優雅じゃない青山くん   作:ねをん

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初投稿です!
なのでコメント、アドバイス大歓迎です!!!


知らない天井

知らない天井が、真っ先に目に飛び込んできた。

 

「…………え?」

 

わけもわからないまま、そんな声が漏れる。

どうやら自分はベッドに寝かされていたらしい。

 

上半身だけを起こし、周囲を見渡す。

そこは、目を見張るほど豪華な部屋だった。

 

自分が寝ていたベッドは、鮮やかな深紅を基調としていて、触れれば吸いつくように滑らかそうな生地で覆われている。シルクだろうか。

床一面には上質そうなカーペットが敷き詰められ、視界に入る調度品のどれもが高価そうだった。

 

事故にでも遭って、どこかの富豪に助けられたのだろうか。

そんな、自分でも笑ってしまうような馬鹿げた想像が頭をよぎる。

 

そうして部屋を見回しているうちに、部屋の隅にドレッサーがあることに気づいた。

ほとんど反射的に立ち上がり、鏡の前へ向かう。

 

そして、鏡に映った自分を見て、息を呑んだ。

 

「誰だ、これ…………」

 

そこにいたのは、とても日本人離れした顔立ちの子供だった。

すっと通った高い鼻筋。整った目鼻立ち。何より、()()()()()()()()()()()()、アメジストじみた紫の瞳。そして、それに負けないほど華やかな金髪。

 

「……これが、俺?」

 

あまりにも現実離れした光景に、茫然とする。

けれど部屋の中には他に誰もいない。嫌でも、鏡の中のそれが自分なのだと認めるしかなかった。

 

混乱した頭のまま、何か手がかりはないかと部屋の中を歩き回っていると、不意にドアの開く音がした。

 

「優雅!! 目が覚めたの!? 体調は大丈夫?」

 

振り向くと、そこには豪奢な衣服に身を包んだ女性が立っていた。

心底心配そうな表情を浮かべていて、彼女の金髪もまた、こちらに負けないほど鮮やかにきらめいている。

 

何も答えられず、ただ立ち尽くしていると、

 

「まだ具合が悪いみたいね。誰か! 先生をお呼びして!」

 

女性が声を張り上げた。

それを聞いたメイドが、すぐさま慌ただしく駆けていく。

 

自分を案じるその様子を見て、少なくとも犯罪に巻き込まれたわけではないのだと理解し、ひとまず胸を撫で下ろす。

同時に、何ひとつ謎が解けていないことへの不安が、胸の奥でじわりと広がった。

 

――これから、どうなるんだろう。

 

その後、すぐに駆けつけた担当医から、今の状況について説明を受けた。

 

どうやら自分の名前は、青山優雅というらしい。

 

“らしい”というのは、どうにも実感が湧かなかったからだ。

 

過去を振り返れば、確かに青山優雅として生きてきた記憶はある。

それ以外の記憶は存在しない。

 

なのに、確実に“過去の自分”とは何かが違っている――そんな奇妙な違和感だけがあった。

 

まるで、自分だけがほんの少しズレた世界線に迷い込んでしまったかのような、そんな感覚。

 

だが、考え続けたところで答えが出るわけでもない。

ひとまず、自分は青山優雅本人なのだと仮定して生きることにした。

 

医師の診断によれば、これは心的ストレスによる解離性健忘、いわゆる記憶喪失に近い状態ではないか、とのことだった。

 

その“心的ストレス”の原因は、少し前に受けた診察にあるらしい。

 

この世界の人間には、“個性”と呼ばれる超常的な力が備わる。

だが自分には、一般的な子供なら四歳ごろまでに現れるはずの個性発現の兆候が見られなかったため、検査を受けることになったのだという。

 

そして、自分は以前から強い個性に目覚め、個性を悪用する“ヴィラン”を取り締まる“ヒーロー”になりたいと、目を輝かせて語る子供だったらしい。

 

しかし、診断結果は無情だった。

自分は――無個性だった。

 

この社会では、使われない身体的特徴は退化していくとされている。

そして、足の小指に関節が残っているということは、すなわち自分が“進化しきれていない旧人類”であることの証左でもあった。

 

つまり、自分は四歳にして将来の夢を失っただけではない。

旧人類という烙印まで押されてしまったのだ。

 

その結果、自分は気絶した。

そして今は、完全な記憶喪失とまではいかないものの、自分自身の認識をどこか遠ざけることで、傷つくことから逃れようとしている状態らしい。

 

ここまで説明されてもなお、どこか他人事のようにしか思えない自分がいる。

 

言いようのない不安を抱えながら、それでもとりあえずは、父や母にこれ以上心配をかけないようにしたい――その思いだけは、はっきりと胸にあった。

 

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どうにか、青山優雅として生きることにも慣れてきた。

 

とはいえ、“俺”という一人称には、いまだに少し違和感がある。

けれど両親から、「まるで他人事みたいに自分のことを話すのはやめてくれ」と言われてしまったため、意識して矯正しているところだ。

 

ひとつはっきりしているのは、俺の家が相当に裕福だということだった。

最初から察してはいたが、家は“豪邸”と呼ぶにふさわしく、いつでも使用人が二、三人は屋敷にいて、何か困ったことはないかと気を配ってくれる。

 

青山優雅は、かなり甘やかされて育ってきたのだろう。

だからこそ、無個性と診断されたショックだけで気を失ったのかもしれないが・・・

 

両親との関係は、正直に言えば良好とは言いがたい。

俺としては、こんなにも変わってしまった自分を今も育ててくれていることに感謝しかない。

 

両親からすれば、四歳の子供がある日を境に急に大人びて、しかも親にまで気遣いを見せるようになったのだ。

戸惑い、どこか恐ろしさを覚えてしまうのも無理はないのかもしれない。

 

そのせいで、家族の空気はどこかぎこちない。

もともと二人とも仕事で家を空けることが多く、関係が縮まるきっかけもない。

だからといって、こちらからわがままを言える立場でもなく、結局そのままになっていた。

 

最近では、幼稚園でいじめとまではいかないものの、陰口を叩かれているらしい。

この年齢でもそんな陰湿なことをするのかと思うが、上流階級の子供たちだからこそなのかもしれない。

 

俺自身はまったく気にしていなかった。

しかし、先生がそのことを母に報告してしまったらしい。

 

もともと友達付き合いも少なかったせいで、必要以上に心配をかけてしまったのだろう。

ついには母を泣かせてしまった。

 

「気にしてないよ」とフォローはした。

だが、それ以上の言葉は出てこなかった。

 

無個性のまま生きていくことが、どれほど重いハンデなのか。

俺自身、いやというほど思い知らされていたからだ。

 

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五歳の誕生日。

その日は珍しく、朝から父も母もそろっていた。

 

そして夜になったら、とても大きなプレゼントがあるのだと告げられた。

けれど二人の表情は、どこか悲しげで――それでいて、何かを決意したようにも見えた。

 

不思議に思いながらも、幼稚園からの帰り道、俺は少し浮き立った気分で送迎車を降りた。

玄関のドアを開けて、そして――凍りつく。

 

そこに、“巨悪”がいた。

 

「あら…………もう帰ってきてしまったのか。随分早いじゃないか」

 

男は、甘美ですらある声でそう言った。

たった一言聞いただけで、心を奪われそうになる。思わず跪き、すべてを捧げたくなってしまうような、重く甘い声だった。

 

だが、俺はどうにかその感覚を振り払う。

 

男は白いシャツに仕立てのいいスーツをまとい、一見すれば礼儀正しい紳士に見えた。

しかし、その体躯はあまりにも頑強で、誰にも縛られない絶対的な力を感じさせる。

 

そして何より異様だったのは、その顔だ。

そこにあるべき目も、鼻も、口もない。

代わりに重厚な黒いマスクが、すべてを覆い隠していた。

 

人の形をしているのに、人間的ではない。

見つめているだけで、根源的な恐怖が背筋を這い上がってくる。

 

俺は直感した。

こいつは、凶悪なヴィランだと。

 

明確な根拠なんてない。

ただ、その場の空気そのものがそう告げていた。

 

同じ空間にいるだけで呼吸が浅くなるほどの圧。

強烈なプレッシャーに、脂汗が止まらない。

 

少しでも気を抜けば、そのまま傅いてしまいそうだった。

それほどまでに、力量の差は圧倒的だった。

 

視線をずらすと、両親がその男の前で土下座しているのが見えた。

 

「お金はいくらかかっても構いません……! ですから、どうかあの子に個性を……!」

 

母の懇願する声が耳に入る。

 

俺はただ、そいつに震えていた。

人間は、ここまで邪悪で恐ろしいものになれるのかと。

 

「うーん……まあ、一応使えそうだし、しょうがないな」

 

母の必死さとは裏腹に、男はひどく軽い調子でそう答えた。

まるで、大したことではないと言わんばかりに。

 

その瞬間、胸に鋭い痛みが走った。

 

いつの間に動いたのかもわからない。

男の手が、俺の胸元に触れていた。

 

なすすべもなく、ただその痛みを受け入れるしかない。

両親の覚悟すら、何ひとつ尊重していないような相手の行為を。

 

やがて痛みが引いたとき、俺は理解してしまった。

――自分の中に、“個性”がある。

 

その瞬間、俺は初めて本当の意味で絶望した。

 

この男が成し遂げた所業の、とてつもなさを理解してしまったからだ。

心の底から、生物としての格が違うと思い知らされた。

 

もし俺が“旧人類”なのだとしたら、こいつはその旧人類を無理やり“新人類”へと作り変えてしまう存在だ。

一個人が、生物の進化そのものを捻じ曲げてしまう。

 

その事実の恐ろしさに、気づいてしまった。

 

そして同時に、そんな男の手を取ってしまった両親に待つ最悪の未来まで、はっきりと幻視してしまったのだ。

 

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そこから先は、地獄のような日々だった。

 

あの男――AFOは、両親に信じがたい要求を突きつけるようになる。

死体の処理、犯人の捏造、情報の攪乱。

しかも、それらの証拠までもが、すべて向こうの手の内にある。

 

もう青山家は、AFOと一蓮托生だった。

……いや、その表現ですら生ぬるいのかもしれない。

 

向こうは捕食者で、こちらは獲物だ。

逆らえば、家ごと跡形もなく消される。

 

両親としては、俺が大人びて振る舞うのは、無個性であることや幼稚園での扱いを気にして、自分たちに心配をかけまいとしているからだと思ったらしい。

だからこそ、危険を承知でAFOと直接会う機会を作ったのだという。

 

その結果、家族全体を危険にさらしてしまっては本末転倒だ――と父は語っていた。

けれど俺は、二人を責める気にはなれなかった。

 

両親は確かに、俺に愛情を注いでくれていた。

その愛情を、AFOに利用されてしまっただけなのだ。

 

そして俺は、あの日のことを忘れられずにいた。

 

初めて遭遇した、そしてきっと二度と忘れることのないヴィラン。

あのとき俺は、恐怖のあまり何もできなかった。

大好きな両親がひどい目に遭うとわかっていても、なお。

 

俺に、ヒーローを名乗る資格なんてない。

もとの青山優雅にはあったのかもしれない。

けれど今の俺には、あんなふうに眩しい理想を背負うことはできない。

 

それでも。

 

それでも、あの巨悪を放っておくことだけはできないと思った。

 

あいつを放置すれば、きっとこの先も無数の被害者が出る。

俺にはヒーローになる資格なんてないのかもしれない。

それでも、あいつを止めることができれば、これ以上の悲劇を防げるかもしれない。

 

そんな、ありふれた動機だ。

 

――俺のスタートラインは、そこだった。

 

サブタイトル:青山優雅 origin




原作青山くんがあんなにひねくれずに、いい子に育ったの奇跡じゃない?
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