全国大会までの間にあった一つの練習試合、その中にあった青春活劇。
「どうしてこんな事になっちゃったの?」
「今更言うの?」
黒縁の眼鏡にヒビを入れた女の子。
ボタン無しの詰め襟の上に呆然とした目の顔が見える。
迫撃の音が大きく沈み込みふくれあがって車体を押す、鼓膜の中には直径五メートルは超えると自分推定の大音雑音タンバリンが鳴り続けている。
互いの顔を息が届くほど合わせても声が頭に入らない中で、あり得ない事になった展開を愚痴っていた。
「……スイーツ道の新境地を見つけるためだって……言ってませんでした? 常磐さん」
「いや、その、うん、スイーツ道って……こんなに険しかしら?」
「どんな道でも険しい事は確かだけど、変な約束したから格段にして物理的に険しく成ったよね!!」
鉄の壁に仕切られた密室。
更に内側を覆うゴムパッキン、無理矢理縫い付けたようなキャンバスの内張のせいで狭い操作席はもっと窮屈に感じる。
イスに張り付いていればぶつからないだろうが、操縦も相まって違いをぶつけ合う状態。
錆色と油のかかった鉄の壁に鼻を啜る。
外の景色は一切見えない薄暗い照明の下で、あまりに揺れ続けるので硬いハズの鉄が歪み溶け始めているようにも見えるのか。
「チョコレートケーキってこんな感じだよね」
「あーあ、そうですよね。このゆっくりトロッと落ちてくる感じがにてぇ……えっ」
不満を文言に変えて口にした赤橋部長の眼鏡が何度も上下に飛び、会話の間に舌を噛みそうになる勢い。
弛緩している下の三人に向かって無機質の濁音を縫って指示の声が飛ぶ。
「ほら常磐!!! 砂糖大さじ二杯!! その後塩少々!! ピッチ上げてくよ!!」
轟音を突っ切る黄色い怒声。
怒っている声でも濁った音が入らないのが少女である特権なのかもしれない。
自分達の上の座席、ブランケットで包んだ足は操縦手として下をくぐり込んだ場所に座る黒めがね赤橋の右肩を二つ蹴っ飛ばした。
度数込みで右に旋回する合図に合わせ、レバーを強く突き出す。
手に篭もる力に赤橋常磐は顔を真っ赤にしていた。そのぐらいシフトには激しい抵抗がぶつかっており、簡単に進む道へと乗ってくれない。
「あー、今のこの力ならベルとかたたき割れそうだわー」
「いいですねー、それいいです、あれってけっこう……」
「よそ事話さない!! 来たよ……Ⅳ号……西住流!!」
「乙女!! 外さないでよ!!」
車長として上に座る少女は続けて指示を飛ばす。手がぶれる振動の中で下の女子三人が慌てる。
装填の弾を取り上げ、規則正しく弧を描く、その力に左に体を押しつけられそうになりながら。
「まかせなさい!! 頂点見せたるぅぅぅ!!!」
発射前の少女、小原乙女の声は、車内で踏ん張る少女達と声を重ね黄色くも甲高い咆吼を上げていた。
「勝つぅぅぅぅぅ!!!」
1話 戦車道、 やらされます
「なんですかそれ?」
生徒会室に入った小山柚子は長テーブルの真正面で干しいもをかじっていた角谷杏にゆるい声で聞いた。
角谷は暇さえあれば芋をかじっている小柄な生徒会長。
二分けにした栗色の髪と、悪戯っぽくもまだ若狐のようなクルリとした目。
同学年の柚子に比べても背も低く、こじんまりした体。
しかし、その手腕は豪快の一言に尽きる。
そんな角谷の手にある封筒。
小さな手で持つ封筒は今にもはち切れそうな、まるで空気を一杯に満たしてふくれあがったような形になっている。
柚子は、横目でそれを見ながら角谷の返事を待った。
愉快を口に現すピンクの唇は、口に詰まった芋を流し込むと封筒をふって答える。
「うーん、手紙だよ。黎明学園ってとこから」
「黎明学園……あー、お嬢様学校ですよね。料理道では全国大会の常連校ですし、優勝回数上位の学校ですよね。今年は残念ながら準決勝で負けたみたいですけど……そんな学校からなんで手紙が? 友達がいるんですか?」
「うんにゃ、いないよ」
左手の芋を下ろしスカートで手を拭う。
角谷は大雑把に物事を言う事が多い、普段の行動にもそういう部分が少し現れている。
柚子はティッシュを何枚か取ると彼女の座るイスの隣に腰掛けて手渡した。
今日はまだ生徒会広報の河島桃が来ていない。
片眼鏡でいつも声に角があるが、仕事は早い桃の姿がない事で酷く自分が遅刻とてきたのではと小さく肩をすぼめて、素っ気ない返事のまま手紙を読んでいる角谷を見る。
「ふっふーん、おもしろいねー」
「何がですか?」
「これこれ、試合したいんだって」
「試合……ですか? 料理道対決ってヤツですか?」
分厚い封筒、少なく見ても三十枚は書きしたためてあるだろう手紙を、賽子転がすように目玉を回し速読した角谷は、悪戯な口を見せた。
「違うよ。戦車道の交流試合をしたいんだってさ」
「戦車道の? 黎明学園って高等部は普通科と家政科がメインですよね? 戦車道あったんですか?」
女子の嗜みである戦車道。
広く多く知られるこの道だが、多くの学校が持っているわけではない。
理由は簡単、戦車の維持が大変だからだが……
戦車道をするには特定有名校である事が第一条件とも言える高貴な嗜みだ。
今年大洗女子学園も復帰という形で戦車道を再開したが、それだって元の戦車があってこそのもの。
そんな古典嗜みに入りつつある戦車道を、家政科と料理道で名を挙げているお嬢様学校黎明が持っているのは不思議にも思えた。
柚子は惚けた目のまま角谷にお茶を勧めた。
「あったみたいだよー、戦績はー、うん、凄いよ、負けてるけど二年前に黒森峰とやった事あるってさー。まあ、それは置いとくとしてぇ、すんげぇーうちとやりたいって事がさー、ずーっと書いてあるのよ」
「交流試合の申し込みに……そんなにたくさんの手紙ですか?」
「ねぇー、なんか照れるよね」
そういう問題? 柚子の目がおっとりながら大きくなる。
軽く現国の教科書並に分厚い手紙の用件がたったそれだけという事に、何を重ねて書いたらこんな量になるのかと。
「どうするんですか?」
広げた手紙を横目に柚子は惚けた質問をした。
たぶんもう決まっている、桃がいないのはこの事について出かけているからだろうという諦観で。
「やるよ、実戦に勝る練習無しっていうじゃん。向こうも五両揃えて来るらしいし、河島に今返事書かせてるし」
軽いため息。
角谷はいつも独断で物事を決める。
気っぷが良いのか、迷う事が苦手なのか、あれこれと相談の時間を多くとったりはしない人だ。
後は付いていくしかない、柚子は生徒会に入ってからずっとそうだった事を思い出すと、わかりにくい苦笑いを見せて。
「一ヶ月後ぐらいですか、そのぐらいなら戦車も直っているでしょうし、調度いいですね」
聖グロリアーナと対戦したのは一週間前、生徒会の車両は全車両中一番のダメージを受けて現在も自動車部の元に預けられたままである。
せっかくの金ぴか塗装も見る影が無い程、メッキを吹きかけた鉄扉はガラスを割ったように各所で剥離を起こしており酷い状態だった。
「うんにゃ、来週やるよ」
「そうですか、来週ですか……来週?」
「そう来週」
「来週?」
「来週だよ。何度聞くんだよ」
口に運んだ芋で語尾を濁しながらも顰めた眉の目が、柚子のおっとり目とかち合う。
思わず冗談を? と、首を傾げた柚子に角谷はにっこりと笑った。
「間に合うようになー、手がたりなきゃ、みんなで直せばいいしー」
言葉はなかった、そうするといったら行動する。
今頃河島桃が自動車部に元に火急の試合が入ったと檄を飛ばしているだろう姿は目に浮かぶ。
柚子は、戦車道開始から振り回されている自動車部を気遣って小さく零した。
「何か差し入れしようかしら……」
「干し芋がいいな」
そんな事は聞いていない、なのに満面の笑みの角谷。
一週間後の試合のその時まで、また慌ただしい日々が始まってしまったと意気消沈してカレンダーを見つめた。
すでに赤ペンで○を打たれた決戦の日。
きっと自動車部から苦情がくる、それで手伝いにかり出される、寝る間を削るだろう日々に、急に老け込んだ息を長く落とすばかりだった。
「きたー!!! 返事きたよ!!」
その日、戦車道部室宛てのポストを開いた小原乙女は飛び上がっていた。
差出人、大洗女子学園徒会長角谷杏の名前が入った封筒を胸に抱いて。
ライトグリーンブレザー、下は明るい赤のタータンチェック。襟元には小さな赤いネクタイを緩く締めたスタイル。
肩までかかった茶髪をポニーテールに纏めた乙女は、小さな背を精一杯伸ばしコマのように回って喜びを全身で現していた。
「やった……やったぁぁぁぁ!! 千代!! やったよ!! 大洗女子、交流試合が出来るって!!!」
飛び上がる背高の友のとなり、同じく小柄な下奉(しもたて)千代は、怪訝に目を細めていた。
今時分のこの時期に交流試合を受ける学校があるという事も一つだったが……
「ねえ、その手紙って」
心配を口に出した千代の前に、乙女はずいと顔を近づけると輝く笑顔で。
「……西住流と出来るんだよ……最後の最後で本物と戦える!! やっほぉぅぅぅ」
「ねえ、それはわかったけど……」
千代の心配をよそに乙女は大はしゃぎだった。
それこそスカートがまくれ上がってしまうのではと心配する程のとびっぷりだったが……もっと真っ当な心配事があった。
吉報を届けると戦車がある赤煉瓦の倉庫に走って行く乙女の尻尾を覚めた目が見つめる。
「試合なんて……出来るわけないじゃない……」
千代の零した言葉には覇気がまったくなかった。
そしてそれは戦車道倉庫に着いたときに現実のものとなっていた。
返事の手紙を部長の前に開いた小原の姿。チビのくせにドンと構えて手紙を両手で開いて見せる姿に、山巌(やまいわ)澪戦車道部長は長い黒髪の頭を抱えて唇を噛んでいた。
追いついた千代にもその理由はわかっていた。
「……小原さん、その手紙って個人的に出したの? うちの戦車道の名前使って?」
「個人で出しましたけど、ちゃんと黎明学園の戦車道部員小原で出してますよ」
悪気のない返答。
戦車道の部室につめる誰もがしらない間に決まった交流試合。
誰にも知らされる事なくも勝手に試合を申し込んだ小原に対して、重い沈黙があった。
千代も声にはださなかったが、心の中で頭を抱えていた。
思い立ったら吉日女の小原乙女。
今年三年生で戦車道も卒業の身でありながら何をやらかしているのかと、沈黙に漂うため息の合唱に息を合わせていた。
「大洗はオッケーしてくれました!! やりましょうよ部長!! あの西住流、黒森峰のまほさんの妹が戦隊長なんですよ!!」
「あ……あなたはどうして後先考えないで」
「後先なんて考えていたら、卒業しちゃいますよ!! これが本当に最後の試合になるかもしれないんですよ!! だからやりましょう!!」
「出来ないわよ」
困り果て乙女と顔を合わせない山巌部長に助け船の声をかけたのは千代だった。
沈黙する下級生達と、倉庫の片付けを済ませていた三年生。
皆試合が出来る事に一寸も喜びを表していない中、乙女の前まで来ると。
「戦車があっても部員がいないの。その手紙だと先方に合わせて五両だすって事みたいだけど……五両を動かす人員がいないんだから」
「だったら四両でいいじゃん」
「それは失礼でしょ」
軽く仕様変更を口にした乙女を山巌部長が睨む。
黒髪パッツン、切れ長の目に薄い眉、時代で昔ならお姫様のようなスタイルを持つ山巌澪部長は呆れたように眉をしかめると。
「こちらから頼んでおいて、一両減らしましたって言うの?」
「大丈夫ですよ、私がガッチリ書きした溜めてお願いしますから……ていうか当日に言ったらいいんですよ。故障しちゃったって」
「ダメよ、止めてよ。そんな恥さらしな」
山巌は声のトーンを上げて叱った。
だけど、勢いはそこで止まって背中を向けると。
「とにかく無理だし、今更……西住流なんかと試合してもらっても意味がないから」
「ありますよ!!」
乙女は山巌部長の肩に手をかけて大きく揺すった。
自分より少し背の高い肩をしがみつくように掴んで力ずくでもと意気込んだ手を、山巌は強く引きはがした。
逃げるように乙女から離れると何度か首を振って、一生懸命内にこもっている熱を抑えるように言った。
「やらないから。人も足らないし……断りましょう。……うんう、謝りましょう。急に申し込んでおいてごめんなさいって……それだって失礼だけど、……ねっ」
「いやです」
俯いた部長を前に乙女は宣言した。
チビが下から見上げる目を釣り上げて。
「足らない人員は私が集めてきます!! 絶対に絶対に絶対に!! 試合やりますから!!」
そういうと、山巌が返事をする背中を向けた。
同じ歳とは思えない幼稚な行動を全面に出した顔で一礼して。
「絶対に断りませんから!!!」
小さな体がそのまま車輪になったような勢いで走り去っていた。
それをげんなりと首を傾げて山巌は見送っていた。
「……」
「部長、気にしないでください。大洗さんには私が電話しておきますよ。出来ませんって」
「……それはダメよ、そんな事したらきっと小原さん電話するわ……」
両手を胸の前でくんで悲しげに俯く山巌。
電話で試合の申し出を取り下げれば……きっと小原が電話をし直す。
部長が断りの謝罪を入れて、小原をもう一度申請の謝罪をする……恥をフル回転で上塗りするいたちごっこは容易に目に浮かぶもの。
「あの時以上の恥をかくことになるのに……もう、どうしてわかってくれないのかしら……」
口をつぐむ部長の後ろ、同じ戦車道の部員達が意見もなく顔を晒していた。
誰も試合について口にしない、ただ互いを見て困惑を呟くばかり。
千代も事を荒立てて、乙女がこれ以上の暴走を見せるのは恥と理解したうえで山巌に苦笑いを見せた。
「大丈夫ですよ。今のままだったら一両だって戦車動きませんもん。いくらやりたいって言っても乙女一人で動かせる戦車なんてありませんから……ねっ」
そう、せめてもの救いは戦車道部員が一人も試合をしたいと言わなかった事。
山巌部長も短いため息を何度か落として走り去った小原の影を探して言った。
「そうよね、一人じゃ動かせられないものね」と。
「常磐!! 小学校の頃の借りを私に返すときが来たよ!!」
ドアではなく、窓から弾丸のように飛び込んできた小原乙女の姿にフリルいっぱいの黄色のエプロンを着けた赤橋常磐は呆れていた。
何故なら小原がドアから入ってきた事は今まで一度もなくも飛び越して入る窓の下にはコンロがある……小原はチビだ、いつかサッシ窓の下枠に躓いてスカートを焼くことになるだろう危惧をしながらも諦観の目は、手を伸ばし借りを返せと言う顔にプレーンパウンドの元をつけた。
「いったいなんの借りがあるのよ、私が。むしろ私の方がいっぱい貸してるわよ乙女」
「ドーンと返すんだ!!」
「話し聞いてる?」
鼻っ柱に付けられたクリーム状の元を人差し指で掬ってなめる。
常磐は手を止めないように忙しくゴムベラでボールの中身を混ぜながら理由を聞くことにした。
「今度は何をしたの? 課題の調理レポート出し忘れ?」
ボウルでの作業に一区切りを付けたいと背中を向けた赤橋の隣、茶色の髪に赤いリボンを付けた碧野若葉がにじり寄った。
騒がし屋である小原の登場は、静寂を尊ぶ料理道部にとっての刺激の一つだった。
「何もしてないよ、何もしてないから人手がいるんだ。そうだ若菜も手伝ってよ」
「いいよー、乙女ちゃんのやる事ってなんか楽しそうだしねー」
「何々? 楽しいなら私も手伝うよ」
碧野と小原の会話に栗毛のぽっちゃり、黄瀬楓が首を突っ込む。
今ここにいるのは全員が三年生の卒業組。
料理道の部室ともそろそろ離れなくてはいけないが、名残惜しくて準備室を使って活動している。
料理道本筋の中でも一つの極技であるスイーツ道の修練も兼ねて。
「よっしゃ!! 楓もゲット!! 楽しい事しよう!! 常磐もいいね!!」
「いいけどー、これが終わってからね」
警戒に進む会話を背中越しで聞いていた赤橋は、オーブンのテカりの反射に写る三人を見る。
碧野と黄瀬は学園に入ってからの友達だが、小原が自分の所に来る事であっという間に仲良くなった者達。
卒業したらこんなに気安く合えなくなると思えば、騒ぎの虫である小原が遊びに来てくれるのは楽しい事だった。
「なー、常磐。ドーンと借りを返して願いを叶えて欲しいんだ」
トンチンカンな自分語を炸裂させて背中に向かって頼む小原に、赤橋は見えないように苦笑い。
短めのボブ、黒縁の丸めがね。
小原とは対照的で落ち着いた物腰に背筋の正しい所作を見せて。
「まったく世話のかかる友達だわ、課題貯め込んだの? もう三年だからさー、落ち着いて……」
「わかった!! 落ち着くから今生最後の願いとして手伝ってくれ」
「今生最後だなんて、おおげさねぇ」
「頼む!!! 願いを叶える手伝いをしてくれよ!!」
借りを返せと来たくせに願いと……
いつもそうなのだが、小原の会話は断続的に主語が抜けて、見えない目標のための手段だけが語られる。
慌て者の幼馴染みは何かに切羽詰まるといつもこうやって自分の所に来る。
それでも赤橋としては、頼りにされているというのに悪い気はしないようで、自分の前で必死に指差し確認をして、助力を要請している小原を見て苦笑いすると。
「わかったわかった、手伝ってあげるから……」
「良し! 助かる! じゃあすぐに来て!! そっちの若葉ちゃんと、楓ちゃんも!!」
言うなり手を掴む小原、小さいのに力は人一倍。
料理道部員の二人も来いと顎で呼ぶ
このの安請け合いが料理道部員である赤橋、碧野、黄瀬のスイーツ道苦行の戦いに繋がるなどこの時は考えていなかった。
「ところで何を手伝ったらいいの」
エプロンを畳みながら引きずられる赤橋の声に、小原は満面の笑みで答えた。
「戦車動かすの!!!」
「戦車?」
「そう!! 交流試合に向けてがんばろぅ!!」
そう苦行は始まった。
「ていうか、なんで生徒会長っていつも突然決めるのかなー」
学校艦の左舷、艦橋タワーの前には海に向かって張り出した公園が作られている。
元々学校艦は緑を多く取り入れた作りだが、今日のここは夕日がよく見える1等席だった。
戦車道の修練を終えたメンツは夕日を前にベンチで話しをしていた。
式部沙織は練習で被った砂と油を落とし、湯気をほんのり浮かべた姿でアイスを手に愚痴った。
「そうですよね、いつも突然決めてるって感じに見えますよね」
沙織の愚痴に、五十鈴華が合いの手を入れる。
突然決まった交流試合、来週末に行うという通達があったはいいが……聖グロリアーナ戦から間二週間という急ピッチに、自動車部から徒込みを受けるという一悶着があった。
「しかし実戦に勝る練習はないからな……」
単調で抑揚を抑えた口調の冷泉麻子は、そこまで言って唇を噛む。
試合をする事態は天才肌である麻子にとって苦痛ではないのだが、近すぎる対戦日のために明日からは朝練が始まる事を苦く思い浮かべて、ビッグカップのアイスを頬張る。
「そうだねー、頑張ろう!!! 試合があればまた丘にあがれるわけだし!!」
愚痴も多いがポジティブ転換も早い沙織は言葉に、秋山優香里は拳を握って答えた。
「大丈夫ですよ、聖グロリアーナは有名校でしたけど黎明学園ほとんど無名の学校ですから、楽にいきましょう」
「それは私達もじゃない」
素早い突っ込みの沙織に、優香里は人差し指を振って切り返した。
「うちには西住殿がいます!! 大丈夫です!!」
実戦の戦車に乗れる事、その緊張感を味わえる事を心から愛する優香里にとって聖グロリアーナのように整然とした戦いも嫌いではないが、自分達大洗が足を乱す事なく戦えるこようになるにはちょうど良い練習相手だと笑って言う。
「でもこの学校って……黒森峰と試合した事があるんですよね。それが試合をする事の決めてだったと生徒会長も言ってましたし」
黒森峰女学院。
その名前に会話の和の中で沈黙を守っていた西住みほの顔がこわばる。
かつてそこにいた。
仲間達にはそれだけしか言っていない。
一昨年まで九連覇という前人未踏の勝利記録を打ち立てた戦車道のエリート学校。
「黒森峰と試合ができたって事は……けっこう強いチームなのでは?」
王者黒森峰と試合した事があるという触れ込みの相手。
黎明学園。
自分の振った話で黙り込んでしまったみほを前に、華は話題を切り替えるように手を挙げきいた。
「それはないですよ、黒森峰と試合をしたって言うだけで黎明学園は弱小チームですよ」
カラリと明るく方向転換を手伝う優香里。
秘密の手帳のようなものを取り出すと。
「二年前に黒森峰女学院と黎明学園は練習試合をしてますけど、凄いですよ。たった三十分で殲滅されちゃってます。ボロ負けだけど試合は試合、黒森峰とは勝ち負け関係なく試合した事あるってだけの事ですよ」
「あらあら」
「三十分……開始してすぐじゃない」
「弱すぎだな……」
殲滅戦、三十分で全滅。
パーフェクトスコアーもここまで来ると少し怖いが、相手の黒森峰が一方的に強かったというよりも黎明学園が一方的に弱かった事が浮き彫りになった試合記録。
「それ以来今年までの間に十回ぐらいしか試合してない学校なんですよ。元々黎明学園は料理道を中心とする家政科全般に強い学校で、そっちは全国大会常連のうえに国際大会にも顔を出してるくちです。戦車道は適度な嗜み程度にしかやってない所なんですよ」
垂れ目の笑顔はみんなを安心させるように言うと大回転と走り回って。
「きっちり勝つ試合ってのをやってみましょうよ!! いいん特訓相手だと思って」
弱小黎明学園。練習は多い方がいいけど何より実戦が一番身につく。
相手が弱いのならば、それを利用してやりたかった包囲陣形を試すことも出来そうだとはしゃぐ優香里を、静かな笑みでみほは見ていた。
「……どういう弱さなんだろう……」と、厳しい戦いの世界かに来た者として興味深い言葉を零して。
「戦車道……やらされます……」
その頃、黎明学園戦車道部倉庫で山巌部長は本当に頭を抱えていた。
たった数時間で人手を見つけてきた小原は、チビの身丈がふんぞり返り後ろに向かってひっくり返る程に胸を張って良い顔をしていた。
「やりましょう!! 試合!!」
同じように小原の後ろで魂で額を抑えていた赤橋常磐がいた。
「どうして……こうなっちやったの?」
交流試合まで後一週間。
急転の出来事は両校にすくなからずの嵐を用意していた。
結局書いてみました。四話ぐらいで終わりたいと思います。
アニメがとっても楽しみです
ベル=硬い果物。東南アジアにいっぱいいる、割るとバニラの香りがする、食べると……口合う人合わない人がいる。
戦車の知識が皆無なので勉強してます。
調べると小さくて可愛いのもいっぱいいる。ルノー FT-17 軽戦車とか一台欲しい可愛さ。