まってね?」「配信落ちた?」「なんか急につまんなくなった」——驚きの文字列は、いつのまにか、疑いの文字列に変わっていた。
数字が落ちていく画面を、クロエは視界の端に置いたまま、動き続けていた。何かを、分類しなければならない。そう思った先から、分類すべき対象の方が見当たらなくなっていた。分類、という語だけが頭の中に立ち上がり、続くはずの言葉を待たないまま、行き場を失って消えていく。半年前から、この処理だけは、一度も止まったことがなかった。主語も、対象も、まだ何一つ置かれていない。動作の形だけが、中身のないまま、何度も同じ場所に立っては消えた。コートのポケットの中で、指先が、ペンを探る形のまま止まる。手帳は、今夜も持っていない。何かに丸をつけるという、半年間欠かしたことのない作業が、今夜は、まだ一度も行われていなかった。
広場の隅、照明タワーの一基が、光を落とした。イヤモニの向こうで、技術チーフの声が短く漏れる。「C‐9、予備電源、切れました。氷点下で、出力の落ちが早いです」。予備電源の稼働は、通常であれば三十分は保つ設計だと、クロエは事前の資料で確認していた。その半分も、もっていない。残る七基の出力表示も、同じ数値で並んでいた予備電源のバーが、今は一本ずつ、微妙に違う長さに揃わなくなっている。八基のうち、一基。たった一基分の暗さだったが、それでも、舞台の外にあったはずの暗さが、確かに、広場の隅へ戻ってきていた。