星の病と呪いの理〜記憶を持たない転生者たちの新たな戦い〜 作:いくと
特級術師の三人が高専を離れてから、数時間が経過した。
時刻は夕暮れ時。西の空が血のように赤く染まり、高専の敷地内には不気味なほどの静寂が降り降りていた。
プロンプト「……なんか、静かすぎない? 逆に怖いんだけど」
虎杖「特級の先生たちが暴れてるなら、もっとドカンバカン聞こえてきそうなもんなのにな」
グラウンドの中央に集まった一年ズと大人組は、いつでも武器を顕現できるように呪力を練りながら待機していた。
グラディオラス「嵐の前の静けさってやつだ。気を抜くなよ、お前ら。七海の旦那が言ってた通り、いつ何が降ってくるかわからねぇ」
イグニス「ええ。東京の三箇所に特級を釘付けにするほどの事態です。我々が守るべきこの高専本校こそが、敵の本命である可能性は極めて高い」
イグニスは眼鏡の奥の目を細め、周囲の森の木々へ視線を巡らせる。
ノクティスは腕を組みながら、校舎の奥――家入硝子とルナフレーナがいる医務室の方向をじっと見つめていた。
ノクティス「(……特級がいなくなった手薄な高専を狙うなら、目的は『人材の抹殺』か『結界内の何か』。ルナは非術師だ。もし乱戦になれば……)」
ノクティスは前世の記憶を持たないが、大切なものを奪われることへの根源的な恐怖と、それを絶対に守り抜くという「王の宿命」が魂に刻み込まれている。彼は無意識のうちに、医務室へ続く最短ルートを頭の中で計算していた。
七海「……皆さん、構えてください」
ふと、校舎の入り口で見張りに立っていた七海建人が、ナタのような呪具を抜き放ちながら声を張り上げた。
その顔には、かつてないほどの険しい緊張感が走っている。
伏黒「七海さん、何か……っ!?」
伏黒が言葉を紡ごうとした瞬間。
彼らの頭上を覆っていた高専の結界――天元による強力な防御結界の一部が、突如として『ジュジュジュッ』と肉を焼くような不気味な音を立て始めた。
釘崎「なっ……!? 上! 結界が、溶けてるわよ!?」
全員が空を見上げる。
透明だったはずの結界に、赤黒いタールのような物質がべったりと張り付き、結界の呪力そのものを分解して巨大な『穴』を空けようとしていたのだ。
イグニス「あの『未知の毒』か! 結界の構造そのものを腐食させている!」
グラディオラス「チィッ、上から来やがるぞ!」
空に空いた真っ黒な穴から、ボトボトと、雨のように無数の異形が降り注いできた。
それは、純粋な呪霊にあの「赤黒い毒」が寄生し、異様に肥大化・変異したおぞましい化け物の群れだった。四つん這いで這い回るもの、人間の形を歪に保ったもの。その数は数十、いや百を超えているかもしれない。
七海「……ここから先は時間外労働(オーバーワーク)ですね。全員、迎撃態勢を。結界を突破された以上、医務室や補助監督たちを守り抜くことが最優先です!」
七海がネクタイを緩め、呪力を高める。
見えざる敵の真の狙いは、特級術師不在の高専を直接叩き潰し、未来の目障りなイレギュラーたちを根絶やしにすることだった。
空から降る絶望を前に、彼らの過酷な防衛戦が幕を開けた。