優雅じゃない青山くん   作:ねをん

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有英高校入試

突然だが、俺は中学三年生になった。

 

というのも寧人との試合の後、俺はフランスへ渡った。

しかしそこからというもの、二年間フランスで生活したのだが、大きなイベントはなかったからだ。

 

窓の外には見慣れない石造りの街並みが広がり、朝は教会の鐘の音で目を覚ます。そんな異国の空気にもすぐに慣れてしまうくらい、俺の日々は変わらなかった。日本にいた時と同じように、学校が終わればひたすらに自分を追い詰めた。夕暮れのオレンジ色が部屋に差し込む頃には汗だくで倒れ込み、そのまま泥のように眠り、目が覚めたらまた学校に行き、と言ったルーティーンだ。

 

しかし、少し変化した部分もある。それは寧人との文通だ。

俺は冗談だと思っていたのだが、向こうは大分本気だったらしく、フランスに着いてからはずっと毎日手紙を送ってきていた。

 

なぜ手紙なのかと聞くと風情だそうだ。

変なところにこだわりがあるのがあいつらしい。

 

とにかく、そんな毎日のように手紙を送ってくるもんだからこっちも返信を返さないわけにはいかなかった。ポストに届く、日本の便箋の匂いがする封筒を開ける瞬間だけは、フランスにいながら日本の空気を吸っているような、そんな不思議な感覚があった。

 

ちなみに豆知識だが、日本からフランスまで手紙を出すとしても140円しかかからないことには俺もびっくりした。

 

そんなこんなで、振り返ってみると最低でも一週間に一度は文通をしていたようだ。

 

その中で、俺も寧人に色々なことを学ばせてもらった。

俺が人付き合いの不器用さを解決したいと相談すると、会話テクニックだったり、身だしなみの整え方などを教えてくれた。

 

また、俺からは寧人に、たくさんの個性を使う都合上、格闘術を何か一つ納めておいた方がいいことや、個性の解釈の仕方によって如何様にも化けることを説明し、その談義に文字を費やすことがほとんどだった。

 

こう聞くと俺って本当に脳筋なんだな……

 

まあ、毎週必ず日本の友達と文通をしながら、寧人のアドバイスを生かし学校でも少しばかり友達を作り(忙しいので放課後に遊ぶことはなかったが)、身だしなみを整えるようになったことから、母親は、「あの人から離れるためにフランスに来てよかった」と泣かれてしまったが……

 

別に、AFOは関係ないんだけどな……

まあけど、母親が喜んでくれるなら嬉しい限りだった。

 

しかし中学三年生の時、AFOからフランスに直接連絡が来た。

 

夜、母さんと夕食を終えたばかりの、何の変哲もない時間だった。テーブルの上の母さんのスマートフォンが震え、画面に浮かんだ通知の一文字一文字が、まるで氷水を浴びせられたように部屋の温度を奪っていくのを感じた。

 

「バカンスは楽しかったかい?ところで少し日本で頼みたいことがあるんだけど、僕と君たちの関係だ。もちろん聞いてくれるよね?」

 

そんな内容が俺たちに届いた。母親は泣いていた。そして何度も俺に謝った。

ごめんね、ごめんね、と。何かに縋るように。

自分の過ちを何かに懺悔するように。震える肩、絞り出すような声。何度も何度も謝る母さんの姿は、あの日から今もずっと俺の瞼の裏に焼き付いている。

 

俺は腸が煮え繰り返りそうだった。

できることならば、今すぐにでも殺しに行ってやりたい。

 

母さんが何をしたっていうんだ。

 

俺はいい。無個性に生まれてきたことが罪ならば受け入れよう。どんな叱責も罵倒も受け入れようじゃないか。

 

ただ母さんは違う。

俺のために、出来損ないの俺を思ってずっと自分の身を危険に晒している。

 

母さんの行動は愛ゆえの行動で、その行動が罪というのならAFOお前は存在していること自体が罪になる巨悪じゃないか。

 

そんなことを考えていると、涙が出てきた。

母さんへの同情、AFOに対する憎悪、自分自身への覚悟、そんなものが詰まった涙だった。窓の外では、何も知らない街の灯りがいつも通りに瞬いていて、その平和さがかえって胸を締め付けた。

 

この感情を風化させてはいけない。

別に他の人を巻き込む気はない。

学校で過ごしている時、寧人と文通をしている時、母さんに今日の出来事を報告している時、そんな時に持ってくる必要はない。

ただ静かに、そして確かに、自分の中にある感情を沸々と沸たぎらせ、あいつに報いるその日まで、この感情は取っておくだけだ。

 

幸い、指示の内容としては「雄英高校に入学し、プログラムを教えろ」という内容だったが、元々雄英高校には入るつもりだったし、俺が入れなかったら代わりのスパイが色々な手を使って、雄英高校にねじ込まれるだけだから丁度いい。手を汚すのは俺だけでいい。

 

聞けば寧人も雄英高校を目指していたという。

 

もしかしたら一緒にまた学べるかもしれないな、と言ったらとても喜んでいた。

 

まあその文章の文体がちょっとネチョっとしていて少し気持ち悪かったが……

 

指示の内容的にもやはり、父さんのことは厳重に監視しているようだが、ましてや俺に関してはちょこっと、ヒーロー志望で今はフランスで隠れているくらいにしか知らないのだろう。

 

その油断が命取りになるとは知らずに、と思わなくはないが、俺に取ってはチャンスなのでありがたく受け入れよう。

 

母さんは別に雄英に行かず、このままフランスに残ることを提案してくれた。指示を断る埋め合わせは私たちがするのでこの子は巻き込まないでくれ、と直談判するつもりらしい。

 

そんなことを言えば、面倒臭くなって一家もろとも皆殺しにされるような気がしたのだが、言わなかった。

言わないほうがいいこともあるのだろう。

 

「僕はもともとヒーローになりたかったんだ。

覚えているでしょ。

そもそも個性を欲しがったのもそれが理由だし…。

もう僕にこんな機会二度とないと思うんだ。

個性を貰ったことがいつバレるかわからないから、社会に出ると基本個性は使えない。

これが最後のチャンスなんだ。」

 

これは本心である。

 

確かにAFOに近づけ、計画の予測がしやすくなることが動機の半分ではあるが、もう半分としてはヒーローというものへの憧れがあった。

 

もうとっくに罪を背負っている僕がヒーローと呼ばれることはないだろうが、ヒーローと呼ばれる人たちは見ておきたいと思ったんだ。

 

そう話すと、母さんは泣きながらも、僕が雄英高校を受験することを許してくれた。

 

ありがとう。母さん。やっぱり母さんは僕のヒーローだよ。

どんな形であっても

 

僕を無個性という闇の中から助けようとしてくれた。

そんな愛という名の自己犠牲の果てに今の僕がいる。そうおもうんだ。

 

幸い、僕は勉強はでき、筆記は余裕そうだった。

推薦枠も考えたが、タイミング的に出願が難しく一般で受けることになった。

 

そして今、僕は大きな大きな、僕の身長の何倍もある雄英の門を潜るところだった。門柱に刻まれた歴代のヒーローたちの名前が、朝の光を浴びて鈍く輝いている。潮風混じりの春の空気を吸い込みながら、俺はその一歩を踏み出した。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

筆記試験は余裕というところか。

俺はそう思った。

それもそのはず。

英語はフランスのインターナショナルスクールに通っていたため、もはや中学生の英語のレベルには当てはまっていない。

数学や国語、他の教科も、青山財閥の一人息子ということもあり、小さいころから家庭教師をつけられみっちりと鍛えられてきた。

 

こんなに恵まれた環境で落ちるほうが難しいよな…

 

そう思ってしまう。

 

となると、問題となるのはやはり実技試験だろう。

 

青山財閥のコネで知った情報によると実技試験は、受験生同士の個人戦だったり先生と手合わせだったり、といった試験内容を年ごとに変えているようだ。

 

例年通りに行くと、戦闘系の試験が六割ほどらしいが、一方でごくまれにレスキュー系の試験も出ることがあるらしい。

 

個性が戦闘寄りだったり、サポート向けだったりという受験者に対して優しくないな、という意見が聞こえてきそうだが、一方俺はとても合理的で納得感のある試験だと感じた。

 

プロヒーローというのはそんなに甘い世界ではない。

 

たとえ自分の不利な現場だとしても、一人のヒーローとして市民を助ける義務が発生してしまう。

もし、それを理由にしてしまえば待っているのはマスコミや世間のバッシングだろう。

 

それを中学生に求めるのは酷だろう、という声もあるだろうがそんなことはない。

 

ここは天下の雄英高校だ。

トップヒーローの母校であり、個性社会の希望でもある。

 

もし雄英高校の排出したヒーローがいい加減だと、現在活躍している雄英卒業生や、現役のトップヒーローにまで迷惑が掛かってしまう。

 

だからこそ雄英高校としては、高校三年間でしっかり学生に訓練を積ませ、何事にも対応できるオールマイティなヒーローを生み出したいのだろう。

 

そもそも、ヒーロー科は東の雄英、西の士傑と呼ばれるように二つの高校が幅を利かせているだけで、全国には他にも様々なヒーロー科のある高校は存在するし、何なら、ヒーロー科を卒業していなくてもヒーローライセンスを取れば一応ヒーローとして活躍していくことはできる。

 

雄英高校はその圧倒的カリキュラムや、集まる生徒や先生といった環境の良さ、そしてヒーローとして活動するときに箔が付く、というそれでしかないのだ。

 

確かに魅力的だし、雄英に入ればヒーローとしてある程度成功したようなものだが、一方ヒーローになれないというわけではないのだ。

 

まあ、俺としては戦闘系の試験が来てほしいな…。

レスキューもできないわけじゃないが、戦闘系のほうが性に合っている。

しょせん俺は人に気を使えるような男じゃないんだ。

いつだって自分のことばかりで、今だってヒーロー科を受けたのは突き詰めると自分のエゴといえるわけで……

 

会場に案内された受験生たちの間に、緊張と興奮が入り混じったざわめきが広がっている。誰もが顔を強張らせながらも、目の奥には隠しきれない闘志を宿していた。

 

「おらおら、もう試験ははじまってるぜー!!」

プレゼントマイクのその一言で、ネガティブに沈んでいた意識が戻ってきた。

よくない癖だ。一度ネガティブになってしまうと自分の中に籠ってしまう。

 

プレゼントマイクに感謝しないとな、

 

今の状況を復習しよう。

現在は実技試験の真っただ中。

どうやら今年は市街地を模したフィールドで、ロボットをヴィランと見立て、ロボットそれぞれに振られた撃破ポイントの総合点を競うようだ。

 

見渡す限り、コンクリートの高層ビルと、その隙間を縫うように延びる路地が入り組んだ、まるで本物の都市のような空間が広がっていた。曇り空の下、遠くで爆発音がくぐもって響き、砂埃と焦げた匂いが風に乗って流れてくる。

 

なかなかいい試験だ、と俺は思った。

まずこの試験で試されるのは殲滅力。敵は複数なので、戦闘の継戦能力と多対一をひっくり返すような地力が試される。

 

次に試されるのは判断力だろう。

市街地を想定したフィールドということもあり、遮蔽物、障害物が多い。

これは一見バトルロワイヤル的な思考だと遮蔽物があって、戦いやすいように思うが、現実はそんなことはない。

 

まず、探査力がないと急に接敵することになるし受験生同士の衝突も起こりやすい。

そして、個性の使用も制限されるので、自分の得意な地形を見つけ、そこまでロボットを持ってくる必要があるだろう。

それには鋭敏な機動力も必要だ。

 

そしてロボットにわかりやすく点数をつけることで受験生で作戦がわかれやすい、という点もあるだろう。

例えばネビルレーザーだったら高火力の単発技なのでより高得点のロボットを狙うほうがいいといったようにだ。

これにより、作戦を立てる能力も図っているのだろう。

 

そして何よりも、これは個人戦のように見えて、実は団体戦という点も一番の大きな点だろう。

 

一見点数を取り合い、総合点数で判断すると言われると、個人戦のように考えてしまう受験生がほとんどだろう。

 

だがしかし、これは限りなく実践に近い戦闘訓練である、ということを踏まえて考えないといけない。

 

すると、時には近くにいる受験生と協力して、ヴィランを倒せるのか、戦闘に巻き込まれた、もしくは戦闘で敗れたヒーローのカバーができるか、そういったところも採点されているに違いない。

 

実際、プレゼントマイクは一度も総合点数だけで判断するとは言っていないしな。まあこれは屁理屈のようなものだが……

 

以下のことを踏まえ、自分がどのように立ち回るかを考える。

 

まず、今俺が持っている能力は氣による身体強化だろう。

これにより技を繰り出す一瞬だけは普段の数倍の力が出せるようになっている。

 

そして、その副次効果として自分以外の氣の流れもぼんやりとだが、わかるようになっている。

これによりロボットの索敵は厳しいが、少なくとも受験生同士の相打ちは防ぐことができるだろう。

 

なお、俺のメインウェポンであり、瞬間最大火力でもあるネビルレーザーだが、これに期待するのは難しいだろう。

正直、継戦能力に欠けすぎている。

一秒以内の照射にとどめることでお腹を壊すことは防げるだろうが、撃った直後は体内の氣がなくなってしまい、身体能力に少しデバフがかかるのと、氣による身体能力の強化もできなくなってしまう。

よってネビルレーザーは使わない方針で行こうと思う。

 

以上のことを踏まえると、俺はビルの中にいる敵や路地裏にいる敵を主に狙っていこうと思う。

 

一応、氣による索敵でフレンドリーファイヤーは防げるわけだし、徒手空拳なので空間に制限されるわけでもない。

そして構造物内で戦うことで敵を逃す心配がないというもの大きい点だろう。

 

かつ、交差点などの広い場所では強個性が陣取っていて、範囲攻撃に巻き込まれそうという懸念もある。

危険を冒す必要はない。目立つ必要もない。

俺は絶対に合格しないといけないんだ。安定性を重視して考えよう。

 

そう思い、俺はいい位置取りのビルにめがけて走り出した。足元でアスファルトの破片が跳ね、風が耳元でうなる。心臓の音が試験開始の合図のように、耳の奥で確かなリズムを刻んでいた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

激しい戦闘音が響き渡る。金属同士がぶつかる甲高い音、爆発が空気を震わせる重低音、それらが幾重にも折り重なって、市街地の壁に反響していた。

 

地形も荒れていて、倒れている受験生も何人も見かける。土煙が薄く立ち込め、砕けたコンクリート片が足元に散らばっている。

 

その中には血を流している子もおり、それがまたこの場の非現実感を加速させていく。アスファルトに広がる赤が、灰色の景色の中でやけに鮮やかに見えた。

 

彼ら、受験生はいくらヒーローの卵とは言えども、いまだ未熟な中学生なのだ。

 

ロボットが口汚く罵ってくる声

他の受験生の派手な個性

それに巻き込まれ増えていく傷

そしてここは雄英高校の受験会場で彼らの将来は今この瞬間にかかっているという重圧

これらはどんどん受験生たちの焦りを加速させ、なりふり構わなくなっていく。

 

どうにか一点でも多くを取らないと。

 

そのような思考になってしまうのも無理のないことだった。

 

将来有望な学生とは言えど、個性社会の維持のため、彼らの個性を、ましてや戦闘に使ったことはほとんどない。

よって、フレンドリーファイヤーは当たり前。ましてや焦って自傷をしてしまう学生も多かった。

 

よほどケガのひどい生徒や、他の受験生に対するモラルが欠けたものは、受験生に紛れた雄英高校の生徒の手によってひそかに回収されていく。

 

しかし、その戦闘による爆音、罵りあい、血を流しながらそれでも戦う様は正直に言って、凄惨であり、彼らの未熟さを体現していた。

 

そんな中、青山優雅は冷静に敵を狩っていく。

 

町の中心部、敵が多くいる場所から少し離れた市民街で戦闘を淡々とこなしていく。人気の少ない裏路地には、割れた窓ガラスの破片が陽光を反射して小さく煌めき、そのわずかな静けさが、彼の集中を研ぎ澄ませていくようだった。

 

時には、遮蔽物のある場所の利を生かし、多対一を一対一になるように誘導し。

時には、他の生徒が困っていると邪魔にならない程度に、射程外からロボットに横槍を入れて牽制し。

時には、氣で捜索し、瓦礫やケガで動けなくなっている生徒を適切に助けていた。

 

そして、それが終わるとすぐに別の場所へ移動する。

そんなルーティーンを繰り返していた。

そんな時だった。

 

今一つ、大きい轟音があたり一面に響く。

それは地割れのごとき大きな音で、聞くものを恐怖させるほどの音だった。地面がわずかに震え、足の裏からその重量感が伝わってくる。あれだけ無我夢中にロボットを狩っていた生徒もみな手を止めて、音の方向を見る。

 

それは一見すると建物と錯覚してしまうほどの大きさだった。

しかし、隙間から覗く無骨なコード、

メタリックな装甲の質感、

そしてその一番上にギラギラと輝くその赤い瞳は、

まるで市街地にもかかわらず好き勝手に戦闘をした彼らに対する行動を責めるかのように、

あるいは警告するかのように、見下ろす形で光っていた。曇天を背に、その巨躯だけが黒々とした影となって浮かび上がる。

 

「あ…、あんなのって。」

受験生の誰かが声をこぼす。

みなその正体に心当たりはあった。

0ポイントヴィランだろう。

だが、説明を聞いた時には理解できなかった強烈な存在感があった。空気そのものが重くなったような、そんな錯覚すら覚える。

 

なぜこのロボットが0ポイントなのか、

それは生徒が討伐することを想定していないからだ。

いわば市民を守る最後の砦、ゲートオブガーディアン、

自分達が今度は狩られる側であると彼らは理屈ではなく、本能で理解してしまう。

 

その結果、起きたのは混乱だった。

 

もはやロボットを狩るといったところではない。

あの足で踏みつぶされたら、無残な肉塊になるだろう。

もはや人間の面影を残さないことは容易に想像ができた。

 

現場は大混乱であり、混沌が極まっていた。悲鳴と怒号が入り混じり、砂埃が舞い上がる中を受験生たちが我先にと逃げ惑う。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

そんな中で、俺、青山優雅も焦りの渦中にいた。

 

ロボットが出現した衝撃で、それまでの戦闘で発生していた瓦礫までもが一緒に巻き上げられた。

その時に、ある一人の受験生が巻き込まれてしまったのだ。倒れたビルの一角、砕けたコンクリートの下から、かすかに助けを求める声が聞こえた気がした。

 

俺は、氣を使って探索していたことで気づくが、

一方他に気づいていそうなものは誰もいないことにも気づく。

 

このまま、見捨てることはできない。

俺は素直にそう思った。一瞬のためらいもなく駆け出す。

このデカブツをどう倒そうか

ネビルレーザーを使うとしても、俺にはロボットに対して何をすることもできないだろう、せいぜい足元に打つことくらいしかできないが、ロボットがもし転倒でもしてしまえばさらに被害を拡大することになるだろう…

そんなことを考えながらひたすら走る。

 

何か、ロボットの頭上まで行けるものがあれば…そんな空想が頭をよぎってしまう。そんな時だった。

 

「何か手伝えることはありませんか」

やけによく通る、育ちのよさそうな声だった。

 

声をかけられた方向を見る。土煙の向こうから、ほつれた髪を風になびかせながら歩み寄ってくる人影があった。

 

「ももちゃん!どうしてここに?」

 

そこには幼馴染で、

フランスに留学していた俺とは違い、推薦入試で一足先に合格しているはずの八百万百がいた。

 

「それはまた後で話しましょう。それより、優雅さんはどうしたいのですか?」

 

そんな風に聞かれる。

効きたいことは山ほどあるがとりあえず、この状況を利用させてもらおう。

 

「あそこの瓦礫に巻き込まれている子がいる。どうにか助けたいんだ!

モモちゃんにはロボットの頭上に俺を連れて行ってほしい!!そうしたらロボットは俺が何とかする。

モモちゃんは、その子を急いで助けに行ってほしい。」

 

「レスキューは点数に入りませんのに、余裕なことですのね。

ただその考えには賛成ですわ!!

わかりました。カタパルトを作りましょう。

使ってください!!」

 

そういうと、彼女は足を止め、目を閉じる。彼女の個性は『創造』。構造を理解しているものなら何でも作り出せるというものだ。長い睫毛が微かに震え、指先から生まれた光の粒子が瞬く間に組み上がっていく。すぐに、人間カタパルトが出来上がる。それはサーカスで使う大砲に酷似していた。

 

「この中に入ってください。すぐに打ち上げます。下の子は任せてください!!ただし、無理はしないこと。お姉ちゃんとの約束ですよ。」

「わかったよ。モモちゃん、ありがとう」

そういうと彼女は導火線に火をつけて駆け出して行った。

 

俺はカタパルトの中で構える。金属の筒に囲まれた狭い空間、鼻をつく火薬の匂い。チャンスは一度きりだろう。

絶対に決めてやる、そんな風に覚悟を決める。

お腹に淡い水色の光子が集まる。

討つべき悪、守りたいもの、それらを明確に想像する。

照射時間はぴったり一秒。氣は全てを込める。たとえ動けなくなってもいい...

 

導火線の根元まで火種が届く。パチッと小さな音を立てて、青白い火花が散った。

その瞬間、俺の息が一瞬止まる。

カタパルトの射出により、体にかなりの抵抗がかかる。

高速戦闘機に乗ったパイロットのように、全身が重力に押し付けられ、次に脳まで血流が回らずブラックアウトしそうになる。しかし、それは一瞬のことであった。

カタパルトの中でネビルレーザーを用意していた。それは体中の氣を丹田に回す行為であり、座禅とも呼べるものだった。

その座禅により青山の経絡が通り、身体能力の向上、そしてスポーツマンでいうところのゾーンに入っていた。

 

視界の端で流れる灰色の街並みが、まるでスローモーションのように後方へ流れていく。風が頬を叩き、耳鳴りにも似た轟音が遠くなっていく。

 

きれいな淡い水色の光が放物線を描く。それはサファイアの輝きのようであり、ロボットの頭上に達した瞬間。

 

その光の奔流が線となりロボットを完全に一直線に貫いた。

天から昇る光の柱。それは混乱していた生徒も足を止めてみてしまうどころか、地続きだが別の試験会場にいる生徒にもその光の輝きは届いた。曇り空にぽっかりと切れ目ができたかのように、その一筋の光だけが世界を分け隔てていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

「なんだぁ…ありゃ。」

別の試験場で、破壊の限りを尽くしていた少年、爆轟克己もその光の奔流を見ていた。砂埃にまみれた拳を握りしめたまま、彼はしばしその輝きに目を奪われる。

「あれは、誰かの個性か?チッ、俺より目立つ個性なんていらねーんだよ」

そんな風に悪態をつく。そんな彼らがこの有英に受かりともに学校生活を過ごすことは、今は誰もまだ知らない…

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