ガールズ&パンツァー・スイーツ   作:氷川蛍

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これで終わりです。
大好きな作品の二次創作を出来て幸せでした。


その道へ、 頑張りましょう!!

「来ましたね……」

「うん」

 

 西住みほと秋山優香里は、遮蔽物のない駐車場に押し込まれたⅣ号を旋回させ、前から近づくコメットの姿に緊張を走らせていた。

入った駐車場、その果ては大型用水路で越えていくことのできないもの、隣の橋に繋がる県道416に出られるラインは足早き寡兵であるMk.VICの決死の立ち往生で抜けられない。

黎明学園は予定どおり大洗Ⅳ号を追い詰めた形を作っていた。

背水の大洗だが追い詰められのは、お互い様の状況でもあった。

ここには残った車両としてⅣ号とコメットしかいない。

相打ちをしても八九式が残れば勝利の大洗。

もう残りの車両がない黎明学園もまた背水の陣で自両を進めているという事。

 

 さながら西部劇のガンマンがごとく。

背後に大型用水路を背負ったⅣ号、道路から逃がさぬと蓋の砲塔を構えるコメット。

隠れる所のない近距離戦、先に当てれば勝負が決まる。

 緊迫する果たし合いの場所を写すビジョン。

大型画面のレオポルトの前で観客も固唾を呑んでいる。

 

「お嬢様……多恵も一緒におります」

 

 山巌澪のばあやは、手を胸の前組み祈っていた。

白く染まった髪の下刻まれた皺までもが震えるように。

試合のたびに心臓を痛める驚きを味わう事になるが、その時程澪が生き生きした顔を見せることはない。

カメラの向こうでは山巌重機会長操も厳しく口を結び祈りながら事を見守っている。

 

「あんれ、あの子活躍なしになりそう?」

 

 沈黙の会場の中でビール片手に事を見守る女性がいた。

テンガロンハットに赤のワンピース。派手過ぎる衣装だが背丈のある綺麗な身足と凹凸くっきりの良い体躯。

親指をペロリと舐めた舌を、お付きの共が拭こうとハンケチを出すが。

 

「いい試合になったねぇ、澪ちゃんも、要ちゃんもがんばってるのに我が子はどこだい」

「乙女さんもがんばってますよ」

「わかってらー、さあ少女達最後までドーンやったりーな」

 

 小原連結社長小原亨は缶ビールを持ち上げると高笑いをした。

 

 緊迫を乗り越える度胸。

その時が近づくのを見守る者達もまた心を粟立たせて待っていた。

 

 

 

 

 

「怖い……」

 

 武部沙織は小窓であるペリスコープから、ダークグリーンの相手方戦車を見ていた。

小さな隙間から見えるだけの世界に障害物はなく、その真ん中を堂々とした姿で迫るコメットに恐怖を感じるのは仕方の無い事だった。

この後来るのは正面切っての撃ち合いでしかないのだから。

 

「大丈夫、怖く無い」

 

 小刻みに震えていた武部の肩を西住みほの手が軽く叩く。

 

「戦車道は怖く無い」

 

 そういうとキューポラから顔を出した。

少しの風、潮の臭い、戦車の音だけが続く駐車場。

何も無くても場所をしっかりと把握して置くための警戒に上がった西住の目に、相手の戦車からも顔を見せた者がいた。

 

「本日は良い試合をありがとうございました。ここより先は、まずは私と勝負を……」

 

 西住みほが立つⅣ号の前、コメットキューポラに姿を見せた山巌部長は、内部マイク連動の拡声器を通して静かに礼を陳べた。

今日この日を迎えられたことに直接感謝の礼で頭を下げるぐらいの事はきちんとしておきたいという気持ちを示した。

 

 弱小黎明。

その名を付けられてから試合は出来なかった。

その名のせいで、交流試合を組んでくれる学校もいなかった。

だからこそ今日、この試合を迎えられた事に対してきちんとした礼を伝えたかった。

この日を迎えられたからこそ、今までの道の意味を理解できたと山巌澪は考えていた。

勝ち負けではなく戦車と共に過ごし競う事を楽しいと、進んできた道は間違っていた。

それだけではなく、その先にあるものに向かう事が次のステップとして必要だった。

簡単にそこにはいけなかっだけ、黒森峰に負けて初めて戦車を駆る喜びを知った。

ひたすらに走った日々、試合を重ねた道のり、楽しいばかりで進んできた自分達にそれだけでは足りない事を教えるために再試合を断った黒森峰。

一度は恨み辛みで自分の心を折ったがそれが大切な事だったのを……今知った。

 試合に挑むのならば、美しく勝つ。

さらなる高みに進む。思いの背筋をただし、ベレー帽を手に額に汗した今日の試合の最後を飾るための深くお辞儀した。

強引で突発的だった小原の願いにひっぱられ、大切な思い出をダメにする事なく千秋楽の青い空を見られた事に感謝した。

 

 夏まだ遠い雨期の隙間、青より碧い草木の果てに。

二両の間に聞こえる音は機械の激しくも重いビートだけ。

下では通信手が切り札との交信を終えて親指でゴーの合図をしている。

 

「いざ!! 参ります!!」

 

 履帯は重い蹴り足とともに地面を張り倒し、前進のために踏ん張った黒い息を拭き上げた。

暗い森の猛きユニコーン。

黎明乙女の愛する鋼の馬は、願いと喜びを詰め込んだ身を真っ直ぐに走らせていた。

馬鹿げた事かもしれないが、望みは一騎打ちだった。

それこそ砲塔を交わし合い至近距離での撃ち合いが、黎明山巌の炎の戦車道だった。

それを西住みほも理解していた。

逃げられない、逃がさない、でも包囲線を張る車両はもういない、互いに遮蔽物のないここで出来る勝負を付けるのみ。

 

「前と一緒です。聖グロリアーナのチャーチルの時と……ただそこから先は別です! 強く踏み込んで離脱します!!」

「撃つのではなく、ギリギリでよけろという事ですね!!」

「そう!! 冷泉さんお願いします。目の前で止まります!!」

「落とされるなよ……」

 

 西住の指示は砲撃ではなく停止だった。

それはコメットの早さを計算に入れた事と、少しでも相手の意図を受け取った結果だった。

互いを向き合い撃ち合う。

だがその角度は大きな問題だ、どこで相手が砲塔を絞り、足を曲げて斬り込むか?

同じに見えて違う。チャーチルの重い足とコメットの素早い足では。

短砲のⅣ号ならば中に入るのは容易だが、仕留めるために飛び込めば俊足のコメットに距離を詰めらた分で38tの時と同じように砲塔に挟まれる確立は高いし、そこで砲撃は止まってしまえば試合終了。

それは山巌が望んだ一騎打ちの終わりとしてはあまりな結果だし、そんな甘い形での勝利は大洗にとっても良く無いと考えた。

試合に挑むのならば、形のある勝利を。

 

 弱いという触れ込みで試合を簡単に受けた。

もちろん西住みほが申し込みを受け取ったわけではないが、弛緩した気持ちで臨み散々にやられてここに着いた。

このまま終わったら負け癖がつくかもしれない、それは戦車道を始めた仲間達にとっても良く無い事。

投げ捨ててきた戦車道だったが、大洗に来て「楽しい」という事を初めて憶えた。

勝つことも一つの絆。

勝つことでさらに好きになりたいという願い。

 

 互いの切っ先を、どちらが面前の刃物を噛み砕くか? かわすか?

戦車が描く近接の円弧と、プライドを乗せた砲塔が回る。

大きく円を描き早く回るコメットの動きに、大洗Ⅳ号は更にすれすれの内側での回頭をしながらブレーキをかけた。

太極の曲玉、内外を回る美しい動きはライブカメラに写され観衆の唾を呑み込む喉をカラカラにしていた。

長針と短針、数秒で決まる人馬一体の戦いにコメットの咆吼は音高く響いた。

 

「……止まった?!!」

 

 互いが近づき、そして離れる。

X線のように弾くと思われた輝線はⅣ号の停止、そこから回る砲塔で山巌部長は激し破砕音を聞いていた。

耳にざらつく金属の悲鳴と、蹴倒される地面の絶叫。

自分達と重なった頂点のラインでⅣ号は発砲はしなかった、逆に緊急停止のブレーキをかけ、その足が駐車場の地面を激しく削り取って車体を游がせていた。

西住みほの狙いどおりのドリフト。

そのうえで砲塔は離れるコメットに合わせ動いて行く。

 

「旋回!! 左20!!」

 

 急旋回するボディーの圧力に乗員の体がぶれる。

車体を回しながら、砲塔を旋回させる。

共に戦った三年生操縦手が歯を食いしばり、このまま背中から打たれてたまるかという意地が、しまむらの店先ショーウィンドーをかち割って霰を降らせた地面を蹴る。

 

「見て!!! 澪さん!! 相手は……」

「左30!!」

 

 面前で座り標的を定めたⅣ号が写る。

最初の停車は腰を据えるためのワンクッション、近距離打撃戦とはいえ俊敏なコメットを警戒した作戦だった。

逆に放物線を描き慌てて正面に戻ろうとしたコメットは、円弧の頂点に入るという形。Ⅳ号の射界のどこにも逃げられない位置にいた。

 

「華さん!!」

「うてぇぇぇぇぇえ!!!」

 

 地煙と黒煙、金属が破砕される高い音と咆吼の波が空に響く。

山巌澪は車長の座席から落ち、下にいる仲間に支えられたまま高すぎる空を見ていた。

雲のない真っ青な空に、白くはためく自両コメット降参の旗。

 

「後は……任せました……」

 

 落ちたベレー帽、乱れた髪、再戦の今日、明日に続く道。

後悔はなかったと喜びをかみしめて浮かぶ涙の目を静かに閉じた。

 

 遠くに木霊するコメットの砲撃音、変わって近くに追衝したⅣ号の砲弾。

Ⅳ号の完璧すぎる楔はショートフックがごとく突き刺さってコメットの動きを止めていた。

白い旗は即座にあがり、目の冷める轟音の後に揺れる相手の敗北を静かに確認した西住みほの隣で秋山優香里が飛び上がっていた。

 

「勝ちました!!! 勝ちましたよ!!! 西住殿ぉぉぉ!!!」

 

 喜び満開で跳ねる秋山に、耳に残る砲音にパッチリ目を開け放ってしまっていた武部が振り向く、五十鈴が砲撃のために絞めていた唇を解き、冷泉は操縦桿を離して息を吹いた。

美しくも奇蹟の一打。

遠くに観覧席から響く声に張り詰めていた思いをほぐした友達に、西住みほもやっとホッと小さな息を落とした。

時計を見ると二時間弱の時間を試合に投じていた。

聖グロリアーナの時は接戦で負けたが今回は勝ったという安堵と、初の白星にⅣ号の仲間は跳ね上がった気持ちで違いを抱きしめ合っていた

 

「勝ったよぉぉぉ!! コメット相手に……凄かったですぅぅ」

 

 ランランに輝く目で拳を握る秋山は、装填手として寸分遅れぬ手合いを見せ攻撃に貢献した。

指揮官西住みほに心酔し、その手を握って涙していた。

 

「感激ですぅぅ……こんな劇的な……」

「泣かないで秋山さん……」

 

 手に汗握っていたのは同じだが、西住の砲はかなり落ち着いて居た。

自分の仕事を果たせたという安堵感と、ある種のとまどい。

今までは勝っても勝っても、安心や楽しさはなかったが、ここではみんなが勝てた事を喜び互いの健闘に向かい合う事が出来る。

いつも自分を戒めてきた西住の冷静さは、飛びはしゃぐ仲間達とは別で冷静で居られたことで鳴らない試合終了の合図に気が付いた。

 

「まってください、まだ試合終わってません!!」

 

 通常明確な形で勝負がつけばすぐにでも知らされる終了のコールがまだされていない。

西住の言葉に気持ちも心も緩ませていた仲間達が顔を見合わす。

 

「……遅れてるんじゃないの……じらしかな? やだなー大人って」

「そうではなくて……確かに遅いような……」

 

 武部は落ち着かない顔で通信機をいじったが、待てど運営本部からの終了のコールは入ってこない。

五十鈴もペリスコープから周りを見るが、倒されたコメット以外は見えなかった。

となりで秋山は指折り倒した黎明学園の戦車を数えていた。

 

「最初にⅣ号、その後最初のMk.VIC、その後コメットでしょう。で、そこの通せんぼをしたMk.VICで、真ん前のコメット……五両です」

「武部さん確認してください。八九式はⅣ号の白旗を見ているか」

 

 並べられた撃墜車両の中、白旗を見ていないのは黎明Ⅳ号だけ。

西住みほの直感は、自分が確認出来なかった一両の所在に危機的予感を走らせていた。

喜びの笑みから一転、きつく唇を噛んだ西住の表情に武部は急いで八九式にラインを開いた。

ノイズの多い交信の中で八九式の車長磯部典子は、後少しで到着するという見当違いの答えを先に告げたが、西住は急いで切り返した。

 

「沈めたⅣ号の白旗を見ましたか? まずそれだけ……」

 

 確実に聞こえる声での終わりを知りたい西住の交信に、重い機械音は水面を割って飛びだしていた。

それは大型用水路に大きな影となって現れていた。

 

 

 

 

 

「任せろ……」

 

 山巌コメット陥落を、途切れる戦隊長交信で小原は聞いていた。

 

「ああ、見えてたさ−!! だから言っただろ!! 一両一見せ場!! それ以上を望むのは欲張りってやつさ!! 行くぞⅣ号!!」 

 

 シュノーケルを蹴る音、赤橋常磐はⅣ号の足が用水路の緩斜面に当たった事を足に伝わるリアクションで感じていた。

非常灯の作る赤い影の中、揺れ続ける車内幻想にやれチョコレートだ塩だと話していた空間は柔らかな眠りから覚めるように、互いの神経をつなぎ合わせて声を挙ていた。

 

「今のこの力ならベルとかたたき割れそう……」

「割って貰おうじゃないかー!! 常磐−!! その力で弾けろ!!」

 

 下の雑談以上に弾けた小原の声、赤橋は歯がみして操縦桿を倒す。

水に引っ張られる重い車体は飛び上がるように勢いよく斜面を駆け上る。

ドロと水、履帯に食い込んだ汚泥を弾いて黎明Ⅳ号はしまむら駐車場にキューポラの部分と砲身という頭を現していた。

 それは大洗Ⅳ号が所在を探していたⅣ号の姿、そして驚くべきは用水路から上がったⅣ号のキューポラその横にスクール水着の小原が張り付いていたこと。

鯨に寄り添う魚のように、小原は途中一度浮上した後Ⅳ号の目としてシュノーケルに手を引っかけて外を游いでいた。

ビニール袋に刳るんだインカムで、外の状況を確実に聞き、Ⅳ号が陸に上がる為までの道を、自分が先に泳ぐ事でここまて引っ張ってきた。

まだ肌寒い六月の空の下で。

 

「来たよ……Ⅳ号……西住流、勝負はこれからー!!」

「乙女、外さないでよ!!」

「外すもんかー!! 千代!! ドーン行け!!」

「任せなさい!!」

 

 一方、突然盛り上がった影に大洗のメンツはパニックになっていた。

一度は勝利を喜び、張り詰めていた糸をすっかり緩く解いてしまった後の事に、そしてまさか水の中からやってくるなど露ほどにも思わなかったという状態。

慌てて着座しようと狭い車内であちこちをぶつけながらも、秋山はやっと思い出したように叫んでいた。

眼前にあるⅣ号が特別な戦車だった事を。

 

「Ⅳ号潜水戦車!! そうだ、だからキャンバス付けてたんだぁぁ」

「戻って、揃ったら撃ちます!! 落ち着いて、向こうは水から上がったばかり最初の空砲を撃たなければ……」

 

 やっと座席に戻った仲間達、配置を済ませて上げた西住の目線に移ったのは、外にいた小原乙女の意味だった。

その役目は道しるべとなる事だけではなかった。

空砲を撃つという時間を消去する事、強襲の一撃に賭けた動きは砲塔にかかったカバーを自らの手で、レンチを使ってホームランよろしく吹き飛ばすと一直線に的である大洗Ⅳ号を刺して叫んだ。

 

「乾坤一擲!! 吠えよタンク郎ー!!」

「華さん!! 正面迷わず撃って!!」

 

 向かい合った二両のⅣ号、互いの砲弾が重く反響する。

シュノーケルに引っかかったままの小原はキューポラの後ろしがみついていた。

大洗Ⅳ号は、砲塔を後ろに引っこ抜かれる衝撃に西住を始め秋山も五十鈴も、頭をシェイクされにフラフラになっていた。

 

「どうなったの……」

 

 目も開けられない痛み、鼓膜に響く残響。

武部は立てないまま後ろで車長のイスに滑り落ちていた西住を見つめた。

五十鈴は目を開いているが呆然としたまま、秋山もまた狭い塔内に倒れたまま。

冷泉は目の前に開くペリスコープから相手を確認すると。

 

「向こうには当たらなかった……」

 

 重い一言を告げた。

 

「……」

 

 西住みほも感覚では、大洗Ⅳ号は確実に被弾したと解っていた。

ただ至近距離で発射された弾がどこに当たったのかは、首を震った後、目の前を見た時に悲しく下がった眉はみんなに向かって。

 

「……負けちゃいました……」

 

 キューポラの上に見える白旗を見なくても、その傷で大洗のⅣ号が負けた事を理解した

 

 

 交線の一打、二両のⅣ号から撃ち出された弾。

大洗Ⅳ号の弾は黎明Ⅳ号の肩をかすめ遠い軌跡を引いていた。

一方の黎明Ⅳ号の弾は大洗Ⅳ号の砲塔、その砲身を撃ち抜いていた。

後を追う打撃音が砲塔内部に幾重の波になって襲ったのはそのせいだった。

 水路からせり上がった黎明は下から砲塔を打ち上げていた。

這うように走った弾丸は、砲身を見事に跳ね上げて根本から砕いていた。

危うく中身を見せる程、強い打撃が付けた傷跡から、中に乗る西住みほと顔を合わせた小原は両手を挙げてガッツポーズを決めていた。

 

 戦車道への思いが詰まった一撃が、自分の敵討ちをしたのを山巌澪とコメットに乗った三年生達も見ていた。

 

「やった……やったよ……」

「やったぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 最後の難関であった西住流が駆るⅣ号を落としたのは、辛苦の結晶の大金星。

斃れた相手を前に、水着姿の小原は手を高く上げると、砲手の下奉に命じた。

 

「祝砲!!!」

 

二連三連と発射される送りの花。

 

 強襲に撃たれた大洗Ⅳ号の姿は、大きく開会式場のスクリーン映し出され黎明学園生徒達の大きな歓声と、元は共にその道を走った仲間達の涙に迎え入れられていた。

 

「あんれ、やりよったわ」

 

 小原乙女の母は寒空の下、水着姿で士気を振る娘を嬉しそうに見つめていた。

テンガロンハットで顔を隠して、勝てない中でも頑張り続けた娘を小さな声で褒めていた。

 

「良かった……本当に良かった……」

 

 山巌重機、澪に付いたばあやは涙で言葉がなかったが、カメラの向こうで孫の活躍を見ていた操は何度か良しと頷いていた。

 

「そうよ、美しく、強くあれ」と

 

 お約束よろしく送りの花を打ち上げた場所に、遅れてやってきた八九式は呆然としていた。

降る花の向こう、倒された大洗Ⅳ号の姿と。自分達の前にある大きな脅威である黎明Ⅳ号の姿に、その車体の上で自分達に向かって指差している小原に。

 

「待ってたよ。さあ撃ち合おう!!」

 

 舞い散る花の中、最後の豪砲は迷う事の無い一つの音として放たれ、終了のコールは焼津の町に響き渡った。

 

 

 

 

 

「試合終了、大洗女子学園全車行動不能。勝者、黎明学園」

 

 50戦、走り続けた黎明学園は最初の白星を長い道のりの果てに掲げた。

Ⅳ号の後ろからキャンバスとビニールの袋に包み持ち込んでいた黎明学園の旗を立て、小原乙女は大きなくしゃみをしながら手を挙げていた。

それは朝日が昇る水面の図

 

「黎明、黎明我ら朝日の」と響く校歌がごとく、戦車道の元に黎明学園は再び昇った。

 

 

 

 

 

「油断しました……」

 

 トレーラーに牽引されて船に戻って行くⅣ号の前で秋山優香里は肩を落としていた。

同じように武部も五十鈴も、冷泉も……

もちろん大洗戦車道の仲間達も沈んだ顔を並べていた。

中でもバレー部員は沈痛そのままの状態だった。言葉無く肩を叩く磯部部長にもスポーツマンたる三人は堪えられないものがあった。

自分達の思い過ごしで一両撃破を見誤った事は、最後の最後で取り返しの付かない敗退に繋がってしまったという悔恨にくれる姿をみんな言葉なく見つめるしかなかった。

同じく慢心で三凸を転がしてしまった歴女チームも苦く顔を歪めたまま落胆を受け入れる苦痛の中にいた。

だが西住みほは知っていた、勝負はそういう世界なのだと。

だから他より幾分落ち着いた顔で無き続けるバレー部を、みんなを慰めた。

 

「結果は残念だったけど、最後まで気を抜かなかった黎明さんが見事だったと思います。私達もそういうふうに試合が出来るようにがんばりましょう」

 

 それに尽きる言葉だった。

自両38tをぶつけた生徒会チームは気を失った河島を医務室に置いてここに来ていた。

会長の角谷は顔にススをつけていたが柔らかい笑みのままで。

 

「そうそう、練習試合の内にそういう事がわかってよかったって事だよー。本ちゃんでは気を引きしていこうって事さ、みんな注意しようね」

 

 本戦出場までに出来た課題。

負けた事でも得られるものはある。反省を挫折に変えない、それをやり通した相手は目の前に立っていた。

 一時間近く水に浸かっていた敢闘賞の女、小原乙女は沈む反省会をしている大洗のメンバーに手を振っていた。

 

「おいでよー、スイーツパーティーしよう!!」

 

 終わった試合を引きずるも、楽しく最後を閉めるのも大事だと角谷は振られる手に応じた。

 

「お招きだ、さあ!! がっちりたべるよぉー!」

 

 

 

 

 

ラブ・スイーツ。

 

「甘いものは別腹って決まってるでしょう」

 

 試合終了後、初の勝利を喜んだ黎明戦車道部だったが打ち負かした相手をパーティーに呼ぶのは気が退けていた。

今までは負けるばかりだった自分達、気持ちを切り替えるためにパーティー会場を設営していた事を考えるに、再設されて初めての勝利を夢見た大洗戦車道部を呼び出すのは気の毒かと感じたのだ。

 そんな不安を募らせていた山巌部長に赤橋常磐が言ったのがそれだった。

甘い物は別腹。

試合と交流会は別。

勝ちを誇るために相手を呼ぶのではない、負けた事を悔やみ続けるために集まるでもない。

 小原は何発もくしゃみを飛ばしながら大洗を呼びに出かけて行き、今はここで本当の交流会が開かれていた。

試合が終われば、普通の女子高生として楽しむ。

忙しく給仕をする料理道の部員達。

同じ苦労を背負う身として呼ばれた自動車部員達は、黎明自動車部部長羽根と戦車修理の苦労話に花を咲かせている。

山巌部長の気苦労を溶かすように、和やかな交流会は甘い匂いをいっぱいに漂わせていた。

 

「がんばれよ、全国大会」

 

 ジュースで乾杯をした西住みほ達の所に挨拶に来た小原の最初の言葉はそれだった。

今日この日、試合を申し込んでくれた小さな司令官の小原乙女は、マフラーまで被された厳重風邪予防ルックで笑っていた。

 

「試合を申し込んでくれてありがとう。良かったよー」

「いやー、応じてくれて助かったよー」

 

 角谷と同じぐらいの身丈、握手する二人。

 

「またやろうよ、今年はここからドーンといっぱいやるからさ!! 大洗は全国大会でてっぺん目指して、でもってもう一回うちとやろう!!」

「もう一回……」

「ああもう一回といわず、来年も再来年も、交流会を兼ねてずっと続けていこうよ!! 戦車好きだろ!!」

 

 発言語尾にくしゃみの小原。

負けずの心で手紙を出してくれた試合のきっかけが、大洗にくれたものは挫けない心だった。

何度でも、この先も。

勇気づけられる言葉に、角谷と小山は目を合わせ小さく頷いた。

 秋山は戦車が好きだと声に出して言われた事で感激し、瞳を潤ませていた。

そして西住みほも、逃げてきた戦車の道に別の光を見出しいた。

今まで黒森峰が追いかけた道、西住流の進む戦車道だけを見てきたが、それだけが道ではなくもっと共に歩める道もあるのだと微かに気が付いた。

負けるのは辛い、どんな形であっても。

でもそこで終わってしまわない事も大切で、好きな事をつづけて行く事の強さを見せられた。

自分を見るⅣ号の仲間達に頷く。

 

「またがんばろう。今日の試合は良い経験になったから。またがんばれるよ」

「はい!!!」

「がんばりましょう」

「絶対に極めてファンレターとかいっぱい貰えるようになるんだからー!!」

「うん」

 

 子犬のように西住の言葉に何度も頷く秋山。

おっとり優しい目の中に、相手を狙い撃つ冷静さに磨きをかける事を決意した五十鈴。

変わらぬ恋愛への思い、それもまた戦車道を楽しく進む原動力。拳を振るう武部。

みんなの意見を簡潔にでもしっかりと覚えておく冷泉。

大切な仲間と進む事がでると知った戦車道に、西住みほも心を柔らかくしていた。

各々のチームがこの先の全国大会に向けて新たな決意を持ったのを角谷は確認すると、そこまでを引っ張ってくれた小原に返事した。

 

「ああ、何回でも挑むよー、何回でもねー」

「おーう! とっ、挑むといえば、あれだ」

 

 意気投合した乾杯、その後に止まった小原は自分の後ろに固まっている下奉や神奈川に振り向いた。

二人は携帯を片手に……大洗のメンバーを嬉しそうに見ていた。

 

「交流会のためにアンコウ踊り練習してきた。踊ろうぜー」

 

 一回転して戻った笑顔の小原、背中の二人が見ていたのは前回の罰ゲームのアンコウ踊り。

聞き覚えのある「あん」の拍子に、大洗メンバーの言葉が消える。

新たな気持ちに舞い上がったテンションが大きく急降下を見せる顔色と非常事態。

武部は体を起こすと、西住みほを捕まえて逃げようとした。

 

「こんな所でそんな踊りしたら……本当に彼氏ができなくなっちゃうよー」

 

 なんでここでアンコウ踊り? どんな嫌がらせ? どうしてそんな事を練習してきてるの?

武部の涙目の前、お嬢様達は無邪気に踊りの振り付けを始めていた。

窮屈なお嬢様学校。

何だって手に入るもの、聞くもの、見るもの、全てが楽しい。

悪意なんて塵の一つもない笑みが、踊ろうと迫ってくる。

 

「良し、踊ろう」

 

 そして決めの一言は角谷の小さな体から爆発的に大きく発令されていた。

もう嫌と逃げる事もできない、元々負けたらアンコウ踊りというセオリーのように打ち出された罰ゲーム。これを通らずに学園艦には戻れない。

 

「さあ!! 張り切って踊るよー!!」

 

 声高らかの角谷の音頭の前に、大洗メンバーは横一線に並んでいた。

またこの動画が他所に流れるかもしれない、そんな不安を抱える前で、同じように整列して踊る黎明メンバー。

それもこれも今までなかった経験、苦笑いと照れ。

楽しそうに踊る小原のくしゃみ、一つの交流と一つの試合の終わりを二つの学校は楽しく過ごしそして明日への思いを持ってそれぞれの戦車道へと歩いて行くのだった。

 

 

終わり。

 




終わりです。
読んで下さった皆様に感謝。
偉大なオリジナル作品、ガールズ&パンツァーに出会えたことに感謝してます。
原作の持っているテイストを損なうことなく、良い作品に出来たらいいなーといつも思いながら書いて来ました。
どこまでできたのか? そのせいで小さく纏まってしまった感もありましたが、自分的には良かったなーと、無事に終われて一安心してます。
小説を書くのに一話につき20回ぐらい繰り返し見ました。たのしかったー!!
後、本当は最後まで大洗の勝ちで終わろうかと悩んだのだけど、やっぱり勝ちはあげませんでした。
大洗の白星はサンダースのあの一撃に尽きる。あの美しい勝ちの意味をここで無為にしてしまいたくなかった。
だから負けて経験を積むという方にもっていきました。
そういう話しでもいいかなっと思って。



名前の由来
西住殿の由来に則りオリジナルキャラクターの何人かは元ネタのあるものにしました。

小原乙女。(こはらおとめ)
黎明学園三年生
由来は、日本戦車の父と呼ばれた方。原乙未生(はらとみお)
ちなみにお母さんの名前、亨(とおる)は実在の原乙未生の父の名前です。
小原乙女の実家が連結という接続機材関係の仕事をしているのは、物語と仲間を繋ぐという意味もこめての事でした。

山巌澪(やまいわみお)
黎明学園三年生
由来は、陸の大山、元帥陸軍大将大山巌。とっても有名な人。

下奉千代(しもたてちよ)
黎明学園三年生
由来は、マレーの虎、陸軍大将山下奉文。こっちも有名。

明日からはゆっくりガルパンが見られるよー!!
何も考えないでゆっくりまったり。

読んで下さった皆様に感謝。
それではまた、どこかの作品で!!!
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