正直、大分ヒロアカの軍事って終わってそう…
個性把握テストの結果としては、
一位 八百万 百
二位 轟 焦凍
三位 爆豪 勝己
四位 飯田 天哉
五位 常闇 踏陰
六位 青山 優雅
七位 障子 目蔵
八位 切島 鋭児郎
・
・
・
十八位 葉隠 透
十九位 峰田 実
二十位 緑谷 出久
という結果だった。
総合順位は六位か、案外高かったな、というのが俺の感想である。
しかし、ずっと訓練を続けていたのだからそれも当然なのかもしれない。
こうしてみると、いかに超常社会といえども依然として男女の体力差は広がり続けているのが伺える。
それにもかかわらずモモちゃんが一位をとっているので、彼女の個性の万能さがよく分かるというものだ。
また、このテストで相澤先生がいかに汎用性を大切にしているかもわかるな。
十九位の峰田くんも反復横跳びで一位を取ったり、緑谷くんもボール投げで大健闘したにもかかわらず、十八位の葉隠さんよりも低い順位になっていることを見れば一目瞭然だ。
だからこそ、緑谷の一瞬の爆発のような、一芸的な個性に強く当たった理由も理解できるというものだろう。
しかし、一体これはどうなるのだろうか。緑谷が最下位になってしまったが、あまりにも落とすには惜しい人材だろう……。
そう思っていると、
「ちなみに除籍はウソな。
君らの最大限を引き出す合理的虚偽。」
「はー!!!??」
そう言ってクラス全員の絶叫が響き渡る。
見れば緑谷くんなんかはホラー映画の幽霊のように顔が崩れている。
「あんなの嘘に決まってるじゃないですか…
ちょっと考えればわかりますわ…」
隣にいたモモちゃんがそんなことを呟いていたので、
「それはどうだろう」と俺は小声で答える。
この先生はずっと合理的という言葉を大事にしている。
しかし、決断としては全く合理的ではないのだ。
他のクラスと足並みを合わせず、入学式をすっ飛ばしてまで個性把握テストをすることは、先生が見込みの無い生徒に1日でも期待したくないため。
初対面時も君たちは合理性に欠けるとか言っておきながら、一番合理的ではなかったのは先生だ。
寝袋で登校し、わざわざ
要はこの先生は俺たちに「合理的で無情な変わり者の先生」という評価を植え付けたかったのだろう。
もし生徒を除籍にしたとしても自分だけが恨まれるように。
しかし、その行動の裏には冷酷になりきれていない優しさが見えるように思うのだ。
だからこそ、お互いに期待し合うという無駄な時間を過ごさないように、という優しさゆえの除籍はあり得たのでは、と俺は考えた。
テストが終わり教室に戻ると、芦戸さんが俺に話しかけてきた。
「ねーねー!これからみんなで親睦会も兼ねてマックに行くんだけど一緒にこない?
聞きそびれちゃった個性の話も聞きたいしー!!」
「ごめん…放課後はモモちゃん…八百万さんに一緒に帰ろうって言われてて…
運転手さんを待たせるといけないから今日は参加できないや」
「えー!!すご!送り迎えなんだ。」
少し悪い気がしたが、モモちゃんとの約束の方が先なので断らせてもらう。
芦戸さんは全然気にしてないよ、と言いながら笑ってくれた。
本当にいい子だな。
そう思っていると、モモちゃんが急に俺の腕を取る。
「優雅さん!もうそろそろ行かないと間に合いませんわ」
俺は、送り迎えに間に合うも間に合わないもないのでは……と思いつつもモモちゃんに従って教室を出た。
そして、黒く輝く大きなリムジンのドアを開け、モモちゃんに先に乗ってもらうように言う。
こういうのはレディファーストだから、と言うとモモちゃんは少し照れたようだった。
どうだ。この弟分の見事な成長は。
そんなことを思っていると、モモちゃんから腕を引っ張られる。
俺はてっきり荷物もあるので助手席に座るものだと思っていたのだが、モモちゃんに引っ張られるまま肩が当たりそうな距離で横並びに座る。
意識せずとも、鼻腔にかぐやかなフルーツの香りが触れる。
モモちゃんのボディシートの香りだろうか。
俺はこれだけ運動して汗臭くないだろうか、ボディシートで体を拭いておけばよかった、とかを考えてしまい余計に汗が出る。
モモちゃんからそーっと距離を空けようとじっくり動いていると、モモちゃんの頭が俺の肩に乗っかる。
一瞬、息を呑みモモちゃんの方をゆっくり見た。
モモちゃんは疲れて寝てしまったようだ。
そりゃそうだ。
雄英高校の入学式、代表スピーチをすると思ったら急に個性把握テストに内容が変更され、それでもクラス内一位を取ったのだ。
プレッシャーは半端なかっただろうと察する。
「お疲れ、モモちゃん。よく頑張ったね。」
本人には聞こえてないだろうが、モモちゃんの耳元でそう小さく呟く。
モモちゃんの美しい睫毛が少し、震えたような気がした。
前を見ると、バックミラー越しに運転手さんと目が合い、すぐ逸らされる。
うわーー!!聞かれてたのか……!
そう思うと俺も顔を真っ赤にしてしまった。
慣れないことをやるものではない。
そう思い顔を伏せていたが、運転手さんは微笑みを浮かべていた。
こんな日々が続くといいんだけどな……。
家に帰ってきた。
両親はどちらも遅くなると言っていたのに家の扉が開いている。
これはもしかして、と思い荷物を玄関に置いたまま、急いで自分の部屋へと向かう。
そこには、髪の毛を乙女のようにくるくると指先でいじりながら俺の机に座る女性がいた。
「ちょっと遅いよ。幼馴染の子とイチャイチャしてたのかい?」
「イチャイチャって…俺とモモちゃんはそんな関係じゃないですよ。
というか、なんで知ってるんです。盗聴と言い、不法侵入と言い、良い趣味とは言えないですよ」
「それは君もだろう。そんなやつと同類なんだからさ。」
そんなふうに軽口を叩き合うその女性は、プロヒーロー、レディ・ナガンその人であった。
AFOの犬である俺と公安の犬であるナガンが、なぜこんなにも仲良く話しているのか。
それは俺が公安に所属し、二重スパイをしているからにすぎない。
ここで言う二重スパイというのは、別に公安を完全に離れているという訳ではなく、AFOに雄英の情報を売るのと同時に、公安にも情報を流しているということである。
と言うのも、血狂いマスキュラーと戦ったその後、ウォーターホースと物間は必死に隠してくれたものの、火のない所に煙は立たないと言うべきか、結局公安は俺がマスキュラーを倒したということを突き止め、直接俺を訪ねてきたのだった。
その時公安に依頼され訪ねてきたのが、レディ・ナガンだったというわけだ。
ナガンは俺を生け捕りにするよう言われていたのだが、脅威であると判断できたのなら殺しても良いという許可が出ていたらしい。
そこを俺は自分の有用性を必死にアピールして、公安に自分自身を売り込んだというわけだ。
現在は空前絶後のヒーロー社会である。
しかし一見ヒーロー社会というものは均衡が保たれているように思えるものの、その実、武力面で言うととても歪な構造になっている。
個性というものの性質上、民間人が武力を持つというのは仕方のないことだが、それが職業として讃えられているというのは恐ろしさを感じてしまうところではある。
個性が発現したばかりの頃、個性に対する法整備が追いつかず、仕方なく国はヴィジランテと呼ばれる民間の戦闘員をヒーローという名称で定義づけ、個性には個性で抑制しようとしたのだ。
しかし、今もその枠組みが残っていることには甚だ疑問が残る。
ただ、ヒーローというものは良くも悪くも影響力が強すぎたのだ。
人間は所詮動物であり、能力の強い者に惹かれる性質がある。
個性はそれを測るにはあまりにも都合の良い指標すぎたのだ。
現代の無個性に対するいじめや、爆豪の態度にもそれが十分表れている。
要は、個性というものが社会に対して受け入れられすぎてしまったのだ。
ヒーローという職業はそれだけで強力な求心力を持ち、理性ではなく本能で憧れてしまうようになった。
俺の見た限り、緑谷出久は特にそれが強いように見える。
個性に執着しすぎた結果、個性やヒーローに対し強い偶像を抱いており、その結果どんなに無謀な夢想でも叶えようとしてしまうのだと。
一方で、このヒーローというシステムはとても資本主義的な考え方であるとも言える。
あくまで個人個人を、ヒーローチャートという形で競わせているのだから。
これは民間団体が力を持ちすぎてしまい、国としては統治が難しくなることにもつながる。
ヒーローの本場がアメリカという超資本主義国家であることからも窺えるだろう。
一方、ロシアや中国といった社会主義的国家にはヒーローという職は存在せず、軍として個性を活用しているようだ。
この違いというのは、国同士の争いになった時にとんでもない差となって現れる。
今の日本の戦力としては民間団体であるヒーローに頼るしかなく、もし日本が未曾有の危機に陥り、ヒーローが自分の利益を優先するようになってしまえば、国家としての防衛面は崩壊してしまうからである。
だからこそ、今の公安はレディ・ナガンのようなお抱えの暗殺者や裏の実行部隊を雇用している。
国として表立って動くには後手に回ってしまうし、口封じや脅迫といった苛烈な手が使えない。
だからこそ、あくまでヒーローや個人が逸脱した行動を勝手に行ったという体裁を取り、追及を避けつつ密かに日本国を守っているのである。
イメージとして近いのは、かつて日本国に存在したと言われる別班のようなものかもしれない。
まあ、そんなことをナガンさんに伝えると「そんな綺麗なもんじゃない。もっと汚い仕事もいっぱいある。」と一笑にふされてしまったのだが。
だからこそ、俺はそんな国の現状、そして今の公安の様子を上級国民の1人として知っていたこともあり、自分を売り出すことができた。
俺は海外での諜報活動もこなせ、高校生になれば有名なヒーロー高校に潜入することができる。
前者ではまさかこんな子供が諜報員だとは思いもしないだろうし、後者では優秀なヒーロー候補を公安に引き抜けるかもしれないという利点と、講師として活躍しているプロヒーロー、そして将来有望な金の卵たちの動向を監視し、事件を未然に把握できるという可能性を与えることができる。
戦闘や暗殺活動に優れているのは見てもらった通りだ。
なんならそちらでさらなる訓練を受けることも厭わない、と。
彼らは俺のヴィジランテとしての活動やマスキュラー戦での活躍を見て、それを弱みとして俺をこき使えると思っているのだろう。
俺の中にどんな
AFOのことは、公安内部にもやつの刺客が潜んでいるかもしれないことを考慮し、報告していない。
ここまできたなら、俺はどんなものでも利用してあいつに近づいてやろうと画策するのであった。
ナガンさんは公安の中でも俺に優しく接してくれて、個性の指導までつけてくれる。
俺の指導教官のようなものだ。
ただ、一緒にいる時間が長すぎて俺が何か重大な秘密を隠していることにも薄々感づいていそうだけど……。
「あなたがわざわざ俺の家まで来たってことは、また何かあったんですか?」
「察しが早くて助かるよ。
今回の標的は巷を騒がせている中華系ヴィランだ。
最近ニュースでよく見るだろう。
強盗事件を繰り返しているが殺人は犯さない。
その目的は単なる金稼ぎだと思われていた。
だが最近になって中国にいる諜報員から、単なる強盗ではなく日本のトッププロヒーローを狙った中国側の破壊工作であることがわかったのさ。」
「つまり、そいつらを足がつかないように処理するわけですね」
「そうだ。もうどのヒーローが処理したかのように偽造するのかまで決まっている。あとは私たちが片付けるだけだ。敵は3人。いけるか?」
「もちろん。個性把握テストでもあんまり個性を使ってないですし」
「お前もしっかり高校生してるんだな…なんだか感慨深いよ」
「失礼な。俺はまだ15歳ですよ」
「そうだったな。じゃあ作戦は向かいながら説明する……ついて来い」
やれやれ、人使いが荒いものだと思いながら、俺は渋々その背中についていくのであった……。
『――えー、では作戦の最終確認を行う』
通信機から聞こえるノイズ混じりの低い声を聞き逃さないよう、深く集中する。
こんな凄惨な処理業務に慣れたくはなかったな、と自嘲混じりのため息をつきながら。
『標的は中華系ヴィラン三名。中国本土ではヴィランネーム【鎌鼬(かまいたち)】と恐れられた凶悪犯罪者だ。
我々公安としては、この美しき日本を汚す者は何人たりとも許しておくことはできない。
よって駆除対象とする。全員抹殺しろ。
敵は三つ子のヴィランで、息の合った連携が非常に厄介だ。
長男、風凌(フォン・リン)。
こいつは風の流動を操る広範囲の個性を持っており、集団戦や牽制にめっぽう強い。
次男、風刃(フォン・レン)。
こちらも風使いだが、風を鋭利な刃として圧縮・飛散させてくる。対人戦での殺傷力が極めて高い。
そして最後、三男の風癒(フォン・ユー)。
二人同様に武術に長けている上、個性で組織の修復・治療ができる。戦闘が長引けばこちらが不利になるぞ。
互いの死角を補い合う隙のないチームだ。
これを確実に排除するため、君たちには奇襲による即時暗殺をお願いしたい。
具体的な手順としては――』
長官は長々と敵の説明をしてくれたが、要するにいつも通りの仕事だった。
国にとって不都合なヴィランを、俺たちの手で静かに処理する。
今日はあいにくの土砂降りで、視界が極めて悪い。
こういう劣悪なコンディションの時こそ、俺の出番だ。
ナガンが敵の本拠地へと潜入・接近する一方、俺は街並みを見下ろせる高台のビルの屋上に陣取る。
漆黒のレインコートに身を包み、冷たい雨と夜の闇へと溶け込んでいく。
公安から支給された暗視スコープを装着する。
『ネビルレーザー:モード レディ・ナガン』
雨脚は強く、風が吹き抜けるたびに銃口がわずかに揺れる。
この特殊な銃口も、公安が俺の個性を解析して造り上げた特注品だ。
俺の丹田から伸びた光状のエネルギーラインを配線とし、腕のラインに寸分の狂いもなく密着・固定されている。
雨の降りしきる連続音が、余計な雑音を消し去り、俺の精神をゾーンへと導いていく。
呼吸を整え、心拍数を落とす。集中しろ。
暗闇の中、ナガンが静かに敵のアジトへと肉薄していく。
敵のアジトは、工作員であることが露呈しないよう、表向きは出稼ぎ労働者の貧困部屋を装ったボロい一軒家だ。
だが彼らは訓練された潜伏員。家の中にどんなトラップや感知用デバイスが仕掛けられているか分からない。
だから今回は、最初から室内には突入しない。
合図とともに、ナガンが外壁の主配電線をナイフで切断する。
一瞬で家屋全体が漆黒の停電状態に陥った。
違和感を覚えた彼らは、必ず確認のため外に出てくる。
――来た。長男だ。
長男・風凌が玄関から身を低くして現れ、家の側面に配置された分電盤の様子を見に角を曲がる。
その一瞬の隙を狙撃する。
俺のネビルレーザーは、個性把握テストの時には派手な光の束として見せたが、出力と口径を極限まで絞り込むことは容易い。口径を絞るにつれて着弾時の破壊力は下がるが、人間の頭蓋を正確に撃ち抜く程度なら造作もないことだ。
シュン――、と雨音を割るような微かな鋭い音が夜気に溶ける。
次の瞬間、長男・凌の額の中央には、直径1センチにも満たない極小の穴が穿たれていた。
ネビルレーザーは光の熱線に極めて近い性質を持つため、雨量や強風、弾道落下といった物理法則の計算を一切必要としない。
銃声も、薬莢も、ライフリングの刻印も残さない。暗殺においてこれ以上の兵器はない。
長男の身体が崩れ落ちるより早く、側で潜伏していたレディ・ナガンが影のように滑り込み、脱力した凌の身体を無音で受け止める。そのまま家の裏手へとそっと寝かせた。
よし。あと二人。
スコープ越しに息を詰めたその時、家の中から残る二人が同時に飛び出してきた。
長男が戻らない異常を察知し、襲撃を確信したのだろう。
二人は互いの背中を庇い合うような警戒態勢を整え、目まぐるしく周囲を探っている。
これは少し厄介だな。
しかし、この程度のイレギュラーも想定の範囲内だ。
俺とナガンは一切の合図も交わさず、無言のまま完璧な連携に移る。
どちらも本職の領域に足を踏み入れたスナイパーなのだ。
俺は迷わず、攻撃を司る次男・風刃に狙いを定める。
風刃は狙撃を警戒して風の膜を身に纏いかけていたが、まさかこの豪雨の中、ビル街の遥か高台から精密射撃が来るとは夢にも思っていなかっただろう。
頭頂部を穿ち、脳幹を一撃で撃ち抜く。
その瞬間、隣の次男が血を吐いて倒れたことに驚いた三男・風癒が一瞬だけ動きを止めた。
その一瞬の隙を、レディ・ナガンが見逃すはずもない。
闇から滑り出たナガンは間合いを一気に詰め、風癒が個性を発動するよりも早く、その首元へ滑らかにナイフを滑らせた。
抵抗の声を上げる暇すら与えず、一閃で喉元を掻き切る。
相変わらず、恐ろしいほど鮮やかな手際だ。
俺の射線を絶対に遮らない絶妙なラインを取りながら、相手の意識が途切れた一瞬を逃さずに命を刈り取る。
あまりに洗練された殺戮の手順に、俺はただ息を呑むばかりだった。
思えば俺がこうして遠距離からのスナイパーとして動けているのも、ナガンの優しさゆえなのだろう。
俺のネビルレーザーは確かに風速や弾道の落下といった環境負荷を受けないが、ナガン自身は実弾であってもそれを長年の経験と勘で易々と補ってしまう。
それでも、俺の近接格闘の甘さやリスクを見抜き、危険の少ない長距離射撃に回して面倒を見てくれているのだ。
本当に、この人には頭が上がらないな……。
「おーし、後処理するぞー」
通信機越しにナガンの呑気な、今人を殺したばかりとは思えない声が届く。
「了解です」
人使いが荒いな、と心の中で苦笑しながら、俺はスコープを外し、静まり返った暗闇の雨の中、ナガンのもとへ向かうのであった。