秋山殿のキラキラお目々が大好きです。
「本気なのかな……」
グランドからすぐ横、黒色の鉄格子で作られたゲートの閂にぶつかった戦車を見ていた二年生部員数人は、呆れた顔で唸るⅣ号の姿に呟いていた。
キューポラにキャンバス地を括り付けた暑苦しい筒から、小原の黄色い声が響く。
「そっちじゃなくて!! それ!! ていうか回転数上げすぎ!!」
小原が車長をしているわけだから、下で奮闘しているのは赤橋達素人集団。
カーブを曲がる角度も読めなければ、エンジンの回転数を安定にも持っていけないのが外から見ても良く分かる。
ピーキーに上がったカナ切り音から、一気に地を這う低速まで音色のアップダウンが戦車の喘息のように響き渡る。
無駄に立ちこめる砂埃と、不規則に動く履帯。
このままいけばエンジンも車体も保たないのではと眉をしかめる部員達。
「ルノーたんからやればいいのに……Ⅳ号壊れるんじゃないの」
「そしたら本当に試合はお流れになるから……いいんじゃない。どうせ素人なんだもん、すぐに音を上げるよ」
「……試合か……今年はまだ一回もやってないよね」
ようやくバックを決めて、演習用の山道を登り始めた後ろ姿。
登坂にかかって息が切れる、ガクンと気落ちしたように止まってしまうⅣ号。
警笛のように、しかし軽やかに響く小原の声。
内側から、あれも解らないこれも出来ないと泣く料理道の素人三人組の声
「うはー、カメになってるよ。今からあれじゃ間に合わないよね、試合の日に」
「……私達が手伝えば……」
「下手なこと言わないでよ、山巌部長に怒られるわよ」
二年生達は見ていた逆、自分達の後ろ辺りの気配を気にしていた。
突如練習試合をすると駆け込んだ先輩にあたる小原。
翌日の今日は土曜で昼上がりなのに、料理道から引き抜いた三人を連れて練習にでるという躍起ぶり。
それを朝から苦々しく額に亀裂を入れて見ていた山巌部長。
二年部員に言葉に出して、試合に出ないで、とは言わないが態度にそれは嫌と言うほど出ている。
手伝うなんて言えばどんなお叱りをうけるのかと肩をすぼめる。
「帰りましょ、私達には関係ないよ」
一人が手を引くように残りの二人を連れて倉庫を後にする。
よそよそしく消えていき、人一人いない倉庫は山から響くⅣ号の悲鳴を何重にも響かせていた。
倉庫の壁に手を付き帰っていった二年生の背中を送った下奉千代(しもたてちよ)は、黒煙を上げて山を登るⅣ号を見つめて頬を膨らましていた。
スタックに何度も車体を上げ下げして懸命に山を登るⅣ号、キューポラから油を頬に付けて黒くなった顔を出し、右だ左だと怒鳴りながらも笑顔の小原の姿を見て。
「バカみたい……西住流直系と試合だなんて、最後の最後に恥の上塗りしなくても……」
小さなため息で俯く顔、下から上へ帰る道に向かう目が今一度戦車を見る。
ぎこちなくも懸命に動くⅣ号の姿を見て姿を消していった。
「パンツァー・フォー!!」
指も真っ直ぐ、鉄心でも入ったように砲塔内部で前進の号令をした小原の下で。
「はぁ? パンツ穿こう? 失礼な事言わないでよ。誰か穿いてないの?」
「私は穿いてるよぉ!!」
「戦車ってノーパンで乗るの? 乗ってから穿けって事?」
「違うから!!! 前進前進!!」
三人の中、中等部時代唯一戦車道を必修科目で取っていた赤橋が操縦桿から苦笑いで言う。
黒髪を引っ詰め大きすぎる鉄兜をかぶって。
黄瀬と碧野は生粋の料理道選手で、戦車は初めて。
操縦しないうちは乗っているだけなのだからこんな大騒ぎをしなくてもいいだろうという思いに、小原は大喜び。
「前進前進!!! パンツなんて穿いてなくたって問題ない!!」
「問題大ありだよ!! こんなにゆれるのにパンツ無しなんてどんな罰ゲームなのよ!!」
「この揺れが心地よくなるんだって!!」
小人の隊長小原。
久しぶりに響くエンジン音と、飛んだり落ちたりの走りを満面の笑顔で指揮を執る。
うれしさを全身で表すように、大きく身振り手振りで。
一方の料理道三人組は砲塔と車内であっちこっちと阿波踊り状態だ。
正直こんなに労苦の伴う事に手伝いとしてかり出されるとは思っていなかったメンツは、すでにグッタリしていた。
「乙女ちゃん、楽しい事じゃなかったの?」
「楽しいよ!! 戦車は最高だよー!! この振動とかたまらないでしょ!!」
ポニーテールを靡かせて笑顔で答える小原だが、振動? そんな生易しいものではない動きに三人は息も絶え絶えだった。
なにせ覚束ない運転、バンプを拾っては、イスから飛び上がり鉄扉の壁に頭をぶつける事何十回。
あまりの痛さに小原以外の三人はヘルメット着用で自分のイスにしがみついている状態だ。
「とにかく走る事!! これが身につけば後はちょちょいのちょいだよ。ドーンと行こう!! ドーンと」
口調は軽いが、戦車は重い。
言うほど簡単ではない操作に赤橋も目が回っていた。
掴むシフトの重さと、持ち続ける事で伝わる振動は慣れ来れば気持ちいいのかもしれないが、まだそれを楽しむ程の余裕はない。
黒の丸めがねが跳ねて、鼻筋が赤くなるばかり。
それでも小原を除いて唯一の経験者として、なんとか話題を振ることで平静に見せようと努力する。
「ああ、この振動って……ジューサーの代わりに使えそうな気がするのよ」
運転に手一杯ながらも話しをしていないと混乱してしまいそうな目に、黄瀬が合いの手を入れる。
「ジューサーというか……お肉が柔らかくなりそう」
「あー、馬賊の肉叩きに似てるってヤツかな? 肩肉とかいけそう……って……吐く……」
名字の碧よりずっとどす黒い青色に染まった若葉の顔。
飛びすぎて体を痛めるのもあるが、何せ開けられる窓がほとんどないⅣ号。
普通の車両以上に頑丈に目張りしてあるハッチは重すぎて簡単に開けられない、正面を見る隙間さえ複層の眼機を付けていたのでは見える景色に酔うというもの。
口を金魚のようにパクパクさせる碧野のそれに、パニックを起こす黄瀬。
「止まって!!! 止まって!! マジでやばいよぉ!!」
砲塔の中に鳴り響く悲鳴、緊急停止でキューポラから吹っ飛ばされそうになった小原は下に向かって怒鳴ろうとするが、それを手でぶっ飛ばし外に飛び出していく碧野。
台座から落ちて尻餅ついたまま、山道の端で吐いてる碧野に声をかける。
「うぉーい、大丈夫かー!!」
後を追って外に出た黄瀬が背中をさする。
とても大丈夫とは思えない嗚咽ぶりをみながらも、小原は頬を膨らませると、足でだんだんとⅣ号の車体を蹴って叫んだ。
「今日中に運転だけでもマスターしたいんだよー!! 頑張ってくれよー、若菜!!」
「無理だよ、無理。私達戦車なんて乗ったことないし……全然楽しくないよ」
口元を抑えた碧野は涙目で訴えた。
背中をさすっていた黄瀬も声をそろえて。
「乙女ちゃん、私達素人なんだよ。いくら練習試合だからって本道やってる人達との試合に間に合うわけないよ。なんで戦車道部員でやらないの!!」
「もういや!! 帰ってクッキングマッチを見る予定だったのに!! 止める!!」
互いに肩を寄せた碧野と黄瀬は、足下をふらつかせながら山を下ろうとし始めた。
慌てた小原は立ち上がって手摺りを叩いて言い返した。
「こんな事ぐらいで挫けたらダメだよ!! 頼むよ!! 他に頼める人がいないんだよ!!」
「なんで他の人がいないのよ!! 戦車道の部員いたじゃん!! 自分達の試合なんだから、赤の他人の私達に頼むなんておかしいよ!! 好きでやってるんじゃないの?」
「好きだよ、好きだけど嫌になっちゃったんだよ。うちの部員は……」
大声でストライキを叫ぶ黄瀬の前で小原は口をつぐむと、頭をⅣ号の鉄扉にぶつけた。
鈍く響き渡る音と、唇を噛んだ小原の真っ赤になった顔。
突飛な行動に目が点になった二人の前で小原はもう一度頭を戦車にぶつける勢いで頼んだ。
「無理でも何でも!! 最後のチャンスなんだよ。頼むよ付いてきてよ!!」
「無理よ……どうしてそんなに必死なのかわからないけど……無理だよ」
ひっぱり回された二人は取りあえず道端にある木に寄りかかった。
小原は飛び降りて二人の前に走る。
続いて操縦桿から出た赤橋が追う。
「頼むよ!! 後でどんなお願いでも聞くから!!」
「そんな事言ってもねぇ……出来ない事ってあるよー」
むせて口元を抑えたまま座り込んだ碧野に変わって黄瀬が渋い顔を上げるが、両手を顔の前で合わせ、拝むように頼み込む小原にうんざりと目を背ける。
「どうして最後のチャンスなの? 乙女」
ヘルメットを脱ぎ、乱れた髪を整えながら追いついた赤橋は背中を丸めて二人に頼み込む小原の肩を叩いた。
「最後だよ、私達三年生は最後なんだ……心まで負けっぱなしで終わりたくないんだよ!!」
歯がみする思い。小原は二人と同じ場所に座ると拳を握って語った。
それは黒森峰との練習試合から始まった、黎明学園戦車道凋落の記憶だった。
「……こっちでもないみたいですね……演習場に入るのは無理ですかー」
学園の校門から向こう、山に繋がる道には有刺鉄線がはってあり演習場に入る道は校内からしかない。山を登ろうにも、切り立った側を使った防壁が作られているためとても上までは行けない。
サークルKサンクスの服を着込んだ秋山優香里は、町内看板と学校艦の見取り図を交互に見ながら考えていた。
もちろん黎明学園の制服も持って来てはいるのだが、半日授業で人が少ない所に入っていくのは諸刃の剣。
森に隠れる木になるにも、程度の人数が必要と策士は困り果てていた。
「そんな有力高でもないのに……こんなに隠そうとするとは、きっと秘密の特訓とかしているのですね」
ポジティブシンキング。
話題が戦車だけの幼少時代を送り続けても、コミュ力を低下させた事のない秋山。
目の前演習場への道を有刺鉄線で閉ざす程の物、隠す理由に心を燃やしていた。
その心意気のせいで後ろに近づいていた学園生の気配に気がつけていなかった。
「ひょっとしてスパイさん?」
「うひゃあああ」
「本当にスパイなんだ」
驚きでフェンスに張り付く秋山を囲む二人組。
学園の制服に、三年生のリボンを首にした下奉千代と、神奈川要は世にも軽装なスパイを囲んでほっこりしていた。
「もっとフル装で来るのかと思ったけど」
「ないない、見るものないのにスネークされてもねぇ、スパイさん」
突然の遭遇だが、スパイと見破られてもフレンドリー? な二人に秋山の探求魂は消えることなく燃え上がった。
「あの!! よろしければ少し聞かせて頂いてもいいですか!!」
さすがにスパイにインタビューされるとは思わなかったという顔の神奈川要。
短髪の黒髪をコネながら鼻で笑うが、下奉千代は受け入れると告げると突然切り出した。
「あのさ、大洗女子との練習試合。お断りしたいの、頼めるかな?」
少し離れた所に立つ壁際、けばけばしいピンクのプラスティックベンチに座った途端に下奉は試合の辞退を口にした。
「それはどういう事で」
「やる気ないの、うちの戦車道部。だからやっても無駄になるからさ、大洗さんの方から断ってくれないって事」
わざとらしい惚けた口調。目を合わさないように横向きの顔を見せる下奉。
スパイが来るとは思っていなかったが、来たからにはこチャンスだった。
相手側から試合の断りが入れば、それ以上の申請は出来ない。
試合がお流れに出来るという願いで、さらりと普通ぽく頼んだ。
同じように座りはしたが話題に介入しない距離で話しを聞く神奈川。
二人の様子と顔を交互に見た秋山は、顎に手を当てると首を傾げた。
「でも、黎明さんの方から試合の申し込み来たんですよ。やる気ないのに申し込みしたのですか?」
「違うの、それは、小原って子が勝手に出した。一人で学園の名前使って」
「ということは、小原殿は試合をしたいって事ですよね」
「そういうバカなの、戦車の事になると三度の飯よりっていうおかしな子なの」
「おかしくないですよ」
思わぬ切り返し、まさかそんなふうに話しの中身に突撃してくるとは思わなかった。
下奉は言葉で簡単に断ろうとしてもダメだという事を悟り、そらしていた顔を秋山の方にむき直した。
少し思い詰めた伏し目で。
「あのね、私達は……もう負けて辛い思いをしたくないの」
隠していた本当の理由を、自分の心に残った苦い思い出と共に解いていった。
二年前、黎明学園は強豪校である黒森峰と練習試合をした。
それは、軽はずみで勢いばかりの挑戦だった。
元々黎明学園では古典女子の嗜みである戦車道も一つの授業の一環ぐらいの気持ちで取り入れていただけで、本格的に取り組むというよりも、本当に嗜みを学びましょうぐらいな軽い気持ちだったのだ。
「私達は一年生で、戦車に乗ることはなかったけど……ご存じの通り試合は三十分の全滅負け……まあ、それは仕方のない事なんだけど」
嗜みの学習用においていた戦車道。
今まで例のない負けっぷりに戦車道部員の心には火が付いた。
「次は勝とう!! 頑張ろう!!」
黒森峰との練習試合は良い方向に転んだハズだった。
だけど現実は甘く無い。
今まで練習だって、本格的に取り組んだ事のない黎明学園。
勢いで申し込んだ練習試合で連戦連敗を重ねていく。
少しずつ折れる気持ちをかかえながらも、いつしか必死に勝とうとしていた戦車道部。
それこそ嗜みのなんたるかなとせ何処吹く風で。
それでも……良くなるハズだった。
負けを重ねても、経験を積んで次は勝つ。
その想いだけが募って自分達が空回りを始めている事に気がつけなかった。
そしてそのよりどころを完膚無きまでにへし折ったのもまたも黒森峰だった。
話しをしながら深く俯いてしまった下奉は、肩で息をして深く呼吸を整えると興味津々の目で見る秋山に告げた。
「弱小黎明。戦車道を穢すような学校とは試合は出来ない……ってさ」
黒森峰の敷居はずっと高かった。
世界を目指す女学院は、地べたを這って今一度の再戦を望んだ黎明学園の気持ちなど知ったことでもなかったのだ。
練習試合の申し込みに訪れた山巌部長は学校艦に乗る事も出来ず門前払いを受けた。
新部長として就任したばかり、たったの三日後の出来事だった。
このことはあっという間に他校に知れ渡り、黎明戦車道部は古典女子の嗜の道を穢した面汚しとして汚名を残した。
「だから……大洗さんは私達やらない方がいい。私達のような弱小と試合しても良い噂なんて立たないよ。それか、面汚しをよくぞ叩いたって喜ばれるかもしれないけどね」
自虐的な笑み、下奉と神奈川は互いに顔を合わせられない程に、黎明が戦車道面汚しの学校と言われる事を悲しんでいた。
これ以上恥はさらしたくない。
このまま、何もなく静かにこの学園の戦車道は幕を閉じる。そうなる事を望んでいると話しを閉めた。
「とにかくそういう事だから、是非大洗さんの方から断って欲しい」
「そう、こっぴどく断って、そうしてくれれば大洗さんが笑われるような事はないよ。私達弱小だもん、周りも納得するって事」
「でも小原殿はやりたいんですよね」
しんみりした会話の終わり。秋山の返事は後悔に同情を乗せるものではなかった。二人の前に座って話しを聞き、手帳にしたためていた所から立ち上がると。
「弱い事は知ってました。でも試合をしない事とは関係ないです」
「ちょっと、話し聞いてた? 私達は試合をしたくないのよ」
「ええ、でも私達はしたいです、試合。小原殿が望んでくれたように」
相手の頭が緩かったのか? 下奉は立ち上がった秋山に合わせて席を立つと詰め寄った。
「貴女達には西住流本家の人がいるからでしょ。私達には何もないのに……」
「西住殿がいても私達もやっと頑張ってついていけてる程度です。試合も実戦に勝る練習はありませんからこちらから断るような事は絶対にしませんよ。それに黎明学園には小原殿がいるじゃないですか」
捕まえられそうな肩をスルリと抜けて逃げる。
それに対して怒鳴る神奈川。
軽くステップを踏んで桟橋口の側に向かう秋山。
「今のままだったら一両しか戦車は出ないのよ。試合にならないでしょ」
「それ小原殿ですよね、確定出場の一両って」
「そうよ、あの頑固者一人でも試合するつもりでいるんだから。何言っても言うこと聞かないんだから」
秋山優香里は、苦悶を口にする二人を見て笑顔で敬礼した。
「だったら大洗も一両で迎え撃ちます。私、小原殿と気が合うと思います。だって戦車が好きで好きで好きで、どんな事言われても止めなかった所……私に似てます。ですから試合出来る事楽しみにしているとお伝えください!! 一生懸命迎え撃たせて頂きますと」
そう言うと後は背を向けてダッシュで走り出した。
腕時計で時間を確認、早くしないと夕方にここを出る配達便の船に乗り遅れる。
物凄い勢いで姿を小さくしていく相手を、下奉と神奈川は呆然と見送っていた。
「なんなのよ……私達だって……戦車好きだよ」
笑顔で帰っていった相手の影に二人は小さく呟いた。
「私は負けてしまった事を、無かった事にして戦車道を終わりたくないんだ。黒森峰の西住流本家とはもう戦えないけど……大洗女子の西住流本家と戦える。これを逃したら全国大会に行く大洗とはもう戦えない」
木に寄りかかって休憩と、体を伸ばしていた赤橋達の隣で小原は小さく丸まって石のように詰めた体勢で黎明学園戦車道が辿った日々を話した。
「うーん、でもさ、それって戦車道部の問題でしょ、私達料理道の素人に力説しても……」
寝転がった姿勢で、要約顔色を肌色に戻した碧野は下からのぞき見るように小原に言った。
実際、問題が中身にあるとするなら他所の人間をひっぱる事態逃げ口上にも思えたのだ。
「その事件から部員がいなくなったんだ。だってさ、好きで戦車道入ったのに試合も何もできないってわかったら……居る意味ないっしょ。五両を出そうと思ったら部員がいなかったんだ……」
試合したい一心だった小原は部員がいるだろう最低限のライン。向こうに申し込みしても跳ねられない車両数をあげたつもりだったが甘かった。
すでに五両をまともに動かせる程の部員がいなかった事に頭を垂れた。
「悪いと思ってる。でも!! 一緒に戦車に乗ってくれ!! 料理道は……三人は国際試合とかも出てるよね。私も知りたいんだ!! 大きな世界で戦う者達の中に……勝っても負けても入って行き知りたいんだ!! じゃなきゃ……中途半端に終わっちゃう。こんなに好きなのに……嫌い染まったままで終わりたくない」
好き。
好きだから戦車道を始めた。
好きだから負けても止めなかった。
貶され誹られ、学園の戦車道部員が割れた櫛の歯のように減っていく中でも、練習をおこたらなかった。
何もしないで止められない、そんな気持ちで何を卒業したらいいのか……好きなのにこっぴどくフラれた。
だけどやっぱり好きだから、止めない。
いっぱいの涙で、額を地面にこすりつけて頼み込んでいた。
「好きだからかー、私もそうだなー、好きなんだ料理道」
碧野は額に置かれて居た黄瀬のハンケチを取ると遠い目をしていた。
同じように赤橋も小原の丸く畳んだような背中を見ながら準決勝で敗退した料理道部自分達の最後の試合を思い出していた。
悔しかった、先輩達は国際大会まで行ったのに。
でも誰も責めたりはしなかった、常連校の余裕? そんな事はなく、悔しい思いばかりだった。自分達の心に未練があったから今でも調理実習室の近く、準備室で料理を作り続けている。
負けても……止めない。だって好きだから。
「はー、よかった、ここまで来る間に壊れちゃってたらどうしようかと思ったけど。なんとか保ったわ」
持ち込みのバスケットの中から、カップに入ったチーズケーキを取り出すと小原の前に持って行く。
籐で編み上げたクラッシックなバスケットの中には、金属のケースに入った保冷缶と紅茶の入った水筒があった。
赤橋の差し出すケースに、黄瀬が手際よく皿を並べる。
碧野はティーの加減をチェックして。
涙にぐずる小原をよそに綺麗アフタヌーンティーの仕度は調っていた。
「まあ、食べましょう。甘いもの食べて……」
「お願いだよ!!」
そんなふうに優しく事を言われても、これでお開きと言われたら元も子もない小原は顔を上げて三人を見た。
地べたに擦りつけた埃まみれの顔を赤橋が含み笑いの顔で拭くと。
「だから、やるんでしょ。だったら余計によ、甘いものたべてリラックス。そしたらまたがんばれる」
「がんばろう、乙女ちゃん」
「うん、がんばろう……一生のお願いだもんね」
涙と鼻水で顔の輪郭が溶ける程の小原を三人が支えた。
戦うための一両は今やっと結束を見たのだ。
戦車道を友の願いを叶えるための小さなパーティーを四人は楽しもうと笑った。
「頑張ろう!! 大洗女子に目にもの見せてやろう!!」
友達に支えられて小原は立ち上がった。
今まで萎んでいた風船は、勇気と元気という空気を満たしはち切れんばかりに立ち上がって。
「おーう!!! ドーンと勝ってやるぅ!!!」
大口でケーキを放り込む小原に、料理道三人も覚悟を決めて戦車に乗り込むと決めた。
夕方日が暮れるまで上の演習場に履帯の軋む音は響き続けていた。
「明後日、私と戦ってもらいます。負けたら練習試合の事はキッパリ諦めてもらうから」
斜陽の倉庫前、立っていたのは山巌部長だった。
疲れ切った顔を、各所のハッチを開けて顔を見せた赤橋達を睨む顔。
長い黒髪を揺らし、いつになく厳しく一文字に閉めた唇はⅣ号から顔を出した小原を指差すと強い口調でそう言って、背中を向けた。
相手の言い分を聞かず、真っ直ぐ帰る山巌澪は唇を噛んで決意に拳を握っていた。
「これ以上恥をかいて卒業するなんて、絶対に嫌……」
秋山殿が可愛いです。
あんな目をキラキラさせた女子がいたら、陸上自衛隊の戦車乗りも嬉しい事だろうとw
パンツァー・フォーのあれは本編でも「パンツの阿保」とかって出ていたからやってみたかったのです。
早く終わらないと紫様に殺されそうですw