星の病と呪いの理〜記憶を持たない転生者たちの新たな戦い〜   作:いくと

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侵蝕する猛毒と、目覚める神凪の光

「あー、終わった終わった。ったく、服が汚れちまったじゃねぇか」

 

高専のグラウンドは、おびただしい数の化け物たちの残骸と、赤黒いタール状の体液で埋め尽くされていた。

その血の海の中央で、伏黒甚爾は肩を回しながら大太刀の血を無造作に振り払った。数百体はいたであろう「未知の毒」を纏った化け物の群れは、彼たった一人の純粋な物理的暴力の前に、文字通り全滅していた。

 

甚爾「おい恵、あとはお前らで掃除しとけ。俺はパチンコ屋に戻る。五条の若造には『仕事はキッチリ終わらせた、残りの金も振り込んどけ』って伝えとけよ」

 

伏黒「……チッ。二度と来んな、クソ親父」

 

甚爾は息子の毒づく声に悪びれる様子もなく、不敵に笑うと、瞬きする間にその場から姿を消した。嵐のように現れ、嵐のように去っていった呪力なき暴君。

残された一年ズと大人組は、限界まで張り詰めていた緊張の糸が切れ、その場に次々とへたり込んだ。

 

虎杖「はぁー……っ! 助かったぁ……! マジで死ぬかと思ったぜ……」

 

プロンプト「ホントだよ……! ノクトなんて、呪力使い果たして顔面真っ白だし……っ!」

 

プロンプトの言う通り、ノクティスは片手剣を支えにして辛うじて立っている状態だった。敵を倒すことによるレベルアップの回復を上回るほど、自身の限界を超えて呪力を酷使しすぎた代償だ。

 

ノクティス「……っ、わりぃ。ちょっと、限界……」

 

その時だった。

後方で周囲の警戒を解いたばかりのグラディオラスが、突如として苦悶の呻き声を上げ、巨体を揺らがせて膝をついたのだ。

 

イグニス「グラディオ!? どうした!」

 

グラディオラス「がっ……! ああ……クソッ、なんだこれ。腕が……焼けるように熱ぇ……っ!」

 

グラディオラスは、戦闘中に化け物の鋭い爪に深く切り裂かれた左腕を強く押さえ込んでいた。

その傷口を見て、駆け寄ったイグニスと七海は息を呑んだ。

 

七海「これは……!」

 

傷口の周辺に、あの化け物たちが纏っていた赤黒いタール状の『未知の毒』がべっとりと付着していたのだ。それだけではない。毒はまるで意志を持つ寄生虫のように、傷口からグラディオラスの血管と筋肉の奥深くへと侵蝕を始めている。

屈強なグラディオラスの顔に脂汗が浮かび、尋常ではない高熱によって荒い呼吸を繰り返していた。

 

イグニス「化け物の体液が傷口から入り込んだのか! グラディオ、しっかりしろ!」

 

釘崎「ちょっと、冗談でしょ!? あのバカデカい筋肉の塊が、毒くらいでこんなに苦しむなんて……!」

 

七海「急いで医務室へ運びます! 早く家入さんの反転術式で治療しなければ、命に関わるかもしれない。虎杖君、手を貸してください!」

 

虎杖「はいっ!」

 

虎杖と七海がグラディオラスの巨体を両脇から抱え上げ、校舎の奥にある医務室へと急ぐ。

ノクティスもプロンプトに肩を貸してもらいながら、血の気が引く思いでその後を追った。記憶はなくとも、魂がグラディオラスを「絶対に失ってはいけない兄貴分」として認識し、激しく警鐘を鳴らしていたからだ。

 

 

医務室の扉が乱暴に開け放たれる。

 

家入「どうした!? 結界が破られたのは見えたが……グラディオラスか。ひどい傷だ、すぐにベッドへ寝かせろ」

 

白衣を着た家入硝子が、血相を変えて飛び込んできた一行を迎えた。その背後には、両手で固く祈るように指を組んだルナフレーナの姿がある。

 

ルナフレーナ「ノクト! 皆さんも……! グラディオラスさん、ひどい熱です……!」

 

ノクティス「ルナ、無事か……。俺たちは平気だ。でも、グラディオが……あのバケモノの毒を食らっちまって……!」

 

家入は素早く医療用手袋を嵌め、グラディオラスの左腕の傷口を確認する。赤黒い毒の侵蝕はさらに進み、彼の上腕から肩にかけて、黒い血管のような不気味な模様が浮かび上がり始めていた。

 

家入「……かなり厄介な毒だな。少し痛むぞ、グラディオラス。すぐに反転術式を流し込む」

 

家入が両手を傷口にかざし、高度な呪力操作による『正のエネルギー』――反転術式を発動させる。淡い光がグラディオラスの腕を包み込んだ。

肉体が再生し、傷口が塞がっていく。

 

虎杖「……よかった、傷が塞がった! さすが家入先生だ!」

 

誰もが安堵の息を吐きかけた、その直後。

 

グラディオラス「ガァァァァッ!!」

 

グラディオラスが、これまでの戦闘でも決して見せたことのないような、喉が裂けるような悲鳴を上げてベッドの上でのけぞった。

 

イグニス「グラディオ!! 家入先生、一体何が起きているんだ!」

 

家入は咄嗟に手を離し、信じられないものを見るように目を見開いた。彼女の手は、微かに震えていた。

 

家入「……ダメだ。私の反転術式が、通らない」

 

七海「通らないとは、どういうことですか。現に今、傷口は塞がりかけていたはずですが」

 

家入は忌々しげに舌打ちをし、額に浮かんだ汗を拭った。

 

家入「怪我自体は治せる。だが、体内に侵入したこの『赤黒い毒』が問題だ。この毒は、私の流し込んだ呪力を『異物』として認識し、片っ端から分解して拒絶している。私が反転術式で治そうとすればするほど、毒がそれに反発して威力を増し、肉体組織を破壊しようとするんだ」

 

家入の言葉に、医務室の空気が絶望に凍りついた。

 

家入「無理に反転術式を流し込み続ければ、治癒と分解が体内で無限ループを引き起こし……最終的には、彼の肉体が耐えきれずに内側から崩壊する。これはもう、呪術の範疇にある毒じゃない。呪力を根本から否定する、未知の猛毒だ」

 

最強の治癒能力である反転術式すら通用しない。

グラディオラスの呼吸は浅く早くなり、意識が混濁し始めている。圧倒的な防御力と生命力を誇る彼の命の灯火が、今まさに消えようとしていた。

 

ノクティス「嘘だろ……。グラディオ、おい、嘘だろ……! 起きろよ、グラディオ!!」

 

呪力切れで立っているのもやっとのノクティスが、ベッドにすがりついて悲痛な声を上げる。記憶の底にある「大切な者を喪う恐怖」がフラッシュバックし、彼の心臓を鷲掴みにしていた。

 

プロンプト「そんな……治せないなんて……。どうすればいいんだよ……っ!」

 

誰もが言葉を失い、死の足音に立ち尽くすしかなかったその時。

 

ルナフレーナ「……私が、やります」

 

静かに、だが凛とした声が医務室に響いた。

ルナフレーナが一歩、ベッドの前に進み出る。その透き通るような青い瞳には、一切の迷いがない、揺るぎない覚悟が宿っていた。

 

ノクティス「ルナ……? お前、何言って……」

 

家入「ルナフレーナ、気持ちはわかるが下がっていなさい。君の内に眠る正のエネルギーは確かに純度が高いが、まだ未覚醒だ。それに、対象の呪力すら分解する毒だぞ。素人の君が触れれば、君まで毒に侵される危険がある!」

 

ルナフレーナ「いいえ、家入先生。私にはわかります。……この毒は、呪力という『力』を拒絶しているだけです。だからこそ、呪力を一切持たない私の純粋な『祈りの力』ならば……きっと、届くはずです」

 

彼女は前世の記憶を持たない。自分がかつて、星の病をその身に引き受けて世界を癒やした「神凪」であったことなど、知る由もない。

だが、ノクティスたちの傷つく姿を見た時、彼女の魂の奥底で、閉じ込められていた光が激しく脈打つのを感じたのだ。「自分にしかできないことがある」「彼らを救わなければならない」という、理屈を超えた切実な使命感が。

 

ノクティス「ルナ、やめろ! お前まで何かあったら、俺は……!」

 

ノクティスがルナフレーナの細い腕を掴もうとするが、彼女は優しく、しかし力強くその手を握り返した。

 

ルナフレーナ「大丈夫です、ノクト。あなたは今まで、私を守るために何度も危険に立ち向かってくれました。……今度は、私があなたの大切な人を守る番です」

 

そう微笑むと、彼女はグラディオラスの黒く変色した左腕に、両手をそっと押し当てた。

ルナフレーナは目を閉じ、静かに祈りを捧げるように呼吸を整える。

 

ルナフレーナ「(……私の中に眠る温かい光。どうか、彼を蝕む不浄を祓い、命を繋いで)」

 

刹那。

ルナフレーナの掌から、目を眩ませるほどの純白の光が溢れ出した。

それは呪力から精製される反転術式の光とは全く異なる、太陽の光を集めたような、どこまでも清らかで神聖な輝きだった。

 

「……っ!?」

 

医務室にいた全員が、その神々しい光の波動に息を呑んだ。

光はグラディオラスの腕から体内へと優しく浸透していく。未知の毒は、呪力に対しては見せた強烈な反発と拒絶を一切示さなかった。それどころか、ルナフレーナの放つ純粋な「正のエネルギー」――星を癒やす神凪の力に包まれると、氷が春の陽光に溶けるように、赤黒いタール状の毒がシューッと白い蒸気となって浄化され、消滅していったのだ。

 

グラディオラス「……うぉ……?」

 

数分後。

毒が完全に消え去ったグラディオラスの顔から苦悶の表情が消え、穏やかな寝息が戻り始めた。黒く変色していた血管は元の色に戻り、熱も急速に引いていく。

 

家入「……信じられない。呪力を分解する未知の毒を、呪力を持たない非術師の純粋な生命エネルギーだけで中和・浄化してしまったのか……」

 

家入硝子は、医学と呪術の常識を覆す目の前の奇跡に、震える手で自身の白衣を握りしめた。

毒が浄化されたことで、家入が最初に施した反転術式の効果が正常に機能し始め、グラディオラスの裂けた傷口は完全に塞がっていた。

 

ルナフレーナ「……よかった……」

 

ルナフレーナは安堵の微笑みを浮かべると、ふっと力が抜けたようにその場に崩れ落ちそうになった。

 

ノクティス「ルナ!」

 

間一髪、ノクティスがその細い体を抱きとめる。ルナフレーナは疲労で顔を青ざめさせながらも、ノクティスの胸の中で静かに微笑んだ。

 

ルナフレーナ「少し、力を使ってしまったようです……。でも、グラディオラスさんが助かって、本当によかった……」

 

ノクティス「……バカ。お前は本当に……無茶しやがって……っ」

 

ノクティスは震える腕でルナフレーナをきつく抱きしめ、顔を伏せた。彼女の無茶な行動への怒りよりも、彼女が無事であったこと、そして仲間を救ってくれたことへの底知れぬ感謝が、王としての魂を震わせていた。

 

七海「……驚きましたね。まさか、高専が保護した非術師の少女が、この未知の脅威に対する最大の『特効薬』になるとは」

 

虎杖「ルナフレーナさん……マジですげぇよ」

 

プロンプトも涙ぐみながら大きく頷いている。

 

記憶を持たない彼らだが、運命の糸は確実に彼らを本来の形へと導きつつあった。

戦場で剣を振り、悪意を切り裂く者たち。そして、彼らを癒やし、世界に光をもたらす者。

見えざる敵がバラ撒いた「未知の毒」という最大の脅威を前に、彼らはついに、完璧な陣形(パーティー)としての一歩を踏み出したのだった。




家入の反転とルナフレーナの祈りの力はそれぞれ違い、家入は外側の傷などを治せるのに対しルナフレーナは外側にも少し効果はあるがそれ以上に中に作用します。なので家入は体、ルナフレーナは精神的な感じで分けてます。この二人がいればなんでも治せます。家入さんのポジなくしたくない…
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