雄英高校の入試が終わり、無事入学が決まった俺。
試験の時に怪我した腕は、なんとか入学式前には完治とまではいかなくても十分回復するそうだ。
モモちゃんが俺の両親に東京の老舗有名店の高級菓子を見舞いとして持ってきてくれ、なぜか泣きそうになりながら頭を下げて謝っていたのがありありと思い出せる。
別にモモちゃんが気にすることじゃないのに……
俺が暴走して一人でにやったことなんだし。
そんなこんなで入学の準備などをしていたら、あれよあれよという間に時間は過ぎて行き、気づけば今日、俺は雄英高校の登校初日を迎えるのであった。
「ピンポーン」
軽やかなインターホンの音が、広々としたリビングに響く。
我が家は今、AFOからのメッセージがいつどこで漏れるかわからないという関係上、昔住んでいた屋敷を手放し、使用人を解雇した上で普通の一軒家に住んでいた。
ただし、ただの一軒家と侮るなかれ。その広さは普通の日本家屋の三倍はあるであろう、ちょっとした豪邸仕様になっている。
そんな家にこんな朝っぱらからインターホンが鳴るなんて珍しいな。
なんだろう。
俺は寝起きのいまいちパッとしない頭を働かせながら、モニターの画面を覗き込んだ。
そこには堂々と仁王立ちをして、我が家の門前に立っている物間寧人の姿があった。
「おいおい、何してるんだ?」
「何って決まっているじゃないか。今日は雄英高校の登校日だろ? せっかくだから一緒に学校に行ってあげるよ」
「お前は俺のお母さんかよ。別に一人で学校くらい行けるだろ……そもそもどうやって俺の家を知ったんだ?」
「チッチッチ、文通の時に君は住所を書いてくれていたじゃないか。そこを見たまでさ」
なんだろう。ものすごい変態感がある。
しかし、寧人のその一言で「あ、そういえばそうだった」と思い出す。
なんだかんだ習慣になっていた寧人との文通は、日本に帰ってからもなあなあで続けられていた。俺が無事入試に受かったこと、モモちゃんとたまたま受験会場が一緒になって助けてもらったこと、どちらのクラスになったかなどを報告し合っていたのだ。
「仕方ない、ちょっと待っててくれ。すぐ支度する」
そう言ってドアを開け、俺は寧人をリビングの椅子に座らせると、自分は急いで自室へと向かった。
服を手早く着替え、鏡を見ながらネクタイをしっかり締める。
そうしていると、鏡の中の自分自身とふと目が合った。
「俺は青山優雅ではない。雄英生でもない。……それでも、しっかり演じ切るんだ」
祈りにも近いその言葉が、ぽろりと漏れ出したように呟きとなり、朝の爽やかな陽気に溶けて消えていく。
俺はすぐさま、昨日から準備していた鞄を取って寧人の元へ向かうのだった。
◇
雄英高校へ向かす途中、澄み渡る朝空の下で俺たちはたわいのない会話を続けていた。
「いやー、それにしても優雅とは別のクラスになっちゃったか。僕たちの勝負は体育祭まで延期かー」
「俺的には口うるさいお前がいなくてよかったけどな」
「はん! 言ってろよ。僕がB組の指揮をとって、B組全体で総合優勝を飾ってやる!!」
「じゃあ、楽しみにしてるよ」
「そういえば、八百万さんはどのクラスになったか知ってるかい?」
「あー、確か同じクラスだったはず……見舞いに来てくれた時に聞いた気がする」
「おいおい、ちゃんと覚えてろよ……(八百万さんも報われないなー……)」
「それよりも、モモちゃん一般入試でトップだってよ。強くなりすぎじゃね?」
「君がいなくなった後、熱心に訓練していたからね。中学での成績も実技は僕の方が上だけど、総合的に見るとぶっち
ぎりの主席だったよ」
「B組の担任の先生って誰なんだ? A組は分かってないんだよな……」
「確か、プロヒーローのブラドキングだったはず。繊細な個性操作は学べる点が多くありそうだよ。……ってか、A組は分かってないなんてことあるの? なにそれ」
「わからん。調べても出てこないし、学校からの連絡もこない。なんなら今日の入学式のスケジュールと持ち物は、『体操服と柔軟な心構え』っていう一文だけ送られてきたよ……」
「なんか、かなり癖の強そうな先生だな……」
そうこう言っているうちに、目の前に雄英の巨大な校門が見えてきた。
決して俺がはしゃげる立場でないことはわかっているが、圧倒的なスケールの校舎を見上げると、やはり胸が踊ってしまう。
これから始まる高校生活に想いを馳せながら、俺たちは敷地内へと足を踏み入れた。
◇
教室に着くと、室内はやけに静まり返っていた。
それも当然だろう。ホームルーム開始の一時間前に着いたのだから。
寧人はこういうところで根が真面目なのがわかるよなー、とか思ってしまう。寧人に誘われなかったら数分前のギリギリを狙おうと思っていたのだ。
しかし、教室には誰もいないわけではなく、入り口に立つ俺と目が合うと、パッと表情を明るくして駆け寄ってくる人物がいた。
モモちゃんだ。パリッとした新調の制服姿がよく似合っている。
どうやら寧人と同じで、随分早めに登校していたようだ。
「優雅さん、おはようございます!」
「おはよう。モモちゃん、登校早いんだね。制服、すごくよく似合ってるよ」
そう言うとモモちゃんは少し動揺した様子で顔を赤くし、
(ゆ、ゆうちゃん……!! ゆうちゃんこそ可愛すぎますわ……!!)
と、小さい声で何かを呟いていた。
「ところで今日、なんで体操服持ってこさせられたんだろ? 入学式には必要ないよね?」
「そうですね……体力測定かな、とも思いましたが、行事表には明日の予定になっていますものね」
「わからないといえば先生もで……」
寧人とした会話をそのまま流用させてもらった。
仕方ないだろ! こっちはインキャでまともに話す話題のストックがなければ詰まっちゃうんだから、と内心で毒づく。
そんなこんなで話しているうちに、続々と生徒が集まってきた。
モモちゃんの席の近くで話しておいて良かったと俺は内心ほっとする。
モモちゃんは「や行」なので出席番号が後ろの方で、席も後方なのだ。かつ、幼馴染特有の近寄りがたい雰囲気を察してか、話しかけてくる生徒もいない。
そんな状況とモモちゃんの優しさに甘えていると――
「はー!! てめえ、今なんて言ったんだ?!」
爆発したかのような怒声が聞こえてきた。
慌てて声の方向を見ると、そこにはとても雄英高校生とは思えないような、机に足を乗せ、一瞬で苛烈であるとわかるような威圧感を放つ男が座っていた。
思わず顔を顰めてしまう。苦手なんだよな、ああいうタイプ。
「机に足を乗せるんじゃない! 雄英の先輩方や机の製作者に申し訳ないと思わないのか!?」
咎めているのは、クラスにいた眼鏡の男子だ。そうそう、雄英生といえばこういう真面目なタイプを想像するよね~
「思わねえよ。お前どこのガッコだ?」
「僕は私立創真中学校出身、飯田天哉だ!」
「お前、クソエリートじゃねえか。ぶっ殺し甲斐がありそうだなぁ」
「ぶ、ぶっ殺し……?! 君、本当にヒーロー志望か!?」
あ、言いたいこと全部言ってくれた。
そんな殺伐とした会話を横目に眺めていると、廊下から黒ずくめの不審な男が教室に入ってきていた。
イモムシのように、黒い寝袋に包まったままモゾモゾと動いており……何がしたいんだこの人。
「……えー、俺は担任の相澤翔太という」
まさかの担任だった。こんな濃いクラスメイトと先生に囲まれてやっていくのか、うまくやれるかな……?
「早速だが、お前らには体力テストを受けてもらう。異論は認めん」
まさか先生までもがこんなに破天荒なのかよ……!
◇
俺たちは先生の指示に従い、すぐに体操服に着替えてグラウンドへ出た。
真面目なモモちゃんや、爆発頭に注意していた眼鏡の子(飯田くん)は何か言いたげな表情をしていたが、流石に初日からクラスの輪を乱すわけにはいかないとグッと抑えていた。
えらいぞー!! モモちゃん!
モモちゃんはお嬢様だから浮いてしまわないか密かに心配していたんだよー。これなら大丈夫だと、俺は何目線なのかもわからない温かい眼差しをモモちゃんに向けていた。
……しかし、グラウンドに出てくると、男子・女子の中でも一番最初に速攻で着替え終わったモモちゃんが俺の方に駆け寄ってきた。
なに!!!
みんなが更衣室で談笑する中、一人更衣室の隅で目立たず高速早着替えをこなした俺より速いなんて、一体どういうことなのだ!!
優ちゃんは、モモちゃんが心配です……!
「優雅さん! どういうことだと思いますか、あの先生! 私、主席合格だったので入学式で読むスピーチもすでに考えていたんですよ!!」
少しプンプンと怒りながら俺に詰め寄ってくるモモちゃんに、俺は適当に相槌を打つ。
ウン、ソウダネー。ソレはセンセイがワルイヨ。
オレならソンナオモイサセナイノニナー。
上の空状態で聞いていたのには、もちろん理由がある。
……モモちゃんの体操服姿が、あまりにも可愛すぎるのだ。
まず目を引くのは、その豊満でしなやかなボディライン。
モモちゃんの高身長かつグラマラスな体型は、雄英側もサイズ測定を想定しきれなかったのだろう。体操服の丈自体は合っているものの窮屈そうに見え、女性特有の美しい曲線美をこれでもかと強調している。
モモちゃん自身も少し息苦しいのか、首元のジッパーを少し下げており、鎖骨にかけての白く美しい素肌が覗いている。
そして、そのせいでというべきかお陰というべきか、一本にまとめたポニーテールから覗くうなじが、どこか背徳的な色香を漂わせていた。
つまりどういうことか?
俺の幼馴染が神すぎて、童貞には刺激が強すぎるんだよ!!(血涙)
そんな「見えないからこそ見えるもの」に妄想を膨らませてしまい、俺はモモちゃんとの会話に全く身が入らなかった。
「さー、じゃあ体力測定を始めるぞー」
そう言って先生は爆発頭くんを近くに呼び寄せた。
「お前の個性が一番派手だからな」
先生は爆発頭くんにボールを持たせ、個性を使って投げるよう指示した。
「死ねーーーっ!!」
「……705.2メートル」
先生の淡々としたアナウンスに、クラスから大きなどよめきと歓声が上がる。
おー、弾けてるのは頭だけじゃなく個性もだったんだ。
それにしても放任主義だな、雄英は。一人に対する先生の裁量権が大きすぎる。
普通に入学式をボイコットできる自由がある一方、自由には常に責任が伴う。先生一人で一クラス分の個性使用状況を管理しなきゃいけないし、事故があった時の責任は全責任が先生にかかってくる。とんでもないブラック環境だな。
生徒の中にヴィランが紛れ込んでいたらどうするの?(ブーメラン)
「スッゲー!! 面白そう!」
あ、バカ。そんなこと言ったら……
「ふーん。『面白そう』か。じゃあ、この個性把握テストで最下位をとったやつは除籍な」
あーあ、言わんこっちゃない。
さんざん自由すぎる校風を見てきたのに、何を見ていたのか。
ここは天下の雄英高校。凡才を100人育てるより、本物の英雄を1人育てることを重視する場所だ。
自由を尊重するということは、ついて来られないやつは切り捨てられ、自分から行動しなければ自由は不自由へ、重荷へ、責任へと早変わりして襲いかかってくるということなのだから。
先生の一言で、グラウンドの空気が一瞬にして凍りつき、全員の顔が引き締まるのが分かった。
この先生は嘘をつかない。「やると言ったらやる」という圧倒的な凄みが全身から漂っている。これがプロヒーローか。潜ってきた修羅場の数が違う。
こうして、更衣室での和気藹々とした空気から一転。俺たちは入学早々、クラスメイトが一人消えるかもしれないという過酷なサバイバルレースに参加することになったのだった――。
週2投稿を掲げていたのに情けない…
ちょっと忙しく不定期投稿にはなりそうなのですが、エタらないように頑張りますので、コメント、評価お待ちしております!!!