星の病と呪いの理〜記憶を持たない転生者たちの新たな戦い〜 作:いくと
静寂を取り戻したアンティーク調のカフェで、アーデンは最後の一滴までブルーマウンテンを堪能し、ゆっくりとカップをソーサーに置いた。窓の外では、遠くから微かに化け物たちの蠢く気配と、建物を腐食させる嫌な音が響いている。
彼が担当するはずの新宿の防衛は、彼自身の「泥遊びは趣味ではない」という気まぐれによって半ば放棄されていた。
アーデン「さてと。そろそろ、僕も少しは働いているフリをしないと、学長に怒られそうだからねえ」
独りごちて立ち上がり、カウンターに千円札を置いたアーデンは、漆黒の帳が降りた路地裏へと足を踏み出した。
周囲には、彼を標的と定めた数体の「未知の毒」を纏った化け物が徘徊している。アーデンは深く帽子を被り直すと、指先から赤紫色のオーラを放ち、無数の赫い刃を空中に顕現させた。
アーデン「おいで。あまり時間はかけられないんだ」
軽快なステップを踏みながら、アーデンは戯れのように刃を操り、残存する化け物たちの急所を的確に削り取っていく。彼にとってはこの程度の群れなど、文字通り食後の運動にも満たない。
数体を軽く解体し終えた直後、突如として上空の空気が凄まじい密度で圧縮された。
五条「よっ! アーデン、随分と優雅にサボってたみたいじゃない?」
空から舞い降りたのは、渋谷での防衛戦をわずか数分で終わらせてきた現代最強の特級呪術師、五条悟だった。その指先には、まだ微かに『赫』の熱が残っている。
アーデン「やあ五条。君が早すぎるんだよ。僕はこれでも、敵の出方を慎重に観察していたところさ」
五条「はいはい、そういうことにしておくよ。それじゃ、残りのゴミ掃除、パパッと終わらせちゃおうか」
五条が目隠しの下で楽しげに笑い、指を鳴らす。次の瞬間、圧倒的な呪力の奔流が新宿の路地裏を吹き荒れ、物陰に潜んでいた化け物の群れが、見えない巨大な力によって一瞬にして圧殺され、塵となって消え去った。
最強の力による、圧倒的な蹂躙。新宿の防衛はこれで完了したかに見えた。
しかし、二人の特級術師の足元で、突如として空間が水飴のようにドロリと歪み始めた。
謎の男「流石は現代最強、そして得体の知れない裏の特級術師だ。見事な手際だよ」
空間の歪みからゆっくりと姿を現したのは、袈裟を纏い、額に不気味な縫い目を持つ男だった。その顔には、底知れぬ悪意と知的好奇心が入り混じった笑みが張り付いている。
五条「……誰だお前。趣味の悪いツラしてるね」
不知「初めまして、五条悟。私のことは『不知(ふち)』とでも呼んでくれ。そして、君たちが手を焼いているこの愛らしい進化の種……その名を『シガイ』という」
不知(ふち)は芝居がかった手つきで周囲に散らばる黒いタールの残骸を指し示し、そのウイルスの正式名称を初めて特級たちの前で明かした。アーデンは表面上は驚いたフリをしながらも、帽子の下で冷たい視線を不知に向けている。
五条「シガイねぇ。名前はどうでもいいけど、僕の生徒たちにチョッカイ出した落とし前、きっちり払ってもらうよ?」
不知「怖い怖い。だが、私と君たちがここで戦うのは、今日の筋書きにはないんでね」
五条が殺気を放ち、一歩踏み出した瞬間、不知は懐から禍々しい呪力で封をされた小さな箱を取り出した。
独自の呪具『捕骸の匣(ほがいのばこ)』である。
不知「開匣」
不知が匣の封を切ると、中からどす黒い偽りの夜の瘴気が噴き出し、瞬く間に新宿の路地裏を覆い尽くした。そして、瘴気の中から、これまでのシガイとは比較にならないほど凶悪に進化し、肥大化したボス級のシガイ化呪霊が咆哮を上げて顕現したのだ。
アーデン「おや、これはまた随分と骨の折れそうなペットだねえ」
五条「チッ、逃げ足の速いヤツだ」
規格外の呪力と毒を撒き散らすボスの対応に少し時間を取られた隙に、不知は空間の歪みへと身を翻し、撤退していった。
五条「アーデン、合わせるよ!」
アーデン「了解。さっさと片付けて、可愛い生徒たちの元へ帰ろうじゃないか」
最強の二人による、理不尽なまでの猛攻が始まった。五条の不可侵の空間と無下限呪術がボスの動きを封じ、アーデンの無数の赫い刃が硬質な装甲の隙間を的確に穿つ。
数分後、断末魔の叫びと共に巨大なシガイ化呪霊は崩れ落ち、完全に浄化された。
黒幕の顔見せという不穏な余韻を残しつつ、新宿の戦闘は終結を迎えたのだった。
さてさて黒幕さん来ましたね…