優雅じゃない青山くん   作:ねをん

1 / 15
プロローグ

 

 

思えば――

 

何もかもが嘘でできた人生だった。

 

振り返るとなんて、滑稽で惨めな喜劇だったのだろう。

 

気づけば、自分自身にすら嘘をつき続けていた。

 

「俺は最善を尽くしている」と。

 

だが、蓋を開けてみれば、そこにいたのは恐怖に抗うこともできず屈した、ただの犯罪者(ヴィラン)だった。

 

全部、全部、全部

 

その全てが、必死に頑張ってみせているだけの「振り」だったのだ。

 

自分は悪くない。

 

最善を尽くしている。

 

こうするしかなかったんだ。

 

脳裏を渦巻く言い訳の数々を、免罪符のような懺悔としてずっと流し続けてきた。

 

 

 

 

窒息してしまいそうなほど、思いは腹の中で膨れ上がり、喉を塞ぐ。

 

ふと、雄英高校で過ごした眩しすぎる青春が頭をよぎる。

 

あれこそが俺の一番の大罪。

 

許されざる罪なのだと。

 

眩しいほどの「本物(ヒーロー)」たちに囲まれ、自分も変われると勘違いしたのだろうか。

 

みんなと切磋琢磨し、自分も「本物(ヒーロー)」になれると思い上がっていたのだろうか。

 

いいや、違う。俺はどこまで行っても――

 

骨の髄から腐り果てている、ただの内通者(ゴキブリ)なんだ。

 

どんなに拭おうとしても、腕から腕へ、体へと汚れは染み込みどす黒く染めていく。

 

罪は…消えないのだ。

 

 

 

今思えば、とんだ笑い話だ。

 

生まれてからずっと嘘を吐き続けてきた俺が。

 

終ぞ誰にも心を開かなかった俺が。

 

誰かのヒーローになろうだなんて。

 

誰かの「特別」になれると思っていたなんて。

 

俺という人間のあり方は、人を救う形も、人に受け入れてもらえる形もしていなかった。

 

 

 

 

結局俺は、どこかで「青山優雅」という原点(オリジナル)を虚しくトレースしていただけに過ぎない。

 

彼ならこういう行動をしただろうと。

 

まるでそれは俺の意思ではなく「青山優雅」と意思であるとして。

 

つまり「俺」という意志など、最初から存在していなかった。

 

全てが嘘でできあがった存在だったんだ。

 

じゃないとおかしいだろう。

 

こんな二律背反を抱えた状態は決して許されない。

 

こんな嘘で塗り固められた汚泥のようなバケモノが、みんなと楽しく高校生活を送っていたなんて。

 

平気な顔をして、大切なみんなを危険に晒し続けていたなんて。

 

 

 

 

 

相澤先生に一生消えない傷を負わせ、市民、ひいては市街地に多大な犠牲を生み出した。

 

覚悟はしていた。

 

していたはずなんだ……。

 

だが、俺はいつも……そうだ。

 

全てを見通した振りをし、言葉にして理解した気になって、自分を納得させる。

 

他者と関わりたいと口では言っておきながら、その実人の価値観を絶対に受け入れない。

 

要は、扉に見せかけた壁があるだけで、その開けた先に他者を受け入れられる空間なんてなかったのだ。

 

傲慢だ。

 

怠惰だ。

 

強欲だ。

 

胸の奥で、犯してきた罪の数々が責め立てるように過る。

 

どれもこれも、全部俺のせいだ。

 

 

 

 

「嘘だよね……優雅くん……」

 

俺の目の前で、絶句した透がそう呟いた。

 

透は優しいな。

 

こんな状況、問答無用で怒り狂っていい場面なのに。

 

「そうさ! お前らとの友情なんて全部お遊びだよ。

よく出来てただろ? なんだ、真に受けちゃったのかい?」

 

ああ、確かにお遊びだった。

 

こいつらと一生関わることは無いとタカをくくっていた。

 

だが、確かに、楽しかったのだ。

 

それこそこのお遊びを一生続けてもいいと思うほど

 

だからこそ、頼む。

 

俺を恨んでくれ。

 

どうか、心の底から憎んでくれ。

 

「ハハッ! こいつは傑作だ!

お前たちを売り渡して殺そうとしていた俺を、友達だなんて勘違いしていたなんてな!」

 

あれはもう、春雷のように、思い出の中でこそ光を放つ、一過的なものだったのだと俺に思わせてくれ。

 

「でも……っ!」

 

何かを言い募ろうとした透へ、迷いを断ち切るように手刀を繰り出し、意識を狩ろうとする。

 

これ以上、情が湧くのはまずい。

 

初手の手刀を見抜いて身を引いた透に対し、俺は容赦なくその腹部を思い切り殴りつけた。

 

透が肺の中の空気を吐き出し、「くはっ……!」と苦しそうにその場へ崩れ落ちる。

 

俺はそれを、まるで他人事のように冷ややかな目で見下ろすしかなかった。

 

ここまでやっておいて、まだ第三者気取りな自分に嫌気がさす。

 

 

 

その時だった。

 

「何をやっているんだ……!!」

 

声だけで分かる。

 

伊達に一年間、同じ時間を過ごしてきたわけじゃない。

 

分かるさ。

 

緑谷だ。

 

隣には、普段なら烈火のごとくブチ切れそうな爆豪もいる。

 

だが、今日はその姿がやけに静かに、どこか寂しそうな姿であることが強く印象に残った。

 

……やっぱりお前らか。

 

続いて、遅れてやってきたA組の全員が次々と姿を現す。

 

「ハッ! ヒーローは遅れて登場するってか!

笑わせてくれるね。だが、俺はもう役目を果たした。

つまり――俺はもう、お前たちと仲良しごっこをしなくていいってことさ!

本当、この一年間、反吐が出る思いだったぜ!」

 

 

 

モモちゃん……いや、八百万百。

 

俺は元々、こういう浅ましい奴なんだ。

 

君の思っている「青山優雅」はとっくに死んでいたんだ。

 

だから、頼むから、そんな悲しそうな目で見ないでくれ。

 

俺を哀れまないでくれ。

 

 

 

芦戸、尾白、切島。

 

お前らと放課後まで散々訓練したあと、もう動けなくなってくだらない会話をするあの時間が好きだった。

 

俺に、お前たちの立派なヒーローとしての姿を見せてくれ。

 

 

 

 

そして、爆豪。

 

お前、ようやく緑谷と本当に歩み寄れたんだな。

 

その姿を目にして、胸の奥で思わずホッとしてしまう自分がいた。

 

これで、未練も心残りは消えた。

 

正直に言えば、お前は俺に似ていると思っていた。

 

傲慢で、強欲で……。

 

だが、お前は決して「怠惰」ではなかった。

 

この一年間、お前はどれほど打ちのめされようとも自分から目を背けず、その度に足掻いて成長してきた。

 

泥を啜りながら、自分の弱さと向き合い続けてきた。

 

俺は……お前を見つめる時、自分が背け続けてきた弱さを突きつけられているような気がして、ずっと苛立っていたんだ。

 

自分勝手で、醜い話だろう……。

 

お前ならきっと、誰もが認めるナンバーワンヒーローになれる。

 

だから――。

 

 

「おいおい! とんだヘタレどもだな!

正義のヒーローが聞いて呆れるぜ!

ほら、かかって来いよ!

 

特に爆豪!!

お前にはずっとウンザリしてたんだよ!

そのクソみたいな幼稚なプライド……

いつかこの手でへし折ってやりたいと思ってたんだ!」

 

俺は煽り立てるように、今できる限り底意地の悪い、おちょくった声を響かせる。

 

お前なら出来るだろ。

 

爆豪。

 

優しいやつが多いA組の中で、時に冷酷に俺をヴィランとして処理するという判断をくだせるのは。

 

 

 

さあ、審判の時だ。

 

これまで犯してきた罪の冷たさが背筋を伝い、身体を凍りつかせていく。

 

いや、そんな生易しい感覚ではない。

 

末端から血が引いていき、感覚が失われていく。

 

もはや肉体の痛覚すら、その役割を果たしていなかった。

 

声は、震えていないだろうか。

 

あいつらに、この見せかけの演技が見破られてはいないだろうか。

 

俺は、心の中で必死に祈る。

 

どうか、俺と過ごした一年間を綺麗さっぱり忘れてくれ。

 

どうか、俺を許さず、心の底から憎んでくれ――。

 

 

 

今までついてきた、無数の嘘を思い返す。

 

全てが偽りだったと言える、俺の惨めな人生。

 

だが……これが、俺の人生で「最後の嘘」だ。

 

俺はいるかも分からない神に対して、今日この瞬間だけは切実に祈る。

 

この命がけの嘘が、生涯バレることがないように――と。

 

だから、どうか……どうか……。

 

「死ねやーー!! くそヒーローども!!!」

――どうか俺を殺してくれ(忘れてくれ)

 

 




うーん。ノットエレガントだね。
これは紳士失格。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。