優雅じゃない青山くん   作:ねをん

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中学生時代 2

「あー、また帰りが遅くなっちゃったな」

 

そう呟いたのは、一人の少年、物間寧人だった。

よく見れば、塾の帰りなのだろうか、参考書をたくさん詰め込んだカバンを持っている。

いつも学校で見せるような輝きはなく、顔には疲れがにじんでいた。

 

「やっぱり、完璧を演じるっていうのは難しいな。

でも、ちょっと疲れたからといって休むわけにはいかない。

僕は主役になるために、努力を惜しんでいられないんだ……」

 

そう語る彼には、どこか焦りがあるように見えた。

年頃の中学生にはありがちな、アイデンティティを探す行為のようにも見える。

だが彼の感情は、世間一般でいうそれとは少し異なっていた。

まるで、自分の性分がすでに決まっていて、それでもなお、それに抗おうとしているような面持ちだった。

 

夜の闇は深く、静けさは時がたつにつれて増していく。

少年、物間寧人の心もまた、夜の帳に覆われるように、暗く、深く沈んでいく。

頭上に浮かぶ月だけが彼を見下ろしており、まるでその月光だけが、彼に唯一の正解を示しているようでもあった。

 

夜も遅い。急いで帰ろう。

そう思ったその時、素早い影が彼のそばを通り過ぎていった。

 

普通なら、あまりに速すぎて見逃してしまうような一瞬だった。

だが、鍛えられた彼の動体視力は、その影の姿をはっきりと捉えていた。

影は、体格も年齢も完全に覆い隠すような漆黒の外套をまとい、さらに顔を隠すためのマスクまでつけていた。

それでも、フードの隙間からのぞく黄金の輝きと、瞳から漏れるアメジストの光だけで、物間はその正体が青山優雅ではないかという結論に至る。

 

なぜ正体を隠しているのか。

なぜこんな場所にいるのか。

なぜそんなに急いでいるのか。

聞きたいことは山ほどあったが、とりあえず追いつかなければ話にならない。

そう判断した物間寧人は、外套の人物を追いかけることにした。

 

驚いたことに、その差は一向に縮まらなかった。

物間は抱えていた参考書類をすべて放り投げ、全速力で走っている。

それでも追いつけない。

 

彼はいつから走っているのだろうか。そんな考えまで、物間の頭に浮かんでくる。

少なくとも、物間の知る青山優雅は、たしかに実技の点数こそ高いものの、ここまで自分との差があるわけではなかったはずだ。

それとも、実技試験ですら本当の実力を隠していたというのか。

だとしたら、いったい何のために。

そんな思考が頭の中をぐるぐると駆け巡る。

 

こんなのは無駄な考えだ。

考えたところでわかることはない。

だが、そんな堂々巡りをしてしまうくらいには、外套の人物の速度は速く、物間はすでに限界に近かった。

 

そのまま十分ほど走った、その時だった。

外套の人物が視界から消えてしまいそうになる寸前、小さな子どものつんざくような悲鳴が聞こえた。

その瞬間、外套の人物は、先ほどよりも数倍の速さで悲鳴のしたほうへ駆けていく。

まだ速くなるのか、とため息が出そうになったが、一大事であることは理解していたため、物間も全力でさらに速度を上げた。

やがて、戦闘音が聞こえてくる。

 

そして彼がそこで目にしたのは、学生という立場では思わず目を背けたくなるような、凄惨な現場だった。

 

 

 

 

 

ヴィランが月に照らされている。

 

ただ、そんな詩的な表現が当てはまるほど、状況は幻想的ではなかった。

濃い血の匂いがする。今にも息が詰まりそうだ。

ヴィランは赤黒い肉の塊と化していた。

一見、遠目には被害者の無残な姿だと勘違いしてしまいそうなほどだ。

だが、その狂気じみた目と獰猛さは、奴が捕食者であることを言葉以上に雄弁に物語っていた。

 

悲鳴の主と思われる子どもが、一人のヒーローと、そのすぐそばに倒れている女性に駆け寄っている。

あのヒーローはウォーターホースだろう。

火災現場での救助活動を主な任務とし、通常のヴィランとの戦闘もこなせる、ヒーロー界のホープだと聞いたことがある。

 

しかし、今、目の前にいるウォーターホースは、そんな評判とはかけ離れた姿をしていた。

全身血だらけで、道路の破壊痕からも激しい戦闘があったことがうかがえる。

なにより、無理やり力づくで曲げられたとわかる、ぐにゃぐにゃになった足が、これ以上の戦闘は不可能だと物語っていた。

隣に倒れている女性も同様にひどい怪我をしている。

自分たちの子どもを守ったのだろうか。子どもには大きな怪我は見当たらない。

 

そして、そんな戦闘を引き起こしたと思しきヴィランは、さらに信じがたい姿をしていた。

まず目に飛び込んでくるのは、その形相だ。

片目は潰れ、その瞳にはもはや何も映していないように見える。

それなのに表情は恍惚としており、戦闘そのものを心の底から楽しんでいるようだった。

その顔を見た瞬間、物間は背筋が凍るのを感じた。

 

これが本当のヴィランなのだ。

話し合いが通じる相手ではない。

完全な悪だと、本能が理解してしまった。

腰が引けるのも無理はない。

学生が、いきなりトップヴィランとトップヒーローがぶつかる現場を見せられて、臆するなというほうが酷な話だった。

 

だが、そんなヴィランに立ち向かっていたのは、外套の人物――それは青山優雅だった。

ヴィランの個性によるものだろうか、そいつの体は膨張し、筋肉が全身にまとわりついていて、グロテスクで、人間ではない別種の生物のような肉体をしている。

そんな怪物に、青山は真正面から挑んでいた。

 

青山優雅のマスクは激しい戦闘の最中にすでに剥がれ落ち、外套もまた、あちこちが引き裂かれていた。

一発でももらえば終わりという極限の戦場で、彼は外套一枚を削り合うような紙一重の攻防を生き抜いていた。

しかし、その顔には焦燥が浮かんでいる。

当然だった。

自分は一発でも食らえば終わる。

だが相手は強靭な筋肉の鎧に覆われ、生半可なダメージなど通りそうにないのだから。

 

そんな戦場を、物間寧人はただ観察することしかできなかった。

足が動かなかったのだ。手も震える。

こんな事態を想定していたわけではない。

ついさっきまで平和だった日常から、いきなり命を懸ける戦場に放り込まれたのだ。

その事実は彼に多大なストレスを与え、冷静な判断を奪っていた。

 

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ヴィジランテ活動をしていたら、血狂いのマスキュラーさんが出てきたんだが!?

 

もちろん知ってますよ、あなたのことは。

こちとら、主要なヴィランはこの手で全員ぶっ飛ばしてやるつもりでヴィジランテをやってるんですからね。

ただし、状況は最悪だ。

 

少し戦ってみた感じ、マスキュラーは個性である筋肉の鎧が強すぎて、通常攻撃がまるで効いていない。

多少、関節部分を狙えば筋肉も薄いし通るんだろうけど、こいつ、長時間の戦闘でアドレナリンが出まくってハイになってるから止まらない。

唯一、有効打になり得そうなのは発勁。

だけどそれも、氣を体内に巡らせる必要があるから、ネビルレーザーほどじゃないにせよ、ある程度の溜めがいる。

しかも発光するという、いかにもチャージ中ですと言わんばかりのおまけつき。

 

ウォーターホースに手伝ってもらいたいけど、長時間の戦闘で見るからに体がボロボロすぎる……。

となると、手助けは期待できないものとして、ヒーローが来るまで待つしかないか。

ヒーローが来たらヴィジランテ活動がばれて、AFOにまで話が伝わるかもしれないけど、そこは青山財閥の全力の隠蔽とウォーターホースの口添えでどうにかするしかない……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「なぜ諦めないんだ……なぜ逃げないんだ……?」

 

思わず、物間の口からそんな声が漏れた。

ヒーロー志望としては決して口にしてはならない本音。

だが、この場でそれを責める者はいなかった。

 

自分が放心していたことに気づき、物間は急いで子どものもとへ、ひいてはウォーターホースのもとへ駆け寄る。

しかし、その足取りはおぼつかない。

そこには明らかに恐怖がにじんでいた。

 

実際、ウォーターホースのもとへたどり着いた瞬間、物間の動きは止まった。

ひどい怪我だ。

全身を見渡しても、無傷の箇所が見当たらない。

幸い、出血量そのものはそこまで多くないようだったが、全身がボロボロで、立ち上がることすらままならない様子を見ると、いっそ出血多量で意識を失っていたほうが楽だったのではないかと、そんな感想すら抱いてしまう。

 

特にひどいのは腕と足だった。

個性を使う腕は、激しい戦闘の最中に掴まれたのだろう。前腕部が握り潰され、ぐしゃぐしゃになっている。

足もまた、一撃離脱を繰り返すウォーターホースの戦闘スタイルが気に食わなかったマスキュラーによって封じられたのだろう。

足にはコンクリートがめり込んでいた。

 

しかし、マスキュラーの個性は筋肉増強だ。

地面のコンクリートを砕くことなど容易いだろうし、その筋肉から放たれるコンクリートの砲弾を避けるのも簡単ではないことは想像に難くなかった。

 

「勝てるわけがない。プロヒーローが負けたんだぞ。

耐えるだけでも苦しいはずだ。一撃食らえば死ぬほどの劣勢だ……。

しかも君は正体を隠して移動していた。きっと、正体がばれたらまずいんだろ。

ヒーローが来たところで、それは君の勝利じゃない。

どう転んだって君の負けだ。それがわからないほどの馬鹿じゃないだろ!!」

 

怒りのこもった声だった。

だが、その怒りは青山に向けられたものではない。

何もできていないくせに、言い訳ばかり並べている自分自身へ向けられたものだった。

 

すると、ウォーターホースが物間を見つめて言った。

 

「彼には、自分よりも大切なものがあるんだろう」

 

怪我のせいで意識を保っているのもやっとのはずなのに、それでもウォーターホースは言葉を続けた。

 

「ヒーローとは本来、職業を指す言葉ではない。

誰かを助けたい、そんな強い気持ちがあれば、誰だってヒーローになれる。

彼はそれが強すぎるのだろうね。自分のことも気にならないほどに」

 

物間は気づいてしまった。

青山の中にある、狂気的なまでの自己犠牲の精神に。

それはヒーロー論の極論であり、暴論ですらあった。

下手をすれば誰も幸せになれないかもしれない、そんな綱渡りを繰り返すなど正気の沙汰ではない。

しかし、それでもそこに確かにヒーローとしての理想を見てしまった。

 

彼の瞳のアメジストの光。

それは他の光を呑み込む深淵であり、他の光の存在すら許さない、狂気じみた輝きだった。

 

「もう大丈夫だ。見たところ、君たちは学生だろう。

私は十分回復したし、腐ってもプロヒーローだ。

ここは私に任せて、そこにいる妻と子どもを連れて逃げてくれ……」

 

ウォーターホースは立ち上がり、気丈に振る舞う。

だが、それが空元気であることは容易に察せられた。

必死の覚悟なのだろう。

 

もし青山と物間が逃げたとしても、二人の一般人――しかもそのうち一人は子どもを連れて、マスキュラーから逃げ切るのは容易ではない。

少なくともウォーターホースは殿となり、命を落とすことになるだろう。

 

物間は冷静に分析する。

先ほどまでの混乱は、嘘のように消えていた。

ヴィランをも超えた青山の狂気。

そして、そこに希望を見出した自分。

そうして物間は、一つの、か細いながらも確かにつながっている可能性を見つけ出した。

 

「彼の瞳に目を奪われて、のこのことついてきた時から、こうなることは決まっていたのかな」

 

そう言った物間の口角は上がっていた。

この作戦を実行すれば、自分は死ぬかもしれない。

そう思いながらも、後悔のない表情で、今にも青山に加勢しようとしているウォーターホースへ作戦を伝えた。

 

マスキュラーと青山優雅の戦いは、さらに熾烈さを増していた。

互いに理解していたのだ。

相手を殺す手段を、自分も相手も持っていることを。

そして、集中力が切れたほうが負けだということを。

 

しかし、やはり純粋な戦闘技術で言えば、マスキュラーに一日の長があった。

青山優雅もヴィジランテとして戦闘経験を積んではきたが、それはあくまでチンピラ相手のものだ。

本当の意味での命の奪い合いという経験が不足していた。

一方のマスキュラーは、日本でも有数の大犯罪者であり、人を殺した経験は数知れず、ヒーローを何人も殺してきた実績は本物だった。

 

だが、ここで状況が動く。

傍観していただけだったウォーターホースが、青山優雅に向かって叫んだ。

 

「個性を使う! 一度きりの大技だ。いいタイミングで離脱しろ!!」

 

それを聞いたマスキュラーは、一瞬だけ思考を止めた。

だがマスキュラーは、それを即座にブラフだと切り捨てた。

ウォーターホースは長時間の戦闘で満身創痍だ。個性を使うための腕も、たしかに自分が握り潰した。

ならば、今の彼にできることなど時間稼ぎ程度。大技など残っているはずがない。

そう判断を下す。

 

だが、その一瞬の逡巡を、青山優雅は見逃さなかった。

ウォーターホース、ひいてはその裏にいるであろう物間寧人の意図を汲み取り、わずかに残っていた外套をマスキュラーの顔へ投げつける。

マスキュラーは即座に反応し、外套を引きはがした。

そして、青山優雅とウォーターホースの両方を警戒する。

 

その上で、ウォーターホースに大した攻撃はできないと判断し、青山優雅に対してカウンターの構えを取った。

 

この対応は、さすがマスキュラーと言うほかなかった。

急な不意打ちにも冷静に対処し、隙をまったく見せなかったのだから。

 

だが、攻撃は視界の外から来た。

 

突如として高圧の激流を浴びせられ、マスキュラーは体勢を崩す。

予想外の攻撃に、さすがのマスキュラーも一瞬思考が止まった。

この攻撃を放ったのは、もちろん青山優雅ではない。

 

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ここで物間寧人の個性を説明しよう。

個性『コピー』。発動条件は相手の一部に直接触れること。コピー可能時間は五分。

もちろん青山優雅は、クラスメイトの個性を一通り把握していたため、物間寧人の個性がコピーであることを知っていた。

物間が尾行していた事実こそ知らないが、なぜか現場にいることは認識していた。

そして青山は、物間の普段の言動から、このまま指をくわえて逃げるような人間ではないとも思っていた。

 

だからこそ、物間の作戦に賭けたのだ。

それは奇しくも、物間が青山にヒーロー像を見出したように、青山もまた物間にヒーローの資質を見ていたからだった。

 

一方のマスキュラーは、戦闘現場に物間がいること自体は把握していた。

だが、何もできない腰抜けだと見なしていた。

そして、その評価は外套で視界を塞がれた時も変わらなかった。

たとえどれだけ強力な個性を持っていたとしても、結局は個性頼りの甘ちゃんであり、自分の肉の鎧は貫けない。

そう判断していたのだ。

 

実際、その判断は半分正しかった。

物間一人だけなら、逃げ出していたかもしれない。

だが忘れてはならない。彼らは英雄の卵なのだ。

どれだけ小さく未熟であろうと、彼らはヒーローだった。

しかも二人は、その卵の中でも選りすぐりの逸材だ。

相手が悪かったというほかない。

 

もっとも、そんな言い訳は彼の中では通用しない。

戦いは所詮、勝つか負けるか。それだけなのだから。

 

マスキュラーは叫ぶ。

 

「このゴミカスが!!! やりやがったな!!!!」

 

その声は力強く、今にもどこまでも響き渡りそうなほどの憎悪を孕んでいた。

 

だが、カウンターのために体重移動をしていたこともあり、マスキュラーの体勢は一瞬だけ崩れていた。

それでもマスキュラーは負けじと筋肉の装甲を最大出力で展開し、激流を払いのける。

いくら強力なプロヒーローの個性とはいえ、学生――それも中学生が放つ借り物の個性では、稼げる時間はわずかだった。

だが、そのわずかな時間こそが値千金の鍵だった。

 

マスキュラーの眼前には、すでに青山優雅がいた。

右手を腰の横に、左手をマスキュラーへ向けてまっすぐ伸ばし、その体からは青い粒子が鈴の音のようにきらめきながら、マスキュラーの身体を照らしていた。

 

マスキュラーは慌てて筋肉の鎧を最大硬度でまとおうとする。

しかし、もう遅い。

中国拳法における三才式と呼ばれる、形意拳特有の半身の構えは、すでに完成していた。

 

青山優雅が、寸歩でマスキュラーの視認を超える速度のまま、その懐へ滑り込む。

そして、腰の横に構えていた拳を内側に回転させながら、相手のみぞおちへねじ込む。

同時に、前足を強く地面へ踏みつけた。

 

【崩拳】

 

前進する体重のすべてを拳に乗せた一撃が、マスキュラーの横隔膜にクリーンヒットする。

息ができない。

だが、それでもなお気絶には至らない。

それどころか、腕を振り上げ、力任せに振り下ろそうとした。

 

しかし、その前に。

青山優雅はごく自然に、本人すら意識しないまま、型どおりにマスキュラーの胸元へ左手を添えていた。

そして叫ぶ。

 

【寸勁】

 

中国拳法の代名詞でもある発勁。

その究極形ともいえる、わずか数センチの距離から相手を吹き飛ばす寸勁をまともに受けたマスキュラーは、勢いよく吹き飛ばされ、そのまま二度と立ち上がることはなかった。

 

だが、マスキュラーも、そして青山優雅自身も知らなかったことがある。

無意識下で放たれたその寸勁は、暗勁と呼ばれる類のものであり、その効果は内部を破壊するものだった。

つまり、マスキュラーの肉の鎧は、人体の内部を破壊する青山優雅の技とは、そもそも相性が最悪だったのである。

 

「やった!!」

 

物間の口から、思わずそんな声が漏れる。

無理もない。それほどの死闘だった。

マスキュラーの個性が解けていく。

やっと終わったのだと、物間はそう思った。

 

だが、死闘を経験したのは青山優雅も同じだったようで、その場に倒れ込んでしまった。

どこか安心しきったような顔つきだった。

 

しかし、物間にはゆっくりしている暇などなかった。

もうすぐ警察が来る。

そう考えた物間寧人は、とりあえず青山優雅を逃がすことにした。

青山優雅は個性『ネビルレーザー』の使い手として通っている。

マスキュラーの負傷を見られても、物間だけがウォーターホースの個性をコピーして戦った、という言い訳なら通せそうだと考えたのだ。

また、ウォーターホースにも、青山が戦闘を行ったことは伏せてもらうことにした。

 

ウォーターホースは、ヒーローの身分で隠し事をすることや、中学生である自分たちが隠し事をすることに対して怪訝な表情を見せた。

だが、僕らのヒーローとしての資質を見たからか、渋々ながらも頷いてくれた。

 

 

 

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物間寧人は考える。

なぜ自分は青山優雅をかばうのだろう、と。

聞きたいことは山ほどある。

なぜ個性を偽っているのか。

なぜ変装して走り回っていたのか。

なぜそこまでヴィランに並々ならぬ思いを抱いているのか。

知りたいことは、いくらでもあった。

 

だが、今はそんなことはどうでもよかった。

物間寧人は『コピー』の持ち主である。

だからこそ、自分は主役たり得ないのだと思っていた。

いつまで経っても誰かの個性を借りるだけで、自分一人では踊れない。

自分は他人の輝きを借りて光る、月のような存在であり、太陽にはなれないのだと。

自分の行動理由はすべて他人から与えられたものであって、自分から生み出すものではないのだと。

 

しかし、そんな物間にも初めて夜明けが訪れた。

青山優雅。

彼は太陽だった。

 

他者の行動理念も、自分自身の行動理念すらも関係なく、青山の中にあるのは、ただひたすらに純粋な自分自身の信念だけだった。

なんと不器用な生き方なのだろう。

太陽の爆発はエネルギーであり、他者にさまざまな影響をもたらす。

だが同時に、それは爆発――つまり、自らの身を焼くことで放つ光でもある。

信念が折れてしまった時こそが、青山という星の終わりであり、本当の意味での死なのだ。

 

それはまるで日食のような、奇跡じみた出会いであり、衝撃だった。

破滅的なほどに美しい光と熱。

近づきすぎれば、かのギリシャ神話の若者のように、羽を焼かれてしまうほどに。

それでもなお、眩しくて目が離せなかった。

 

しかし彼には、たとえ燃え尽きてもいいと思わせるような魅力があった。

それは他者から見れば呪いのようでいて、けれど物間にとっては祝福でもあった。

 

だが、彼が隠し事をしているのもまた事実だった。

そして彼は、決して自分のことをヒーローだとは認めないだろう。

そんな確信があった。

だからこそ、彼が本当に輝ける時まで、僕がスポットライトを浴びようじゃないか。

太陽に朝があり、月に夜があるように、二人で分け合っていけばいい。

 

僕はフィクサー。影に生きる者。

主役であり、いちばん輝くのは、僕じゃなくていいのさ。

 

物間寧人: origin

 

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