受験生の子を助けるために飛び出したはいいものの着地をどうするか考えていなかった俺氏。
こういうところはやっぱり小さいころから無鉄砲なんだよなー……
なんかやけに自信だけあるみたいな。
まあ、いいや。何とかなるだろ。
地面は着々と迫ってきている。灰色のコンクリートが、まるで巨大な口を開けて俺を待ち構えているかのように見えた。
0ポイントヴィランは50mを軽く超す体長だった。
俺は悠々と思考を巡らせていたが、その間にも俺の落下速度は時速100㎞も優に超すような速さで加速していた。風の抵抗が耳元で轟音となり、頬の皮膚が引きつるほどの圧を感じる。
集中しなければならない。
じゃないと俺はつぶれたトマトのようにぺちゃんこになってしまうだろう。
俺の視界が単純化されていき、色と、遅れて音が消える。世界がスローモーションのフィルムのように引き伸ばされていくのを感じた。
刹那を見切らなくてはいけない。俺の体と地面が触れた瞬間だ。
俺は自分の体と分厚いコンクリートが接する瞬間、腕を大きく振りかぶり地面にたたきつけた。骨が軋む鈍い痛みが、まず腕から脳天まで駆け抜ける。
これで衝突時間を少し遅らせることができる。
そして、体を丸め、大きく転がる。土埃が舞い上がり、視界が一瞬白く染まる。
顎を引き、内臓や脳への負担を最小限に、背中全体に衝撃を逃がすことを意識する。
そうして、勢いが死んだことを確認し、転がるのをやめた。仰向けに倒れたまま、曇り空がやけに遠く見えた。
ひどいけがだ。そう冷静に分析する。
背中はコンクリートと激しくぶつかったことで服が破けたどころか全体から血が噴き出している。じんわりと広がる生温かい感触が、アスファルトを赤黒く染めていくのがわかった。
手も最初にたいていの衝撃を吸収するのに一役買ってくれたがそのせいで、完全に折れてしまっている。ひしゃげているのが数か所なところを見ると複雑骨折かもしれない。指先を動かそうとするだけで、鋭い痛みが電流のように走った。
これ……入学式までに間に合うんだろうか。
我ながらひどいもんだと失笑する。
助けるなんてざまじゃない。俺はまだまだヒーローには遠く及ばないことを実感させられるようだった。
そんなことを考えていると、近くで悲鳴が聞こえる。
大丈夫かな。誰か困っているのか?
と、そんなことを考えている場合ではないのにそんな考えを頭がよぎる。
「優雅さん!!大丈夫ですか!?今、私が助けを呼んできます。」
どうやら叫んでいたのは、俺に向けてだったらしい。土煙の向こうから、駆け寄ってくる足音が近づいてくる。
モモちゃんの声を聴いてそう安堵する。
それにしても、モモちゃんは変わらないな……あんなに冷たくあしらっても俺のことを気にかけてくれるんだもんなぁ。
モモちゃんは幼稚園から俺が転校するまで学校が一緒だった、いわゆる幼馴染というものだ。
こんなにおっぱいが大きく美人な幼馴染がいるなんて、うらやましいと思った人がいるかもしれないが、俺とモモちゃんの関係は決して恋愛関係にはならないだろう。
俺は、無個性が発覚した当時、学校などでもし無個性であることがばれたら、モモちゃんを苦しい立場にしてしまうと思い自分から離れることにした。
これも、もしかしたらモモちゃんのためを思って、というよりも俺がモモちゃんから非難されるのが怖くて遠ざけたというのが正しい表現なのかもしれないが…
ただそれでもモモちゃんは俺のそばから離れず、学校に限っては直接的にかかわることが少なかったものの、よく放課後は俺の家に来ていたりした。
正直なところ、当時の俺はなぜこの子は俺に構ってくれるんだろうなんて見当違いな方向に思いを飛ばしていた。たとえ家に来てくれていたとしても全く会話をしようとはしないし、別に一緒に遊ぶわけでもない。俺はこの子に何一つとして価値を提供できていないんだ。なのになぜ構ってくるのだろうと。
しかし、今思うとあの時間に俺は救われていたのだろう。両親との仲もどこか気まずくなっていたあの頃、まともな人間関係というものはモモちゃんのそれだけだった。だからこそ、あの時間はかけがえのないもので、あの時間があったからこそ俺は他者に失望することなく、寧人のおかげもあり今は最低限のコミュニケーションをとれるようになったのだろう。そういう意味では俺のヒーローの原体験というものはモモちゃんの慈愛の心なのかもしれないな。
まあ、モモちゃん的にはあの時間は単なる自分の弟分が拗らせちゃったから心配していた程度のものなのだろうけど…
「俺のことはいいよ。ちょっとしたら立てるようになる。
それより、倒れていた子はどうなった?大けがとかしてなかったかな…」
「その子より今はあなたのほうが重体です!まずは自分の心配をしてください。
私が肩を貸しますから、一緒に救助テントまで歩きましょう。」
そういうとモモちゃんに俺は担がれる。折れた手が揺れるたびに走る痛みに、思わず息を止めた。
ふわっとフローラルな高級感あふれる香りが鼻腔をくすぐる。
なんでこんなに運動して汗をかいたのにいい匂いがするんだ…?
こういうところは立派な大人の女性なのだと意識せざるを得なくてドキドキしてしまう。
今もそうだ。肩を貸してもらっているが、その肩は個性「創造」を使うときにつっかえるからか少し破けて素肌が見えている。
その素肌はシルクのように透明感がありすべすべで、何より触れている感触の柔らかさから女性の体つきを連想してしまう。
だめだ、相手はモモちゃんなんだ。よこしまな思いを抱くんじゃない。
俺はそう自分を戒める。
ただ元気溌剌な高校生の体はそうではなく、俺の意思とは真逆に落ち着かない状態になってしまう。
試験のケガよりこっちのほうが俺には毒だよ…
そう思いながら、しかし一方で頭の片隅で役得か、と思いながら俺は救護テントに運ばれていった。遠くで、他の受験生たちのすすり泣きと、教師たちの慌ただしい声が入り混じって聞こえていた。
ちなみにその後はリカバリーガールにこってり叱られた後、リカバリーガールの熱い接吻で俺の男としての情熱はすぐに収まった…
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雄英高校入試のケガがまだ治りきっていない中、雄英から試験の結果が届いた。包帯の巻かれた手で郵便受けを開けるたびに、まだ鈍い痛みが走る。
薄いレターパックのようだ。雄英も寧人みたいに手紙のほうが趣があるとか言う口か、と苦笑がこぼれてしまう。
しかし、そうではなかった。
開けた瞬間、目の前にホログラムが広がる。青白い光の粒子が空間に集まり、輪郭を結んでいく様は、まるで魔法のようだった。すごい技術だ。
さらにそのホログラムをよく見ると俺のよく知っている人物であることがわかった。
「私が投影された!!」
「オールマイト?!」
思わず声が漏れてしまう。
「というもの、今年から雄英の教師として君たちを教えることになったのだよ!
びっくりさせてしまったかな?」
知っている。
AFOからそのことは聞いている。だからこそ俺がスパイとして雄英に行かなければいけないということでもあるからだ。
オールマイト。現役最強、生きる伝説でありAFOに初めて泥をつけた、AFOの不俱戴天の敵である。
ただそんな情報を抜きにしても、思わず声を漏らしてしまうオーラが彼にはあった。
ホログラム越しなのに、その鍛え抜かれた肉体美、そしてその覇気には惚れ惚れしてしまう。どこか彫刻品のような、隙のない美しさを感じてしまうほどだった。
この人がとどめを刺せなかった敵を俺は殺そうとしているのだという現実に震えてしまう。
ただオールマイトを見つめる顔、俺自身の口角が上がっており、震えているのは恐怖からではなく武者震いであることは俺自身も気づいていないことだった。
「これで俺も雄英生か、楽しみじゃないか!!」
その声色にはこれでもかというほどの期待とその後に待ち受けるものへの覚悟が詰まっていた。窓の外、傷だらけの手をかざした先には、フランスの空とはまた違う、これから始まる新しい日々の予感が広がっていた。
優雅の成績としてはヴィランP 42点、レスキューP 39点の総合81点です。
しかし、モモちゃんが張り切りすぎたせいで成績としては二番手です。
モモちゃんの個性が優秀すぎるよ…。
あと、更新遅れてすいません…
多分週によって書けない日もあると思うんですがエタらないように頑張ります!!