この素晴らしい世界に欲望を!   作:吉野家

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第一話 空っぽの王と明日のパンツ

 

 

――人は死んだらどうなるのだろう。

 

そんなことを考えたことは何度もあった。

 

旅をしていた頃。

 

オーズとして戦っていた頃。

 

そして最後の戦いの中でも。

 

けれど実際に死んでみると、案外あっさりしたものだった。

 

痛みはない。

 

苦しみもない。

 

ただ静かな闇だけが続いている。

 

どこまでも。

 

どこまでも。

 

果てしなく。

 

「……」

 

火野映司はゆっくりと目を開いた。

 

とはいえ、開いたところで景色は変わらない。

 

上も下も分からない空間。

 

白とも黒とも言えない曖昧な世界。

 

夢の中のような場所だった。

 

「死んだのか」

 

自然と口から言葉が漏れる。

 

不思議と恐怖はなかった。

 

最後の記憶はちゃんと残っている。

 

ゴーダとの戦い。

 

暴走する欲望。

 

崩れ落ちる身体。

 

そして。

 

自分を呼ぶ声。

 

アンクの顔。

 

全部覚えていた。

 

だから否定する気にもなれない。

 

「あー……」

 

映司は小さく息を吐く。

 

少しだけ考える。

 

自分が死んだことよりも。

 

最後の結果が気になった。

 

「あいつ、大丈夫だったかな」

 

思い浮かぶのは赤い腕の相棒。

 

誰よりも口が悪くて。

 

誰よりも素直じゃなくて。

 

誰よりも人間らしかったグリード。

 

アンク。

 

最後まで一緒だった存在。

 

その時だった。

 

突然。

 

暗闇の中に光が灯る。

 

「はいっ!!」

 

元気いっぱいの声が響いた。

 

「ようこそ死後の世界へ!!」

 

眩しさに目を細める。

 

そこに立っていたのは青髪の少女だった。

 

年齢は十代後半くらいだろうか。

 

青い髪。

 

青い服。

 

そしてやたら偉そうな態度。

 

「私は女神アクア!」

 

胸を張って宣言する。

 

「あなたは死にました!!」

 

「そっか」

 

映司は頷いた。

 

「……え?」

 

アクアが固まる。

 

「いやもっと反応あるでしょ!?」

 

「例えば?」

 

「死んだぁぁぁぁ!!とか!!」

 

「いや、死んだのは分かってるし」

 

「そうじゃなくて!」

 

アクアが叫ぶ。

 

だが映司は困ったように笑った。

 

死んだこと自体は驚くことじゃない。

 

最後の状況を考えれば当然だった。

 

それよりも。

 

気になることがある。

 

「それで」

 

「何よ」

 

「アンクは?」

 

アクアの動きが止まった。

 

「は?」

 

「アンク」

 

「誰?」

 

「友達」

 

即答だった。

 

「赤い腕の」

 

「口悪いやつ」

 

「知らないわよ!!」

 

アクアが絶叫する。

 

「なんで最初に友達の安否確認してるのよ!?」

 

「気になるし」

 

「自分のこと心配しなさいよ!!」

 

「もう死んでるし」

 

「そういう問題じゃないの!!」

 

アクアは頭を抱えた。

 

なんだこいつ。

 

これまで何人も転生者を見てきた。

 

最強を求める者。

 

金を求める者。

 

権力を求める者。

 

美人を求める者。

 

様々だった。

 

だが。

 

死んだ直後に友達の心配を始めた人間は初めてだった。

 

 

説明は続いた。

 

異世界。

 

魔王軍。

 

転生。

 

冒険者。

 

お決まりの流れ。

 

映司は真面目に聞いていた。

 

そして。

 

説明が終わる。

 

「というわけで!」

 

アクアが指を突き付ける。

 

「好きなチート能力を一つ選びなさい!!」

 

「チート能力?」

 

「そう!」

 

アクアがドヤ顔になる。

 

「最強武器でもいい!」

 

「超魔法でもいい!」

 

「好きなものを選んでいいのよ!」

 

映司は少し考えた。

 

戦う力。

 

確かにあった方がいい。

 

魔王軍がいるなら尚更だ。

 

誰かを助けるためにも必要だろう。

 

だが。

 

その時だった。

 

胸の奥に違和感が走った。

 

「……あれ?」

 

映司が眉をひそめる。

 

熱い。

 

何かがある。

 

身体の奥。

 

心臓の近く。

 

懐かしい感覚。

 

「どうしたの?」

 

アクアが首を傾げる。

 

映司は答えない。

 

意識を集中させる。

 

そして。

 

目を見開いた。

 

「そんな……」

 

感じる。

 

確かに感じる。

 

コアメダル。

 

タカ。

 

トラ。

 

バッタ。

 

クワガタ。

 

カマキリ。

 

ライオン。

 

チーター。

 

サイ。

 

ゴリラ。

 

ゾウ。

 

そして他のメダルたちも。

 

まるで身体の一部になったかのように存在している。

 

あり得なかった。

 

コーダが取り込んだはずだ。

 

失われたはずだ。

 

なのに。

 

「全部ある……」

 

映司は呆然と呟いた。

 

アクアは意味が分からない。

 

「だから何がよ」

 

だが映司は聞いていない。

 

確認する。

 

一枚ずつ。

 

一枚ずつ。

 

慎重に。

 

そして。

 

気付いた。

 

「あ……」

 

足りない。

 

本当に一枚だけ。

 

傷だらけの。

 

最後までアンクが持っていた。

 

割れたタカメダル。

 

それだけが存在しない。

 

映司は黙った。

 

数秒。

 

いや。

 

もっと長かったかもしれない。

 

そして。

 

笑った。

 

「良かった」

 

アクアが固まる。

 

「は?」

 

「良かった」

 

映司はもう一度言った。

 

「生きてる」

 

「誰が!?」

 

「アンク」

 

即答だった。

 

アクアは頭を抱えた。

 

意味が分からない。

 

だが映司には分かっていた。

 

全部のコアメダルがここにある。

 

なのに。

 

割れたタカメダルだけがない。

 

だったら。

 

あのメダルは。

 

アンクが持っている。

 

つまり。

 

あいつは生きている。

 

根拠はない。

 

証拠もない。

 

だが。

 

火野映司にとっては十分だった。

 

「ははっ」

 

笑みが零れる。

 

「あいつらしいな」

 

どこかで悪態をついている姿が目に浮かぶ。

 

それだけで。

 

少しだけ救われた気がした。

 

 

そして。

 

映司はもう一つ気付く。

 

腰の辺り。

 

違和感。

 

長年使ってきた感覚。

 

何度も命を預けた相棒。

 

「まさか」

 

手を伸ばす。

 

光が集まる。

 

そして。

 

現れた。

 

黒いベルト。

 

オーズドライバー。

 

「ある……」

 

映司が呟く。

 

アクアが目を丸くする。

 

「え?」

 

「オーズドライバーだ」

 

「何それ」

 

映司はベルトを見つめる。

 

傷も。

 

感触も。

 

全部覚えている。

 

間違いない。

 

本物だ。

 

そして理解する。

 

戦える。

 

また。

 

誰かを助けられる。

 

その事実に映司は静かに安心した。

 

「そっか」

 

小さく笑う。

 

「大丈夫だ」

 

「何がよ」

 

「戦う力はあるみたいだから」

 

アクアは嫌な予感がした。

 

ものすごく嫌な予感が。

 

 

「じゃあ特典は?」

 

「うん」

 

映司は頷く。

 

そして答えた。

 

「明日のパンツ」

 

沈黙。

 

「……」

 

「……」

 

「……は?」

 

アクアが止まった。

 

「明日のパンツ」

 

映司は繰り返す。

 

「いや聞こえたわよ!?」

 

アクア絶叫。

 

「なんで!?」

 

「チート能力よ!?」

 

「神の力とか!」

 

「伝説の武器とか!」

 

「あるでしょ!?」

 

映司は首を傾げる。

 

「だって必要だし」

 

「必要だけど!!」

 

「そのパンツ何か特別なの!?」

 

「普通のパンツ」

 

「普通のパンツぅぅぅぅぅ!!」

 

アクアが崩れ落ちる。

 

映司は真面目だった。

 

本当に真面目だった。

 

「あと小銭」

 

「増えたぁぁぁぁ!!」

 

女神の悲鳴が響く。

 

「なんなのよあんた!?」

 

「パンツと小銭って!!」

 

「だって旅するなら必要かなって」

 

「そういう話じゃないのよ!!」

 

アクアは本気で頭を抱えた。

 

理解できない。

 

欲望がないわけではない。

 

パンツは欲しい。

 

小銭も欲しい。

 

だが。

 

それだけだ。

 

最強も。

 

権力も。

 

富も。

 

求めていない。

 

空っぽ。

 

それでいて。

 

生きることを諦めていない。

 

そんな人間だった。

 

「……はぁ」

 

深いため息。

 

「最後に聞くわ」

 

アクアが真面目な顔になる。

 

「本当にそれでいいのね?」

 

映司は少し考えた。

 

そして。

 

笑った。

 

「うん」

 

「後悔しない?」

 

「しないかな」

 

「なんでよ」

 

映司は小銭を指で弾いた。

 

そして。

 

静かに言った。

 

「明日のパンツがあって」

 

「少しお金があれば」

 

「なんとかなるから」

 

アクアはしばらく黙った。

 

そして。

 

「なんなのよ……」

 

本気でそう思った。

 

 

転移の時が来る。

 

光の魔法陣。

 

映司の身体が包まれる。

 

「映司」

 

アクアが呼ぶ。

 

映司が振り返る。

 

「死ぬんじゃないわよ」

 

「一回死んでるけど」

 

「そういう意味じゃない!!」

 

アクアが怒鳴る。

 

そして少しだけ視線を逸らした。

 

「……まあ」

 

「頑張りなさい」

 

映司は笑った。

 

「うん」

 

光が強くなる。

 

身体が浮く。

 

そして最後に。

 

「アクアさん」

 

「何よ」

 

「パンツありがとう」

 

「さっさと行けぇぇぇぇぇ!!」

 

女神の絶叫と共に。

 

火野映司は異世界へ送り出された。

 

――そして。

 

異世界の空の下。

 

再び仮面ライダーオーズの物語が始まる。




ふと頭よぎって書いちゃったけど続くかは分からん。
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